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第四章 南大陸
拾われ子VSオルラーゼル 後編
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『!』
「躱す事だけが回避じゃ無ぇんだよ!」
『氷礫!』
オルラーゼルは片腕で目を守りながら、スイに向かって突っ込んだ。氷礫が当たった所から流血するが、気にせずにクレイモアを振り回す。
それを避けたスイに、再び距離を取られる前にとオルラーゼルはクレイモアをリングに突き刺した。
「大地の激動!」
『ぅわっ!?』
リングが激しく揺れ、一部分が隆起する。足を取られて動けないスイに向けて、オルラーゼルは一度深く息を吸うとクレイモアを抜き、横に振り払った。
「剣閃!」
『! 氷の盾!』
剣技のひとつである剣閃は、刃から不可視の剣撃を放つ。射程距離は長くないが、大岩をも斬り裂く威力を持つそれを、スイは分厚い氷の盾を複数枚張って防いだ。
最後の盾が斬られると同時にスイはその場から跳び、オルラーゼルから離れる。左腕に走った小さな切り傷を一瞥して、スイはオルラーゼルに視線を戻した。
『(全部割られても防ぎきれなかったか……でも)』
バチッと左手の上で小さく雷が弾ける。
『(地属性持ちか)』
属性相性は、互いに最高で最悪だ。
真っ向から武器でぶつかっても、体格差や膂力の差でスイが圧倒的に不利だ。それを二人とも解っているから、スイは距離を取ろうとするし、オルラーゼルは距離を縮めようとする。
「(……あの雷魔法が厄介だな)」
離れれば落としてきて、詰めれば選抜試験のように身体に直接流される。魔法の使い手でありながら、遠近どちらの戦い方にも対応出来る。近接戦を好む者にはやりにくい相手だ。
「(……気は進まないが、仕方ない)」
両手剣であるクレイモアを片手で持ったオルラーゼルは、スイに向かって走り出した。
『(……何だ? 何か狙ってる……)』
不審に思うが、このまま何もしなければ近付かれて近接戦になる。スイは再び、オルラーゼルに向けて雷魔法を放った。
『召雷!』
「大地の棘!」
『!! 雷矢!』
「何と、オルラーゼル選手! リングの一部を避雷針のように空に向けて高く突き出し、スイ選手の雷魔法を防いだー! これは予想外だったか? スイ選手、新たに複数の雷を放つが、オルラーゼル選手はこれをギリギリで避けていく!」
全ては躱しきれず、左腕に一発当たり、オルラーゼルは顔を顰めた。痛みと痺れで脱力した左腕をそのままに、オルラーゼルはクレイモアを持った右腕を振り被る。
「おらぁっ!」
『投……!?』
「おーっとぉっ!? オルラーゼル選手、得物をスイ選手に向かって投げたぞ!? どういう事だ!?」
猛烈な速さで向かってくるクレイモアを避けたスイに、丸腰のオルラーゼルが迫った。群青の眼が、後ろまで引かれた浅黒い右腕を認識する。
『っ……それが……!』
「狙いだ」
オルラーゼルの拳が、スイの鳩尾にめり込み、振り抜かれた。ショートソードが手から離れ、潰れた声を漏らしたスイの身体は場外に向けて山なりに飛んでいく。
『……ぁぐ、ぐ、ぅ……っ!』
「!」
突如、リングの縁に聳え立った氷の壁にスイの身体は激突し、リングの上に倒れ込んだ。
「クリティカルヒットォォォーーー! オルラーゼル選手の拳が完全にスイ選手を捕らえたーー! このまま試合終了かと思ったが、流石は期待のスイ選手、ダメージ覚悟で氷の盾を張り、場外を免れました!」
「(……盾? 違和感があったが……詠唱破棄で出しただけか……)」
「観客席の盛り上がりが最高潮です! オルラーゼル選手の一撃に興奮する歓声と!」
「「「ワァァァァァア!!」」」
「十二歳のスイ選手に容赦無い一撃を見舞った事への大非難!!」
「人でなしーー!」
「流石に可哀想だーー!」
「やりすぎだーー!」
「うるせぇ!!」
