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91話 裏方の仕事(side菊池大輝)
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「お前は居残りだ、大輝」
親父にそう通達されて、俺は憤りを感じた。
どうして、なんで? 確かに落下中、俺だって危険だ。
でもそこはヨッちゃんがなんとかしてくれる。
それくらいの絆は紡いできたと感じてた。
二人を見送ったあと、自分は店の手伝いをさせられた。
皿洗いがあるのだそうだ。
親父は「ガソリンを入れてくる」と俺のワゴン車に乗って出掛けてしまった。
店はまだ営業中。
なんだったら、営業を始めたばかりの掻き入れ時だ。
そんな時に俺に一時的に店を明け渡すなんてどうかしてるぜ、と一人憤慨する。
「お、大輝帰ってきてたのか。配信見てたぜ」
「タッちゃんいらっしゃい」
地元の同級生が飲みにきた。
お通しは冷蔵庫に入ってるので、それと何かつまめるものを探す。
こういう時、お袋がカバーに入ってくれるものだが、時間的に夕食の支度時だろうか?
姿を見かけなかった。
「悪い、今親父席外しててさ。注文受け取れねーんだわ」
「ダイちゃんのでいいよ。なんか今日はダイちゃんの作った飯を久しぶりに食べてみてーって思ってさ」
「なんだよそれ、後で金返せって言われても受け付けねーぞ?」
冗談半分で軽口を叩きながら、親父の仕事を思い返した。
「確か、こうだったはず」
親父の包丁は見れば見るほど惚れ惚れする研ぎ具合。
毎日毎日研いでなきゃ、こうはならない。
厨房も清潔で、嫌な臭いひとつしない。これも清掃が行き届いてるからだ。
そう考えたら、ポンちゃんの屋台はごちゃっとしてるのに、全ての調理器具がピカピカだった。
それはきっと乱暴に扱わずに、大切に扱っているからだ。
それに比べて俺ときたらどうだろう?
自分の包丁は下手な研ぎでボロボロ。
切れれば良いくらいの考えで居たもんだから、あまりそこまで気にかけなかった。
古くなったら買い替えればいい、の精神だ。
自分よりすごい人、目標にしている人が、包丁を大事に大事に使っているというのに、それを見習わなくてどうする?
俺は両頬をピシャリと叩き、戦場にいた高揚感を消し飛ばした。
ある意味で、ここもまた戦場だ。
命のやり取りこそないが、店と客での戦いが始まっている。
だからいつもだったら『適当』で良いという甘えを消して作業する。
「はいよ、お待ち」
「悪いね、無理言って。うん、うまい! 腕上げた?」
「わかんねぇ。俺としては何も変えてないんだけどさ」
「じゃあ、気持ちの変化があったとか?」
「それは少し変わった気がするな」
「やっぱり、きょうの料理は真心が入ってる気がするぜ。何につけても妙な飾り包丁がねぇ!」
そういえば、今日は自分の得意分野を活かすことを忘れてた。
愚直なまでに料理に向き合い、地味な逸品を作り上げて満足しちまった。
俺らしくねぇ、と思いつつ、これ以上無駄に食材を切りつけるのは食材に対して礼儀がねぇとも思ったのだ。
「おま、人を飾り包丁狂いみたいにいうんじゃねーよ」
「実際そうだったろ?」
「ちげーねぇ」
全くもってその通りだ。
俺は親父の二番手でいい。
そんな気持ちが料理の腕を磨くことを諦めさせていた。
けどさ、それとは別に、親父に特別扱いされてる同年代のポンちゃんを見て「ああ、こいつにだけは負けたくねぇ」という感情が上がってきた。
無論、現時点で相当な差が開いてるのは覚悟も承知。
戦闘をやらせても卒がねぇ。
だけど極度の世間知らずで、本当に料理のこと以外知らずに生きてきて、気がつく。
俺はそこまで料理一本で生きてこれたか? と。
これから店を引き継ごうとしてる俺がだ、料理一本で生きていく道に入ろうとしてるのに、なんの覚悟もないまま引き継いでいいのか?
