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66話 準備、着々と(第三者視点)
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「プレジデント、日本からお電話です」
秘書からの通達に合衆国大統領ジョージは眉を顰める。
「誰だ。今日はジャパンとの外交のアポは入れてない筈だが?」
「富井様と」
「知らんな」
「早く出て来いトロスケ、あの時助けてやった恩を忘れたか! などと仰ってます」
「待て、私に対してそんな呼び名。その上で富井だと? あの方は60年前に現役を引退して病床に伏しているはずだ」
「その方は?」
「君くらいの歳なら知らないだろうが、当時赤鬼、青鬼と呼ばれた英雄を知ってるか? 歴史の教科書には載るくらいの偉業を残している。そのうちの片方がMr.トミイ。当時ダンジョン災害被災者だった私の命の恩人でもある」
「60年前の英雄!? ですがご存命なら……」
「92歳のご老人だ。回復したという話も聞いてない。だから詐欺の可能性もある。しかしここまで何も引っかからずに私に直通のコールを入れるとなると……」
偽物と断じるのも無理が出てくる、か。
「取り次いでくれ」
「ですが偽物だった場合は?」
「私自らが判断し、重い処罰を下す。君は下がってなさい」
秘書を下がらせ、ジョージは執務室で相手を見定めた。
電話口ではイライラしたような声色。
相手を待たせる立場の大統領に対してこの癇癪持ち。
相当に気性の荒い詐欺犯だと疑ってかかる。
「遅い! 電話くらいとっとと受け取れってんだトロスケめ!」
「申し訳ないが、客人でもない相手をもてなす余裕は今のアメリカにはないんだ。偽物さん」
「ワシが、偽物だとぉ?」
「本物なら今頃ベッドに縛り付けられてる。英雄の名を騙るのならもっと上手くやることだね」
世代も似たような年齢。それなりにリサーチはしているのだろうが詰めが甘い。
しかし私とあの方のエピソードを後世に伝えた覚えはない。
親族か? はたまたそれを聞いた第三者か。
ジョージは真偽を見定めるべく声と態度を分析していく。
「埒があかねぇな。ハッちゃん代ってくれや」
ハッちゃん。まさか八尾の翁か?
ではさっきまでのご老体も……だとしたら私は飛んだ失礼な真似をしたことになる。
「久しぶりだね、ジョージ。いや、今は合衆国の大統領か。あの時の坊やが随分と出世したじゃないか」
「Mr.ヤオ。貴方とこうしてトークできる事を誇りに思います」
「その言葉はシゲちゃんにも向けて欲しかったね」
「すると先ほどの方は」
「正真正銘、富井茂雄その人さ」
「ご病気されてると聞いていました。その、意識不明の重病人であるとも」
「そうだね、今回はそのことも含めてお話ししようと思ってた。けど結果は散々さ。君相手ならワシの方が話が通じるの一点張りだったのにこのザマだからね」
「てっきり英雄の名を騙る不届モノだと疑ってかかってました」
「あの会話を聞けば誰だってそう疑うさ。それで先に本題に入るけど、良いかな?」
八尾哉三。当時は冷静沈着な青鬼として名を馳せていた。
猪突猛進の赤鬼こと富井茂雄と共に我々合衆国のダンジョン災害の復旧にも手を貸してくれたJAPANのサムライ。
サムライなのにどうして鬼と呼ばれてるか?
