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第四章 南大陸
拾われ子と治癒士エルサ
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「今度はコカトリスの特殊個体の討伐とはね…」
ゼルテン鉱山の中、不満気に唇を尖らせているのはアレックスだ。
「次はコカトリス特殊個体の討伐隊隊長に任命する」
「人使い荒くない?」
「上位ハンターは何処行ってもそうだ。諦めろ」
それが、二日前にチェンジリザードの調査を終え、町に戻ってきたアレックスがギルドに入った瞬間にラシャンと交わした会話だった。
「そもそもフェリペさんがいるのにアタシが隊長ってのもなぁ。推定Aランクの討伐なんて、アタシまだ片手で数えられる程度だよ」
「その回数でも、Aランクと戦って生き残っている時点でハンターとして充分な功績なんだ。次は隊長としての経験を積めって事だろう」
フェリペは二十年以上ハンターとして生きているベテランで、ランクはアレックスと同じBだ。討伐隊の隊長を何度も務めており、今回はコカトリス特殊個体の討伐隊員としてアレックスやスイと同行している。
「アタシは人を動かすより自分で動く方が好きだし向いてるんだけど」
「気持ちは解る。だが上位ハンターには有事の際の指揮能力も求められる。勿論、適性を見て指揮役を任せるかどうかは決められるが、やらせてみないと解らんと言う訳だ。何事も経験だ、やってみろ」
「あーい」
大先輩に諭されて、アレックスはまだ不満気ながらも了承した。
「推定Aランクの討伐隊に入れられんのは初めてだなぁ。またよろしく頼むぜ、スイ」
『はい、よろしくお願いします。ニコラスさん』
《…………》
「特殊個体と戦う前に死にそうな気するんだけど。俺大丈夫?」
最後尾にいるスイを真ん中に、反対側から睨んでくるコハクに生命の危機を感じたニコラスはスイに隠れて冷や汗を流す。
「……何で……私……何で……」
「……ん?」
不安そうな声でぼそぼそと喋る声が聞こえてきて、ニコラスは前を見た。Bランクの二人とスイ達の間に女性が歩いている。
「コ、コカトリス特殊個体の討伐に何で私みたいなのが……皆さんの命を預かるのに……」
「俺より大丈夫じゃなさそうな奴がいた」
医療ギルド所属の治癒士で、今回の討伐隊の一人であるエルサだ。陽気な性格が多い南大陸の人間には珍しく後ろ向きな性格をしており、今もどんよりとした空気を纏っている。
今回の特殊個体討伐はこの五人、そこにスイの従魔の二匹を加えて挑む事になる。
エルサを見ていたスイは、西大陸にいる友人のエルムを思い出した。
『(名前も似てる。そんな事もあるんだなぁ)』
スイは歩みを速める。自分の世界に篭もり、悲観的な独り言を続けるエルサは隣にいるスイに気付かない。
『エルサさん』
「ひっ!? ス、スイさん……!? ごめんなさいごめんなさい……! 私みたいな屑中の屑な存在が治癒士で……! い、今からでも戻って支部長に別の人に同行してもらうように言いに行きませんか……?」
「「「そんな時間無いから却下」」」
「そ、そんなぁ……!」
先頭を歩くBランクハンター二人とスイの隣りに来たニコラスに即断され、エルサは最早半泣きである。
『エルサさん、医療ギルドの支部長って、どんな方ですか?』
「え……え?」
スイの唐突な質問にエルサはぽかんと口を開けた。
「えぇっと……女性の方、です」
『はい』
「医療ギルドは他のギルドに比べて女性支部長が多いですが、それでもやっぱり比率的には男性の方が多くて。その中でも多大な功績を上げて支部長になられたお方で」
『はい』
「広範囲の治癒魔法も使えて、魔力も多くて。沢山の治癒士が支部長に見出されては高名な治癒士になって」
『はい』
