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第四章 南大陸
拾われ子VSオルラーゼル 前編
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カーテンと窓を開けると、熱風がスイの頬を撫でて部屋の中に入った。早朝にも関わらず、太陽の光は既に強い。
外からは賑やかな声が聞こえる。屋台を準備する者、勝利者を予想する者、贔屓の出場者を応援する者。それらも、老若男女様々だ。
《おはよう、スイ》
後ろから低い声が聞こえて、スイは振り返った。
『おはよう、コハク。珍しく眠そうじゃないね?』
《うん》
尻尾をゆっくり揺らしているコハクの頭の上で、ザクロが短く鳴いた。
「ゴ主人、オハヨー」
『おはよう、ザクロ。今日の調子はどう?』
「ン! ザクロハ今日モ元気!」
バサリと両翼を広げたザクロは、スイに頭を撫でられて「ムフー!」とご満悦だ。
《で》
『?』
《スイは?》
「ゴ主人ハ?」
従魔二匹の問いに、スイはひとつ頷いて答える。
『――万全だよ』
雲ひとつない紺碧の空の下、闘技大会がついに始まる。
「らっしゃい! サウスモウの串焼きだよ! 観戦しながら食うのにピッタリだよ!」
「ウチのエールは美味いよー! 大ジョッキで飲みごたえ抜群! キンキンに冷えてるよー!」
書き入れ時の屋台は呼び込みにも精が出る。次々に人が集まり、忙しさと喜びに尚更声を張り上げる一方で、観客席では屋台で買った物を手に試合について語る者達の声が、其処彼処から聞こえてくる。
「第一試合からオルラーゼルが出るなんて、今回は初戦から見応えありそうだな!」
「そうかぁ? 相手は子どもだろ? テキトーにあしらって、一撃ではい終わりってなるだろ」
「単純過ぎ。子どもとは言え、特例参加の最年少ハンターだぞ? しかもランクはC。意外と奮戦すると思うね、俺は」
「とか言って、どっちに賭けたんだよ?」
「…………オルラーゼル」
「「「ダハハハハハ!!」」」
エールが並々注がれた大ジョッキを持ったニコラスは、人々の会話に耳を澄ませる。次に聞こえたのは、やや高い声だ。
「第一試合のスイって奴、おれ見た! お、女だった!」
「女!? じゃあオルラーゼルには勝てないか……」
「でもハンターだろ? 冒険者とハンターだったら、ハンターの方が戦い慣れてるって言うじゃん。もしかしたら……」
「オルラーゼルは強いし憧れるけど、スイに勝ってほしいよな。おれらと歳変わらないのに、Cランクハンターなんてめちゃくちゃ格好良いじゃん」
「か、可愛かったよ。髪も肌も白くて、眼は青かった」
「マジ? 気になる、早く始まらねーかなー!」
「おれ、スイが勝つ方に串焼きの肉一個賭ける!」
「おれも!」
「オレも!」
「誰かオルラーゼルにしろよ! 賭けが成立しないだろ!」
果実水片手に盛り上がる少年達の会話に滲み出る幼稚な不健全さに、ニコラスは少しだけ笑った。
「(ガキは町の大人を見て育つからなー)」
エールを飲みながら、ニコラスは視線を下げた。
闘技大会の規約でスイと共に戦えない為、コハクとザクロは試合中はニコラスと一緒に行動する事になっている。
中央にあるリングを、コハクとザクロは共に眺めていた。
「一番前ダカラ、リングガヨク見エルネ」
《スイはまだいないのか》
コハクの尻尾が忙しなく動く。そわそわしている証拠だ。ザクロの顔がくるりとニコラスに向く。
「ゴ主人、マダ?」
「紹介されてからリングに上がるから、今はまだあの扉の向こうだ。あ、そろそろ始まるな」
