コスプレ令息 王子を養う

kozzy

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二人は海上を満喫する

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客室…と言っても、マッティオ氏の船は客船ではなく貿易船だ。

急拵えの部屋は全員一緒の大部屋で、一部エヴァちゃん用に簡易の壁で仕切ってある。

とは言え、このために倉庫を一室空けてくれたのだから申し訳なさの極みだ。

「でもキレイな部屋!」
「船員の方が言うにはマッティオ氏が直々に選ばれたとか。これらのラグや調度品」
「ルイージ君、イヴの恰好で話したの⁉ 」
「いいえ。リコから聞きました。エヴァちゃんが乗るからと張り切って整えられたそうですよ。ふふ」

そこはイヴァーノじゃないのか?という疑問はさておき、ここから下船まで、僕とルイルイはイヴになったりエヴァになったり…まるで推理小説のアリバイ工作みたいな荒業を駆使する予定だ。


「とりま甲板出てきます。リコ、ルイルイのことよろしくね」
「はい」

頼れる従者になったものよのう…

「フラヴィオは?」
「私は少し休むとするよ。疲れてしまってね」

前夜にあんな「当分触れられないのだよ?」とか言ってハッスルするからだって、という言葉はぐっと飲み込み、僕はエヴァのままデッキからの眺めを楽しんでいた。

「エヴァちゃん!椅子をどうぞ!」
「エヴァちゃん!ジュースです!」
「エヴァちゃん!傘でもさしましょうか!」

「みんなー?気持ちは嬉しいけど僕のことはおかまいなく☆」

アイドルの休日はそっとしとくのがマナーだよ?

「でも仕事に励む船乗りさんって男らしくてカッコいい!がんばって!」

途端にキビキビ働きだす船員たち。アイドルたるもの細やかなフォローは忘れない。

長閑な海上…幸い今は波もなく船酔いの心配は無さそうだ。
僕はデッキチェアーに横たわり、ペンと紙を手にしてここぞとばかりインスピレーションの海へと身を投じた。



「あ、イタタタ!」
「馬鹿だねイヴ、日除けもせず陽を浴び続けるからだよ」

うっかり寝ちゃって大失敗、僕の顔は真っ赤っかだ…

「でも大丈夫!僕の肌は真っ赤にはなっても真っ黒にはならないから」

貴族の日焼けは厳禁なんだよね…特に受け男と女性は。
こんなふうにして記念すべき僕の航海初日は日焼けと共に過ぎていった。



さて、あれから数日…

来る日も来る日も水平線しか見えない大海原に、フラヴィオ、ルイージ君はすでに飽き始めているようだ。
二人は事あるごとに「私たちはここにいるよ」と言って部屋で読書に励んでいる。

甲板から釣糸を垂らすロデじいのほうがよほど順応性が高い。
あ、でもフラヴィオにとっても初の船旅、なんだかんだ言ってもややテンション高いのは間違いないよ?昨日だって部屋に入ったらルイージ君と二人、僕の顔見てきょどってたし。きっと到着後のオプショナルツアーでもこっそり計画してたに違いない。