その愚直さを、俺はポンちゃんを見て感じ取った。
そこには当然食材との対話もあった。
目利きの腕は俺には全くないが、肌で感じるものがある。
この野菜は今日は茹でて欲しそう、とか。
炒めて欲しそうとか。
そういうのを手に取るたびに気分がわかる。
その感情に従って、俺は今日の一品を仕上げた。
豚肉とキャベツの味噌炒め俺スペシャルだ。
なんとなく、タッちゃんがくたびれてるように思えた。
会社帰りで、嫌な上司と一戦交えた、みたいな気配があった。
だからここは少しピリ辛でたくさん食べれるメニューにした。
うちはご飯も気合を入れて作る方針なため、米とぎも親父直伝で炊いている。
その米は炊き慣れてるのもあり、それに合うような味付けに変えている。
「うまい白飯が食えるのは長岡じゃここだけだもんな」
「そんなことないだろ? 新潟は米どころだぞ?」
「作る方は得意でも、それを実際に食えるのは農家とその知り合いくらいだ。うまいやつは全部輸出されて、庶民の俺らが食うのは輸入された米か、冷凍食品だけだよ」
「世知辛いなぁ」
「だからこの店は俺たちの憩いの場所なんだ」
「そう言ってもらえたら親父も喜ぶよ」
「お前も喜ばなくてどうする、二代目?」
親父の声が入り口からかかる。
今まさに暖簾をくぐり抜けようとしているところだった。
居ないはずの人間が急に現れたらびっくりするじゃんか!
「親父! 帰ってたのかよ」
「ちょいとご近所さんで話し込んじまってなぁ。洋一の配信がトレンドに入ってるんだって? 大輝が大立ち回りしてるのがニュースで取り上げられてるらしいんだ。ありゃ誰かがテレビ局にうちの店のことをチクったな。記者が周辺をうろうろしてたぜ」
「おま、有名人じゃん!」
タッちゃんに肩を叩かれる。
今日の今日で、もうトレンド入り?
いや、実際あの二人はすごいやつだけどさ。
俺はただ運転してただけで……
「すいません〇〇新聞です。ここに現在北海道で活躍してる探索車の身内がいると聞いて、お話を聞かせもらいたく……」
店でタッちゃんとお話ししてた時、そんな言葉と共に扉が開く。
存在を隠すように俺の前に親父が乗り出した。
「ほら、お前は隠れてろ。すいません、ウチはテレビとかマスコミとか、そういうの対応してないんですよ。それにそういうのは前もって連絡するのが筋じゃないですか?」
「あ、いや……連絡はさっきして」
「あいにくと先ほどは留守にしてましてね、取材か客かと問われたら客を取るのが店ってもんです。もし何か注文してくれたんなら、俺も口が軽くなるかもしれませんね」
「分かりました。じゃあ3名で」
「おら、ボサっと突っ立ってないでお通し用意しろ! すいませんね、気の利かないやつで。さぁさ、座席はこっちです」
名前は呼ばず、従業員として厨房に戻れと用向きを伝える親父。
引き付けてる間に行けということだろう。
裏口からそのままガレージに入ると、ワゴンには満タンのガソリンと替えのタイヤ、それに書き置きが添えられていた。
『洋一達は疲労が限界にきてる。見た目は平気そうだが、ありゃ痩せ我慢だ。低ステータスの奴らは自分の限界が他人より低いことを何よりも隠したがるからな。ステータスが上昇してもその癖が抜けないんだろう。また無理しようとしてたら、お前が止めてやれ。あいつらは酒を断つのが一番堪えるみたいだな。それと、洋一に満足に料理がさせてもらえない鬱憤めいたものを感じる。周囲の期待を背負いすぎたんだろうな。あいつ自身、料理は好きだが自分が好きなように作る料理が好きで、相手の期待に応える料理は実験できなくて苦手みたいだ。ありゃ店をやるのに向かんぜ。せいぜいが料理研究家止まりじゃないか? 前述したが、あいつは周囲の期待に背けない。そういう性格なんだ。お前が察してやれ。弟子っていうのは無理しようとしてる親方にダメ出しをするもんだぜ?』
まるで俺たちの様子をすぐ横で見ていたかのような所感がびっしり書き添えられていた。
その書き置きの下には見慣れない白い液体。これは塩辛か?
