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しおりを挟む「遅かったじゃないか。でも丁度いい、そこにあるワインを睦紀に飲ませてやってくれ」
こんな場面を見られても、俊政は一向に意に介する様子はない。それどころか、春馬の登場を待ちわびていたようだった。
呆気に取られていると、春馬がテーブルに乗ったワイングラスを手に取る。口をつけるなり、顔をしかめた。
「……父さん。こんなやり方はいかがなものかと」
「私だって、ここまでするつもりはなかった。でも、睦紀はまた私に嘘を吐いたんだ。素直にならないんだから、こうするしかないだろう」
「だからといって、薬を使うのは――」
春馬の一言に、睦紀はゾッとした。酔ったぐらいで、欲情するのはおかしいと思っていた。それに、やたらとワインを飲ませてきたのもこの為だったのかと、腑に落ちた。
「違法の物じゃないんだから、安心しなさい。最近、懇意にしている相手に製薬会社の人間がいてね。その人が試供品にとくれたんだ」
悪びれた様子もなく、俊政は言った。
「それに睦紀が正直に、話してくれたら私はここまでしないで解放したよ。後は春馬に任せてね」
「……父さん」
「そんなことより、睦紀が待っているんだ。早く、喉を潤してあげなさい」
呆気に取られていた睦紀に、二人の視線が向けられる。
「は、春馬さん……助けてください」
睦紀は慌てて訴える。一瞬、春馬が複雑な表情に変わる。だが、ワイングラスに口をつけ、そのまま睦紀の傍へと近づいた。彼もまた俊政には逆らえないのだとわかり、睦紀は愕然とした。
「睦紀。身体を起こしなさい」
そう言って、腕を引かれて上体を起こされる。俊政の胸に倒れ込むと、ベッドに乗り上げた春馬と向き合った。
春馬は無言のまま、睦紀の顎を掴むと唇を寄せてくる。やや上向きにされ、開かされた唇の間からゆっくりとぬるいワインが注がれる。
「ふっ――んっ………」
吐き出すわけにもいかず、睦紀はそれを嚥下した。飲みきれない赤い滴が、唇の端を伝う。零れ落ちる前に春馬がそれを舌で掬い、睦紀の舌に絡ませてくる。温度の上がったせいか、甘みのある味が口腔を満たす。加えて春馬の優しい舌使いに、いつの間にか翻弄されてしまう。
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