俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎

文字の大きさ
56 / 63

対抗戦と作戦会議

しおりを挟む
 華やかな装飾が施された広場に、多くの人々が集まっていた。観客席は熱気に包まれ、興奮した声が空を震わせている。S級対抗戦の開会式が今まさに始まろうとしていた。

 国王が壇上に立ち、厳かな面持ちで宣言する。

「我が国の誇るS級冒険者たちよ。汝らの力と智恵を競い合い、さらなる高みを目指せ。今ここに、S級対抗戦の開幕を宣言する!」

 轟きとも言える歓声が辺りを包み込んだ。観客の耳は、その歓声でほとんど聞こえなくなりそうだった。

 歓声が収まると、大会の進行役が前に進み出た。彼は声高らかに、今回の対抗戦の目玉となるチーム戦のルールを説明し始めた。

「本大会のメインイベント、チーム戦の詳細をお伝えいたします」

 観客たちは息を呑んで耳を傾けた。

「まず、参加者は『プライマ』と『アルファ』の二つのチームに分かれます。各チームにはS級パーティ2組、A級2組、B級2組が所属します。戦いの舞台となるのは、特別に用意された大演習場です。ここで重要なのが『フラッグ』の存在です」

 進行役は手元の小さな旗を掲げた。それは普通の旗のように見えたが、よく見ると微かに光を放っている。

「各チームはこのフラッグを守ることが使命となります。フラッグを破壊されれば、そのチームの敗北となります」

 観客たちの間で小さな議論が起こる。単純なルールのように思えたが、進行役の次の言葉で一同は驚愕することとなった。

「しかし、このフラッグは単なる物体ではありません。自立した思考回路を持ち、時に予想外の行動を取ることがあるのです。幻惑魔法などにも影響を受け、味方の意図に反して敵の前に出てしまうこともあり得ます」

 会場が騒然となる。フラッグに意思があるという発表は、誰もが予想していなかった展開だった。

「さらに、この戦いでは参加者全員が初級者用の武器を使用し、特殊な装飾品の使用は禁止されます。各々の能力を最大限に活かし、チームワークを発揮することが勝利への鍵となるでしょう」

 進行役の説明が続く中、参加者たちの表情は真剣そのものだった。特に、S級冒険者たちの目には鋭い光が宿っている。普段使い慣れた武器や装備を使えないという制限は、彼らにとって大きな挑戦となることは明らかだった。

「それでは、チーム分けの発表に移ります」

 会場の空気が一瞬で緊張感に包まれた。

「チーム『プライマ』には、サラリバン、ガイウスのS級冒険者を筆頭に、A級からはマーカス、エレナ、B級からはトム、リサが所属します」

 呼ばれた名前の持ち主たちが前に進み出る。サラリバンとガイウスの名前に、観客から大きな歓声が上がった。

「対するチーム『アルファ』には、ヴァルド、アリアのS級冒険者、A級のレイナ、エリオット、B級のカイ、メイが所属します」

 アルファチームのメンバーも前に進み出た。ヴァルドとアリアの名前に、観客席からは大きな拍手が沸き起こる。

 二つのチームが向かい合って立つ様子は、まさに壮観だった。S級冒険者たちの威圧的な雰囲気が、会場全体を包み込む。

「各チーム、作戦会議の時間を設けます。30分後、大演習場にて対戦を開始します」

 進行役の声を合図に、両チームは別々の控室へと移動していった。

 プライマチームの控室内は、緊張感に満ちていた。サラリバンが中心に立ち、メンバーたちを見回す。

「諸君、我々の戦略を練る時間だ。まずは各自の能力を把握しよう」

 サラリバンの落ち着いた声が、部屋に響く。彼の物腰には、長年の経験から来る自信が溢れている。

「私はグランドクロスの剣術を得意とする。広い範囲を一気に制圧できる技だ。ガイウス、君の能力は?」

 ガイウスは腕を組み、深く考え込むような仕草を見せた。

「私は『不動の盾』と呼ばれる防御特化の戦士だ。敵の攻撃を受け止め、仲間を守ることができる」

 サラリバンは満足げに頷いた。

「マーカス、エレナ。A級の二人はどうだ?」

 マーカスが一歩前に出る。

「私は地形操作の魔法を得意としています。戦場を有利に変えることができます」

 エレナも続いて説明を始めた。

「私は回復と強化の魔法が専門です。味方のサポートに回ります」

 サラリバンは再び頷き、最後にB級の二人に目を向けた。

「トム、リサ。君たちの能力は?」

 トムが少し緊張した様子で答える。

「私は索敵と罠設置が得意です。敵の動きを事前に察知できます」

 リサも控えめに、しかし自信を持った口調で答えた。

「私は幻影魔法を使えます。敵を惑わすことができます」

 サラリバンは全員の能力を聞き終えると、しばし考え込んだ。そして、決意を固めたかのように口を開いた。

「よし、我々の戦略はこうだ。基本的には守りを固め、敵の動きを見極める。マーカスの地形操作で陣地を作り、ガイウスを中心に防衛線を張る。エレナは後方から全体のサポートに回ってくれ」

