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第五章 再会
拾われ子と奴隷商会
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「全く。子どもを傷をつけて持ってくるとはなっとらん。回復薬で治せたから良かったものの。君もそう思うだろう?」
眉を寄せて、手を組んで男は不満を漏らした。でっぷりした腹で腹部の布がはち切れそうだ。男を視界に入れようとすると顔よりも先に腹が目に入る。
『…………』
「ザーズリー様がお声掛けしておるのだぞ! 返事をしろ!」
側近らしき男が怒鳴ったが、ザーズリーが手をあげたのを見て黙った。
「よいよい。危うく死にかけた上に、売られたとあっては心の整理も簡単にはつくまい。それに、怒鳴っては怖がらせるだけだ。気を付けろ」
「はっ。失礼致しました」
「さて、君は奴隷として私に買われた以上、働かなければならないが、まずは名前だな。契約書には無いし、売りに来たあの男も好きに呼べと言っていたが、君、名前はあるのか?」
『……スイ、レン』
つい正直に本名を出してしまったが、咄嗟に南大陸で見かけた水上に大きな花を咲かせる植物の名前に繋げた。ヒヤリとしたが、ザーズリーは不審がる様子も無く顎に手を当て何度か頷いた。
「スイレンか。良い名前だ。君のその美しい白い髪と顏を表しているかのようだ。真っ黒な首輪が不釣合いだが、それを外す訳にはいかんからな。重いかもしれんが我慢してくれ」
スイの首には、奴隷の証として首輪がつけられている。ただの首輪なら支障は無かったが、イズモからスイが魔法が使える事を知ったザーズリーは、魔力封じの呪具をスイの首に嵌めた。
これにより魔法が封じられ、常時魔力を消費しなければ保てない変装の部分的色変えは効果を失くし、今のスイは髪も眼も本来の色に戻されていた。
魔法を使おうとしても、魔力が集まらない。寝起きに拳に力を入れようとしても入らない、そんな脱力感に襲われる。
「ではスイレン。あの野蛮な男にあの様に扱われて疲れただろうから、仕事をしてもらうのは明日からにして今日はもう下がると良い。バールス、部屋まで連れて行ってくれ」
「かしこまりました。着いてこい、スイレン」
『……はい』
じゃらり、と両手首の拘束具同士を繋ぐ鎖が鳴る。膝丈のワンピース型奴隷着の裾を揺らしながら、スイはザーズリーの部屋を出た。長い廊下を、バールスの後ろを着いて歩く。
『(どうなるかと思ったけど、とりあえず殺されなくて良かった)』
イズモに捕まった後、スイはナイフを胸に刺されたままザーズリーと呼ばれる商人に売られた。
「持っていたものを奪われ、最底辺に落とされて尚、生かされる苦しみを味わえ」
父とは別人だと解っていても父とよく似た声で言われた事にゾッとしたが、ふと、イズモの眼を思い出す。
『(……あの人、眼、紅くなかった。何か条件とかきっかけがあるのかな……。いや、今はそれよりもこれからどうするかだ)』
ナイフが皮膚と肉を貫き、身体の中に刺さってきた感覚を思い出してスイは震えた。無理矢理思考を切り替えて、今判っている事をひとつずつ整理していく。
『(ザーズリーって名前、確か悪徳奴隷商の疑いがある二人の内の一人だった筈。予定通りにはいかなかったけど、屋敷に入り込めたのは良かった)』
商人とその見習いと言うのは表面上の関係だ。本当は、裏で人身売買を行っている商人の商品として売られる形で、悪徳奴隷商の元に潜り込む段取りだった。
過程はだいぶ狂わされ、新たな問題に直面しているが、調査には繋げられそうなので結果的にはまだ良いと言えるだろう。
『(この人は秘書と言うより護衛だろうな)』
前を歩くバールスはゆったりとした服を着ているので体型がわかりにくいが、身長があり肩幅も広い。先程怒鳴った時も軽く威圧をしてきたので、少なくともハンターで言う所のCランク位の実力はあるように見える。
バールスから視線を外したスイは屋敷内に目を向けた。今歩いているのは二階で、廊下から見える範囲だけでも一階はかなり広く、二階も相応に広い上に廊下が長い。
歩き回っている使用人を見ると、執事やメイドらしき者もいるが武装している者も見掛ける。
『(定期的に巡回しているんだとしたら、昼に屋敷内を探索するのは無理そうだ)』
バールスより強い者は今の所いないように見えるが、襲撃するのが目的ではない。早くソウジロウと合流したいが、焦る気持ちを抑えてスイは今すべき事を挙げる。
『(夜の見張りの数や動き次第だけど、まずはお屋敷の探索をしよう。構造を調べながら、脱出口や契約書を探す。未成年《わたし》を買った時点で、違法売買に手を出しているのは確実だから何処かに仕舞ってある筈)』