「……才能なんて何も持ってなくて、仕事も満足に出来ない私を治癒士にしてくれた、大恩あるお方です……」
『凄い方なんですね』
「凄い方なんです」
慕っているのか、医療ギルド支部長の話をするエルサからは悲愴さは薄れている。
『それならきっと、エルサさんも凄い治癒士になれるんですよ』
「……え?」
『だって、支部長に見出されて育てられた沢山の方が高名な治癒士になったんですよね? そんな支部長が治癒士にしたエルサさんも、きっとその素質があるんです』
「わ、私なんかにそんな……!」
『支部長の人を見る眼を疑うんですか?』
「……それ、は……」
『信じてみませんか? 支部長の眼と、エルサさん自身の力を』
「……お役に、立てるんでしょうか……」
『支部長が上位モンスターの討伐隊の一人としてエルサさんを任命したんですから、その力はきっとあるんですよ。頼りにしてます』
「頼りに……。……やるだけ……やって、みます」
不安さは消えないが、それでもエルサは微笑みを浮かべた。強ばってはいるけれど先程までの死にそうな顔よりはずっと良い。
治癒士が頼りないと、生命を預ける側にも不安が伝染する。
「(……へぇ、大したもんだ)」
意図してかどうかは判断出来ないが、エルザを僅かでも前向きにさせたスイにニコラスは感心した。
二人の会話を聞いていたアレックスが、前方を警戒したままフェリペに話しかける。
「良い子でしょ、アタシのスイは」
「良い子だな。お前のでは無いと思うが」
「アタシのだよ!」
「違ウデショ! ゴ主人ハザクロトコハクノ!」
「そこにアタシもいれて」
「ダメ」
「何で!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぐアレックスとザクロに、コハクが鼻で大きく息を吐きながらスイに寄り添う。コハクとザクロ達を見比べながら、エルサは口元を押さえて少しだけ声を出して笑った。
「スイさんは……人にもモンスターにも好かれてるんですね」
これから推定Aランクと戦うとは思えない程、和やかな空気が討伐隊の皆を包んでいた。
ゼルテン鉱山の中、不満気に唇を尖らせているのはアレックスだ。
「次はコカトリス特殊個体の討伐隊隊長に任命する」
「人使い荒くない?」
「上位ハンターは何処行ってもそうだ。諦めろ」
それが、二日前にチェンジリザードの調査を終え、町に戻ってきたアレックスがギルドに入った瞬間にラシャンと交わした会話だった。
「そもそもフェリペさんがいるのにアタシが隊長ってのもなぁ。推定Aランクの討伐なんて、アタシまだ片手で数えられる程度だよ」
「その回数でも、Aランクと戦って生き残っている時点でハンターとして充分な功績なんだ。次は隊長としての経験を積めって事だろう」
フェリペは二十年以上ハンターとして生きているベテランで、ランクはアレックスと同じBだ。討伐隊の隊長を何度も務めており、今回はコカトリス特殊個体の討伐隊員としてアレックスやスイと同行している。
「アタシは人を動かすより自分で動く方が好きだし向いてるんだけど」
「気持ちは解る。だが上位ハンターには有事の際の指揮能力も求められる。勿論、適性を見て指揮役を任せるかどうかは決められるが、やらせてみないと解らんと言う訳だ。何事も経験だ、やってみろ」
「あーい」
大先輩に諭されて、アレックスはまだ不満気ながらも了承した。
「推定Aランクの討伐隊に入れられんのは初めてだなぁ。またよろしく頼むぜ、スイ」
『はい、よろしくお願いします。ニコラスさん』
《…………》
「特殊個体と戦う前に死にそうな気するんだけど。俺大丈夫?」
最後尾にいるスイを真ん中に、反対側から睨んでくるコハクに生命の危機を感じたニコラスはスイに隠れて冷や汗を流す。
「……何で……私……何で……」
「……ん?」
