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第三章

新商品開発

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    「さて、こちら。ご存じココナッツの実でございます」
    私が勿体ぶって出したのは、この島周辺でよく見かけるココナッツの実。

    丸のままの実と、中身を綺麗に処理した物両方を置いて、 料理番組っぽく指し示す。……このネタが通じる相手がこの島に存在しない事は百も承知で。

   「……それは見れば分かります。それで、その素材で何を作るおつもりなので?」
    ……相変わらずクールと言うか。こういうノリはアクアのが良い。
   「これを使って、デザートに使える食材を作りたい」
    ……ナタデココ。作り方自体は知っている。
    そう難しい工程はない。
    
    ココナッツ水にとある菌を加え発酵させたものを煮て、出来たものを任意のサイズに切れば良い。

    ――が。発酵食品として一番肝心の“菌”こそが最大の難関なのだ。
    人気商品の要として国家機密扱いだった前世。

    フレッシュチーズを作る乳酸菌と納豆を作る納豆菌。……納豆菌に負ける乳酸菌で作るチーズの工房には二日以内に納豆を食した者は近付けない。
    納豆菌で発酵した乳はそれはもうチーズでは無い別の何かになってしまうから。

    だから、ココナッツ水をナタデココに変える菌を開発しなきゃいけないんだ。

   「なる程、新しい発酵食品ですか。確かにココナッツはあえて栽培せずとも周辺の島も合わせれば容易く数が手に入る。その製法を島の秘としておけば、多少の手間賃程度の出費で丸儲けが可能、という訳ですか」
    「話が早くて助かるわ。だけど、一朝一夕で出来る話じゃないのも分かってる。これは長期計画よ。期限は私が王都の学園へ入学するまで」
    「――かしこまりました、お嬢様。何とかやってみましょう」

    「ありがとう。……けど、もう一つあるの」
    ナタデココは開発さえ成功すれば、前世でもブームが起きたくらいだから、かなりの功績が見込めるけど、成功しなきゃ捕らぬ狸の何とやら。
    だから、他に繋ぎの事業も必要だ。

    で。ブームと言えばもう一つ。

    こっちはほぼ完成している。
   「……この、黒いカエルの卵みたいなのは何ですか」
    ――そう、ご存じタピオカである。

    前世じゃタピオカドリンクを屋台で買うか、乾物売り場で完成品を買って茹でれば良かった。
    が、勿論今回は原料となるキャッサバからの作成となる。

    このキャッサバ、加工前には毒があるので要注意である。だから、伯爵邸の庭でコソッと試験的に作った物しかない。

    「このキャッサバを来年量産して貰って、タピオカを作って売るの。取り敢えず完成品を食べてみて」

    グレストも田舎育ちの農家の子。カエルの卵くらいで驚きはしないが、それを口にしろと言われれば渋い表情をした。

   「……いただきます」
    まるで罰ゲームのゲテ物食いの様にそれを口に運ぶグレスト。

    さて、リアクションは如何に。
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