先程の話から、イズモはザーズリーのお得意様ではないようだがスイを見たザーズリーは購入を即決した。迷いなく契約を交わした辺り、恒常的に未成年奴隷を売買していると見える。
『(買われた時に没収されたアイテムポーチも絶対取り戻さなきゃ)』
スイのアイテムポーチには消耗品や地図の他に、剣やハンターの証、形見の品等大切な物も沢山入っている。
魔力登録してあるので中の物を取り出せるのは登録者本人だけだが、いつ処分されるか判らないのでなるべく早く取り戻したいのが本音だ。
「スイレン」
『はいっ』
驚きで声が上擦った。思考に没頭していたのを中断されたのが原因だが、怖がっていると認識したのだろう。その目は優越感を滲ませてスイを見下している。
「お前が過ごす事になる部屋には、同年代の奴隷が二人いる。ザーズリー様のお慈悲に感謝しろ」
『……はい。ありがとうございます』
「此処だ。入れ」
ドアを開けられて中を覗くと、大きな屋敷に相応しく、綺麗に整えられた広い部屋だった。中にはバールスの言った通り、同年代らしき女の子が二人いる。二対の視線が向けられ、スイは会釈で挨拶をする。
「新入りだ。今日からお前らと同じ部屋で過ごす。面倒事を起こすなよ。ほら、さっさと入れ」
スイが部屋の中に入るとドアが閉められ、外からガチャリと音がした。
『(ドアノブ付近には何も無い。鍵は外からしか掛けられない……って事は、出る時も外から開けてもらうしかないな)』
振り向いて部屋の中を見ると、ベッドが二台にソファーが一台ある。大きな家具はそれくらいで殺風景な部屋だが、清潔感はある。話に聞いていた奴隷の環境と比べると、破格の待遇だ。
『(……窓は無い、か。困ったな……どうやって部屋の外に――)』
「ねぇ、大丈夫?」
『!!』
「あ、ごめんね! 驚かせて……そんなつもり無かったんだけど」
びくりと肩が跳ね、声の方に顔を向ければ同室の二人の内、色白で長い金髪の女の子が手を合わせて謝った。色素の薄い髪と肌に、新緑色の眼が映える。
「あたしはクローディア。十四歳。で、こっちの子は」
「エトマ。小さい時から色んなお屋敷に連れていかれたから……歳はわからない」
褐色の肌にゆるく波打った銀髪、髪と同じ銀の眼がスイを見上げた。スイより低めの身長と舌っ足らずさに幼い印象を受ける。
『(…………あれ?)』
「あなたは?」
『あ、えっと、スイレン、です。歳は十三歳です』
「スイレンね、よろしく。仕事はいつから?」
『明日からだそうです』
「じゃあ、今日はゆっくり出来るわね。あたし達、今日のお仕事はもう終わってるから色々このお屋敷の事教えてあげるわ」
『ありがとうございます。お願いします』
「そんな畏まらなくて良いわよ。私の事はディアって呼んで。えっと、何から教えた方が良いかしら」
顎に指を当ててクローディアは宙を見上げる。とりあえず、奴隷仲間とは仲良くやれそうだと安堵しながらスイは足元に目を向けた。
眉を寄せて、手を組んで男は不満を漏らした。でっぷりした腹で腹部の布がはち切れそうだ。男を視界に入れようとすると顔よりも先に腹が目に入る。
『…………』
「ザーズリー様がお声掛けしておるのだぞ! 返事をしろ!」
側近らしき男が怒鳴ったが、ザーズリーが手をあげたのを見て黙った。
「よいよい。危うく死にかけた上に、売られたとあっては心の整理も簡単にはつくまい。それに、怒鳴っては怖がらせるだけだ。気を付けろ」
「はっ。失礼致しました」
「さて、君は奴隷として私に買われた以上、働かなければならないが、まずは名前だな。契約書には無いし、売りに来たあの男も好きに呼べと言っていたが、君、名前はあるのか?」
『……スイ、レン』
つい正直に本名を出してしまったが、咄嗟に南大陸で見かけた水上に大きな花を咲かせる植物の名前に繋げた。ヒヤリとしたが、ザーズリーは不審がる様子も無く顎に手を当て何度か頷いた。
「スイレンか。良い名前だ。君のその美しい白い髪と顏を表しているかのようだ。真っ黒な首輪が不釣合いだが、それを外す訳にはいかんからな。重いかもしれんが我慢してくれ」
スイの首には、奴隷の証として首輪がつけられている。ただの首輪なら支障は無かったが、イズモからスイが魔法が使える事を知ったザーズリーは、魔力封じの呪具をスイの首に嵌めた。
これにより魔法が封じられ、常時魔力を消費しなければ保てない変装の部分的色変えは効果を失くし、今のスイは髪も眼も本来の色に戻されていた。
魔法を使おうとしても、魔力が集まらない。寝起きに拳に力を入れようとしても入らない、そんな脱力感に襲われる。
「ではスイレン。あの野蛮な男にあの様に扱われて疲れただろうから、仕事をしてもらうのは明日からにして今日はもう下がると良い。バールス、部屋まで連れて行ってくれ」
「かしこまりました。着いてこい、スイレン」
『……はい』