それとビールがケースで乗せられている。
近所の人と話し込んでたってのは嘘だな。
これを買い付けに行ってたろ。
別に俺に嘘なんてつかなくたっていいのに。
いや、あれは外の記者に対してのアピールか。
でも二代目と言ってたし、自分からバラしに行ったようなものでは?
タイミングよく記者が入ってきたことから、全て親父の計算か。
相変わらず恐ろしい観察眼だ。
俺は一度ガレージからポンちゃんの屋台へとワープした。
親父の答え合わせと、ビールを持って、のんびり夜食を食ってる二人に頼んでない注文を持って行った。
親父の念の入れ具合はすごいなと気づいたのは、一本だけノンアルコールビールが仕込まれたからだ。
わざわざご丁寧に『大輝用』とまで殴り書きされている。
お前は運転手だから飲むな、と言われてる気がした。
言われなくたって飲まんわ!
内心憤慨するが、この手心の尽くしっぷりは俺には真似できないおもてなしだ。
こういうところを真似するべきなんだろうなぁ、俺は。
料理の腕はこれから追いつけばいい。
弟子としての第一歩は、親方に対して礼儀を尽くすこと。
ヨッちゃん用の焼き鳥作りは俺が代わり、ポンちゃんを自由にさせた。
すると出るわ、出るわ、新作が。
親父の読みは大当たりだったってわけだな。
俺たちは飲んで食って騒いだ。
これが本当にノンアルコールなのかというほど気分が高揚してるのを覚えている。
俺はきっと気分に酔っていたのだろうな。
寝こける二人をワゴンの後部座席に乗せて、後片付けをしてからゆっくりと豊浦に向けて車を出した。
道中は快適だった。
自然災害以上の脅威を取り除いたというのもあるが、地元の人達の災害慣れを見くびっていたんだ。
夜の帷が降りているというのに、街路灯が爛々と輝き、凍りついてる家の中から灯りが漏れた。
探索者か、はたまたその身内か。
37号線では大勢の人たちが『ウェルカム豊浦、美食倶楽部』と書かれたプラカードを掲げていた。
あれが例の探索者達か。
俺はなんの接点もないからポンちゃん達をゆすって起こそうとするが、なかなか起きそうもないくらいにぐっすり眠っている。
親父の読み通り、限界を超えていたのだろう。
ポンちゃんからの反応は全くと言って良いほどにない。
「ありゃぁ、ぐっすり眠ってますねこれは」
「無理もないですねー、激闘に次ぐ激闘。二連戦であそこまでの魔力行使。普通ならとっくに限界が来てます。私らなら三人がかりで一回できるかどうかですよ。あれを一人ではすごい」
「悪いな、食糧つきそうな時に。さっき作った鍋ならあるけど食ってくか?」
「お、悪いね」
「本人達は起こさないでいいのか?」
会いにきたのは俺にではなく、ポンちゃん達にだろう?
そんな言葉が喉まで出かけた。
「途中で起こす方がそれこそ悪いでしょ。非常時だっていうのはわかってるけど、大本命に本番で力出させない方が大目玉ですよ。部下ってのは上司に本気出させるために尽くすもんですよ? それが俺たちの仕事なんで」
ここでも裏方は自分の仕事を尽くすと言われ、どの仕事でもやることは変わらないのだなと知った。
俺の料理でも、空腹時の飯はうまいと絶賛してくれた。
期待のホープだなんだと持て囃されて、ああ……これは確かに期待を裏切れないで無理しちまうな、とポンちゃん達の置かれてる境遇をなんとなく理解した。
そのあと手持ちの食材で簡単な料理を披露する。
ポンちゃんのペットのオリンは、彼らに屋台との簡易ワープポータルを開拓し「キュ」と鳴いて飛び跳ねた。
ポンちゃんがいなくても話を理解してくれて助かる。
俺は豊浦のみんなと別れて、一度洞爺湖方面に戻ってから札幌に向けて出発した。
一晩泊まっていくことも考えたが、この中で一番体力が有り余ってるのは俺だ。
泣き言は言ってられない。
車のダッシュボードには滋養強壮剤が数本仕込まれており、無理をする準備は万全だった。
また親父の仕込みか。
どこまで先が読めてるんだろうな、あの人。
親父にそう通達されて、俺は憤りを感じた。
どうして、なんで? 確かに落下中、俺だって危険だ。
でもそこはヨッちゃんがなんとかしてくれる。
それくらいの絆は紡いできたと感じてた。
二人を見送ったあと、自分は店の手伝いをさせられた。
皿洗いがあるのだそうだ。
親父は「ガソリンを入れてくる」と俺のワゴン車に乗って出掛けてしまった。
店はまだ営業中。
なんだったら、営業を始めたばかりの掻き入れ時だ。
そんな時に俺に一時的に店を明け渡すなんてどうかしてるぜ、と一人憤慨する。
「お、大輝帰ってきてたのか。配信見てたぜ」
「タッちゃんいらっしゃい」
地元の同級生が飲みにきた。
お通しは冷蔵庫に入ってるので、それと何かつまめるものを探す。
こういう時、お袋がカバーに入ってくれるものだが、時間的に夕食の支度時だろうか?