一人の男がリングに上がる。スーツ姿と言う、闘技大会のリングの上には相応しくない服装のその男は、拡声の魔道具を使って話し始めた。
「あーあーあー、テスッテスッ……。えー、皆様、本日はようこそ闘技場にお集まりくださいました!」
わっ、と観客席が沸く。ザクロは驚き、コハクは不快そうに眉間を寄せて耳を倒した。
「今回も、司会&審判はワタクシ、リポールがお務め致します! リング上の選手達の表情を、息遣いを、熱気を! ありのままに! 皆様にお伝えする! それがワタクシの役目であり――おっと、そろそろ熱い闘いを待ちわびている皆様から石や火球が飛んできそうですね! 空気が読める審判リポール、そろそろ選手紹介をしましょう!」
バッ、とリポールは東側の扉に手を向ける。
「前回の決勝戦では惜しくもレイゴット選手に敗れました。あの時の悔しさは今日まで消える事は無く、その身から繰り出される技を更に鋭くさせた。レイゴット選手への雪辱を果たし、今大会優勝するのはこの男か!? オルラーゼル!!」
「「「ワァァァァァア!!」」」
観客席全体の空気が揺れる程の大歓声を浴びながら、開かれた扉からオルラーゼルが片手を上げながら姿を見せる。
リング上にオルラーゼルが上がると、リポールは西側の扉に手を向けた。
「今大会、未成年の特例参加がいる事は、ご存知の方も多いでしょう! 十二歳と言う若年でありながら、Cランクハンターとして数々の討伐依頼を完遂させてきました! 儚く可憐な容姿を持ちながら、異常個体や特殊個体すらも討伐する程の実力の持ち主……今大会きってのダークホースとなるか!? スイ!!」
『…………』
西側の扉から姿を見せ、真顔でリングへと向かうスイの頬は赤い。
『(す、凄い恥ずかしい……!)』
「「「頑張れーー、スイーー!」」」
『!?』
主に同年代からの応援に、スイは眼を丸くしたが足を止めずにリングへと上がった。
元Bランク冒険者のオルラーゼルと、現Cランクハンターのスイが対峙する。
「まさか初戦で当たるとはな。悪いが、手加減はしないぞ。俺は今回こそレイゴットに勝つ」
『私も全力で闘います。私にも、勝ちたい理由がありますから』
「良い眼だな。望む所だ」
「既に両者の炎は燃え上がっている! 一歩も引かない二人は、どんな闘いを見せてくれるのか!? それではオルラーゼルVSスイ……」
観客席全体に、物理攻撃と魔法を完全遮断する結界が展開される。
そして、二人は同時に武器を抜いた。
「第一試合、開始!」
「ふんっ!!」
振り下ろされたクレイモアが叩き付けられる。リングを割り、石片を舞いあげた其処にスイはいない。
「後ろか!」
片手で後方へと振ったクレイモアは、空気を裂きながらスイのショートソードを受け止めた。
僅かに眉を寄せたスイは、反撃が来る前に後方へと跳んだ。痺れる右手をショートソードから離して振る。
「速いな。動きも判断も」
『オルラーゼルさんもお強いです。が』
「が?」
『まだ本気じゃないですよね』
「あぁ。だが、そりゃお前もだろう?」
スイを見据えて、オルラーゼルは笑う。
「今から全力を出す。だからお前も出せ、ちびっ子ハンター。お前に手加減される筋合いは無い。魔法を使え」
凄みのある笑顔を浮かべるオルラーゼルを、スイは臆さずに真正面から見詰める。そして、右手だけでショートソードを持つと左手を離した。
『いきます』
「来い――っ!?」
スイの左手で弾けた魔力に、覚えのある属性の力を感じたオルラーゼルの身体は反射的に動いていた。
『召雷』
「っぶねぇ……!」
一瞬前まで居た所は、黒く焦げている。
『氷槍』
「逃げるオルラーゼル選手! ホッとしたのも束の間、その背を討とうと氷の槍が放たれた! 一瞬でも止まれば穿たれるぞ、どうするオルラーゼル!?」
