淫愛家族

箕田 はる

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「フロントの者です。夜分遅くにすみません」

 何のようだろうかと疑問を抱きつつ、睦紀はドアを開く。目の前には申し訳なさそうな表情をした、係と思しき男が立っていた。

「お休みのところ、申し訳ございません。篠山睦紀様ですよね?」
「……そうですけど」
「社長がお見えですので、一緒に来ていただけますでしょうか」
「社長……ですか? 僕に……」

 社長と聞いて睦紀は首を傾げる。ここのホテルの社長など、誰だか知らなかった。

「睦紀、ここに居たのか」

 聞き慣れた声がして、睦紀はそちらに顔を向ける。どこか焦ったようなホッとしたような表情の俊政が、廊下の奥からこちらに向かってくるのが見えた。
 突如として現れた俊政に、睦紀は言葉を失う。

「心配したんだよ。ほら、家に帰ろう」

 何故この場所が分かったのか。疑問が顔に出ていたのか、俊政が「車に乗ったら教えてあげるよ」と言った。

「だから早く帰る準備をしなさい。春馬も私も睦紀が心配で、会社から抜け出してきたんだよ」

 睦紀は愕然とした。仕事を差し置いてまで、自分を迎えに来るなんて理解できない。
 それに一日も立たないうちに、こうして捕まってしまっている。逃げることが出来ないのなら、直接自分の考えを告げて納得してもらうしかなさそうだった。
 服を着替えて俊政と共にホテルを出ると、道路の端に止まっている車に近づく。黒のスマートな高級車は春馬の物で、運転席には険しい顔をした春馬がいた。
 助手席ではなく後部座席のドアを開けた俊政は、先に睦紀が乗るように促してくる。睦紀が乗り込むと、隣に俊政が乗り込んだ。

「春馬、おまたせ。睦紀はちゃんといたよ」

 俊政が運転席に声をかけると、春馬は硬い表情を崩さずに頷いた。

「はい……じゃあ、出しますね」

 車が滑り出し、繁華街の道に繰り出す。

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