俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎

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クラフトスキルのリンク覚醒

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 俺たち三人は、魔法陣の中に立つ。シルヴィが呪文を唱えると、魔法陣が明るく輝き、俺たちの周りの景色が歪み始めた。そして、一瞬の閃光の後、目の前に広がっていたのは、悲惨な戦況だった。

 ブレイクウォーター領の街並みは、すでに魔物たちによって蹂躙されつつあった。建物は破壊され、至る所で火の手が上がっている。人々の悲鳴が、街中に響き渡っていた。

「ここは……」

 俺は言葉を失う。シルヴィとミアも、愕然とした表情でその光景を見つめている。

 街の中心部では、エリザベスが必死に指揮を執っていた。彼女の周りには、数人の兵士たちが集まっている。しかし、その数はあまりにも少なく、魔物たちの大群には到底太刀打ちできそうにない。

「くそっ……ここまで酷いとは」

 俺は歯を食いしばる。状況は、中心部よりもさらに深刻だ。ここには、俺の作った武器を持つ戦士たちはいない。人々は、なすすべもなく魔物たちに蹂躙されているのだ。

「ロアン、武器を作って。私は倒せる魔物を倒しながら、動ける人に支援魔法をかけてくる」

 シルヴィは魔力コントロールが苦手なので、攻撃魔法を使うときは細心の注意をしなければならない。俺は即座に行動を開始する。周囲を見回し、使えそうな素材を探す。幸い、破壊された建物の残骸や、道端に落ちている金属片など、利用できそうなものはいくつかある。

 俺は『ポータブル鍛冶台』を広げ、作業の準備を始める。エリザベスが、俺たちに気づいたようだ。驚いた表情で近づいてくる。

「ロアン様!? 来てくださったのですね!」
「兵士たちに武器を配ってください。戦える市民にも渡してください」

 俺の言葉に、エリザベスは我に返ったように頷き、部下たちに指示を出し始めた。

 作業を続ける中、俺のレベル3特殊能力付与スキル 『アルケミスト』のスキルが更なる高みに達する。武器に込められる魔法効果が、これまでとは比較にならないほど強力になっていく。剣には、敵の弱点を自動的に察知し、最適な攻撃方法を使用者に伝える機能が付与された。盾は、あらゆる属性の攻撃を吸収し、次の一撃のエネルギーに変換する。弓は、射手の意思を感知し、矢の軌道を自在に操る。

 街の至る所から戦闘の音が聞こえ始めた。人々が、俺の作った武器を手に、魔物たちに立ち向かっているのだ。ミユータントクラブの硬い装甲を、新しいハンマーが易々と砕いていく。ダークハーピーの群れは、魔法増幅された弓の一斉射により、次々と撃墜されていく。リトルゴブリンの奇襲も、魔力感知機能を持つ防具によって完全に察知され、逆に袋叩きにされていた。

 戦況が、見る見るうちに変わっていく。最初は圧倒されていた人々が、今や魔物たちを追い詰めている。街のあちこちから、勝利の雄叫びが聞こえ始めた。

「や、やった……! 私たちにも、戦えるんだ!」

 ある若い兵士が、興奮した様子で叫ぶ。その言葉が、街中に広がっていく。人々の表情が、恐怖から希望へと変わっていった。しかし、喜んでばかりもいられなかった。地面が大きく揺れ始めた。建物が軋むような音を立て、人々が悲鳴を上げる。

「な、何が起きた!?」

 エリザベスが驚いた声を上げる。その瞬間、俺たちの目の前で、地面が大きく割れ始めた。そこから、巨大な影が這い出してくる。その姿を見た瞬間、俺は息を呑んだ。

「ヒュドラか……!」

 ヒュドラの巨体が地面から現れると同時に、その複数の頭部から青白い炎が吐き出された。街の一角が一瞬にして焼き尽くされ、人々の悲鳴が響き渡る。

「くそっ……!」

 俺は歯を食いしばる。ヒュドラ――九つの頭を持つ水棲の怪物。その特性は、頭を切り落とすと、その場所から二つの頭が生えてくるという驚異的な再生能力だ。さらに、中央の頭は不死身とされている。ミアは他の住民を助けるのに必死だ。シルヴィでは土地ごと爆破してしまう。

 しかし、ここで諦めるわけにはいかない。俺は急いで、新たな武器の製作に取り掛かる。レベル3『フォージマエストロ』、『エンチャントエンジニア』、『アルケミスト』──全てのスキルを総動員し、さらにその先を行く武器を作り出そうとする。

