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第七章

庶民の暮らしと貴族の暮らし

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    「ーーなんだ、ここは。狭いな」
    元々狭い船の中、ここは一般的な庶民が普段使いする部屋が並ぶエリアの通路だ。最低限人が通れれば良しとする船が多い中、伯爵家が出資して造ったこの船は、緊急時でも人がすれ違える広さを有している。
    そりゃ、スイートルーム前の通路に比べりゃ狭いけどさ。
    けど、通路なんてスペースは最低限のスペースがあれば十分で、人や荷物を乗せるスペースを確保するのは当たり前。
    安全と快適を犠牲にしてまで荷室を確保する劣悪船だって多々ある中、この船はその辺もきっちりさせたから、これで随分と快適なんだよ。

    「なっ、なんだこの部屋は。牢獄なのか?    何故鉄格子が無いんだ!」
    「いや、彼らは善良な一般庶民であって犯罪者じゃありませんから。この部屋は安い分、雑魚寝になるんですよ。貴族の旅ではまず使う事はありませんが、民には一般的な部屋です」
    たまたま同室になった人々が、酒を酌み交わし笑い合い賑やかに会話を楽しんでいる。
    プライバシーもへったくれも無い部屋ではあるが、それを納得済みで乗っている人達だ。不快をあらわにする様な者は見当たらず、皆明るく楽しそうだ。

   「もう少しお金に余裕のある人はこちらの部屋を使います」
    二段ベッドが部屋一杯に並ぶ部屋。こちらは寝台毎にカーテンがあるため、最低限視界は遮れる分、雑魚寝部屋よりはプライバシーが確保できる。が、所詮布切れ一枚のプライバシー。枕元の明かりをつければ影が出来るし、音や匂いはフリーパスだ。

   けれど、就寝時間には早すぎる真っ昼間の今は、皆カーテンを開けて、この時限りのルームメイトとの会話を楽しんでいる。

   「これが、真の相部屋と言うものです。幸い空き部屋はあるそうなので……いかがです、この機会に民の暮らしに触れてみるというのは?    普段贅沢な暮らしに慣れていていきなりは難しかろうと一番良いお部屋を押さえましたが、どうやらお気に召さないご様子。この船にあの部屋以上のグレードの部屋はございません」
   「貴様、平民に混ざれと言うのか!」
   「ご希望であれば、と申しました。先の部屋以上の部屋をご用意するのは不可能ですが、あの二部屋ならばすぐにご用意できますから。この船の乗客の過半数は我が伯爵家の領民です。民の暮らしぶりを理解するのは、領主として必要な事ですよ」

    「俺は!    王子だぞ!    俺にその様な事は必要無い!」

    ……は?
    おいおい、お前が気に入らなかろうと現時点では彼は私の婿として領主になるのが王命だろうに、必要無いとはどういう事だ?
    いやまぁ、領政を代官に任せっぱなしで王都で遊び呆ける祖父母や両親という悪例が居るからなぁ……。
    けど、彼らも最低限必要な知識は頭に叩き込んでるはずで、「必要無い」事はない、はずだ。

    影の視線からどんどん温度が無くなっていく。
    ああ、ホント……前途多難だわ、コレ。
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