ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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26話 無能スキル(side倉持クララ)

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 私はDランク探索者になったばかりの駆け出しだ。

 両親は探索中に失踪し、私達は親戚の家をたらい回しにされた。

 ステータスこそ高く生まれたが、スキルが微妙であまりいい学校に通わせてもらえなかった。

 ──────────────────────
 名称:倉持クララ
 年齢:15
 職業:探索者
 ──────────────────────
 レベル5/50
 筋力:D★
 耐久:D★
 魔力:C★
 精神:E★
 器用:D★
 敏捷:D★
 幸運:C★
 総合ステータス:C-
 ──────────────────────
 <固有スキル:特殊変化>
 ★調味料【10/10】
 ──────────────────────

 調味料。
 それが私の固有スキル。

 特定のモンスターを珍しい調味料にしてそれを売って生計を立てている。
 使用回数は一日10回。
 性能は魔法に近いが、対象は死んでる前提だ。

「生きてるモンスターに効果があれば良かったのに」

「どうしたの、倉持さん?」

「ううん、なんでもない。今日は誘ってくれてありがとうね? 本当はCランクダンジョンに行きたかったんじゃないの?」

 笹峰悠斗。
 私と同じ中学に通うクラスメイト。
 総合Dが平均のクラスで、彼だけはC。

 C–の私と同様に浮いていた。

「みんなそう言うんだけどさ、どうも俺のスキルと相性悪いやつばかりで」

 武器の短剣を構えて切り掛かるモーション。
 生まれながらにステータスは高くとも、固有スキルがあまりにもアレなせいで戦闘が苦手という人も少なくない。

 けど彼、悠斗君はバリバリの近接ファイター。
 戦えないわけじゃない。

 戦えないのではなく、一人だけ前へ前へ行ってしまい、孤立するそうだ。

 だからDランクダンジョンで孤立せずとも戦える立ち回りをしたかったのだそうだ。

 そんな話を聞いて、私は彼の誘いに乗った。
 けど、それが私を誘い出すための文句である事を、後になって知った。

 この先に雑魚モンスターが屯する穴場がある。
 そう誘われて行った先で複数の男達に囲われた。

「悠斗君、これはどう言うつもり?」

「わからないかなぁ? 倉持さん。君以外の女子は全員食った。次は君の番だと言うわけだ」

 悠斗君が指を鳴らす。

 男達はズボンを下ろして粗末な物を晒した。
 一つしかない入り口は悠斗君が通せんぼしていて、助けも呼びに行けない。

 私は抵抗虚しく服を剥かれ……頭上から生ぬるい液体がかけられた。
 おもわず目を瞑る。
 一体何が起きてるというの?

「嘘だろ! ここは安全地帯のはずじゃ!」

「ぎゃっ!」

 周囲から聞こえる悲鳴。
 アクシデントが起きているようだ。

 助かった? と思い込むのはやめた方がよさそうだ。
 だって、体を締め付ける強い力によって私は身動きが取れずにいた。

「倉持が捕まってる間に退却だ!」

「あれはまずい!」

「四葉が頭を食いちぎられちまったよ!」

 悲鳴に相次ぐ悲鳴。
 それはモンスター相手に勇敢に立ち回る姿とは程遠く。

 なんだったら私はここに置き去りにされたのだと理解する。
 震える体。

 叫ぼうにも出てくれない声。

 遠ざかっていく足音。
 
 そして、むせかえるほどの悪臭が私を包み込んだ。

「やだ、たすけ……!」

 助けを呼ぼうと大声を張り上げても、音の反響は途中で止まった。
 頭から食べられたんだ。

 ああ、短い人生だったな。
 せめてモンスターがどう言う姿をしてるかだけでも確認したかった……

 どれほど意識を失っていただろう?

 もう死んだかな?

 まだかな?

 おかしな事に、そんなことを考える余裕があった。

 パチパチと火が弾ける音がする。
 モンスターって火を炊くの? それとも走馬灯かしら?

