淫愛家族

箕田 はる

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「夫婦水入らずの時間を邪魔して悪かったね」

 ワイセラーを覗き込む俊政の背から視線を外し、睦紀は「大丈夫です」とだけ答える。内心は早く、涼華のところへ行きたかった。いつまでも問題を先延ばしにするのは気が重い。

「睦紀のお父さんもワインが好きで、よく私と飲み比べをしていたんだ。それでね、このワインなんだが……どちらが良いか迷っているんだ」

 ワインを二本持った俊政が振り返り、睦紀に問いかけてくる。

「僕はあまり詳しくないものですから……」

 確かに睦紀の父親はよく、ワインを口にしていた。誕生日には、その年の高級なワインを口にして饒舌に薀蓄を語っていたほどだ。だが、睦紀はアルコールに弱く、好きにはなれなかった。

「別に直感でいいんだ。試しに飲んでみなさい」

 そう言ってコルクを抜くと、ワイングラスに注いでいく。二つのグラスにそれぞれ、赤い液体が満たされる。

「睦紀はお酒が弱いんだったね。でも少しだったら、明日には響かないよ。それに最近は眠れないんだろう? ちょっとぐらいアルコールが入ったほうが、案外よく眠れるかもしれないよ」

 俊政から差し出され、断るわけにもいかずに睦紀は受け取る。

「綺麗な色味だろう?」

 隣に腰掛けた俊政がワイングラスを照明にかざし、少し傾ける。赤い液体が光に反射し、艷やかだった。

「香りを楽しもう。お父さんのを見ていただろう?」

 そう言って俊政はワイングラスを軽く回し、鼻を近づける。真似するように睦紀もグラスに顔を近づける。アルコールの匂いと葡萄の芳醇な香りが漂う。

「いい香りだろう? お父さんの生まれた年のロマネ・コンティだ」

 睦紀は唖然として三分の一ほど入ったワインを凝視した。ワインに疎い睦紀でも、これが何百万もすることを知っていた。高級ワインを前に、グラスを持つ手が震えてしまう。

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