ヒロイン？ 玉の輿？ 興味ありませんわ！ お嬢様はお仕事がしたい様です。

第七章

……誰？

    ああ。朝日が眩しい。

    結局、アゼルは民と同じグレードの部屋に泊まる等考えられなかった様で、ぶつぶつ文句を言いつつも元の部屋で落ち着いた。
    あの後も食事から何から文句をつけられたけど、どうにかこうにか事態収集を図り私は既にヘトヘトだ。

    朝の漁に出掛けるのに早起きに慣れた私は一人部屋を抜け出し、朝日を拝みに船のデッキに立っていた。
    すると、前方に見覚えのあり過ぎる船を発見した。
    船影はまだ遠く、乗組員の顔までは判別出来ないが、おそらくアクアが乗っているはずだ。

   「……少し遠いけどーーいけるかな？」

    精霊に祈りを捧げる。
    今日の釣果が最大限ある様に、と。

    まだ薄暗い海の向こうで、強くカンテラの明かりが揺れた。
    ああ、私の祈りに気づいたかな？

    港での再会を楽しみに、私は朝食を食べるため部屋に戻る。
    ……アゼルはどうやら夜の間に船に酔ったらしく部屋から出て来なかった。
    朝食の席が静かで平和だ。

   「……昨日も思ったのだけれど、食事が美味しいわ。それほどこった料理に見えないのに食材が良いのかどれも美味しくてついつい箸が進んでしまう」
   「俺、肉派なのに……。肉もめちゃ美味いのに何だこの魚、肉より美味いとかズリィ！」
    いや、静かではないな。けど、耳障りな文句を聞かなくて良いなら多少の雑音くらい聞き流して差し上げようじゃないか。

    「精霊の恵みと、働き者の我が領民の努力の結晶ですわ。自慢の食材を褒めて下さってありがとうございます。とても嬉しいですわ」
    やっぱり褒められれば嬉しい。

    「何でアゼルはこの飯が気に入らねぇんだろうな、美味いのに」
    「私はこの国の宰相の娘として民の暮らしを知るよう普段から言われておりますし、あなたは軍人の家の出で平民の兵士といさかいを起こす様な者には育てない。ですがアゼル様は王子。私達とも育ちが違うのでしょう」

    朝食が済んでしばらく。船は港に無事に到着した。

   「おーう、お嬢ー！」
    アクアのおじさんとーー隣、誰だ？    出迎えに来てくれたのは分かるんだけどね？

    「ギャハハハハ、やっぱり気付いて貰えなかったなお前！    お陰で儲かったぜぇ？」
    「ブッ、ハハハ！    賭けには負けちまったが……ククク、笑わせてくれるぜチクショウ！」
    漁師仲間の皆が揃って笑い転げ、その男を指差し騒いでいる。

    「お嬢、ありゃアクアだよ」

    あ、アクア!?
    脳筋ながら可愛い顔をしていたアクアが、細マッチョのイケメンに進化しただと……!?

    貴族として感情を顔に出さない訓練というものを学校でさんざんやらされたんだけど。
    私は思わず大口を開けて固まった。

    ちょっと、どなたか今すぐドッキリの看板持ってきてー！