じゃらり、と両手首の拘束具同士を繋ぐ鎖が鳴る。膝丈のワンピース型奴隷着の裾を揺らしながら、スイはザーズリーの部屋を出た。長い廊下を、バールスの後ろを着いて歩く。
『(どうなるかと思ったけど、とりあえず殺されなくて良かった)』
イズモに捕まった後、スイはナイフを胸に刺されたままザーズリーと呼ばれる商人に売られた。
「持っていたものを奪われ、最底辺に落とされて尚、生かされる苦しみを味わえ」
父とは別人だと解っていても父とよく似た声で言われた事にゾッとしたが、ふと、イズモの眼を思い出す。
『(……あの人、眼、紅くなかった。何か条件とかきっかけがあるのかな……。いや、今はそれよりもこれからどうするかだ)』
ナイフが皮膚と肉を貫き、身体の中に刺さってきた感覚を思い出してスイは震えた。無理矢理思考を切り替えて、今判っている事をひとつずつ整理していく。
『(ザーズリーって名前、確か悪徳奴隷商の疑いがある二人の内の一人だった筈。予定通りにはいかなかったけど、屋敷に入り込めたのは良かった)』
商人とその見習いと言うのは表面上の関係だ。本当は、裏で人身売買を行っている商人の商品として売られる形で、悪徳奴隷商の元に潜り込む段取りだった。
過程はだいぶ狂わされ、新たな問題に直面しているが、調査には繋げられそうなので結果的にはまだ良いと言えるだろう。
『(この人は秘書と言うより護衛だろうな)』
前を歩くバールスはゆったりとした服を着ているので体型がわかりにくいが、身長があり肩幅も広い。先程怒鳴った時も軽く威圧をしてきたので、少なくともハンターで言う所のCランク位の実力はあるように見える。
バールスから視線を外したスイは屋敷内に目を向けた。今歩いているのは二階で、廊下から見える範囲だけでも一階はかなり広く、二階も相応に広い上に廊下が長い。
歩き回っている使用人を見ると、執事やメイドらしき者もいるが武装している者も見掛ける。
『(定期的に巡回しているんだとしたら、昼に屋敷内を探索するのは無理そうだ)』
バールスより強い者は今の所いないように見えるが、襲撃するのが目的ではない。早くソウジロウと合流したいが、焦る気持ちを抑えてスイは今すべき事を挙げる。
『(夜の見張りの数や動き次第だけど、まずはお屋敷の探索をしよう。構造を調べながら、脱出口や契約書を探す。未成年《わたし》を買った時点で、違法売買に手を出しているのは確実だから何処かに仕舞ってある筈)』
先程の話から、イズモはザーズリーのお得意様ではないようだがスイを見たザーズリーは購入を即決した。迷いなく契約を交わした辺り、恒常的に未成年奴隷を売買していると見える。
『(買われた時に没収されたアイテムポーチも絶対取り戻さなきゃ)』
スイのアイテムポーチには消耗品や地図の他に、剣やハンターの証、形見の品等大切な物も沢山入っている。
魔力登録してあるので中の物を取り出せるのは登録者本人だけだが、いつ処分されるか判らないのでなるべく早く取り戻したいのが本音だ。
「スイレン」
『はいっ』
驚きで声が上擦った。思考に没頭していたのを中断されたのが原因だが、怖がっていると認識したのだろう。その目は優越感を滲ませてスイを見下している。
「お前が過ごす事になる部屋には、同年代の奴隷が二人いる。ザーズリー様のお慈悲に感謝しろ」
『……はい。ありがとうございます』
「此処だ。入れ」
ドアを開けられて中を覗くと、大きな屋敷に相応しく、綺麗に整えられた広い部屋だった。中にはバールスの言った通り、同年代らしき女の子が二人いる。二対の視線が向けられ、スイは会釈で挨拶をする。
「新入りだ。今日からお前らと同じ部屋で過ごす。面倒事を起こすなよ。ほら、さっさと入れ」
スイが部屋の中に入るとドアが閉められ、外からガチャリと音がした。
『(ドアノブ付近には何も無い。鍵は外からしか掛けられない……って事は、出る時も外から開けてもらうしかないな)』
振り向いて部屋の中を見ると、ベッドが二台にソファーが一台ある。大きな家具はそれくらいで殺風景な部屋だが、清潔感はある。話に聞いていた奴隷の環境と比べると、破格の待遇だ。
『(……窓は無い、か。困ったな……どうやって部屋の外に――)』
「ねぇ、大丈夫?」
『!!』
「あ、ごめんね! 驚かせて……そんなつもり無かったんだけど」
びくりと肩が跳ね、声の方に顔を向ければ同室の二人の内、色白で長い金髪の女の子が手を合わせて謝った。色素の薄い髪と肌に、新緑色の眼が映える。
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「あなたは?」
『あ、えっと、スイレン、です。歳は十三歳です』
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