姿を見かけなかった。
「悪い、今親父席外しててさ。注文受け取れねーんだわ」
「ダイちゃんのでいいよ。なんか今日はダイちゃんの作った飯を久しぶりに食べてみてーって思ってさ」
「なんだよそれ、後で金返せって言われても受け付けねーぞ?」
冗談半分で軽口を叩きながら、親父の仕事を思い返した。
「確か、こうだったはず」
親父の包丁は見れば見るほど惚れ惚れする研ぎ具合。
毎日毎日研いでなきゃ、こうはならない。
厨房も清潔で、嫌な臭いひとつしない。これも清掃が行き届いてるからだ。
そう考えたら、ポンちゃんの屋台はごちゃっとしてるのに、全ての調理器具がピカピカだった。
それはきっと乱暴に扱わずに、大切に扱っているからだ。
それに比べて俺ときたらどうだろう?
自分の包丁は下手な研ぎでボロボロ。
切れれば良いくらいの考えで居たもんだから、あまりそこまで気にかけなかった。
古くなったら買い替えればいい、の精神だ。
自分よりすごい人、目標にしている人が、包丁を大事に大事に使っているというのに、それを見習わなくてどうする?
俺は両頬をピシャリと叩き、戦場にいた高揚感を消し飛ばした。
ある意味で、ここもまた戦場だ。
命のやり取りこそないが、店と客での戦いが始まっている。
だからいつもだったら『適当』で良いという甘えを消して作業する。
「はいよ、お待ち」
「悪いね、無理言って。うん、うまい! 腕上げた?」
「わかんねぇ。俺としては何も変えてないんだけどさ」
「じゃあ、気持ちの変化があったとか?」
「それは少し変わった気がするな」
「やっぱり、きょうの料理は真心が入ってる気がするぜ。何につけても妙な飾り包丁がねぇ!」
そういえば、今日は自分の得意分野を活かすことを忘れてた。
愚直なまでに料理に向き合い、地味な逸品を作り上げて満足しちまった。
俺らしくねぇ、と思いつつ、これ以上無駄に食材を切りつけるのは食材に対して礼儀がねぇとも思ったのだ。
「おま、人を飾り包丁狂いみたいにいうんじゃねーよ」
「実際そうだったろ?」
「ちげーねぇ」
全くもってその通りだ。
俺は親父の二番手でいい。
そんな気持ちが料理の腕を磨くことを諦めさせていた。
けどさ、それとは別に、親父に特別扱いされてる同年代のポンちゃんを見て「ああ、こいつにだけは負けたくねぇ」という感情が上がってきた。
無論、現時点で相当な差が開いてるのは覚悟も承知。
戦闘をやらせても卒がねぇ。
だけど極度の世間知らずで、本当に料理のこと以外知らずに生きてきて、気がつく。
俺はそこまで料理一本で生きてこれたか? と。
これから店を引き継ごうとしてる俺がだ、料理一本で生きていく道に入ろうとしてるのに、なんの覚悟もないまま引き継いでいいのか?