本人も自覚はあるらしく、気まずそうな顔で胸の辺りを抑えている。
「しかしこれは闘技大会! ここは闘技場! 情けはありません! 十秒以内に立ち上がらなければ、スイ選手ダウンにより、オルラーゼル選手の勝利となります! 十! 九! 八!」
リング上で始まったカウントダウンを聞くスイの腕に、力が込められた。
『…………っ!』
「意識はあるぞ! スイ選手、立ち上がれるか!? 五! 四!」
『(ま……まだ……まだやれる……!)』
身体を起こそうとする肘が、ガクガクと震える。
スイは、思い出していた。極寒の雪山で、身体がバラバラになったと錯覚する程の衝撃を。あの時の激しい痛みを。そして、自身の無力さへの悔しさを。
『(あの時に比べれば、このくらい……!)』
歯を食いしばり、痛みに歪む顔を上げて、上半身を起こしたスイは片方の膝を立てる。
「一……立った! 立ち上がりました、スイ選手! 試合続行です!」
全方位から驚愕と応援の声が沸き上がる。
激痛に悲鳴をあげる鳩尾を押さえて、スイは一度俯くと込み上げた胃液を吐いて口元を拭った。
「やるな。意識があるだけでも大したものなのに、立つとは」
『……トロールに、棍棒で殴られた時に比べれば……人間の拳なんて……軽いです……!』
「トロールに殴られてよく生きてたな」
『ハンターですから』
「何だその謎理論。だが……」
息を荒くしながらも、真っ直ぐに見据えてくる眼。
「(……子どもだが、良い面構えしやがる)」
精悍な顔つきに、オルラーゼルは歴戦のハンターを垣間見た。
「小さく華奢な身体に不屈の闘志を持つスイ選手! しかしその身体は既に限界を迎えている筈だ! どこまで闘えるのか、ここから逆転勝利に繋げられるのか!?」
「審判の言う通りだ。勝ちてぇ気持ちは解るが、若い時には負ける事も成長に繋がる。お前はここで――っ!?」
オルラーゼルのすぐ側を、雷が疾った。
『私は、諦める訳にはいきません。ハンターとしても、私個人としても……!』
「……何を言っても無駄か」
右の拳を前に出して、オルラーゼルは構える。
スイも、右手に雷の魔力を集めた。
互いの得物は、二人から離れた所に落ちている。
「決着間近か、二人の纏う空気が変わりました! 前回準優勝者のオルラーゼル、Cランクの最年少ハンタースイ。精霊はどちらに微笑むのか!?」
『…………』
「…………」
二人、動かずに見合ったまま、数十秒が過ぎた。
左腕が動かないとは言え、体力的にまだまだ余裕があるオルラーゼルだが、スイから眼を離さずにいる。
「(幼くとも、ハンターだな)」
一瞬の隙すら見逃さない。見せた瞬間にそこを突くと、狩る者の眼が物語っている。
しかしスイも動けずにいる。気を抜けば膝から崩れ落ちそうになるのだ。悟られないように虚勢を張って立ち続けながら、相手が隙を見せるのを待つ。
『(焦りは禁物だ、スイ。相手が動かなかったら、此方も待て)』
スイは、昔教えられた事を思い出す。
『(待てば相手の方から動き出す。待って、待って……)』
マリクの教えを、自分自身に言い聞かせる。
『(もし、それでも動かなければ)』
「! ここでスイ選手、先に動いた!」
殴られた時に落としたショートソードに向かって、スイが走った。スイが動いた事で、オルラーゼルもクレイモアを拾いに走る。それぞれの得物との距離はほぼ同等だが、脚の長さでオルラーゼルの方が早く拾い上げた。
右手にクレイモアを持ったオルラーゼルがスイの方に振り返る。
「――なっ!?」
ショートソードを拾いに行った筈のスイが、真後ろにいた。何も持っていないが、その左手には魔力が集まっている。
「(……誘い込まれたか!!)」
『(此方が動いて、隙を作らせれば良い)』
「だがこの距離なら逃げられまい!」
リング表面すれすれから縦にクレイモアを振り上げようとして、それは叶わなかった。
「何っ!?」
クレイモアとリングは、氷で繋がり一体化している。
「スイ選手、何という早業! 水魔法から氷魔法への鮮やかな切り替えで、オルラーゼル選手のクレイモアを封じました!」
