ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

文字の大きさ
162 / 173

162話 新米邪神継承者 1

しおりを挟む
「それじゃ、今日からよろしくね」

「はい、と言っても私もなにをするか聞かされてないので、都度相談してもらっていいですか?」

「相談といっても、俺たちもダンジョンのことは詳しく知らないよ? 唯一知ってることといえば、ダンジョンの統括者が日本政府の金剛満ってことくらいだね。そしてダンジョンブレイクは物理的にできなくなってることと、転送陣に仕掛けがされてること。あとはそうだね、各ダンジョンに探索者が常駐してることくらいか。これはデリバリーとしての側面を持つルゥちゃんも知ってることだと思うし」

「え、ダンジョン封鎖ってそういう感じのものだったんですか?」

 あ、これ知らなかったやつだ。
 まぁ、俺もあんまり詳しくないんだけどさ。

「多分だけど、君のような存在を事前に知っていて、そのカウンターとして引き起こした可能性があるよね。俺も直接聞いたわけじゃないので、定かじゃないけど」

『迂闊、どこで知られていたと言うのでしょう。マスター、これは一筋縄ではいきませんよ!』

「瑠璃は心配性だなぁ」

 そりゃ、計画が根元っから瓦解すれば焦る気持ちもわかるよ。
 ルゥちゃんの場合はあれだ、俺と同様に瑠璃から肝心なことを聞かされてなかったパターンだな。

「そうそう、それと。クララちゃんとユウジ君は俺たちの協力者だから」

「つまり、ダンジョン関係?」

「ルゥちゃんと一緒だよ」

 この場合、協力関係にあると言う意味だけど。
 変な勘違いしちゃうかな?

 もし彼女が俺との協力関係を裏切り、敵に回った場合も考えてここは勘違いさせておくのもアリだと思ってる。

 そしてあの人が今更の加工スキルの育成したのは、その存在の秘匿と共に魔法でも物理でもない攻撃手段を持つ存在に対してのカウンターだと強く思うことになった。

 もしかして過去に食べたいくつかの食材にその系統種が含まれてた可能性もあるな。

 加工スキル以外では捌けないモンスターたち。
 全部料理して食えたのは、幸運なことに俺が加工スキルを持っていたからかもしれない。

「私と同じ志を持つものがいるのですね!」

「うん、そんな感じ」

 全然違うけど、そう思わせておけば彼らに危険が及ばなくていいかな。


「そんなわけで、このダンジョンの新しい統治者にお越しいただきました」

「ルゥです。新米だけど、これからよろしくおねがします!」

 配信の挨拶で、彼女はもじもじしながらカメラにお辞儀をする。
 見た目からは恥ずかしがり屋の女子高生にしか見えない。
 これがダンジョンの管轄者か、と初見で判断できる人はいないだろう。

 配信中の砂嵐の反応は無し。
 ヨッちゃんがオッケーマークを出したのでそのまま続行する。
 あの時途中で配信が切れたのは、瑠璃が警戒モードだったのと、俺たちに対しての不信感があったから。

 今は曲がりなりにも協力者。
 これから全世界に顔出ししてもらうことは認知度を高めることだと説得し倒し、配信はその足がけだと宥めすかして今がある。

 彼女たちの最終目標は世界征服。
 ドリームランドで寝てる本体の復活はいいのかって聞いたけど、行き来する手段がないのでどうしようもないとのこと。

 ならば『かつての繁栄をもう一度我が手に!』と意気込む瑠璃を後押しすればいいんじゃないかって方向で話を進めたら、話はまとまった。
 
 とりあえず、ルゥちゃんを表に引っ張り出すのに2000万エネルギーの代価を支払う。
 ちなみにこれは永続じゃない。一度の配信に雇用するたびに支払うものだ。

 本来なら『献上して然るべき』と考えの瑠璃だが、そこはルゥちゃんに説得してもらってなんとか依頼制度を通してもらった。

<コメント>
:ごめん、なんて?
:そのダンジョン、ボスいたんだ
:それがそんな可愛い子?
:あれ、ダンジョンって人間が統治することできるの?

