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第三章 北大陸
拾われ子達のトロール討伐戦 後編
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スイの頭の中にはこれまでの事が思い浮かんでいた。
各大陸での旅の思い出、出会ってきた者達。ひとつひとつ
が浮かんでは消えていく。
最後の一人は、ハンターを目指すきっかけとなったマリクだった。
『(……おじいさまみたいな、ハンターになりたかったなぁ……)』
スイがそう思った時、消えかけていた思い出の中のマリクの口が動いた。
――スイ。王都以外の町はな、何か有った時に対抗策や防衛策として頼れるのがハンターなんだ――
『(!!)』
それは、生前まだ健在だった時。スイがもっと幼かった時にマリクが教えてくれた、ハンターについての話のひとつだ。
朧気だった記憶が甦り、家の中の様子までもが鮮やかに思い出される。
――町自体は結界で護られているが、結界はモンスターや悪人を倒してくれねぇし、絶対に壊れないって訳でもねぇ。奴等を倒す武器となり、時に盾となるのがハンターだ――
『(そう、確かにそう言っていた……)』
――だからな。ハンターが諦めたら、戦うのをやめちまったら、そのハンターを頼った町や人は滅んじまう。俺達は、一度請けた依頼は何がなんでも遂行しなきゃいけねぇ。死が眼の前まで来ても、そんなのぶん殴って追い返せ。何としても――
『(……何としても生きて戦って、人々を守るのがハンターだ……!)』
スイの中で、ハンターとしての在り方が確立されていく。
『(そうだ。最後まで諦めずに戦って、敵を倒さなければならない。それが、ハンターとして生きる事を選んだ私の使命であり、ハンターを信じている人達へ通すべき義理なんだ……!)』
奇しくも、いや、マリクに育てられ、故に憧れたスイならばそれは必然だったのかもしれない。
その在り方は、ハンターマリクと同じものだった。
死への恐怖と生への諦念は、変装の群青色と共に消える。翡翠と燐灰石、異なる色を持つ双眸に、絶対に諦めないと言う強い意志が宿った。
『――召雷!!』
「ッ!?」
トロールの左腕に、轟音と共に雷が落ちて動きを鈍らせる。それでも止まらない拳がスイを捉えようとした瞬間、アレックスが割って入り、大剣の剣身でトロールの拳を受け止めた。鈍い音が辺りに響き渡る。
『アレックスさん……!?』
「ギリギリになってごめんね、スイ! コイツの、動きは、大体解った、から……!」
少しずつ身体ごと押されていたアレックスだが、ぴたりと足を止めると、大剣で受け止めている拳を徐々に徐々に押し返していく。
「反撃開始といこうか!! スイ、自分の仇を討っておいで!」
大きな音を立てて拳を弾くと、アレックスはよろめいたトロールの眼前で光魔法を放って眼を眩ませた。
好機とばかりにコハクが地魔法で追い打ちをかける。
スイも続こうとしたが、恐怖で強ばっていたからか足に力が入らなかった。自力での移動は困難と瞬時に判断し、コハクを大声で呼ぶ。
『コハク! 私を乗せて走って!』
《任せろ!》
全速力で戻ってきたコハクに跨り、スイは風魔法と雷魔法でトロールに傷を負わせていく。魔力を出し惜しみせずに放つ魔法は、下級でも威力が上がり確実にトロールを追い詰めていく。
治癒魔法で回復したハンター三人も戦線に復帰し、それぞれの武器や魔法で追撃を始めた。一人がまた反撃をくらい、脚が有らぬ方向へと曲がったがすぐさま治癒士が駆けつけて治すと、トロールへ叫びながら向かって行く。
他の二人も呼応するように声を上げて自ら士気を上げた。