 加えて、レベル3並行生産スキル『インダストリアルクリエイション』。これらの組み合わせによって、通常なら火入れから整形まで慎重に作業しなければならない工程がふっとばされ、俺の手から、魔法のように次々と武器が生み出されていく。

 左手の盾には敵の攻撃エネルギーを使用者の魔力に還元する能力がある。右手にはミミックブレード。しかし、これは量産させた一部。吸収した特性ごとコピーさせ、オリジナルに及ばないまでも倒したモンスターの能力を引き出せる至高の贋作だった。

 ヒュドラが再び咆哮を上げる。その口から、青白い炎が吐き出される。この炎は単なる火炎ではない。魔力を帯びた炎で、通常の防具では防ぎきれない破壊力を持つ。しかし今度は、俺は一歩も引かない。

 俺の盾から薄膜の魔法壁が展開される。盾の表面に刻まれた魔法陣が輝き、青白い炎を吸収していく。そして、その吸収したエネルギーが、盾を通じて俺の体内に流れ込む。俺は吸収したエネルギーを、剣に流し込む。クリスタルキマイラの最後の素材によって作成された特性が、ヒュドラの再生能力を封じる。

 ヒュドラの複数の頭部が、一斉に俺を攻撃する。炎と毒液が、俺を包み込もうとする。ヒュドラの毒液は、強力な腐食性を持ち、通常の鎧であれば一瞬で溶かしてしまうほどだ。しかし、鎧に刻まれた特殊能力が作動し、俺の周りに魔力のバリアを展開し中和する。

 俺は地面を蹴り、ヒュドラに向かって跳躍する。魔力増幅のペンダントが輝き、俺の動きを何倍にも加速させる。

 剣が閃き、ヒュドラの鱗を切り裂く。黒い体液が噴き出し、ヒュドラが苦痛の咆哮を上げる。切り裂かれた傷口から新たな頭が生えてくることはなかった。しかし、これだけではまだ足りない。ヒュドラの中央の頭、不死身と言われるその部分はまだ健在だ。この頭が存在する限り、ヒュドラを完全に倒すことはできない。

 やぶれかぶれになって、失った首も捨て去る勢いで全攻撃を同時に放ってきたヒュドラに、俺は自身が持っている全てのスキルをリンクさせた。並行生産で作り出した魔法装置を次々と起動させる。空中に浮かぶ魔法陣が、俺がクラフトした武器を放ち、あらゆる属性と特殊能力がヒュドラに降り注ぐ。

 太陽のような熱を帯びた炎。絶対零度を思わせる極寒に近い冷気。雷雲の何百倍もの電力を持つ雷撃。竜巻をも凌駕する強風が、同時に巻き起こる。

 ヒュドラは悲鳴を上げ、激しく暴れ回る。しかし、その動きは空しく、魔法の嵐を受け続けるだけだった。その巨体が、少しずつだが確実にダメージを受けていくのが見て取れる。

「まだだ……!」

 魔力が満ち溢れた空間に、適応したミラージュリングが、俺に瞬間的な移動を可能にする。俺はヒュドラの周りを縦横無尽に動き回り、トドメの一撃が、ヒュドラの中央の頭を貫いた。剣に込められた全てのエネルギーが、ヒュドラの体内で爆発する。

 不死身と言われた頭が、光の中に溶けていく。ヒュドラの巨体が、まるでガラスが砕けるように、ひび割れていく。巨大な魔物の体が、光に包まれ、そして消滅していく。

 静寂が訪れた。俺は、深く息を吐く。全身の筋肉が悲鳴を上げ、魔力もほぼ枯渇している。勝利の高揚感はあるが、勢いに任せてほとんどの素材を使ってしまった。これと同じような戦闘は、しばらくはできそうにない。だが、俺は戦闘職にも劣らないほどの自らの強さの可能性に至った。もし、これが、鍛冶台や素材という縛りさえなくせるのなら。俺は、クラフターとしての境地にたどり着けるのかもしれない。

 ヒュドラの討伐と同時に、周囲の戦火も止まる。これで終わりだ。

 そう思った次の瞬間のことだった。

「ロアン、あれ見て!」

 ミアが俺のところに駆けつけてきた。そこには、空中に入る一筋のひび割れがあった。ガラスが砕けるように、パラパラと空のテクスチャが剥がれていく。その奥にあるのは、ダンジョンの奥に眠っていたはずの、巨大な球形の魔導装置だった。
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