 できないよ、とは言わない。
 実際にうちの自称父親が支配してるし。
 色々制約がありそうだけど。

「実際にしてるんだからそうなんじゃない? 知らないけど」

<コメント>
:また無責任な
:そしてカメラの視線が切り替わり、現れる七輪
:網の上では小ぶりに加工したタコの足が熱されて縮んでいく様子が映る
:ねぇ、これって彼女の部下を炙ってるってこと?

「これは別のダンジョンのだね」

<コメント>
:ならヨシ!
:いいのか?
:当人が嫌がってないんだからこまけぇこたぁいーんだよ
:匂いが実装されてるから拷問なのよ
:カシュッ
:カシュッ
:カシュッ
:カシュッ
:もう開けたのか(困惑)
:まだ開けてないのか?
:流石に不謹慎だろ
:本人たちがもう飲んでるからなんだよなぁ
:この酔っ払いどもめ

「いやぁ、この子はお酒飲まないけど、実際に俺たちがどんなふうにモンスターを解体して料理するのか気になってるらしくてね」

「はい、それでいくつかサンプルを持ってきまして」

「|◉〻◉)ノ」
「|>〻<)ヾ」

<コメント>
:なんだろう、なに? これ
:見た目はサハギン
:でもなんかコミカルに動いてない、これ?
:無茶苦茶愛想いいな
:サハギンっていうかフィッシュマン
:マーマンやろな
:人の要素皆無で草
:せめてマーメイドとか出せよ

「はい、えーではこれからを捌いて食べていきたいと思います」

 包丁を取り出し、食材の腕をむんずと捕まえる。
 なんか信じられない! って顔を向けてくるが、君たちはそれが役目でしょ? もしかして知らされてなかったのかな?

「|◎〻◎)!」
「|◎〻◎)!」

<コメント>
:めっちゃ震えてるじゃん
:意志ある存在を食ってええんか?
:会話は通じないしなー
:敵意がなくてもなんか可哀想になってくる

「なんか可哀想って意見が出てるんだけど」

「えーと、ちょっと待ってくださいね。ゴニョゴニョゴニョ」

「|◉〻◉)!」
「|⌒〻⌒)ノ」

 ルゥちゃんが食材たちに何かを耳打ちすると、ようやく納得してくれたのか、一匹が覚悟を決めた顔になった。
 ようやくか。

 しかしこの様子だと、二匹とも調理していい感じじゃなくない?
 じゃあ、覚悟を決めた一匹だけ捕まえてまな板の上に寝てもらう。
 
 食材であるサハギンが寝心地悪そうに体を収めるポジションを決めかねている。
 これじゃまな板というより硬いベッド扱いだよ。
 これを今から調理するのかぁ、ちょっと変な感じだ。

「ヨッちゃん、麻酔」

「あいよー」

<コメント>
:人体実験かな?
:やはりダンジョンの支配者が人間だと、モンスターも人間臭いなぁ
:名前とかもつけてたりして

「あ、特にそういうことはないです」

「|◎〻◎)!」

<コメント>
:知らなかった、って顔してるぞ
:もっと愛されてると思ったって顔でもある
:ルゥちゃん頑張って
:統治者がんばえ~~

「いや、私にそんなこと期待されても。いえ、こうやって認識を改めることで統治者としての自覚が育まれるのですね。応援ありがとうございます。きっと私の手でこのダンジョンを掌握し、そのうち世界も私のものにできるよう、頑張ります!」

<コメント>
:ごめん、なんて?
:スケールのでかいこと言い出したぞ、この子
:このダンジョン掌握は世界征服の足がけってことか
:はえー、すごいんすね
:こんな調子で世界征服とか大丈夫?
:お前ら。もっと緊張感もて! 人類絶滅の危機やぞ!
:いや、それもそうなんだけど……これを見て危機感覚えるやついんの?

 普通ならもっと慌ててもいい情報の波。
 だけど目の前で繰り広げられてるのはもじもじ系女子高生の統治者と、感情表現豊かな手下のやり取り。
 こんなのに支配されるほど自分達は弱くはない、とどこかで決めつけてるようでもあった。

 ちなみに、このコミカルなサハギン。
 俺が見るにファンガスクラスの脅威度を誇る。
 腐っても旧支配者を名乗る存在の眷属だ。

 まず包丁を差し込んでも鱗に弾かれる。
 ヨッちゃんの魔法も通じず、なんだったら『|◉〻◉)まだですか? ボクさっきから待ってるんですけど』みたいな余裕の表情で俺を見返してくる始末。

 コミカルな分、こちらを煽ってくる素質も高い。
 くそう、ならこうだ!