その一つに徒手空拳の方が強いと言われるほどの身体強化の使い手だったからだ。
巨大なモンスターの心臓を引っこ抜き、握りつぶす荒々しさから。
血に塗れてなお笑う快楽主義者から赤鬼、冷静に状況を見据えて分析、解析するもの同様に脳筋なことから青鬼と呼ばれ本土の探索者からも恐れられた。
そんな二人が新たに弟子を取ったという。
今日のコールの本題は、その男をSに推すための嘆願書のようなモノだった。
かつての英雄が推す、弟子。
そしてそれ以上の手土産を持っての参加。
寝たきりのご老体ですら飛び起きるほどのモンスター料理の名手。
それが我々アメリカにも手を貸してくれる機会、みすみす逃す手はない。
そして新たなる起業表明。
探索者としての復帰の他、美食文化に合わせてモンスター食材の加工品をメインに取り扱う会社の設立。
これは世界が荒れるぞ。その波に乗り遅れる前に一報をくれたのか、と判断した。
「プレジデント、先日SSSSランクのMs.トドロキからの推薦状。確か名は……」
「Mr.ポンホウチ。こんな偶然があるのか?」
「強者は惹かれ合う、のでしょうか?」
「分からん。だが一介の料理人が出会ったところで推薦、または紹介しても惜しくない何かがあるのは間違いない」
「認可されるのですか?」
「するさ。その為に今、私はこの席に座っている。恩人からの願いもある。無碍には出来んさ」
「分かりました」
秘書を下がらせ、ジョージは政務に取り組んでいく。
先ほどまで、問題点の多さに頭を抱えていたが、先ほど打ち上がった話題に、今はワクワクが抑えられない。
世の中を変える。その一心で大統領にまで上り詰めたジョージは、新しい時代の到来を見据えて目を細めた。
────────────────────────────
そして移動屋台の認可が降りた知らせを、申請を任せていたマイクから聞かされた美玲は。
「ミレイ、例の契約、許可降りたぜ?」
「ありがとう、マイク。これでいつでも洋一さんを呼べるわね」
「しっかし特令は曲がらなかったぜ。奴さん、Sにまで上がれるのかね? 腕が確かなのは認めるが、確か前に会ったときのライセンスはDだったろ?」
無理じゃないか?
腕があっても、気持ちだけでランクは上がらない。
マイクはそのことを懸念しているようだが……
「多少時間はかかるでしょうけど、洋一さんなら短時間でのし上がってくると思うわ」
「ヘイヘイ、それは愛ってやつか?」
「揶揄わないで」
気分次第でそんな辞令を通しても、相手は付いてこれないぞ?
物事を自分基準で考えるな、と暗に釘を刺される。
けど、あたしは信じてる。
そこでメッセージが入る。それは無事Aにまで上がったよ、もう少し待っててくれ、と言うものであった。誘ってからたった数ヶ月でDからAに上がったのだ。
本来それくらいのスペックがあったとしても、無理なことだ。
自分が通ってきた道だからこそわかる。
実力があっても、信用は得られない。
既に信用が築かれてる状態で実力を見せたら?
「あたしたちの心配は杞憂よ。ほら、洋一さん達、Aに上がったみたい」
「ホワッツ? 本当か!」
マイクが驚くのも無理はない。
何せその駆け上がる速度があまりにも異常。
普通、ランクを駆け上がるのは何においてもまずステータスが重要。その上で他者とのコミュニケーションが必要不可欠。
その上で探索者としての実力。世界に発信する宣伝力。
そのどれもが欠けてはダメで、そしてさらに上を目指す探究心。それが最も尊重される。
あたしはなった。成れた。
だから洋一さんもなれる……断言は出来ないけど、そのポテンシャルを持ってると信じていた。
「なになにー? 二人してはしゃいじゃって」
「それがよー」
マイクがリンダに状況説明。
「ワォ」
