淫愛家族

箕田 はる

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「さぁ、遠慮せずに飲みなさい」

 そう言って、涼しい顔で俊政はグラスに口をつける。それを横目に睦紀も、恐る恐るグラスに口をつけた。だが、想像していたより味が淡い。首を傾げそうになるのを堪え、何度もグラスに口をつける。それでも美味しさがわからず、どうコメントしていいか分からなかった。
 悩む睦紀を尻目に、俊政は笑い出す。驚いて見つめる睦紀に、俊政は愉快そうに目を細めた。

「睦紀はワインに、飲み慣れていないからね。美味しいと思わなくて当然だ。ワイン好きでも不味いという者もいるぐらいだからね」

 そう言って俊政は立ち上がると、今度は別のワインを取り出している。それを横目に睦紀は、価値のわからない高級ワインを飲み干す。

「こっちの方が睦紀には飲みやすいかもしれないね」

 少し酔いが回ってきた睦紀の手から空のグラスが離れ、今度は澄んだ白ワインが入ったグラスが渡される。
 これ以上は飲むのを控えたいところだが、隣に腰をかけた俊政はグラスを回し、香りを楽しんでいる。せっかく注いでくれたのを要らないと言うわけにもいかず、少しぎこちない所作で睦紀もグラスに口をつける。
 さっきよりも香りがフルーティだった。確かに優しい甘みに飲みやすいように思えた。

「どうだろうか? ご両親の墓前に供えて、一緒に飲むというのも悪くないんじゃないかな?」
「そうですね。両親もきっと、喜ぶと思います」

 成人式を迎える前に両親が他界してしまったこともあって、晩酌を出来なかったことを心残りにしているはずだった。
 死後何年立っていようとも、こうして思いやってくれる俊政の心遣いに胸が熱くなる。

「お心遣い……感謝します」

 酔いも手伝ってか、睦紀の目頭がほんのり熱くなる。

「大切な息子をもらったんだ。これぐらいのことはして当然だ」

 優しく背を擦られ、堪らず涙が頬を伝う。
 両親に親孝行できず、妻との関係も上手くいっているとは言い難い。職場もどこか居心地が悪く、多嶋以外に普通に接してくれる人はいなかった。様々な思いがこみ上げ、睦紀の肩が震えだす。

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