 そこで容赦せずにエレメンタルボディに隠し包丁を入れる。
 するとビクンと大きく跳ねて、そしてようやく『|◎〻◎)グエー死んだンゴ!』と絶叫して生命活動の停止を確認した。

 っていうか、普通に念話で訴えてくるのをやめてほしい。
 ものすごくやりづらいんだよ、こっちは。

<コメント>
:あー、殺したぁ!
:しかしこの素材、直接炙るとなるとでかいなぁ
:ダンジョンは生きるか死ぬかなんですよ
:殺さなきゃ殺される場所やで
:こんなコミカルなモンスター、見たことないんですが
:統治者の趣味かな?
:じゃあ今までの統治者は人の心を持たなかったんか
:まず人じゃないし
:それもそうだ

 エレメンタルボディに隠し包丁を入れると、ようやく鱗が落とせるようになる。一枚一枚は薄く、そのまま揚げると煎餅のように仕上がるみたいだ。体格からなんとなくクロダイを思わせたが、味見したら普通に美味しかった。

「これ、彼の遺品」

「すごく美味しそうなんですが」

「おいしかったよ」

「あ、本当です!」

<コメント>
:これが統治者の初コメントでええのか
:実際うまそうなんよ
:これって鱗煎餅? タイの鱗でやるんだよな
:あ、聞いたことある
:カシュッ
:カシュッ
:酒はすすむやつー

「こいつ、オレの魔法弾くからポンちゃんいないとマジで討伐無理だぞ? さっきも活け〆しようと魔法使ったのに弾かれたし」

<コメント>
:まじ?
:あれ、意外と強いのか、こいつら

「あ、えっと。うちの軍団の中でも下っ端中の下っ端がこの子達です。いくらでも量産できるので、今日は生贄として提出しました」

<コメント>
:うーん、これは人類絶滅待ったなしですね
:ねぇ、地下アイドルに興味ない?
:そうだよ、ルゥちゃんかわいいし、配信者の方が絶対向いてるって
:そうそう、世界征服なんて後でもできるって
:若さを無駄遣いするなんて勿体無いよ
:急にお前ら掌返すじゃん
:そりゃ、魔法効かないってなったら話が別よ
:ポンちゃん見てる限り、これ物理も効かないやつだぞ
:普通に探索者の天敵なんだよなぁ

『|◉〻◉)せや!』

<コメント>
:そこ、思いついた! みたいな顔するんじゃない
:ポンちゃんなら殺せるんでしょ?
:そうじゃん、そこを拠点にしてるんならひとまず安心
:でも毎日はいないじゃん、あっちこっちに収録しに行ったり
:これは人類絶滅待ったなしですね

 とはいえ、俺がこのダンジョンから離れるだけで向こうのエネルギーのリソースが枯渇しちゃうんだけどね。

 みんなはダンジョン運営の仕組みとか詳しくないからモンスターが無尽蔵に湧くと思ってるけど、このクラスのモンスターを雑魚に置こうとする統治者が一体どれ程のエネルギー供給を見越しているかそれは俺でも定かではない。
 単純に、理想の軍団のコストが高すぎるんだよね。
 通常ダンジョンとは比べ物にならない難易度なのだろうけど、そのリソースをどこから持ってくるのかが命題だ。

 犠牲になったサハギンは、刺身にして酢醤油で頂いた。
 ルゥちゃんはともかく、一緒にやってきたサハギンまで相席して食べてたのは笑っちゃったけどね。

 同胞じゃないのって考えてたら『|◉〻◉)この世は弱肉強食ですからね』みたいな悟った顔で割りきってるようだ。
 色々あるのね。
 それでいいんなら、俺たちも遠慮なく包丁を振るえると言うものだ。
しおりを挟む
感想 485

あなたにおすすめの小説

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

処理中です...