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ティリスの祈り
しおりを挟む王都の中心にまるで異空間のように佇む碧の丘。
貴族や平民にも解放されているが自然と住み分けができているからか、揉め事などはない。
そんな気にもならないからだ。
やわらかい草に足を踏み入れれば、清浄した空気に包まれ身体は新しく呼吸をはじめる。
一帯を見下ろせる小高い頂上付近は王家と三代公爵家、直系の者しか入る事ができない。
視えない壁。
それが意図と目的を変えながら伸び王都中を、さらに国境まで張り巡らされ囲っているのだ。
南に王城。三方に公爵家が構える。
総てはティリス・リルムンドが愛した姫のために施したもの。
姫が愛したエターナリアという国と民を守るため。
奪われないため。
奪わないために。
平和が退屈だと。
そんなこと戦争を知らないから言えるのだ。
ティリスが残した古代魔導具装置で初めて映像を見せられた日は恐ろしくて眠れなかった。
彼らは此処で戦っていたのだ。
此処に来るたび、足が竦みそうになる。
そうしてそのたびに、己の成すべき事に奮い立つ。
間違えてはいけない。間違ってはーー
「ニール様」
優しく唱えるような声色と握られた体温に、
はっと固く閉じていた瞼を開く。
俺に魔力の流れなど視えないが。
ほとんど遺跡のような魔法陣に触れたあとのティアリアはいつも光を纏っているようで。
泣きたくなるほど慈愛に満ちて美しい。
目を、逸らしたくなるほどに。
「…終わったのか、…平気か?」
「恙無く。異変はございません。」
「そうじゃなくて。…いや、それもあるが体調は?疲れていないか」
「前回はお兄様が供給されたので私は補助程度で済みました。問題ありません」
「そうか。良かった…ありがとうティア」
笑いかけたつもりだったが。
歪だったのかティアリアの表情まで苦しげなものに変わる。
そんな姿さえ、愛おしくてしょうがない。
「…おいで」
すぐ目の前にいるのにもっと近くにいたくて言いながら華奢な身体を抱き込めば、張り詰めていた神経まで弛緩してゆく。
「ニール様…」
泣きそうな声。
「何でもない。此処に来るたび俺はちょっとおかしくなるだろう?ティアが女神のように見えるからその空気にあてられるんだ」
「…私はただのティアリアです」
「違う。俺の愛するひとだろう?」
「…っ」
震えている指。
「約束してくれ、ーーティアリア。」
「なに、を、」
「何かあれば必ず俺に言ってくれ。必ずだ。
俺を信じて。俺はお前だけを愛してる。これからも。俺たちの未来には俺たちしかいない。
…俺にはお前しかいない…決してひとりでは進まないと約束して、…ティア」
「…殿下の、お心のままに、「ーー駄目だ。」
「っ」
見上げる碧色が潤んで深く染まる。
「……ちゃんと言って、ティア」
「、…愛しています、…」
「…ふ、」
完璧な淑女が、俺の前でだけ感情を乱す姿が愛おしくてたまらない。
ぽろり、と零れた涙を掬い口付けて傾けた。
碧色が濡れた睫に隠れる瞬間に見惚れながらとけるように、重ねた。
ティリスの祈りに願って、誓う。
ーー誓った、はずだったのに。
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