『雷矢』
「ぐあっ!?」
右腕にも雷魔法を当てられ、両腕に力が入らなくなったオルラーゼルのこめかみを、冷や汗が流れた。
「ひとつずつ、相手の動きを封じていく……流石だ。確かに、ハンターの戦い方だ……だが、大地の棘!!」
『!』
隆起したリングに串刺しにされないようにと跳びながら下がるスイを、オルラーゼルが追う。
「俺にはまだ魔法と、この脚がある!」
オルラーゼルの左足からの蹴りが、スイの頭に迫った。スイは、その足に軽く手を添えながら、マリクとは別の人物を思い浮かべる。
もう一人の、ハンターの師匠を。
『(……力むな。抵抗するな。流せ、水のように、風のように……)』
「!?」
『(スイは身体が小さいから、大人相手だとどうしても力や手足の長さで負ける。真っ向からぶつかろうとするな)』
蹴りを受け流して、スイはオルラーゼルの脚を掴む。
『(相手の力が強いなら、それをそのまま利用して返せば良い)』
記憶の中で、しなやかに戦うその人に、スイは自分を重ねる。
『(――あの人のように)』
「馬鹿な……!」
「投げたーっ! その細腕の何処にそんな力を持っていたのか!? スイ選手、オルラーゼル選手の強烈な蹴りを流して投げ飛ばしたー! このまま場外となるか!?」
選抜試験でソウに投げ飛ばされたプロステのように、オルラーゼルは場外へ飛んでいく。
「くそっ! 大地の盾!」
スイの氷の盾を模倣して、オルラーゼルはリングの縁をせりあげる。しかし、その盾は氷の塊によって砕き壊された。
「!?」
オルラーゼルは、すぐ側までスイが来ている事に気付く。風の魔力を集めたスイは、右手をオルラーゼルに向けた。
『――空気砲』
「ぐほぁっ!?」
追撃により、オルラーゼルは場外へ激しく叩きつけられた。何度か転がり、ぴたりと止まる。
リポールが慌てて走り寄り、生存を確認するとリングに戻ってきて片手を上げた。
「オルラーゼル選手、場外落下により失格! 第一試合、スイ選手の勝利です!」
悲鳴と歓声が重なり合い、轟音となって闘技場の内外に響き渡った。
中央のリングで、それらを何処か遠くに聞きながら、スイは糸が切れた人形のように膝からがくりと折れてリングに座り込んだ。威力を抑えた為に魔力はまだ余裕があるが、身体の方が限界だった。
溝尾を押さえ、息を乱すスイに、影が重なる。
「悔しいが、お前の方が一枚上だった。見事だ、ちびっ子ハンター」
清々しいと言った表情で笑うオルラーゼルは、スイに向けて手を差し出した。
その手を握って、スイは震える膝に無理矢理力を入れて立つ。
『スイです』
「あぁ、そうだったな。ちびっ子ハンターってのは失礼だ。悪かった、ハンタースイ」
『いえ。お相手、ありがとうございました。とても強くて……学ぶ所が沢山ありました。闘えて良かったです』
「こっちこそな。レイゴットに勝つどころか初戦で負けてしまったが、お前との闘いは楽しかった。礼を言う。次の試合も勝てよ」
『はい』
「互いに健闘を称え合う姿の、何と美しい事でしょう! 幼いからと侮らずに本気で闘ったオルラーゼル選手! 敗北間際から諦めずに冷静に立ち向かい、逆転勝利を手にしたスイ選手! 第一試合から素晴らしい闘いを見せてくれたお二方に、皆様拍手をお願い致します!」
大音量の拍手が二人に降り注ぐ。スイは丁寧に頭を下げて感謝の意を示すと、オルラーゼルと共にリングを後にした。
「躱す事だけが回避じゃ無ぇんだよ!」
『氷礫!』
オルラーゼルは片腕で目を守りながら、スイに向かって突っ込んだ。氷礫が当たった所から流血するが、気にせずにクレイモアを振り回す。
それを避けたスイに、再び距離を取られる前にとオルラーゼルはクレイモアをリングに突き刺した。
「大地の激動!」
『ぅわっ!?』
リングが激しく揺れ、一部分が隆起する。足を取られて動けないスイに向けて、オルラーゼルは一度深く息を吸うとクレイモアを抜き、横に振り払った。
「剣閃!」
