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野蛮な家族
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書類から目を上げて、ジョゼットは伸びをした。
紫の目に、逆さまの窓と青い空が映る。そろそろ夕立が来るかもしれない時間だが、まだ冷たい風が吹き始めた様子はなかった。
はふ、とひとつ息をついて、書類を揃えなおすと、一番上に来た紙面の文字が目についた。
「猟犬、20頭」
ジョゼットとランドリックの結婚式に先立ち届いた、祝いの品の一項目だ。
どこで飼うのだろう。
すでにこのゼンゲン侯爵家には5頭の猟犬がいる。
いくら庭が広いと言っても、20頭は飼いきれないだろう。
「どうして猟犬なのかしら」
「その家は狩猟に目がないんだ。俺は狩りはしないし、犬は領地に送れば可愛がられると思うよ。それとも、ジョゼも一頭、専用に欲しい?」
「ランドリック! 帰ったの?」
「うん、ただいま」
すぐ横に、金の髪と緑の目をした凛々しい騎士姿の婚約者ランドリック・ゼンゲンが立っていた。
空翔馬に乗る騎士たちは、誰もが体重などないかのように軽やかに動くという。上級騎士を経て参謀官となった今も、ランドリックの動作は迷いがなく、とても静かだ。
婚約してすぐに、ランドリックの執務室にジョゼット用の机が設置された。
ランドリックに用があるときは、ジョゼットを探して歩くランドリックを探し彷徨う、ということが多かった使用人たちにはとても好評だ。
婚約以来ジョゼットも書類仕事が忙しいので、こうして、ランドリックを捕まえやすく、資料も揃ったところに場所をもらえたのは、助かっている。
新居となる離れの最低限の手配は済み。
今は、結婚の後のお披露目パーティの準備と、それに先んじて各家から送られてくる祝いの品の目録を整理して、必要に応じて輸送の指示もしなければならない。
忙しい。
けれど、日々、ジョゼットは幸せでいっぱいだ。
金褐色の髪を撫でられ、手を取られて立ち上がると、そのまま軽く抱きついた。
未だに若手の激しい訓練に交じることがあるというランドリックは、見た目より厚みがある。ジョゼットの腕は背中に回り切らない。
ランドリックに何度もキスをされてから、ようやく猟犬の話を思い出した。
「20頭、皆送ってしまってもよいの?」
「構わない。領地には、道に迷った飼い主を案内する賢い犬の話が語り継がれてるから、犬は好かれているんだ」
「好かれているの? 歓迎されるのなら、全員領地に送ろうかな。私には猟犬は扱えないわよ」
庭に放たれた猟犬に近づいてみたことがある。唸り声を上げられて、即座に後方に下がった。
自分の言うことなど、聞いてもらえる気がしない。
「懐くと一途だし、可愛げがある」
そうだろうか。確かになぜかランドリックには一目置いているように、犬たちは行儀がいい。
ダメなことはダメって言うだけだから、分かりやすいよとランドリックは言うけれど。
「でもいいわ。私、もう犬は十分」
「それ、俺のこと?」
くすくすと笑い合う距離が近い。うっかりするとすぐに抱き寄せられてしまうのにも慣れた。
侯爵家の総力をあげて速やかに婚約を整えて、今日で三ヶ月。
いまだ実家からは祝いはおろか、婚約についてすら何の反応もないが、一月後には結婚の期日が控えている。
ジョゼットは、もう実家について思い悩むことはやめようと心に決めていた。
騎士団の遠征の冒頭にだけ参加すると、ランドリックが出掛けたのは、その三日後だ。
さらに翌日、ジョゼットに客が来ていると、執事が眉を下げながら取り次いだ。
「お兄様です」
一瞬、理解ができなかった。
妹に会うのが目的といっても、侯爵家を訪れるのに、前触れも、その前にあるべき訪問伺いの手紙もなく、兄だけが突然訪れたというのだろうか。