「あっ!ロデじい見た?大きな魚がいっぱい跳ねてる!」
「見ましたとも。では私が釣り上げてみせましょうぞ!エルモ、網の用意を」
「はい!」

いや無理だって…
でも船員さんが網を仕掛けていたからあれはきっと今夜の夕食だと予想している。
結局ロデじいは二匹の魚を釣り上げ満足そうに船員さんへ手渡していた。

そして夕食前…

「ちょっと失礼します」
「これは…イヴァーノ様!」

「今日の食材は…」
「先ほど獲れた魚にございます」
「鯛じゃん!」
「後ほど焼いてお持ちしましょう」

「ちょっと待った!」

屋敷では手に入らない獲れたて新鮮な魚、ときたら…刺身でしょうが!が、醤油がないのでここはカルパッチョで。

僕は手際よく獲物を捌くと、レモン、塩コショウ、オリーブオイル、そしてニンニクで味を整えた。そこにトマトとバジルを飾れば…

「なんと美味そうな!これがあの魚!」
「じゃ六人分持ってくから後は自由に召し上がれ」
「良いのですか!」
「どーぞどーぞ」

生ものは早く食べないと傷むからね。そして後一品…

「ほらロデじい。こっちはロデじいの…多分イワシ…で作ったなめろうモドキだよ」
「おお!私の釣り上げた魚ですな!フラヴィオ様!私が釣り上げたのですぞ!」
「すごいじゃないかロデオ。ワインのつまみに良さそうだ」

船上の海産物パーティー、それもまた醍醐味。こうやって僕はクルーズの旅を楽しんでいた。



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凪いだ海は驚くほど平和に私たちをアスタリアの地へと運んでいく。
私もルイージも、時に甲板へでて風を浴びるが、極力部屋で今後のアスタリアについて話し合いを重ねていた。

あちらへ付けばすべきことはいくらでもある。時間が惜しい。先ずは王都にある公爵家王都邸の確認をせねば。

「モンテシノーシスの屋敷にも私を狙う者たちは押し寄せたと聞きます」

屋敷に残った使用人がどれ程かはわからぬ。が…王族の持つ私兵たちが無作法な傭兵とは考えにくい。であれば一般使用人に無体は働くまい。だが調度品の数々はどうだろうか…。押し寄せた強襲兵により荒らされておらねばいいのだが。

「『黄金の剣』に助けられたという私の近衛たちとも連絡をとらねば…」
「皆お兄様の生存と帰還を喜びましょう」

マヌエル、ミケーレ、ようやく会えるのだな…

「王宮には入れるでしょうか…」
「『黄金の剣』彼らが居るうちはどうだろうか。アレクサ様がお見えにならねば難しいだろう…」

「アスタリアを立て直す財は残っているでしょうか…」
「二年にも及ぶ争いだ。多くの期待は出来まい。だがカステーラ、そしてサルディーニャを当てにしての計画ではあまりに杜撰だろう。頭の痛いことだ…」

「…イヴ様はなんと仰るでしょうか…」

ポツリと呟いたルイージの淋しそうな声。そう。イヴがサルディーニャへ戻ると言えばそれはルイージにとって別れを意味する…

「お兄様はどうなさるのです」
「私は…」

私は未だ己の去就を決めあぐねていた。情けないことだ…

「お兄様、どうか後悔の無い選択をなさってください。私の事はどうかお気になさらず」
「だが…」
「私にはお母様も勇敢なサルディーニャの姫も居ます。私と同じものをお兄様が背負う必要はありません」
「ルイージ…」

同じ王子であっても私とルイージの立場は似て非なるものだ。

「この内乱にお兄様が責任を感じる必要はありません。私はそう思います」



正妃ミランダ様から疎まれるほど王の寵愛を一身に受けた美しい側妃である私の母。
田舎の下位貴族に生まれた母は、純朴でお優しいが決して聡明とは言えぬお方だ。

未だアスタリアの田舎では満足な教育など受けられない。貴族の令嬢でありながら当時の母は読み書きすら得意ではなかったという。

幸い母と私は父の庇護下にあり、父が逝去なされるまでは何不自由なく暮らしてきた。

だが、城内の定めや王族の慣習を知らず、またそれを教える者もおらぬ宮廷の悪意にさらされ、行き届いた差配の出来ぬ母のもと私には満足な王族教育が与えられていない。

だがルイージはアスタリア、カステーラという二国の王家を血筋に持つ由緒正しき王族。ミランダ様ですらアレクサ様、ルイージには敬意を払っておいでだった。
だからこそあの時…カッシオ、そしてファブリチオまでもがルイージの命を狙ったのだ。私の命などほんのついでにすぎぬ。

それら全てをわかっているからこそルイージは私に言うのだ。


「イヴ様であればきっとこう仰るでしょう。「人はみな自分らしく生きるべき!」と」






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