ヒロイン？ 玉の輿？ 興味ありませんわ！ お嬢様はお仕事がしたい様です。

第三章

タピオカスイーツ

    「あれ、甘い……。それに食感もモチモチしていて面白いですね」

    口に入れる瞬間までは嫌々だったグレスト。しかしそしゃくを始めると「あれ？」と意外そうな表情になり、味や食感を確かめるようにもう二、三個口に入れた。

   「そう。タピオカそのものは無色透明か若干白っぽいの。こういう小さな粒々のもあるにはあるけど、そうして黒糖味にすると美味しいんだよ。それをお馴染み紅茶風味の甘いミルクに入れると……」
   「少々飲み難い気もしますが……なる程、甘いものが好きな方にはウケそうですね」

    タピオカそのものを売ると同時に屋台や喫茶店で商品のプレゼンをする。

    「今まで売り物にならなかったクズ茶葉も牛乳の販路も出来る。確かにこれは作る価値のある作物ですね」
   「だけど、加工前には毒のある作物だから、要注意ではあるけど……」
   「そういった作物は他にもありますからね。梅とか……作物に限らずウナギも。だから、何が毒なのか事前に周知徹底すれば大丈夫だと思いますよ」
    「うん。そのお手伝いをお願いしたいんだよ。そのタピオカの周知と合わせてね」

    正直タピオカについては前世のようなブームは期待していない。イ○スタ無いしな、この世界。
    けどキャッサバは条件の悪い土地でも育つ作物だから、それを材料にして作れるタピオカはウチで独占はせず各地に広めたいのだ。

    ――勿論、私とこの領地の名前と一緒にね。

    ブームの中、おにぎりの具やおかずにしてたニュースは完全にゲテ物扱いだったけど、他に育つ作物もなく飢えている人達からすれば高カロリーなかさ増し要員として貴重な食材になるだろう。

    その考えも一緒にグレストに伝える。

    「分かりました。来年は数件の農家に試験的に育ててもらい、上手くいった方法を広め、再来年には正式に商品化出来るよう取り計らいましょう」
    「お願いします」

    私がいくらアイディアを出したところで、商品を作るのも売るのも私じゃなく領民なのだから、無理に押し付けてしまえば上手くいくはずのものだって頓挫してしまう可能性もある。
    だから、グレストの手腕に期待して、まず彼にアイディアを売り込んだ。

    そして三年後。
    流石にネットを介する日本の様にはいかないものの、噂好きのおばちゃんネットワークの口コミのお陰か、本国で軽くタピオカが流行った。

    その栄養価が認められ、他国のお偉いさんが目をつけこぞって視察したいと言い出し、伯爵領の名前は一気に全国区どころか、世界に広まった――らしい。

    ……広まったっていってもまだ貧困問題や農地改革にかかわる専門家の間くらいだし。

    だけどそれは、確かに刻まれた私の第一歩だった。