「十歳そこらのスイ坊が奮起して戦ってんだ! 大人の俺らが怯んでられるか!」
「その通りだ! 北大陸のハンター舐めんなぁ!」
「こちとら優秀な治癒士がすぐに治してくれるから何の心配もねーんだよ! アンデッドアタックを甘く見んなよ!!」
『(凄いしっくりくる名前の戦い方)』
「(すっごい適切な名付け)」
「(言い得て妙だ)」
三者の叫びに、別の三者が異口同音の感想を抱く。
「(……魔力、無尽蔵じゃないんだけどな……)」
残りの一人は、少々疲労の色を見せながらハンターがまた飛んでこないかと気を揉んでいた。
治癒士を酷使するハンター達の集中攻撃に、身動き取れずにいたトロールが再び威圧のスキルで咆哮する。
「オォォォォォ!!」
《くっ……!? しまっ、スイ!》
『ぐっ!?』
威圧をくらい、僅かにコハクが怯んだのを見逃さずにトロールの手がスイを掴んだ。
『うぁぁぁっ……!!』
骨が軋む音が耳に届く。持ち上げられたスイは、激痛に意識が飛びそうになりながらも眼の前にあるトロールの鼻に、拘束から逃れた左手を伸ばして触れた。
『ス…爆雷……!』
「オグォッ!?」
火花が炸裂し、鼻と耳の穴から煙を上げたトロールがふらつく。
「気絶した! イグナーツさん!」
「オォオラァッ!! その手を離しな!」
イグナーツの振りかぶったハンマーが、トロールの膝を打ち砕く。耳を塞ぎたくなるような粉砕音が響き、トロールが膝から崩れると同時に手の拘束が緩み、スイが雪の上に落下した。
《スイ! ごめん、大丈夫か!?》
『だ、大丈、夫……!』
左腕以外の全身を激痛が走っているが、スイは集中力を総動員して自分自身に治癒魔法をかけて立ち上がる。
「スイ! まだ戦える!?」
『戦えます!』
「よぉっし! なら、そろそろ終わりとしようか! トドメを刺す準備しといて!」
アレックスは両膝をついたトロールに向かって跳び、左肩目掛けて大剣を振り下ろした。
「その腕、もらう!!」
剣身が炎のように赤くなった大剣が、トロールの肩から腕を切断した。丸太よりも太い腕が転がり、傷口から上がった煙が風にたなびく。
「オォオォオオオオ!?」
痛みに吠えたトロールは残った右手に持つ棍棒を振り上げ、走って向かって来ていたスイに叩きつけた。強烈な一撃に、雪が派手に舞い、地面が揺れる。
「スイ坊!?」
「スイを救出しろ! ホレイス、治癒魔法の準備だ!」
「オォォ……!」
トロールは怒りに燃えた眼をアレックスに向けるが、アレックスは挑発するように笑った。
「良いの? 余所見してて。アンタが狙ったスイは、潰れてなんかいないよ?」
「!?」
アレックスの言葉と、右腕から僅かに感じる振動にトロールが眼を向ければ、棍棒を伝って右腕の上を走るスイの姿があった。
掴もうにも左腕は無い。トロールはスイを振り落とそうとしたが、それよりも早くスイが氷魔法を唱えた。
『氷槍!』
「オグゥッ!?」
先端が尖った氷の槍が、残っていたもう片方の目を潰した。いくら探知能力の高い特殊個体トロールでも、視覚からの情報が無くなれば狙いは定めづらくなる。
『風刃』
「――」
トロールの首が裂け、血が舞ったが首を断つには至らない。スイはショートソードに魔力を再度込める。ありったけの風の魔力を。
『(トロールを、斬る)』
刃が、分厚く硬い皮膚と太い骨を断つのを想像する。
スイが知る中で、もっとも鋭く研ぎ澄まされた武器――刀を振るように、ショートソードをトロールの首目掛けて振り抜いた。
強い風の魔力を込められたショートソードは、殆ど抵抗なく皮膚も肉も、骨すらも通り抜ける。
「………………」
声無く脱力した巨体が傾ぎ、首がズレて雪に沈んだ。遅れて、音を立てて身体も倒れた。
『痛っ!』