何か、嫌な予感がした。
「ジョゼット。久しぶりだな」
四年ぶりに会う兄ソムズは、頬に肉がついて、父にますます似てきていた。
挨拶を返すジョゼットに、興味もないように視線をよこさないところも。
「母さんが心配していた。無理なことは諦めて、いい加減帰ってこい。母さんが病気になってしまう」
ガン、と何かが頭にぶつかったような衝撃を受けた。
「お母さんが、どうしたの? 具合が悪いの?」
「何言ってる。勝手にうちを出て、勝手にまた縁談を用意しろと言って来て、また勝手に撤回するバカ娘のせいだろうが。自覚がないとはな。父さんは抜け殻みたいになってると思いきや、思い出したようにぶつぶつ文句言って暴れてる。毎日毎日、母さんは疲労困憊だ」
イライラと足を揺らしながら吐き捨てて、兄ソムズは白磁のカップを把っ手ではなく鷲掴みにしてガブガブと飲むと、すぐ立ち上がった。
「父さんから引き継いで、俺がお前の結婚相手を決めてやった。明日にはここを出て、そっちに行け。それでうちは全て丸くおさまる。父さんはともかく、母さんを見殺しにしたくはないだろう?」
もうすでに婚約は成っていることを主張する間もない。
言いたいことだけ言うと案内も待たずに部屋から出て行こうとしたが。
ふと視線を巡らせたと思うと、給仕のためのワゴンの上から、予備の匙をひょいひょいとつまんで上着のポケットに入れた。
「兄さん、何してるの?」
「いいじゃないか、このくらい、知らないうちに失ってるだろ」
「泥棒よ」
「お前、ここの嫡男に惚れられてるんだろ? 上手く言っとけよ」
やはり、知っているのだ。
そもそも実家には、返答はなくとも必要な連絡はしているのだ。兄が、ジョゼットの婚約を知らないはずがない。知っていて、この暴挙なのだ。
頭に血が昇って、ジョゼットは思わず、幼い頃の喧嘩のように兄に掴み掛かりそうになった。
「ジョゼット様。なりません。御身大事、匙などたいしたことはございませんよ」
執事が肩を押さえて囁いてくれなかったら、きっと飛びかかって、そして殴られていたかもしれない。
ペッと侯爵夫人のお気に入りの絨毯に唾を吐いて、ソムズは遠慮のない靴音を響かせて去っていった。
「御身に害が及ばなければ、このようなことはたいしたことではございません。お気になさる必要は全くございませんよ。兄君とジョゼット様は、別のお人ですから。ご安心を」
何度もジョゼットを宥めてから、侯爵様にご報告だけいたしますと執事が去る。
その戻りを待っていた方がいいことはわかっていたが。
ひたひたと水位を上げる怒りが、ジョゼットの思考を加熱させた。
もし、ランドリックが帰ってきて、あの兄と鉢合わせしたら? 兄はあんな失礼な言い草を、ランドリックにも浴びせるつもりなのだろうか。
会わせたくないし、聞かせたくない。あの兄が、ランドリックを僅かでも煩わせるのは許せない。
我慢できずに、ジョゼットは部屋を飛び出した。
勘が当たったのか、玄関前で騒ぎになっている。
ジョゼットは早足になった。
ところがたどり着いてみれば、玄関前では予想もしない人物が兄と揉み合っていた。
「この、穀潰しが、恥知らずにこんなところまで」
「何すんだ、よ、親父だって同じだろ。親父の紹介するハゲじじいよりはマシだろうが」
「お前、妹を渡して金を受け取るんだろうが! 絶対許さんし、そんなことしたら侯爵家から花嫁を奪うことになるぞ。妹にわかるようなこと、なぜお前にはわからんのだ!」
なぜ、ここに父が。
見回せば、実家の簡素な馬車が馬車寄せに停められて、その中から母がこちらを窺っていた。
状況を理解し切る前に、父がソムズを引きずり倒し、その拍子にソムズのポケットから銀に煌めく匙がばらばらと散らばった。
「なんだこれは。お前、匙をくすねたのか!?」
「うるっせえよ」
