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第二章 初学院編
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※キルヴェスター視点
俺は今、ザルケをしている。昼休みは男子生徒と一緒に、このザルケなどの活動を行うことが日課となっていた。
そしてこの日は、アースが参加することになった。アースが参加してくれるのはもちろんうれしいが、それ以上にアースの体調の方が心配だ。
しかしアースは、俺の予想を大きく裏切りアースは見事なボールさばきを見せた。これも療養中の体力づくりの一環として行ったのだろうか? 俺はアースについて、知らないことが多すぎる。
けれども再び、俺の予想は大きく裏切られた。アースは五分もしないうちにバテテしまったのだ。やはり体力はまだ、人並みとは言えないようだ。アースは静かにベンチへと向かっていった。俺たちも空気を読んで、静かにアースを見送った。
プレーの最中ふとアースの方を見ると、アースの座っているベンチに、二人の女子生徒が腰かけているのが見えた。あの二人はテレシ―侯爵とシーコイズ伯爵家のご令嬢たちだ。あの二人はマーガレットと仲がいいため、何度も話したことがある。しかし、なぜアースの所にいるんだ?
くそっ、アースのことが気になってまったく集中できない。しかし、話す時間が結構長いように思える。いったい、何を話しているんだ? アースはやはり、女性と会話をする方が楽しいのか………。くそっ………。
俺は休んでいる生徒に声をかけ、交代してもらった。俺はすぐにアースの所へと向かった。途中俺が近づいたことに気づいた二人は、その場を優雅に立ち去った。やはり目的は、アース自身か………。
「あれ、キル? ザルケはもういいの?」
アースは先ほどまでのことをまるでなかったかのように、いつも通りの感じで声をかけてきた。
「ああ、交代した。………ところで、さっきの二人とは何を話していたんだ?」
思ったよりも声が低くなってしまった。アースがこの学院で誰と話そうと、何をしようと自由であることはわかっている。だけど………
「あー、マリア様とムンナ様のこと? 何をって………キルのことを聞かれていたんだよ。」
なぜ二人のことを名前で呼んでいるんだ? それに、俺のことについてって………。あの二人ならいつでも聞く機会はあっただろうし、大体のことは把握しているはずだ。だから、俺を引き合いに出したのは、アース、お前と話す口実をつくるためだ。
「二人のことを名前で呼んでいるんだな。」
「うん? あー別れ際に、名前で呼んでいいかって、それで自分たちも名前で呼んでほしいと言われたよ。今日一日で、名前呼びしてもいい人が五人になったんだよ!」
そんなにうれしそうに言われたら、何も言えないじゃないか………。
「だけど俺さ、キルのことあんまり知らなかったみたい。二人の役には立てなかったよ。だから、キルのことについて色々聞いてもいいかな?」
お前が知りたいならいくらでも教えてやる。だけどそれは、人に聞かれたらこたえられるようにという意味か? お前自身が知りたいわけではないのか?
「もちろん構わないが………。それは、人に聞かれたときに困らないようにするためか?」
俺がそういうと、アースは視線をさまよわせた。そんなに動揺しなくたって、いいじゃないか………。
「それもあるけど………。俺自身が知りたいんだよ。友人のことをほとんど知らないって、寂しいからね。」
………友人のことをか。アースが俺のことを知りたいと思ってくれているなら、それでいいんだ。
「わかった。とりあえず、隣いいか? それと、そのタオルと飲み物を俺に貸してくれ。」
俺はアースの返事を待たずに、アースの隣に座った。アースは、なんとも言えない表情をしていた。
「え………これ、俺が使ったやつだから………」
「わかってる。………汗が鬱陶しいんだ、貸してくれ。」
俺がそういうと、アースは渋々といった感じでタオルと飲み物を差し出した。………少し、強引すぎたかな。
汗を拭き終わり隣を見ると、近くにアースの顔があった。
「キル、前より前髪伸びたよね。伸ばすことにしたの?」
子どものころ、この赤い髪を見ると、周りの者があまりいい反応を示さなかったのを肌で感じていた。だから、短くしていた。だけど今は………。
「あー、切り忘れていただけだ。………変か?」
「どの髪型でも似合うと思うよ。………ただ、短い髪だと出会った頃のキルを思い出すから、懐しい気持ちになるかな。」
出会った頃を思い出すか………。それなら、短くしているさ。他の女性たちへのささやかな抵抗としてな。
「初心を忘れないためにも、短くするよ。………俺のことが聞きたいんだよな? 今日もサロンでお茶をしていくか?」
「いいね、それ! キースたちがいると、面白い話も聞けるかもしれないからね。あ、お茶と言えば………。さっきお茶会に誘ってもいいかって言われたんだけど………。そういえば俺さ、お茶会に参加したことないんだよね。この年でそれはまずいかなと思ったんだけど………よければ色々と教えてくれる?」
もうお茶会に誘われたのか………。お茶会のことを教えてほしいということは、そのお茶会に参加したいということだろうか?