不安そうな声でぼそぼそと喋る声が聞こえてきて、ニコラスは前を見た。Bランクの二人とスイ達の間に女性が歩いている。
「コ、コカトリス特殊個体の討伐に何で私みたいなのが……皆さんの命を預かるのに……」
「俺より大丈夫じゃなさそうな奴がいた」
医療ギルド所属の治癒士で、今回の討伐隊の一人であるエルサだ。陽気な性格が多い南大陸の人間には珍しく後ろ向きな性格をしており、今もどんよりとした空気を纏っている。
今回の特殊個体討伐はこの五人、そこにスイの従魔の二匹を加えて挑む事になる。
エルサを見ていたスイは、西大陸にいる友人のエルムを思い出した。
『(名前も似てる。そんな事もあるんだなぁ)』
スイは歩みを速める。自分の世界に篭もり、悲観的な独り言を続けるエルサは隣にいるスイに気付かない。
『エルサさん』
「ひっ!? ス、スイさん……!? ごめんなさいごめんなさい……! 私みたいな屑中の屑な存在が治癒士で……! い、今からでも戻って支部長に別の人に同行してもらうように言いに行きませんか……?」
「「「そんな時間無いから却下」」」
「そ、そんなぁ……!」
先頭を歩くBランクハンター二人とスイの隣りに来たニコラスに即断され、エルサは最早半泣きである。
『エルサさん、医療ギルドの支部長って、どんな方ですか?』
「え……え?」
スイの唐突な質問にエルサはぽかんと口を開けた。
「えぇっと……女性の方、です」
『はい』
「医療ギルドは他のギルドに比べて女性支部長が多いですが、それでもやっぱり比率的には男性の方が多くて。その中でも多大な功績を上げて支部長になられたお方で」
『はい』
「広範囲の治癒魔法も使えて、魔力も多くて。沢山の治癒士が支部長に見出されては高名な治癒士になって」
『はい』
「……才能なんて何も持ってなくて、仕事も満足に出来ない私を治癒士にしてくれた、大恩あるお方です……」
『凄い方なんですね』
「凄い方なんです」
慕っているのか、医療ギルド支部長の話をするエルサからは悲愴さは薄れている。
『それならきっと、エルサさんも凄い治癒士になれるんですよ』
「……え?」
『だって、支部長に見出されて育てられた沢山の方が高名な治癒士になったんですよね? そんな支部長が治癒士にしたエルサさんも、きっとその素質があるんです』
「わ、私なんかにそんな……!」
『支部長の人を見る眼を疑うんですか?』
「……それ、は……」
『信じてみませんか? 支部長の眼と、エルサさん自身の力を』
「……お役に、立てるんでしょうか……」
『支部長が上位モンスターの討伐隊の一人としてエルサさんを任命したんですから、その力はきっとあるんですよ。頼りにしてます』
「頼りに……。……やるだけ……やって、みます」
不安さは消えないが、それでもエルサは微笑みを浮かべた。強ばってはいるけれど先程までの死にそうな顔よりはずっと良い。
治癒士が頼りないと、生命を預ける側にも不安が伝染する。
「(……へぇ、大したもんだ)」
意図してかどうかは判断出来ないが、エルザを僅かでも前向きにさせたスイにニコラスは感心した。
二人の会話を聞いていたアレックスが、前方を警戒したままフェリペに話しかける。
「良い子でしょ、アタシのスイは」
「良い子だな。お前のでは無いと思うが」
「アタシのだよ!」
「違ウデショ! ゴ主人ハザクロトコハクノ!」
「そこにアタシもいれて」
「ダメ」
「何で!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぐアレックスとザクロに、コハクが鼻で大きく息を吐きながらスイに寄り添う。コハクとザクロ達を見比べながら、エルサは口元を押さえて少しだけ声を出して笑った。
「スイさんは……人にもモンスターにも好かれてるんですね」
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