「うめぇな! 良い腕してやがる! だがな」
足を止めたオルラーゼルが振り返る。大きく振り抜かれたクレイモアは、オルラーゼルに迫った氷槍を全て叩き割った。
外からは賑やかな声が聞こえる。屋台を準備する者、勝利者を予想する者、贔屓の出場者を応援する者。それらも、老若男女様々だ。
《おはよう、スイ》
後ろから低い声が聞こえて、スイは振り返った。
『おはよう、コハク。珍しく眠そうじゃないね?』
《うん》
尻尾をゆっくり揺らしているコハクの頭の上で、ザクロが短く鳴いた。
「ゴ主人、オハヨー」
『おはよう、ザクロ。今日の調子はどう?』
「ン! ザクロハ今日モ元気!」
バサリと両翼を広げたザクロは、スイに頭を撫でられて「ムフー!」とご満悦だ。
《で》
『?』
《スイは?》
「ゴ主人ハ?」
従魔二匹の問いに、スイはひとつ頷いて答える。
『――万全だよ』
雲ひとつない紺碧の空の下、闘技大会がついに始まる。
「らっしゃい! サウスモウの串焼きだよ! 観戦しながら食うのにピッタリだよ!」
「ウチのエールは美味いよー! 大ジョッキで飲みごたえ抜群! キンキンに冷えてるよー!」
書き入れ時の屋台は呼び込みにも精が出る。次々に人が集まり、忙しさと喜びに尚更声を張り上げる一方で、観客席では屋台で買った物を手に試合について語る者達の声が、其処彼処から聞こえてくる。
「第一試合からオルラーゼルが出るなんて、今回は初戦から見応えありそうだな!」
「そうかぁ? 相手は子どもだろ? テキトーにあしらって、一撃ではい終わりってなるだろ」
「単純過ぎ。子どもとは言え、特例参加の最年少ハンターだぞ? しかもランクはC。意外と奮戦すると思うね、俺は」
「とか言って、どっちに賭けたんだよ?」
「…………オルラーゼル」
「「「ダハハハハハ!!」」」
エールが並々注がれた大ジョッキを持ったニコラスは、人々の会話に耳を澄ませる。次に聞こえたのは、やや高い声だ。
「第一試合のスイって奴、おれ見た! お、女だった!」
「女!? じゃあオルラーゼルには勝てないか……」
「でもハンターだろ? 冒険者とハンターだったら、ハンターの方が戦い慣れてるって言うじゃん。もしかしたら……」
「オルラーゼルは強いし憧れるけど、スイに勝ってほしいよな。おれらと歳変わらないのに、Cランクハンターなんてめちゃくちゃ格好良いじゃん」
「か、可愛かったよ。髪も肌も白くて、眼は青かった」
「マジ? 気になる、早く始まらねーかなー!」
「おれ、スイが勝つ方に串焼きの肉一個賭ける!」
「おれも!」
「オレも!」
「誰かオルラーゼルにしろよ! 賭けが成立しないだろ!」
果実水片手に盛り上がる少年達の会話に滲み出る幼稚な不健全さに、ニコラスは少しだけ笑った。
「(ガキは町の大人を見て育つからなー)」
エールを飲みながら、ニコラスは視線を下げた。
闘技大会の規約でスイと共に戦えない為、コハクとザクロは試合中はニコラスと一緒に行動する事になっている。
中央にあるリングを、コハクとザクロは共に眺めていた。
「一番前ダカラ、リングガヨク見エルネ」
《スイはまだいないのか》
コハクの尻尾が忙しなく動く。そわそわしている証拠だ。ザクロの顔がくるりとニコラスに向く。
「ゴ主人、マダ?」
「紹介されてからリングに上がるから、今はまだあの扉の向こうだ。あ、そろそろ始まるな」
一人の男がリングに上がる。スーツ姿と言う、闘技大会のリングの上には相応しくない服装のその男は、拡声の魔道具を使って話し始めた。
「あーあーあー、テスッテスッ……。えー、皆様、本日はようこそ闘技場にお集まりくださいました!」