『! 氷の盾!』
剣技のひとつである剣閃は、刃から不可視の剣撃を放つ。射程距離は長くないが、大岩をも斬り裂く威力を持つそれを、スイは分厚い氷の盾を複数枚張って防いだ。
最後の盾が斬られると同時にスイはその場から跳び、オルラーゼルから離れる。左腕に走った小さな切り傷を一瞥して、スイはオルラーゼルに視線を戻した。
『(全部割られても防ぎきれなかったか……でも)』
バチッと左手の上で小さく雷が弾ける。
『(地属性持ちか)』
属性相性は、互いに最高で最悪だ。
真っ向から武器でぶつかっても、体格差や膂力の差でスイが圧倒的に不利だ。それを二人とも解っているから、スイは距離を取ろうとするし、オルラーゼルは距離を縮めようとする。
「(……あの雷魔法が厄介だな)」
離れれば落としてきて、詰めれば選抜試験のように身体に直接流される。魔法の使い手でありながら、遠近どちらの戦い方にも対応出来る。近接戦を好む者にはやりにくい相手だ。
「(……気は進まないが、仕方ない)」
両手剣であるクレイモアを片手で持ったオルラーゼルは、スイに向かって走り出した。
『(……何だ? 何か狙ってる……)』
不審に思うが、このまま何もしなければ近付かれて近接戦になる。スイは再び、オルラーゼルに向けて雷魔法を放った。
『召雷!』
「大地の棘!」
『!! 雷矢!』
「何と、オルラーゼル選手! リングの一部を避雷針のように空に向けて高く突き出し、スイ選手の雷魔法を防いだー! これは予想外だったか? スイ選手、新たに複数の雷を放つが、オルラーゼル選手はこれをギリギリで避けていく!」
全ては躱しきれず、左腕に一発当たり、オルラーゼルは顔を顰めた。痛みと痺れで脱力した左腕をそのままに、オルラーゼルはクレイモアを持った右腕を振り被る。
「おらぁっ!」
『投……!?』
「おーっとぉっ!? オルラーゼル選手、得物をスイ選手に向かって投げたぞ!? どういう事だ!?」
猛烈な速さで向かってくるクレイモアを避けたスイに、丸腰のオルラーゼルが迫った。群青の眼が、後ろまで引かれた浅黒い右腕を認識する。
『っ……それが……!』
「狙いだ」
オルラーゼルの拳が、スイの鳩尾にめり込み、振り抜かれた。ショートソードが手から離れ、潰れた声を漏らしたスイの身体は場外に向けて山なりに飛んでいく。
『……ぁぐ、ぐ、ぅ……っ!』
「!」
突如、リングの縁に聳え立った氷の壁にスイの身体は激突し、リングの上に倒れ込んだ。
「クリティカルヒットォォォーーー! オルラーゼル選手の拳が完全にスイ選手を捕らえたーー! このまま試合終了かと思ったが、流石は期待のスイ選手、ダメージ覚悟で氷の盾を張り、場外を免れました!」
「(……盾? 違和感があったが……詠唱破棄で出しただけか……)」
「観客席の盛り上がりが最高潮です! オルラーゼル選手の一撃に興奮する歓声と!」
「「「ワァァァァァア!!」」」
「十二歳のスイ選手に容赦無い一撃を見舞った事への大非難!!」
「人でなしーー!」
「流石に可哀想だーー!」
「やりすぎだーー!」
「うるせぇ!!」
本人も自覚はあるらしく、気まずそうな顔で胸の辺りを抑えている。
「しかしこれは闘技大会! ここは闘技場! 情けはありません! 十秒以内に立ち上がらなければ、スイ選手ダウンにより、オルラーゼル選手の勝利となります! 十! 九! 八!」
リング上で始まったカウントダウンを聞くスイの腕に、力が込められた。
『…………っ!』
「意識はあるぞ! スイ選手、立ち上がれるか!? 五! 四!」
『(ま……まだ……まだやれる……!)』
身体を起こそうとする肘が、ガクガクと震える。
スイは、思い出していた。極寒の雪山で、身体がバラバラになったと錯覚する程の衝撃を。あの時の激しい痛みを。そして、自身の無力さへの悔しさを。
『(あの時に比べれば、このくらい……!)』
歯を食いしばり、痛みに歪む顔を上げて、上半身を起こしたスイは片方の膝を立てる。