ソムズはさっと匙をかき集めると、父を振り切って歩き出す。それを父が追い、振り払われ、また追い、彼らは延々と、門まで歩いた。
母は、もう顔を覆って泣いていて、どうにも頼れない。
ジョゼットだって、泣きたい気分だった。侯爵家で優しくしてくれた大勢の人に、家族のこんな醜態を晒したくはなかった。
けれど、兄と父とはいえ、大人の男同士の本気の怒鳴り合いに口を挟む勇気もない。
ただ、間隔をあけて二人の後を追って歩き。兄が結局、父を突き飛ばして、走って門から去っていくのを見送るしかできなかった。
突き飛ばされた父はすぐに立ち上がり、適当に服を払うと、目線を合わさずにジョゼットの前に立った。
こんなに、小さかっただろうか。
久しぶりに会う老親にそんな感覚を抱くと聞いたことはあったが、それは、子供が経験を積んで大人になったからそう感じるのだと思っていた。
けれど違う。
はっきりと、父は細くなった。背も小さくなっている。腹周りが丸くて屈むのもようやっとだったのに、今はすっきりとベルトが見える。だが、肩の頼りなさ、首の皺を見れば、健康的だと喜べるものではなかった。
もっと、顔を見に帰ればよかった。
一瞬後悔をしたが。
「娘が娘なら、息子も息子で不出来と来た。何も悪いことはせず正直に生きてきて、こんな仕打ちが待ってるとはな」
ソムズによく似た言い方で、そう言い捨てて、門から逆戻りに歩き出した。母の待つ馬車へと向かったのだろう。だが、二、三歩行かないうちに、糸が切れたように座り込んでしまった。
周りで様子を伺っていた使用人たちが、素早く動く、担架を持ってきて、拒絶する父を宥めて乗せると、あっという間に運んでいった。
さすがに、騎士総長の屋敷というべきか。心配と感心をして、後を追おうとした時。
「野蛮なご家族ね」
聞いたことのない甘ったるい声が、近くの植え込みの影から投げかけられた。
ギョッと振り返れば、貴族令嬢らしき格好をした、ジョゼットよりいくつか若そうな女性が、小柄な男性を従えて中腰で立っていた。
紫の目に、逆さまの窓と青い空が映る。そろそろ夕立が来るかもしれない時間だが、まだ冷たい風が吹き始めた様子はなかった。
はふ、とひとつ息をついて、書類を揃えなおすと、一番上に来た紙面の文字が目についた。
「猟犬、20頭」
ジョゼットとランドリックの結婚式に先立ち届いた、祝いの品の一項目だ。
どこで飼うのだろう。
すでにこのゼンゲン侯爵家には5頭の猟犬がいる。
いくら庭が広いと言っても、20頭は飼いきれないだろう。
「どうして猟犬なのかしら」
「その家は狩猟に目がないんだ。俺は狩りはしないし、犬は領地に送れば可愛がられると思うよ。それとも、ジョゼも一頭、専用に欲しい?」
「ランドリック! 帰ったの?」
「うん、ただいま」
すぐ横に、金の髪と緑の目をした凛々しい騎士姿の婚約者ランドリック・ゼンゲンが立っていた。
空翔馬に乗る騎士たちは、誰もが体重などないかのように軽やかに動くという。上級騎士を経て参謀官となった今も、ランドリックの動作は迷いがなく、とても静かだ。
婚約してすぐに、ランドリックの執務室にジョゼット用の机が設置された。
ランドリックに用があるときは、ジョゼットを探して歩くランドリックを探し彷徨う、ということが多かった使用人たちにはとても好評だ。
婚約以来ジョゼットも書類仕事が忙しいので、こうして、ランドリックを捕まえやすく、資料も揃ったところに場所をもらえたのは、助かっている。
新居となる離れの最低限の手配は済み。
今は、結婚の後のお披露目パーティの準備と、それに先んじて各家から送られてくる祝いの品の目録を整理して、必要に応じて輸送の指示もしなければならない。
忙しい。
けれど、日々、ジョゼットは幸せでいっぱいだ。
金褐色の髪を撫でられ、手を取られて立ち上がると、そのまま軽く抱きついた。