トロールに乗っていたスイも落下し、尻餅をついた。魔力を武器の方に込めすぎて身体の中に残っておらず、自力で立てずに座り込む。
《ぐるぅ……大丈夫か?》
『……ちょっと気持ち悪い……』
魔力水は不味いのであまり使いたくないが、そんな事も言ってられないのでスイはポーチから一本取り出して飲み干す。相変わらずの不味さに呻き声が出た。
ゆっくりと立ち上がってトロールに眼を向けると、首と腕の断面から湯気が上がっていた。
どれだけ硬かろうが、首が落ちては流石に生きていられない。
『(……倒せて、良かった)』
静かに長く息を吐く。
自分の力だけでとはいかなかったが、トロールを倒す事が出来た。
植え付けられた恐怖心は払拭され、スイの心は冬の晴天のように清々しさに満ちている。
「スイ! お疲れ! よく頑張ったよ、さっすがアタシのスイだ!」
『ありがっ――』
半ば突撃するようにアレックスがスイに抱き着き、その首がごきりと鳴った。変な角度で首が固定され、涙眼で震えるスイにホレイスが慌てて駆け寄り治癒魔法を掛ける。
イグナーツ達も集まってきて、スイに労いの言葉をかけた。
「よく恐怖を乗り越えた。見事な戦いだったぞ」
『皆さんの力があってこそです。ありがとうございました』
スイは頭を下げる。その頭を、べしべし、わしゃわしゃと色んな手に揉みくちゃにされてくぐもった声で悲鳴があがった。
『(……おじいさまにも、また助けてもらった……)』
あの時思い出したマリクの言葉。思い出せていなかったら、今度こそ死んでいたかもしれない。
『(……いつまでも助けてもらってばかりで、あの背中にはまだまだ追いつけそうにないや……)』
――そう簡単にこの俺に追いつけるかよ――
マリクが濁声で笑った気がして、スイも笑った。
『(でも、いつか必ず)』
見る者を安心させる、大きく広い背中。その背中にいつか追いつく事をスイは今一度決意すると、顔をあげて笑顔でもう一度討伐隊の皆に礼を述べた。
その表情は、討伐戦前の不安や緊張は微塵も無く、実に晴れ晴れとしたものだった。
各大陸での旅の思い出、出会ってきた者達。ひとつひとつ
が浮かんでは消えていく。
最後の一人は、ハンターを目指すきっかけとなったマリクだった。
『(……おじいさまみたいな、ハンターになりたかったなぁ……)』
スイがそう思った時、消えかけていた思い出の中のマリクの口が動いた。
――スイ。王都以外の町はな、何か有った時に対抗策や防衛策として頼れるのがハンターなんだ――
『(!!)』
それは、生前まだ健在だった時。スイがもっと幼かった時にマリクが教えてくれた、ハンターについての話のひとつだ。
朧気だった記憶が甦り、家の中の様子までもが鮮やかに思い出される。
――町自体は結界で護られているが、結界はモンスターや悪人を倒してくれねぇし、絶対に壊れないって訳でもねぇ。奴等を倒す武器となり、時に盾となるのがハンターだ――
『(そう、確かにそう言っていた……)』
――だからな。ハンターが諦めたら、戦うのをやめちまったら、そのハンターを頼った町や人は滅んじまう。俺達は、一度請けた依頼は何がなんでも遂行しなきゃいけねぇ。死が眼の前まで来ても、そんなのぶん殴って追い返せ。何としても――
『(……何としても生きて戦って、人々を守るのがハンターだ……!)』
スイの中で、ハンターとしての在り方が確立されていく。
『(そうだ。最後まで諦めずに戦って、敵を倒さなければならない。それが、ハンターとして生きる事を選んだ私の使命であり、ハンターを信じている人達へ通すべき義理なんだ……!)』
奇しくも、いや、マリクに育てられ、故に憧れたスイならばそれは必然だったのかもしれない。
その在り方は、ハンターマリクと同じものだった。