それだけでどれだけ自分たちの要望が無理・無茶・無謀であるかを把握した上での驚嘆。
全てあたしの一人相撲だとチームの二人ですら思っていた。
それが通ったのだ。
「良かったわね、ミレイ。愛しのダーリンとの距離がまた一歩近づいたわね」
「だから、洋一さんとはそういう関係じゃないんだって」
「でもでも、近くにあんなに可愛いライバルが登場してちゃ心中お察しよ?」
「もぅ、リンダったら!」
この恋愛脳は何かにつけて独り身のあたしを誰かとくっつけようとする。
けど、あたし一人じゃオシャレに疎いのもあり、リンダの気遣いは嬉しかった。
次会うときにはもう少し自分に素直になろうと思う。
年齢の若さでマウントを取ってくる子には負けないくらいには。
あたしにできるかどうかはともかく……
秘書からの通達に合衆国大統領ジョージは眉を顰める。
「誰だ。今日はジャパンとの外交のアポは入れてない筈だが?」
「富井様と」
「知らんな」
「早く出て来いトロスケ、あの時助けてやった恩を忘れたか! などと仰ってます」
「待て、私に対してそんな呼び名。その上で富井だと? あの方は60年前に現役を引退して病床に伏しているはずだ」
「その方は?」
「君くらいの歳なら知らないだろうが、当時赤鬼、青鬼と呼ばれた英雄を知ってるか? 歴史の教科書には載るくらいの偉業を残している。そのうちの片方がMr.トミイ。当時ダンジョン災害被災者だった私の命の恩人でもある」
「60年前の英雄!? ですがご存命なら……」
「92歳のご老人だ。回復したという話も聞いてない。だから詐欺の可能性もある。しかしここまで何も引っかからずに私に直通のコールを入れるとなると……」
偽物と断じるのも無理が出てくる、か。
「取り次いでくれ」
「ですが偽物だった場合は?」
「私自らが判断し、重い処罰を下す。君は下がってなさい」
秘書を下がらせ、ジョージは執務室で相手を見定めた。
電話口ではイライラしたような声色。
相手を待たせる立場の大統領に対してこの癇癪持ち。
相当に気性の荒い詐欺犯だと疑ってかかる。
「遅い! 電話くらいとっとと受け取れってんだトロスケめ!」
「申し訳ないが、客人でもない相手をもてなす余裕は今のアメリカにはないんだ。偽物さん」
「ワシが、偽物だとぉ?」
「本物なら今頃ベッドに縛り付けられてる。英雄の名を騙るのならもっと上手くやることだね」
世代も似たような年齢。それなりにリサーチはしているのだろうが詰めが甘い。
しかし私とあの方のエピソードを後世に伝えた覚えはない。
親族か? はたまたそれを聞いた第三者か。
ジョージは真偽を見定めるべく声と態度を分析していく。
「埒があかねぇな。ハッちゃん代ってくれや」
ハッちゃん。まさか八尾の翁か?
ではさっきまでのご老体も……だとしたら私は飛んだ失礼な真似をしたことになる。
「久しぶりだね、ジョージ。いや、今は合衆国の大統領か。あの時の坊やが随分と出世したじゃないか」
「Mr.ヤオ。貴方とこうしてトークできる事を誇りに思います」
「その言葉はシゲちゃんにも向けて欲しかったね」
「すると先ほどの方は」
「正真正銘、富井茂雄その人さ」
「ご病気されてると聞いていました。その、意識不明の重病人であるとも」
「そうだね、今回はそのことも含めてお話ししようと思ってた。けど結果は散々さ。君相手ならワシの方が話が通じるの一点張りだったのにこのザマだからね」
「てっきり英雄の名を騙る不届モノだと疑ってかかってました」
「あの会話を聞けば誰だってそう疑うさ。それで先に本題に入るけど、良いかな?」
八尾哉三。当時は冷静沈着な青鬼として名を馳せていた。
猪突猛進の赤鬼こと富井茂雄と共に我々合衆国のダンジョン災害の復旧にも手を貸してくれたJAPANのサムライ。
サムライなのにどうして鬼と呼ばれてるか?