その愚直さを、俺はポンちゃんを見て感じ取った。
そこには当然食材との対話もあった。
目利きの腕は俺には全くないが、肌で感じるものがある。
この野菜は今日は茹でて欲しそう、とか。
炒めて欲しそうとか。
そういうのを手に取るたびに気分がわかる。
その感情に従って、俺は今日の一品を仕上げた。
豚肉とキャベツの味噌炒め俺スペシャルだ。
なんとなく、タッちゃんがくたびれてるように思えた。
会社帰りで、嫌な上司と一戦交えた、みたいな気配があった。
だからここは少しピリ辛でたくさん食べれるメニューにした。
うちはご飯も気合を入れて作る方針なため、米とぎも親父直伝で炊いている。
その米は炊き慣れてるのもあり、それに合うような味付けに変えている。
「うまい白飯が食えるのは長岡じゃここだけだもんな」
「そんなことないだろ? 新潟は米どころだぞ?」
「作る方は得意でも、それを実際に食えるのは農家とその知り合いくらいだ。うまいやつは全部輸出されて、庶民の俺らが食うのは輸入された米か、冷凍食品だけだよ」
「世知辛いなぁ」
「だからこの店は俺たちの憩いの場所なんだ」
「そう言ってもらえたら親父も喜ぶよ」
「お前も喜ばなくてどうする、二代目?」
親父の声が入り口からかかる。
今まさに暖簾をくぐり抜けようとしているところだった。
居ないはずの人間が急に現れたらびっくりするじゃんか!
「親父! 帰ってたのかよ」
「ちょいとご近所さんで話し込んじまってなぁ。洋一の配信がトレンドに入ってるんだって? 大輝が大立ち回りしてるのがニュースで取り上げられてるらしいんだ。ありゃ誰かがテレビ局にうちの店のことをチクったな。記者が周辺をうろうろしてたぜ」
「おま、有名人じゃん!」
タッちゃんに肩を叩かれる。
今日の今日で、もうトレンド入り?
いや、実際あの二人はすごいやつだけどさ。
俺はただ運転してただけで……
「すいません〇〇新聞です。ここに現在北海道で活躍してる探索車の身内がいると聞いて、お話を聞かせもらいたく……」
店でタッちゃんとお話ししてた時、そんな言葉と共に扉が開く。
存在を隠すように俺の前に親父が乗り出した。
「ほら、お前は隠れてろ。すいません、ウチはテレビとかマスコミとか、そういうの対応してないんですよ。それにそういうのは前もって連絡するのが筋じゃないですか?」
「あ、いや……連絡はさっきして」
「あいにくと先ほどは留守にしてましてね、取材か客かと問われたら客を取るのが店ってもんです。もし何か注文してくれたんなら、俺も口が軽くなるかもしれませんね」
「分かりました。じゃあ3名で」
「おら、ボサっと突っ立ってないでお通し用意しろ! すいませんね、気の利かないやつで。さぁさ、座席はこっちです」
名前は呼ばず、従業員として厨房に戻れと用向きを伝える親父。
引き付けてる間に行けということだろう。
裏口からそのままガレージに入ると、ワゴンには満タンのガソリンと替えのタイヤ、それに書き置きが添えられていた。
『洋一達は疲労が限界にきてる。見た目は平気そうだが、ありゃ痩せ我慢だ。低ステータスの奴らは自分の限界が他人より低いことを何よりも隠したがるからな。ステータスが上昇してもその癖が抜けないんだろう。また無理しようとしてたら、お前が止めてやれ。あいつらは酒を断つのが一番堪えるみたいだな。それと、洋一に満足に料理がさせてもらえない鬱憤めいたものを感じる。周囲の期待を背負いすぎたんだろうな。あいつ自身、料理は好きだが自分が好きなように作る料理が好きで、相手の期待に応える料理は実験できなくて苦手みたいだ。ありゃ店をやるのに向かんぜ。せいぜいが料理研究家止まりじゃないか? 前述したが、あいつは周囲の期待に背けない。そういう性格なんだ。お前が察してやれ。弟子っていうのは無理しようとしてる親方にダメ出しをするもんだぜ?』
まるで俺たちの様子をすぐ横で見ていたかのような所感がびっしり書き添えられていた。
その書き置きの下には見慣れない白い液体。これは塩辛か?