わっ、と観客席が沸く。ザクロは驚き、コハクは不快そうに眉間を寄せて耳を倒した。
「今回も、司会&審判はワタクシ、リポールがお務め致します! リング上の選手達の表情を、息遣いを、熱気を! ありのままに! 皆様にお伝えする! それがワタクシの役目であり――おっと、そろそろ熱い闘いを待ちわびている皆様から石や火球が飛んできそうですね! 空気が読める審判リポール、そろそろ選手紹介をしましょう!」
バッ、とリポールは東側の扉に手を向ける。
「前回の決勝戦では惜しくもレイゴット選手に敗れました。あの時の悔しさは今日まで消える事は無く、その身から繰り出される技を更に鋭くさせた。レイゴット選手への雪辱を果たし、今大会優勝するのはこの男か!? オルラーゼル!!」
「「「ワァァァァァア!!」」」
観客席全体の空気が揺れる程の大歓声を浴びながら、開かれた扉からオルラーゼルが片手を上げながら姿を見せる。
リング上にオルラーゼルが上がると、リポールは西側の扉に手を向けた。
「今大会、未成年の特例参加がいる事は、ご存知の方も多いでしょう! 十二歳と言う若年でありながら、Cランクハンターとして数々の討伐依頼を完遂させてきました! 儚く可憐な容姿を持ちながら、異常個体や特殊個体すらも討伐する程の実力の持ち主……今大会きってのダークホースとなるか!? スイ!!」
『…………』
西側の扉から姿を見せ、真顔でリングへと向かうスイの頬は赤い。
『(す、凄い恥ずかしい……!)』
「「「頑張れーー、スイーー!」」」
『!?』
主に同年代からの応援に、スイは眼を丸くしたが足を止めずにリングへと上がった。
元Bランク冒険者のオルラーゼルと、現Cランクハンターのスイが対峙する。
「まさか初戦で当たるとはな。悪いが、手加減はしないぞ。俺は今回こそレイゴットに勝つ」
『私も全力で闘います。私にも、勝ちたい理由がありますから』
「良い眼だな。望む所だ」
「既に両者の炎は燃え上がっている! 一歩も引かない二人は、どんな闘いを見せてくれるのか!? それではオルラーゼルVSスイ……」
観客席全体に、物理攻撃と魔法を完全遮断する結界が展開される。
そして、二人は同時に武器を抜いた。
「第一試合、開始!」
「ふんっ!!」
振り下ろされたクレイモアが叩き付けられる。リングを割り、石片を舞いあげた其処にスイはいない。
「後ろか!」
片手で後方へと振ったクレイモアは、空気を裂きながらスイのショートソードを受け止めた。
僅かに眉を寄せたスイは、反撃が来る前に後方へと跳んだ。痺れる右手をショートソードから離して振る。
「速いな。動きも判断も」
『オルラーゼルさんもお強いです。が』
「が?」
『まだ本気じゃないですよね』
「あぁ。だが、そりゃお前もだろう?」
スイを見据えて、オルラーゼルは笑う。
「今から全力を出す。だからお前も出せ、ちびっ子ハンター。お前に手加減される筋合いは無い。魔法を使え」
凄みのある笑顔を浮かべるオルラーゼルを、スイは臆さずに真正面から見詰める。そして、右手だけでショートソードを持つと左手を離した。
『いきます』
「来い――っ!?」
スイの左手で弾けた魔力に、覚えのある属性の力を感じたオルラーゼルの身体は反射的に動いていた。
『召雷』
「っぶねぇ……!」
一瞬前まで居た所は、黒く焦げている。
『氷槍』
「逃げるオルラーゼル選手! ホッとしたのも束の間、その背を討とうと氷の槍が放たれた! 一瞬でも止まれば穿たれるぞ、どうするオルラーゼル!?」
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