拾われ子のスイ

蒼居 夜燈

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第三章 北大陸

拾われ子達の帰還

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 特殊個体トロールの討伐を終えたスイ達は、その後パムフロム山を八合目まで登り、オリヴェル以外の調査チームのメンバー全員を発見した。
 それぞれが、アイテムポーチ等収納系魔道具の中に入れて持ってきていた棺の中に遺体を納め、一箇所に集めて結界石を置く。討伐隊だけでは全員を回収出来ないので、改めて回収班を編成し、此処まで来てもらう必要があるからだ。
 討伐隊全員で、責務に殉じたハンター達に祈りを捧げ、シーバシュタットへの帰路につく。道中、コハクの耳がぴくりと動いた。

『どうしたの?』

《他の奴等が動き出した》

『……あ、本当だ』

 脅威が去ったパムフロム山に、様々な生物の気配がひとつまたひとつと現れる。本来の姿の山へと戻っていく。

「モンスター達が襲ってきたら返り討ちにしないとな」

「えぇ……まだ戦うんすか……?」

 アンデッドアタックを行っていた三人は戦いの興奮が冷めたのか、げんなりしている。

「当たり前だ。襲われながら町まで帰れるか」

「くはー……きちぃー……」

 パムフロム山の生態系の崩壊を防いだ討伐隊だが、モンスター達がそれを考慮してくれるかと言ったらそんな事はない。ましてや、今はずっと隠れていたせいで飢餓状態のモンスターが多いのだ。普段より凶暴になっている可能性が高い。
 ふと、スイは嫌な考えが過ぎり、イグナーツへ確かめてみる事にした。

『……イグナーツさん』

「何だ?」

『……今って、モンスター達は皆お腹空かせてますよね?』

「そうだな」

『…………暫く山で見かけなかった、グーロもですよね…………?』

「……そうだな」

「「「ひぇっ」」」

 三人のハンター達が戦慄する。彼等程態度には出さないが、スイも冷や汗が止まらない。

「イグナーツさんやアタシがいるとは言え、飢餓状態のグーロを相手すんのは面倒だなぁ……。しかもこっち七人いるからさ、向かってくんのも一匹だけとは限らないよね」

「「「ひぇっ……!」」」

「……速やかに町に戻るぞ」

「「「了解!」」」

 疲労が残る身体を動かしながら速度を落とさずに歩き続け、辺りがすっかり暗くなった頃に討伐隊は町へと帰還した。門が見えた時、グーロに遭わずに済んだ事に全員が安堵の息を吐いた。
 衛兵が討伐隊の無事の帰還を喜び、活躍を労う。彼等の声が町の人々に伝わり、特殊個体トロール討伐の噂が広がっていく。
 ハンターズギルドに向かった七人は、支部長のベルゲを前に討伐完了を報告した。

「ご苦労。よくぞ成し遂げてくれた。特殊個体の亡骸は?」

「デカくて重いから、バッグだと入れるのも出すのも難しいって話になってな」

「なら、山に?」

「いや、スイが収納空間ストレージを使えるから、腕と両足にロープを括り付けて、身体強化ストレングスが使える奴等で中に放り込んだ。出す時は、広い場所で何人かでロープを引っ張らなきゃならん」

 中央大陸での修行中、シンシアに教えてもらった収納空間ストレージの魔法。アイテムポーチで足りているスイは、覚えてからこれまでこの魔法を使わなかったが、その結果初めての収納物は自分を殺しかけたモンスターの亡骸となった。

『(……まぁ、バラバラにしてバッグやポーチに入れるよりは……)』

 どうやって持ち帰るかと言う話になった時に出た案のひとつだが、凄惨すぎる光景に数人から拒否の声が上がり、却下されていた。

「スイ。後で声をかける。町の外で出してもらう事になるだろうから、その時は頼む」

『解りました』

「ベルゲ。オリヴェル以外の調査チームの奴等は全員発見した。棺に納めて、結界石で護ってある」

「……そうか、解った。すぐに回収班を編成し、吹雪いてなければ明日向かわせる。皆よくやってくれた。受付で報酬を受け取ったら、各自ゆっくりと休んでくれ」

 ベルゲの宣言のもと、討伐隊はこれで解散となった。魔導師兼治癒士のホレイスが、医療ギルドに戻る前に共に戦ったハンター達に挨拶をして回る。

「スイ」

『はい? あ、ホレイスさん。お疲れ様でした』

「スイもお疲れ様。ちょっとそこのソファーに座ってくれる?」

『? はい』

 言われるがままに座ったスイは、更に手を出すように言われて左手を前に出す。その手を取ると、スイの身体が魔力に包まれた。治癒士が患者を診る時に行うやり方だ。

「……掴まれた時、骨がやられたと思って心配してたんだけど上手に治しているね。スイは治癒士としても活躍出来るよ。どう? 医療ギルドに来ない?」

 思いがけない誘いにスイは眼を丸くする。ハンター以外の道に進む気が無いスイは断ろうと口を開いたが、それよりも早く断る者がいた。

「スイはハンターとして生きる理由があるから、医療ギルドには行かないよ。しれっと引き抜こうとするの、やめてくれる?」

 ソファーの後ろから腕を回し、スイに抱き着きながらアレックスがそう言うとホレイスは溜息を吐いた。

「駄目かー……。人手不足だからスイには来て欲しかったんだけどな」

ハンターズギルドこっちだって万年人手不足だよ! 自分の所だけ大変だと思わないでって言うか、ハンターズギルドは未成年を受け入れてるけど、医療ギルドは他と同じで十五歳からでしょ! 規約違反だよ!」

「それもそうだ。今は諦めるしかないか。じゃあ、僕は医療ギルドに戻るよ。二人とも身体を大事にね。スイ、十五歳になったら医療ギルドに来る事も検討してみてくれ」

「だから引き抜こうとすんな!」

 手を振ってハンターズギルドを出ていったホレイスにスイは会釈をし、アレックスは威嚇するように唸る。
 ホレイスの姿が見えなくなってもぎゅうぎゅうと抱き締めてくるアレックスに、スイがどうしようかと考えていると、腹が鳴る音が聞こえた。
 首だけ動かして見上げると、ホレイスの事だけではなさそうな理由で不満気な顔をするアレックスが呟く。

「…………お腹空いた…………」

 もうすっかり夜だ。大型モンスターの討伐戦後と言うのもあって、体力と魔力も消費している。

『宿に戻って、ご飯食べませんか?』

「食べる。スイと一緒に食べる」

『はい。じゃあ、報酬を受け取ってから戻りましょう。一回離してください』

 ぽんぽんと胸元に回されていた腕を叩くと、アレックスは渋々スイを離した。ソファーから立ち上がったスイが歩き出すと、後ろからまたアレックスが抱き着く。
 アレックスにくっつかれるのも、後頭部に感じる柔らかさにも慣れてきたスイはそのまま受付へ向かい、討伐報酬を受け取ってギルドを出ていった。
 二人の姿が完全に見えなくなると、スイを少年だと思っているハンターの一部から羨望の声が漏れる。

「スイの奴、羨ましいぜ……。つーかアイツ、照れるとかーのな。十歳とか十一歳ってまだそういう事に興味無ぇ時期だっけ……?」

「くそぅ……俺もあと二十年若かったら……!」

「二十年若くてもアンタじゃ無理だ」

「何でだよ! 何でだよっ!!」

 怒り混じりの嘆きの声が虚しくロビーに響き、ハンター達とギルド職員の苦笑を誘った。
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