それとビールがケースで乗せられている。
近所の人と話し込んでたってのは嘘だな。
これを買い付けに行ってたろ。
別に俺に嘘なんてつかなくたっていいのに。
いや、あれは外の記者に対してのアピールか。
でも二代目と言ってたし、自分からバラしに行ったようなものでは?
タイミングよく記者が入ってきたことから、全て親父の計算か。
相変わらず恐ろしい観察眼だ。
俺は一度ガレージからポンちゃんの屋台へとワープした。
親父の答え合わせと、ビールを持って、のんびり夜食を食ってる二人に頼んでない注文を持って行った。
親父の念の入れ具合はすごいなと気づいたのは、一本だけノンアルコールビールが仕込まれたからだ。
わざわざご丁寧に『大輝用』とまで殴り書きされている。
お前は運転手だから飲むな、と言われてる気がした。
言われなくたって飲まんわ!
内心憤慨するが、この手心の尽くしっぷりは俺には真似できないおもてなしだ。
こういうところを真似するべきなんだろうなぁ、俺は。
料理の腕はこれから追いつけばいい。
弟子としての第一歩は、親方に対して礼儀を尽くすこと。
ヨッちゃん用の焼き鳥作りは俺が代わり、ポンちゃんを自由にさせた。
すると出るわ、出るわ、新作が。
親父の読みは大当たりだったってわけだな。
俺たちは飲んで食って騒いだ。
これが本当にノンアルコールなのかというほど気分が高揚してるのを覚えている。
俺はきっと気分に酔っていたのだろうな。
寝こける二人をワゴンの後部座席に乗せて、後片付けをしてからゆっくりと豊浦に向けて車を出した。
道中は快適だった。
自然災害以上の脅威を取り除いたというのもあるが、地元の人達の災害慣れを見くびっていたんだ。
夜の帷が降りているというのに、街路灯が爛々と輝き、凍りついてる家の中から灯りが漏れた。
探索者か、はたまたその身内か。
37号線では大勢の人たちが『ウェルカム豊浦、美食倶楽部』と書かれたプラカードを掲げていた。
あれが例の探索者達か。
俺はなんの接点もないからポンちゃん達をゆすって起こそうとするが、なかなか起きそうもないくらいにぐっすり眠っている。
親父の読み通り、限界を超えていたのだろう。
ポンちゃんからの反応は全くと言って良いほどにない。
「ありゃぁ、ぐっすり眠ってますねこれは」
「無理もないですねー、激闘に次ぐ激闘。二連戦であそこまでの魔力行使。普通ならとっくに限界が来てます。私らなら三人がかりで一回できるかどうかですよ。あれを一人ではすごい」
「悪いな、食糧つきそうな時に。さっき作った鍋ならあるけど食ってくか?」
「お、悪いね」
「本人達は起こさないでいいのか?」
会いにきたのは俺にではなく、ポンちゃん達にだろう?
そんな言葉が喉まで出かけた。
「途中で起こす方がそれこそ悪いでしょ。非常時だっていうのはわかってるけど、大本命に本番で力出させない方が大目玉ですよ。部下ってのは上司に本気出させるために尽くすもんですよ? それが俺たちの仕事なんで」
ここでも裏方は自分の仕事を尽くすと言われ、どの仕事でもやることは変わらないのだなと知った。
俺の料理でも、空腹時の飯はうまいと絶賛してくれた。
期待のホープだなんだと持て囃されて、ああ……これは確かに期待を裏切れないで無理しちまうな、とポンちゃん達の置かれてる境遇をなんとなく理解した。
そのあと手持ちの食材で簡単な料理を披露する。
ポンちゃんのペットのオリンは、彼らに屋台との簡易ワープポータルを開拓し「キュ」と鳴いて飛び跳ねた。
ポンちゃんがいなくても話を理解してくれて助かる。
俺は豊浦のみんなと別れて、一度洞爺湖方面に戻ってから札幌に向けて出発した。
一晩泊まっていくことも考えたが、この中で一番体力が有り余ってるのは俺だ。
泣き言は言ってられない。
車のダッシュボードには滋養強壮剤が数本仕込まれており、無理をする準備は万全だった。
また親父の仕込みか。
どこまで先が読めてるんだろうな、あの人。
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