 メンバーたちは真剣な表情で頷いている。

「トムとリサは、索敵と幻影でフラッグを守る。フラッグの予想外の動きにも対応できるはずだ。そして私が、状況に応じて攻守の采配を振るう」

 サラリバンの説明に、全員が納得した様子で頷いた。

「ただし、相手はヴァルドとアリアだ。油断は禁物だ。常に柔軟な対応を心がけよう」

 チームメンバーの目に、決意の色が宿る。プライマチームの作戦会議は、整然と、そして効率的に進められていった。

 一方、アルファチームの控室では、異なる雰囲気が漂っていた。

 ヴァルドが大きな声で笑う。

「ふっ、作戦だと? 俺たちに必要なのは、ただ力だけだ」
「ヴァルド、軽く見すぎじゃないかしら。相手はサラリバンよ」
「サラリバンがどうだろうと、俺たちは全力で叩き潰すだけだ。防衛線など張らず、一気に敵陣に攻め込む」
「でも、それじゃあフラッグの守りが……」

 レイナが不安そうに口を開く。ヴァルドは彼女を一瞥し、強引に言い放つ。

「フラッグが動くなら、我々も常に動き続ければいい。それが最善の策だ」

 アリアは仕方なさそうにため息をついた。

「分かったわ。全力で行きましょう。ただし、作戦の柔軟性は忘れないで」

 アルファチームのメンバーは、互いに目を見合わせ、力強く頷いた。

 時間が経ち、いよいよ戦いの時が迫る。両チームはそれぞれの作戦を胸に、大演習場へと向かっていった。

 大演習場は、想像を遥かに超える規模だった。広大な平原、深い森、小さな丘陵地帯、そして中央には小川まで流れている。まるで自然のままの環境を切り取ってきたかのような、壮大な戦場が広がっていた。

 両チームは演習場の両端にそれぞれ配置された。審判が中央に立ち、最後の説明を行う。

「それでは、チーム戦を開始します。各チームのフラッグは、今この瞬間にランダムな場所に出現します。フラッグを見つけ、守り抜いてください」

 審判の言葉が終わるや否や、空中に二つの光点が現れ、瞬時に消えた。フラッグが出現したのだ。

「それでは、試合開始!」

 審判の声と共に、大きな鐘の音が鳴り響いた。チーム戦の幕が上がった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

神眼のカードマスター 〜パーティーを追放されてから人生の大逆転が始まった件。今さら戻って来いと言われてももう遅い〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「いいかい? 君と僕じゃ最初から住む世界が違うんだよ。これからは惨めな人生を送って一生後悔しながら過ごすんだね」 Fランク冒険者のアルディンは領主の息子であるザネリにそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 父親から譲り受けた大切なカードも奪われ、アルディンは失意のどん底に。 しばらくは冒険者稼業をやめて田舎でのんびり暮らそうと街を離れることにしたアルディンは、その道中、メイド姉妹が賊に襲われている光景を目撃する。 彼女たちを救い出す最中、突如として【神眼】が覚醒してしまう。 それはこのカード世界における掟すらもぶち壊してしまうほどの才能だった。 無事にメイド姉妹を助けたアルディンは、大きな屋敷で彼女たちと一緒に楽しく暮らすようになる。 【神眼】を使って楽々とカードを集めてまわり、召喚獣の万能スライムとも仲良くなって、やがて天災級ドラゴンを討伐するまでに成長し、アルディンはどんどん強くなっていく。 一方その頃、ザネリのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 ダンジョン攻略も思うようにいかなくなり、ザネリはそこでようやくアルディンの重要さに気づく。 なんとか引き戻したいザネリは、アルディンにパーティーへ戻って来るように頼み込むのだったが……。 これは、かつてFランク冒険者だった青年が、チート能力を駆使してカード無双で成り上がり、やがて神話級改変者〈ルールブレイカー〉と呼ばれるようになるまでの人生逆転譚である。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...