 寝てばかりじゃわからないこともある。意を決して目を開けて起き上がった。

「ポンちゃん、女の子が目を覚ましたぞ」

「ナイスヨッちゃん、気遣いのできる大人」

「あんまり褒めんなよ」

「えと、ここは……」

「君、ダンジョンイレギュラーに丸呑みされそうになってたんだよ?」

「丸呑み……」

 覚えがある。

「それよりもダンジョンイレギュラーってどんな生物でしたか?」

「キング空ウツボ」

「空ウツボって高級食材の?」

「ああ、それがバカデカく育っちまった特殊個体だな」

「助けてくれてありがとうございます。なんてお礼を言ったものか……!」

 そんなイレギュラーを相手に救ってくれたのだ。

 どんな無理難題を突きつけられるのか、今からわかったものではない。
 もしかしたら悠斗君みたいに体を求められたら……

「ああ、いいよいいよ別に。ちょうど通りがかったし、食べたことのない食材だったから。倒したら君が喰われかけで……死んでなくてほっとしたよ」

「はい?」

 私は素っ頓狂な声をあげた。
 今なんて答えた?

 私は彼らの手腕によって救出されたのではないか?
 しかし帰ってきた言葉は少しだけ変わっていた。

 食ったことがない相手。
 興味本位で、倒したら君がいて、現在に至る。

「あの、もしかしてそのモンスターって……」

 バチバチと火が弾ける。
 その上には木の串で刺された美味しそうな蒲焼が、熱を浴びて油を火の中へ落としていた。

 燃え上がる火の中に落ちた油が煙となって天井に登っていく。

「食う? うまいぞぉ」

 本当に美味しそうだ。
 いやいやいや、だからって私を襲っていたモンスターを倒してその場で食べる?
 頭がおかしいなんて問題じゃない!

 衛生観念が狂ってる!

 だが私はついさっき意識を取り戻したばかりで、とてつもない空腹だった。
 美味しそうな食事の匂いに抗えず、首を垂らした。

 最初は周囲から促されて、実際に手にした串は鼻腔を貫き、中枢神経を刺激した。
 溢れる涎の洪水の中、口にしたお肉はなんとも言えない味わいで。

 初めて食べた味なのにも関わらず、私は生きて食事ができてるこの現実に涙した。

「しっかしダンジョンも犯罪者が増えたもんだねー」

「本当にな。婦女暴行に、囮なんて探索者になれるお嬢様の身にも起きるとは、世も末だな」

「所詮、上位総合ステータスの方達に比べたら、私達は下層もいいところですし」

「総合ステ幾つ?」

「C–です」

「えっ、高っ!」

 驚いたような顔のおじさん達。
 確かに一般的なDに比べたらCの要素が二つ入ってるだけでも勝ち組。
 でも現実は甘くない。

 さらに勝つ為に、スキルが強い必要性があった。

「えっと、おじさん達はおいくつだったんですか? イレギュラーを倒せるくらいにはお強いんですよね?」

「俺たちはFさ」

「そ、最底辺」

「えっ!?」

 信じられない。人権を与えられる最底辺の最低値を下回っている!?

「もちろん、あの頃より成長してるから今は強いぜ?」

「そう、ですよね。でも私……スキルが壊滅的で」

「迷惑でなければどんなスキルか教えてもらっていいかい?」

 私はなんの役にも立たないスキルを口にした。

 自分で言ってて顔から火が出るほど恥ずかしい。
 同年代からは、いつも馬鹿にされていた。

 きっとここでも同じ言葉が投げかけられるんじゃないかって……そう身構えていたのに、かけられたのは思ってもみない言葉だった。

「よかったらさ、君。俺たちのところでアルバイトして行かない?」

「え?」

 何を言われたのかもわからず、私は似たような問答を何回も繰り返すこととなった。
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