拾われ子のスイ

蒼居 夜燈

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第四章 南大陸

拾われ子と万能薬

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『ただいま戻りました!』

 教会の扉を勢い良く開けて駆け込んで来たスイに、中にいる全員の視線が集中する。

「嬢ちゃん、無事だったか……!」

『遅くなってすみません! エルフの里の長老さんに万能薬をいただいて来ました』

「万能薬!?」

「エルフの里だと……!? やはりまだ存在していたのか!?」

 教会内が騒がしくなるが、エルフ達の事情を説明するよりも先にするべき事がある。
 スイは石化したドルベルトの前に立つと、魔力操作で万能薬を半分程取り出し、シャワー状にしてドルベルトに掛けた。薬液がドルベルトの表面を濡らし、浸透していく。
 皆が固唾を呑んで見守る中、ドルベルトの顔にヒビが入った。

『!?』

「ド、ドルベルト!? 耐えろ、壊れるな!」

『間に合わなかった……!?』

 手や足にもヒビが入り、広がっていく。このまま崩れてしまうのか。
 嫌な考えが過ぎったがヒビが入った所から石が剥落し、浅黒い肌が露わになった。

「おぉっ!」

「石化が解けていくぞ!」

 頭部の石化が解け、夕陽色の眼がひとつ瞬く。
 
「……ぅ、したみ、んな……な、だ……?」

「ドルベルト! 俺が解るか!? 解るな!?」

「お、おぅ……?」

 戸惑いながら頷いたドルベルトに、教会内が歓声で満ちた。

「奇跡だ……! 精霊の奇跡だ!!」

「エルフに感謝を!」

 きょとんとするドルベルトに、心底安堵した表情を浮かべた司祭がスイに顔を向ける。

「万能薬を譲ってくれたエルフには勿論ですが、それよりもそうするように働きかけてくれたハンタースイに感謝すべきでしょう。ハンタースイ、心より御礼申し上げます」

「そうだ! 嬢ちゃん、アンタのお陰だ! 本当に、本当にありがとう……!」

『いえ、ドルベルトさんが助かって本当に良かったです』

 助かって良かった。助けられて良かった。
 スイもまた、心からの笑顔を浮かべて二人からの礼に応えた。

「うおっ!」

 どさりと重い音が聞こえ、そちらを向くと驚いた顔でドルベルトが座り込んでいた。首から下はまだ少し石化が残っている。

「か、から…だ、が……うまく、うごか……のど、も……」

「石化の呪いの弊害でしょう。万能薬を飲めば、身体内部から解呪を促進出来る筈です」

『これを全部飲んでください』

「あ、あぁ……苦っ!」

 呻きながらも残りの万能薬を飲み干すと、身体に残っていた石化は全て剥がれ落ちた。蜂蜜を混ぜた上回復薬も飲み、筋肉や喉の異常が消えると漸くドルベルトは立ち上がる。
 何が起きているのか一人だけ理解出来ていなかったドルベルトは、デルベルトから説明を受けて驚いていたが、スイに顔を向けると礼の言葉を述べた。

「そうだったのか、俺の為に……。ありがとな、お嬢さん。アンタが助けてくれなかったら、きっと俺は死んでた」

「しっかし、エルフの奴等がよく万能薬なんか作ってくれたなぁ……。純度が高くても水晶一個で対価になるか、不安はあったんだが……」

『あ。これ返されました』

 アイテムポーチから水晶を出して見せると、デルベルトが目を見開いた。

「は!? じゃあどうやって万能薬これを貰って来たんだ!?」

 スイは帰らずの沼地やエルフの里であった事をかいつまんで説明する。所々で司祭や、デルベルト・ドルベルトの職人兄弟に質問され、最終的にはほぼ一から十まで話す事になった。

「……嬢ちゃん、アンタ……随分無茶をさせちまったなぁ……」

「アルラウネと遭遇してよくもまぁ無事に……この礼は必ずする。アンタは命の恩人だからな」

『気にしないでください。私もハンターですから』

「アルラウネと戦ったならば、ハンターズギルドに報告しなければなりませんね。ドルベルトさんは念の為医療ギルドで診てもらう方が良いでしょう」

「医療ギルドには俺が付き添うから、嬢ちゃんはハンターズギルドに行け」

「鉱山のモンスターについて、何かギルドの方で動きがあったみたいだぞ。報告の事もあるし、お嬢ちゃんはギルドに急いだ方が良い」

 デルベルトに続き、他のドワーフ職人もスイにギルドに行くよう促す。

『解りました。ドルベルトさん、お大事に』

「あぁ。ありがとうよ」

 教会を後にしたスイはハンターズギルドへ向かう。中に入ると、ざわつくハンター達の中にいたニコラスと視線があった。
 ハンター達の間をすり抜けてニコラスがスイに歩み寄る。

『ただいま戻りました』

「おかえり。どうだった?」

『エルフの里の長老さんからいただいた万能薬で、ドルベルトさんの石化の呪いは解けました。ギルドの方は、何か変化はありましたか?』

「鉱山の奥に出たモンスターについて、調査隊が昨日帰ってきた所だ。幸い、石化した奴はいなかったけど全員青白い顔して戻ってきた。俺達はギルドからの発表を待ってる所」

 ガチャリと扉が開く音が聞こえ、スイとニコラス含めハンター全員の眼がそちらを向く。眉間に皺を寄せた支部長ラシャンは、ハンター達を見回すと重々しい声を響かせた。

「ゼルテン鉱山の奥に出た未知のアンノウンモンスターについて、調査結果に基きハンターズギルドはコカトリスの――」

「コカトリス!?」

「馬鹿な、何で鉱山なんかにコカトリスが……」

 雄鶏の頭に爬虫類の尾を持つコカトリス。石化させた相手を強靭な二本の足で壊して殺そうとする凶悪なモンスターだ。危険度ランクはB+となっている。

「コカトリスって、デカくても幼児くらいだろ? 鉱山の奥で見た奴はどう見ても俺より遥かにデカかったぞ」

 ニコラスの言葉に、ラシャンが溜息を吐いた。

「まだ話は終わっていない。ギルドは、このモンスターをコカトリスの特殊個体だと仮定した」

 しぃん、とロビーが静まった。通常種がB+のモンスター、その特殊個体となれば危険度はAランクとなる。

「……よって、ハンターズギルドはこのモンスターを早急に討伐するべきと判断した」

「バッ……本気か支部長! 鉱山の狭い道で石化の王と戦えってのか!?」

「そうだ。モンスターそのものの危険性と、鉱山から出てくる可能性、そしてその際に町に出る被害を考えると放置は出来ない」

「町のイベントまでまだ日がある。Bランクハンターはそんなにいないぞ!」

「解っている。道の狭さもあるから大人数で討伐は出来ない。別件の調査でまだ戻ってきていないが、Bランクハンターのアレックスを隊長に置いて少数精鋭で討伐隊を組む。スイは戻ってきているか?」

『は、はい』

 手をあげて返事をしたスイに、周りのハンター達が自然と道をあける。視線があったラシャンの眼に、スイは覚えがあった。

「お前は北大陸でAランク帯と思しき特殊個体トロール討伐の実績がある。アレックスと共に討伐隊の一員となってもらう。準備しておけ」

 セオドアやベルゲと同じ「ハンターズギルド支部長」の眼でそう告げられたスイは、短く『了解』とだけ答え、ショートソードの割れているポンメルにそっと手を添えた。
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