死への恐怖と生への諦念は、変装の群青色と共に消える。翡翠と燐灰石、異なる色を持つ双眸に、絶対に諦めないと言う強い意志が宿った。
『――召雷!!』
「ッ!?」
トロールの左腕に、轟音と共に雷が落ちて動きを鈍らせる。それでも止まらない拳がスイを捉えようとした瞬間、アレックスが割って入り、大剣の剣身でトロールの拳を受け止めた。鈍い音が辺りに響き渡る。
『アレックスさん……!?』
「ギリギリになってごめんね、スイ! コイツの、動きは、大体解った、から……!」
少しずつ身体ごと押されていたアレックスだが、ぴたりと足を止めると、大剣で受け止めている拳を徐々に徐々に押し返していく。
「反撃開始といこうか!! スイ、自分の仇を討っておいで!」
大きな音を立てて拳を弾くと、アレックスはよろめいたトロールの眼前で光魔法を放って眼を眩ませた。
好機とばかりにコハクが地魔法で追い打ちをかける。
スイも続こうとしたが、恐怖で強ばっていたからか足に力が入らなかった。自力での移動は困難と瞬時に判断し、コハクを大声で呼ぶ。
『コハク! 私を乗せて走って!』
《任せろ!》
全速力で戻ってきたコハクに跨り、スイは風魔法と雷魔法でトロールに傷を負わせていく。魔力を出し惜しみせずに放つ魔法は、下級でも威力が上がり確実にトロールを追い詰めていく。
治癒魔法で回復したハンター三人も戦線に復帰し、それぞれの武器や魔法で追撃を始めた。一人がまた反撃をくらい、脚が有らぬ方向へと曲がったがすぐさま治癒士が駆けつけて治すと、トロールへ叫びながら向かって行く。
他の二人も呼応するように声を上げて自ら士気を上げた。
「十歳そこらのスイ坊が奮起して戦ってんだ! 大人の俺らが怯んでられるか!」
「その通りだ! 北大陸のハンター舐めんなぁ!」
「こちとら優秀な治癒士がすぐに治してくれるから何の心配もねーんだよ! アンデッドアタックを甘く見んなよ!!」
『(凄いしっくりくる名前の戦い方)』
「(すっごい適切な名付け)」
「(言い得て妙だ)」
三者の叫びに、別の三者が異口同音の感想を抱く。
「(……魔力、無尽蔵じゃないんだけどな……)」
残りの一人は、少々疲労の色を見せながらハンターがまた飛んでこないかと気を揉んでいた。
治癒士を酷使するハンター達の集中攻撃に、身動き取れずにいたトロールが再び威圧のスキルで咆哮する。
「オォォォォォ!!」
《くっ……!? しまっ、スイ!》
『ぐっ!?』
威圧をくらい、僅かにコハクが怯んだのを見逃さずにトロールの手がスイを掴んだ。
『うぁぁぁっ……!!』
骨が軋む音が耳に届く。持ち上げられたスイは、激痛に意識が飛びそうになりながらも眼の前にあるトロールの鼻に、拘束から逃れた左手を伸ばして触れた。
『ス…爆雷……!』
「オグォッ!?」
火花が炸裂し、鼻と耳の穴から煙を上げたトロールがふらつく。
「気絶した! イグナーツさん!」
「オォオラァッ!! その手を離しな!」
イグナーツの振りかぶったハンマーが、トロールの膝を打ち砕く。耳を塞ぎたくなるような粉砕音が響き、トロールが膝から崩れると同時に手の拘束が緩み、スイが雪の上に落下した。
《スイ! ごめん、大丈夫か!?》
『だ、大丈、夫……!』
左腕以外の全身を激痛が走っているが、スイは集中力を総動員して自分自身に治癒魔法をかけて立ち上がる。
「スイ! まだ戦える!?」
『戦えます!』
「よぉっし! なら、そろそろ終わりとしようか! トドメを刺す準備しといて!」
アレックスは両膝をついたトロールに向かって跳び、左肩目掛けて大剣を振り下ろした。
「その腕、もらう!!」
剣身が炎のように赤くなった大剣が、トロールの肩から腕を切断した。丸太よりも太い腕が転がり、傷口から上がった煙が風にたなびく。
「オォオォオオオオ!?」