その一つに徒手空拳の方が強いと言われるほどの身体強化の使い手だったからだ。
巨大なモンスターの心臓を引っこ抜き、握りつぶす荒々しさから。
血に塗れてなお笑う快楽主義者から赤鬼、冷静に状況を見据えて分析、解析するもの同様に脳筋なことから青鬼と呼ばれ本土の探索者からも恐れられた。
そんな二人が新たに弟子を取ったという。
今日のコールの本題は、その男をSに推すための嘆願書のようなモノだった。
かつての英雄が推す、弟子。
そしてそれ以上の手土産を持っての参加。
寝たきりのご老体ですら飛び起きるほどのモンスター料理の名手。
それが我々アメリカにも手を貸してくれる機会、みすみす逃す手はない。
そして新たなる起業表明。
探索者としての復帰の他、美食文化に合わせてモンスター食材の加工品をメインに取り扱う会社の設立。
これは世界が荒れるぞ。その波に乗り遅れる前に一報をくれたのか、と判断した。
「プレジデント、先日SSSSランクのMs.トドロキからの推薦状。確か名は……」
「Mr.ポンホウチ。こんな偶然があるのか?」
「強者は惹かれ合う、のでしょうか?」
「分からん。だが一介の料理人が出会ったところで推薦、または紹介しても惜しくない何かがあるのは間違いない」
「認可されるのですか?」
「するさ。その為に今、私はこの席に座っている。恩人からの願いもある。無碍には出来んさ」
「分かりました」
秘書を下がらせ、ジョージは政務に取り組んでいく。
先ほどまで、問題点の多さに頭を抱えていたが、先ほど打ち上がった話題に、今はワクワクが抑えられない。
世の中を変える。その一心で大統領にまで上り詰めたジョージは、新しい時代の到来を見据えて目を細めた。
────────────────────────────
そして移動屋台の認可が降りた知らせを、申請を任せていたマイクから聞かされた美玲は。
「ミレイ、例の契約、許可降りたぜ?」
「ありがとう、マイク。これでいつでも洋一さんを呼べるわね」
「しっかし特令は曲がらなかったぜ。奴さん、Sにまで上がれるのかね? 腕が確かなのは認めるが、確か前に会ったときのライセンスはDだったろ?」
無理じゃないか?
腕があっても、気持ちだけでランクは上がらない。
マイクはそのことを懸念しているようだが……
「多少時間はかかるでしょうけど、洋一さんなら短時間でのし上がってくると思うわ」
「ヘイヘイ、それは愛ってやつか?」
「揶揄わないで」
気分次第でそんな辞令を通しても、相手は付いてこれないぞ?
物事を自分基準で考えるな、と暗に釘を刺される。
けど、あたしは信じてる。
そこでメッセージが入る。それは無事Aにまで上がったよ、もう少し待っててくれ、と言うものであった。誘ってからたった数ヶ月でDからAに上がったのだ。
本来それくらいのスペックがあったとしても、無理なことだ。
自分が通ってきた道だからこそわかる。
実力があっても、信用は得られない。
既に信用が築かれてる状態で実力を見せたら?
「あたしたちの心配は杞憂よ。ほら、洋一さん達、Aに上がったみたい」
「ホワッツ? 本当か!」
マイクが驚くのも無理はない。
何せその駆け上がる速度があまりにも異常。
普通、ランクを駆け上がるのは何においてもまずステータスが重要。その上で他者とのコミュニケーションが必要不可欠。
その上で探索者としての実力。世界に発信する宣伝力。
そのどれもが欠けてはダメで、そしてさらに上を目指す探究心。それが最も尊重される。
あたしはなった。成れた。
だから洋一さんもなれる……断言は出来ないけど、そのポテンシャルを持ってると信じていた。
「なになにー? 二人してはしゃいじゃって」
「それがよー」
マイクがリンダに状況説明。
「ワォ」
それだけでどれだけ自分たちの要望が無理・無茶・無謀であるかを把握した上での驚嘆。
全てあたしの一人相撲だとチームの二人ですら思っていた。
それが通ったのだ。
「良かったわね、ミレイ。愛しのダーリンとの距離がまた一歩近づいたわね」
「だから、洋一さんとはそういう関係じゃないんだって」
「でもでも、近くにあんなに可愛いライバルが登場してちゃ心中お察しよ?」
「もぅ、リンダったら!」
この恋愛脳は何かにつけて独り身のあたしを誰かとくっつけようとする。
けど、あたし一人じゃオシャレに疎いのもあり、リンダの気遣いは嬉しかった。
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