未だに若手の激しい訓練に交じることがあるというランドリックは、見た目より厚みがある。ジョゼットの腕は背中に回り切らない。
ランドリックに何度もキスをされてから、ようやく猟犬の話を思い出した。
「20頭、皆送ってしまってもよいの?」
「構わない。領地には、道に迷った飼い主を案内する賢い犬の話が語り継がれてるから、犬は好かれているんだ」
「好かれているの? 歓迎されるのなら、全員領地に送ろうかな。私には猟犬は扱えないわよ」
庭に放たれた猟犬に近づいてみたことがある。唸り声を上げられて、即座に後方に下がった。
自分の言うことなど、聞いてもらえる気がしない。
「懐くと一途だし、可愛げがある」
そうだろうか。確かになぜかランドリックには一目置いているように、犬たちは行儀がいい。
ダメなことはダメって言うだけだから、分かりやすいよとランドリックは言うけれど。
「でもいいわ。私、もう犬は十分」
「それ、俺のこと?」
くすくすと笑い合う距離が近い。うっかりするとすぐに抱き寄せられてしまうのにも慣れた。
侯爵家の総力をあげて速やかに婚約を整えて、今日で三ヶ月。
いまだ実家からは祝いはおろか、婚約についてすら何の反応もないが、一月後には結婚の期日が控えている。
ジョゼットは、もう実家について思い悩むことはやめようと心に決めていた。
騎士団の遠征の冒頭にだけ参加すると、ランドリックが出掛けたのは、その三日後だ。
さらに翌日、ジョゼットに客が来ていると、執事が眉を下げながら取り次いだ。
「お兄様です」
一瞬、理解ができなかった。
妹に会うのが目的といっても、侯爵家を訪れるのに、前触れも、その前にあるべき訪問伺いの手紙もなく、兄だけが突然訪れたというのだろうか。
何か、嫌な予感がした。
「ジョゼット。久しぶりだな」
四年ぶりに会う兄ソムズは、頬に肉がついて、父にますます似てきていた。
挨拶を返すジョゼットに、興味もないように視線をよこさないところも。
「母さんが心配していた。無理なことは諦めて、いい加減帰ってこい。母さんが病気になってしまう」
ガン、と何かが頭にぶつかったような衝撃を受けた。
「お母さんが、どうしたの? 具合が悪いの?」
「何言ってる。勝手にうちを出て、勝手にまた縁談を用意しろと言って来て、また勝手に撤回するバカ娘のせいだろうが。自覚がないとはな。父さんは抜け殻みたいになってると思いきや、思い出したようにぶつぶつ文句言って暴れてる。毎日毎日、母さんは疲労困憊だ」
イライラと足を揺らしながら吐き捨てて、兄ソムズは白磁のカップを把っ手ではなく鷲掴みにしてガブガブと飲むと、すぐ立ち上がった。
「父さんから引き継いで、俺がお前の結婚相手を決めてやった。明日にはここを出て、そっちに行け。それでうちは全て丸くおさまる。父さんはともかく、母さんを見殺しにしたくはないだろう?」
もうすでに婚約は成っていることを主張する間もない。
言いたいことだけ言うと案内も待たずに部屋から出て行こうとしたが。
ふと視線を巡らせたと思うと、給仕のためのワゴンの上から、予備の匙をひょいひょいとつまんで上着のポケットに入れた。
「兄さん、何してるの?」
「いいじゃないか、このくらい、知らないうちに失ってるだろ」
「泥棒よ」
「お前、ここの嫡男に惚れられてるんだろ? 上手く言っとけよ」
やはり、知っているのだ。
そもそも実家には、返答はなくとも必要な連絡はしているのだ。兄が、ジョゼットの婚約を知らないはずがない。知っていて、この暴挙なのだ。
頭に血が昇って、ジョゼットは思わず、幼い頃の喧嘩のように兄に掴み掛かりそうになった。
「ジョゼット様。なりません。御身大事、匙などたいしたことはございませんよ」
執事が肩を押さえて囁いてくれなかったら、きっと飛びかかって、そして殴られていたかもしれない。