「一……立った! 立ち上がりました、スイ選手! 試合続行です!」
全方位から驚愕と応援の声が沸き上がる。
激痛に悲鳴をあげる鳩尾を押さえて、スイは一度俯くと込み上げた胃液を吐いて口元を拭った。
「やるな。意識があるだけでも大したものなのに、立つとは」
『……トロールに、棍棒で殴られた時に比べれば……人間の拳なんて……軽いです……!』
「トロールに殴られてよく生きてたな」
『ハンターですから』
「何だその謎理論。だが……」
息を荒くしながらも、真っ直ぐに見据えてくる眼。
「(……子どもだが、良い面構えしやがる)」
精悍な顔つきに、オルラーゼルは歴戦のハンターを垣間見た。
「小さく華奢な身体に不屈の闘志を持つスイ選手! しかしその身体は既に限界を迎えている筈だ! どこまで闘えるのか、ここから逆転勝利に繋げられるのか!?」
「審判の言う通りだ。勝ちてぇ気持ちは解るが、若い時には負ける事も成長に繋がる。お前はここで――っ!?」
オルラーゼルのすぐ側を、雷が疾った。
『私は、諦める訳にはいきません。ハンターとしても、私個人としても……!』
「……何を言っても無駄か」
右の拳を前に出して、オルラーゼルは構える。
スイも、右手に雷の魔力を集めた。
互いの得物は、二人から離れた所に落ちている。
「決着間近か、二人の纏う空気が変わりました! 前回準優勝者のオルラーゼル、Cランクの最年少ハンタースイ。精霊はどちらに微笑むのか!?」
『…………』
「…………」
二人、動かずに見合ったまま、数十秒が過ぎた。
左腕が動かないとは言え、体力的にまだまだ余裕があるオルラーゼルだが、スイから眼を離さずにいる。
「(幼くとも、ハンターだな)」
一瞬の隙すら見逃さない。見せた瞬間にそこを突くと、狩る者の眼が物語っている。
しかしスイも動けずにいる。気を抜けば膝から崩れ落ちそうになるのだ。悟られないように虚勢を張って立ち続けながら、相手が隙を見せるのを待つ。
『(焦りは禁物だ、スイ。相手が動かなかったら、此方も待て)』
スイは、昔教えられた事を思い出す。
『(待てば相手の方から動き出す。待って、待って……)』
マリクの教えを、自分自身に言い聞かせる。
『(もし、それでも動かなければ)』
「! ここでスイ選手、先に動いた!」
殴られた時に落としたショートソードに向かって、スイが走った。スイが動いた事で、オルラーゼルもクレイモアを拾いに走る。それぞれの得物との距離はほぼ同等だが、脚の長さでオルラーゼルの方が早く拾い上げた。
右手にクレイモアを持ったオルラーゼルがスイの方に振り返る。
「――なっ!?」
ショートソードを拾いに行った筈のスイが、真後ろにいた。何も持っていないが、その左手には魔力が集まっている。
「(……誘い込まれたか!!)」
『(此方が動いて、隙を作らせれば良い)』
「だがこの距離なら逃げられまい!」
リング表面すれすれから縦にクレイモアを振り上げようとして、それは叶わなかった。
「何っ!?」
クレイモアとリングは、氷で繋がり一体化している。
「スイ選手、何という早業! 水魔法から氷魔法への鮮やかな切り替えで、オルラーゼル選手のクレイモアを封じました!」
『雷矢』
「ぐあっ!?」
右腕にも雷魔法を当てられ、両腕に力が入らなくなったオルラーゼルのこめかみを、冷や汗が流れた。
「ひとつずつ、相手の動きを封じていく……流石だ。確かに、ハンターの戦い方だ……だが、大地の棘!!」
『!』
隆起したリングに串刺しにされないようにと跳びながら下がるスイを、オルラーゼルが追う。
「俺にはまだ魔法と、この脚がある!」
オルラーゼルの左足からの蹴りが、スイの頭に迫った。スイは、その足に軽く手を添えながら、マリクとは別の人物を思い浮かべる。
もう一人の、ハンターの師匠を。
『(……力むな。抵抗するな。流せ、水のように、風のように……)』
「!?」
『(スイは身体が小さいから、大人相手だとどうしても力や手足の長さで負ける。真っ向からぶつかろうとするな)』