痛みに吠えたトロールは残った右手に持つ棍棒を振り上げ、走って向かって来ていたスイに叩きつけた。強烈な一撃に、雪が派手に舞い、地面が揺れる。
「スイ坊!?」
「スイを救出しろ! ホレイス、治癒魔法の準備だ!」
「オォォ……!」
トロールは怒りに燃えた眼をアレックスに向けるが、アレックスは挑発するように笑った。
「良いの? 余所見してて。アンタが狙ったスイは、潰れてなんかいないよ?」
「!?」
アレックスの言葉と、右腕から僅かに感じる振動にトロールが眼を向ければ、棍棒を伝って右腕の上を走るスイの姿があった。
掴もうにも左腕は無い。トロールはスイを振り落とそうとしたが、それよりも早くスイが氷魔法を唱えた。
『氷槍!』
「オグゥッ!?」
先端が尖った氷の槍が、残っていたもう片方の目を潰した。いくら探知能力の高い特殊個体トロールでも、視覚からの情報が無くなれば狙いは定めづらくなる。
『風刃』
「――」
トロールの首が裂け、血が舞ったが首を断つには至らない。スイはショートソードに魔力を再度込める。ありったけの風の魔力を。
『(トロールを、斬る)』
刃が、分厚く硬い皮膚と太い骨を断つのを想像する。
スイが知る中で、もっとも鋭く研ぎ澄まされた武器――刀を振るように、ショートソードをトロールの首目掛けて振り抜いた。
強い風の魔力を込められたショートソードは、殆ど抵抗なく皮膚も肉も、骨すらも通り抜ける。
「………………」
声無く脱力した巨体が傾ぎ、首がズレて雪に沈んだ。遅れて、音を立てて身体も倒れた。
『痛っ!』
トロールに乗っていたスイも落下し、尻餅をついた。魔力を武器の方に込めすぎて身体の中に残っておらず、自力で立てずに座り込む。
《ぐるぅ……大丈夫か?》
『……ちょっと気持ち悪い……』
魔力水は不味いのであまり使いたくないが、そんな事も言ってられないのでスイはポーチから一本取り出して飲み干す。相変わらずの不味さに呻き声が出た。
ゆっくりと立ち上がってトロールに眼を向けると、首と腕の断面から湯気が上がっていた。
どれだけ硬かろうが、首が落ちては流石に生きていられない。
『(……倒せて、良かった)』
静かに長く息を吐く。
自分の力だけでとはいかなかったが、トロールを倒す事が出来た。
植え付けられた恐怖心は払拭され、スイの心は冬の晴天のように清々しさに満ちている。
「スイ! お疲れ! よく頑張ったよ、さっすがアタシのスイだ!」
『ありがっ――』
半ば突撃するようにアレックスがスイに抱き着き、その首がごきりと鳴った。変な角度で首が固定され、涙眼で震えるスイにホレイスが慌てて駆け寄り治癒魔法を掛ける。
イグナーツ達も集まってきて、スイに労いの言葉をかけた。
「よく恐怖を乗り越えた。見事な戦いだったぞ」
『皆さんの力があってこそです。ありがとうございました』
スイは頭を下げる。その頭を、べしべし、わしゃわしゃと色んな手に揉みくちゃにされてくぐもった声で悲鳴があがった。
『(……おじいさまにも、また助けてもらった……)』
あの時思い出したマリクの言葉。思い出せていなかったら、今度こそ死んでいたかもしれない。
『(……いつまでも助けてもらってばかりで、あの背中にはまだまだ追いつけそうにないや……)』
――そう簡単にこの俺に追いつけるかよ――
マリクが濁声で笑った気がして、スイも笑った。
『(でも、いつか必ず)』
見る者を安心させる、大きく広い背中。その背中にいつか追いつく事をスイは今一度決意すると、顔をあげて笑顔でもう一度討伐隊の皆に礼を述べた。
その表情は、討伐戦前の不安や緊張は微塵も無く、実に晴れ晴れとしたものだった。
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