ペッと侯爵夫人のお気に入りの絨毯に唾を吐いて、ソムズは遠慮のない靴音を響かせて去っていった。
「御身に害が及ばなければ、このようなことはたいしたことではございません。お気になさる必要は全くございませんよ。兄君とジョゼット様は、別のお人ですから。ご安心を」
何度もジョゼットを宥めてから、侯爵様にご報告だけいたしますと執事が去る。
その戻りを待っていた方がいいことはわかっていたが。
ひたひたと水位を上げる怒りが、ジョゼットの思考を加熱させた。
もし、ランドリックが帰ってきて、あの兄と鉢合わせしたら? 兄はあんな失礼な言い草を、ランドリックにも浴びせるつもりなのだろうか。
会わせたくないし、聞かせたくない。あの兄が、ランドリックを僅かでも煩わせるのは許せない。
我慢できずに、ジョゼットは部屋を飛び出した。
勘が当たったのか、玄関前で騒ぎになっている。
ジョゼットは早足になった。
ところがたどり着いてみれば、玄関前では予想もしない人物が兄と揉み合っていた。
「この、穀潰しが、恥知らずにこんなところまで」
「何すんだ、よ、親父だって同じだろ。親父の紹介するハゲじじいよりはマシだろうが」
「お前、妹を渡して金を受け取るんだろうが! 絶対許さんし、そんなことしたら侯爵家から花嫁を奪うことになるぞ。妹にわかるようなこと、なぜお前にはわからんのだ!」
なぜ、ここに父が。
見回せば、実家の簡素な馬車が馬車寄せに停められて、その中から母がこちらを窺っていた。
状況を理解し切る前に、父がソムズを引きずり倒し、その拍子にソムズのポケットから銀に煌めく匙がばらばらと散らばった。
「なんだこれは。お前、匙をくすねたのか!?」
「うるっせえよ」
ソムズはさっと匙をかき集めると、父を振り切って歩き出す。それを父が追い、振り払われ、また追い、彼らは延々と、門まで歩いた。
母は、もう顔を覆って泣いていて、どうにも頼れない。
ジョゼットだって、泣きたい気分だった。侯爵家で優しくしてくれた大勢の人に、家族のこんな醜態を晒したくはなかった。
けれど、兄と父とはいえ、大人の男同士の本気の怒鳴り合いに口を挟む勇気もない。
ただ、間隔をあけて二人の後を追って歩き。兄が結局、父を突き飛ばして、走って門から去っていくのを見送るしかできなかった。
突き飛ばされた父はすぐに立ち上がり、適当に服を払うと、目線を合わさずにジョゼットの前に立った。
こんなに、小さかっただろうか。
久しぶりに会う老親にそんな感覚を抱くと聞いたことはあったが、それは、子供が経験を積んで大人になったからそう感じるのだと思っていた。
けれど違う。
はっきりと、父は細くなった。背も小さくなっている。腹周りが丸くて屈むのもようやっとだったのに、今はすっきりとベルトが見える。だが、肩の頼りなさ、首の皺を見れば、健康的だと喜べるものではなかった。
もっと、顔を見に帰ればよかった。
一瞬後悔をしたが。
「娘が娘なら、息子も息子で不出来と来た。何も悪いことはせず正直に生きてきて、こんな仕打ちが待ってるとはな」
ソムズによく似た言い方で、そう言い捨てて、門から逆戻りに歩き出した。母の待つ馬車へと向かったのだろう。だが、二、三歩行かないうちに、糸が切れたように座り込んでしまった。
周りで様子を伺っていた使用人たちが、素早く動く、担架を持ってきて、拒絶する父を宥めて乗せると、あっという間に運んでいった。
さすがに、騎士総長の屋敷というべきか。心配と感心をして、後を追おうとした時。
「野蛮なご家族ね」
聞いたことのない甘ったるい声が、近くの植え込みの影から投げかけられた。
ギョッと振り返れば、貴族令嬢らしき格好をした、ジョゼットよりいくつか若そうな女性が、小柄な男性を従えて中腰で立っていた。
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