蹴りを受け流して、スイはオルラーゼルの脚を掴む。
『(相手の力が強いなら、それをそのまま利用して返せば良い)』
記憶の中で、しなやかに戦うその人に、スイは自分を重ねる。
『(――あの人のように)』
「馬鹿な……!」
「投げたーっ! その細腕の何処にそんな力を持っていたのか!? スイ選手、オルラーゼル選手の強烈な蹴りを流して投げ飛ばしたー! このまま場外となるか!?」
選抜試験でソウに投げ飛ばされたプロステのように、オルラーゼルは場外へ飛んでいく。
「くそっ! 大地の盾!」
スイの氷の盾を模倣して、オルラーゼルはリングの縁をせりあげる。しかし、その盾は氷の塊によって砕き壊された。
「!?」
オルラーゼルは、すぐ側までスイが来ている事に気付く。風の魔力を集めたスイは、右手をオルラーゼルに向けた。
『――空気砲』
「ぐほぁっ!?」
追撃により、オルラーゼルは場外へ激しく叩きつけられた。何度か転がり、ぴたりと止まる。
リポールが慌てて走り寄り、生存を確認するとリングに戻ってきて片手を上げた。
「オルラーゼル選手、場外落下により失格! 第一試合、スイ選手の勝利です!」
悲鳴と歓声が重なり合い、轟音となって闘技場の内外に響き渡った。
中央のリングで、それらを何処か遠くに聞きながら、スイは糸が切れた人形のように膝からがくりと折れてリングに座り込んだ。威力を抑えた為に魔力はまだ余裕があるが、身体の方が限界だった。
溝尾を押さえ、息を乱すスイに、影が重なる。
「悔しいが、お前の方が一枚上だった。見事だ、ちびっ子ハンター」
清々しいと言った表情で笑うオルラーゼルは、スイに向けて手を差し出した。
その手を握って、スイは震える膝に無理矢理力を入れて立つ。
『スイです』
「あぁ、そうだったな。ちびっ子ハンターってのは失礼だ。悪かった、ハンタースイ」
『いえ。お相手、ありがとうございました。とても強くて……学ぶ所が沢山ありました。闘えて良かったです』
「こっちこそな。レイゴットに勝つどころか初戦で負けてしまったが、お前との闘いは楽しかった。礼を言う。次の試合も勝てよ」
『はい』
「互いに健闘を称え合う姿の、何と美しい事でしょう! 幼いからと侮らずに本気で闘ったオルラーゼル選手! 敗北間際から諦めずに冷静に立ち向かい、逆転勝利を手にしたスイ選手! 第一試合から素晴らしい闘いを見せてくれたお二方に、皆様拍手をお願い致します!」
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篠月珪霞
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「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」
「………」
「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」
王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。
「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」
「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」
「い、いや、それはできぬ」
「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」
「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」
途端、王妃の嘲る笑い声が響く。
「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」
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