「教えるのはもちろん構はないが………。アースは、そのお茶会に参加したいのか?」
アースが参加したいというならもちろんとめはしない。というよりも、俺に止める権利はない。だから………「行かない」と言ってくれ………。
「うーん、緊張するだろうしあんまり興味はないかな。ただ、これからキルに付いてお茶会に参加したり、家の方でも参加したりするかもしれないから知っておいた方が良いかなと思ってさ。だから………あ! 王室仕様じゃなくて、一般的なお茶会の作法で大丈夫だからね!」
………よかった、行きたいと言わなくて………。お茶会について学びたいという理由も、まじめなアースらしい理由だった。それにしても、気にするところがそれかよ………。
「安心しろ。どちらにも対応できるように、どっちも教えてやるよ。兄上に呼ばれたときに対応できるようにな。」
「あー、確かにそれは一理あるよ………。」
アースはそういうと、項垂れてしまった。勝手に宮廷作法を教えたことを根に持っていたのだろうか? まあなんだかんだ言って、大体のことをこなしてしまうのがアースだ。王室仕様のお茶会の作法を知っていても、損はないだろう。
俺は今、ザルケをしている。昼休みは男子生徒と一緒に、このザルケなどの活動を行うことが日課となっていた。
そしてこの日は、アースが参加することになった。アースが参加してくれるのはもちろんうれしいが、それ以上にアースの体調の方が心配だ。
しかしアースは、俺の予想を大きく裏切りアースは見事なボールさばきを見せた。これも療養中の体力づくりの一環として行ったのだろうか? 俺はアースについて、知らないことが多すぎる。
けれども再び、俺の予想は大きく裏切られた。アースは五分もしないうちにバテテしまったのだ。やはり体力はまだ、人並みとは言えないようだ。アースは静かにベンチへと向かっていった。俺たちも空気を読んで、静かにアースを見送った。
プレーの最中ふとアースの方を見ると、アースの座っているベンチに、二人の女子生徒が腰かけているのが見えた。あの二人はテレシ―侯爵とシーコイズ伯爵家のご令嬢たちだ。あの二人はマーガレットと仲がいいため、何度も話したことがある。しかし、なぜアースの所にいるんだ?
くそっ、アースのことが気になってまったく集中できない。しかし、話す時間が結構長いように思える。いったい、何を話しているんだ? アースはやはり、女性と会話をする方が楽しいのか………。くそっ………。
俺は休んでいる生徒に声をかけ、交代してもらった。俺はすぐにアースの所へと向かった。途中俺が近づいたことに気づいた二人は、その場を優雅に立ち去った。やはり目的は、アース自身か………。
「あれ、キル? ザルケはもういいの?」
アースは先ほどまでのことをまるでなかったかのように、いつも通りの感じで声をかけてきた。
「ああ、交代した。………ところで、さっきの二人とは何を話していたんだ?」
思ったよりも声が低くなってしまった。アースがこの学院で誰と話そうと、何をしようと自由であることはわかっている。だけど………
「あー、マリア様とムンナ様のこと? 何をって………キルのことを聞かれていたんだよ。」
なぜ二人のことを名前で呼んでいるんだ? それに、俺のことについてって………。あの二人ならいつでも聞く機会はあっただろうし、大体のことは把握しているはずだ。だから、俺を引き合いに出したのは、アース、お前と話す口実をつくるためだ。
「二人のことを名前で呼んでいるんだな。」
「うん? あー別れ際に、名前で呼んでいいかって、それで自分たちも名前で呼んでほしいと言われたよ。今日一日で、名前呼びしてもいい人が五人になったんだよ!」
そんなにうれしそうに言われたら、何も言えないじゃないか………。
「だけど俺さ、キルのことあんまり知らなかったみたい。二人の役には立てなかったよ。だから、キルのことについて色々聞いてもいいかな?」
お前が知りたいならいくらでも教えてやる。だけどそれは、人に聞かれたらこたえられるようにという意味か? お前自身が知りたいわけではないのか?
「もちろん構わないが………。それは、人に聞かれたときに困らないようにするためか?」
俺がそういうと、アースは視線をさまよわせた。そんなに動揺しなくたって、いいじゃないか………。
「それもあるけど………。俺自身が知りたいんだよ。友人のことをほとんど知らないって、寂しいからね。」
………友人のことをか。アースが俺のことを知りたいと思ってくれているなら、それでいいんだ。
「わかった。とりあえず、隣いいか? それと、そのタオルと飲み物を俺に貸してくれ。」
俺はアースの返事を待たずに、アースの隣に座った。アースは、なんとも言えない表情をしていた。
「え………これ、俺が使ったやつだから………」
「わかってる。………汗が鬱陶しいんだ、貸してくれ。」
俺がそういうと、アースは渋々といった感じでタオルと飲み物を差し出した。………少し、強引すぎたかな。
汗を拭き終わり隣を見ると、近くにアースの顔があった。
「キル、前より前髪伸びたよね。伸ばすことにしたの?」
子どものころ、この赤い髪を見ると、周りの者があまりいい反応を示さなかったのを肌で感じていた。だから、短くしていた。だけど今は………。
「あー、切り忘れていただけだ。………変か?」
「どの髪型でも似合うと思うよ。………ただ、短い髪だと出会った頃のキルを思い出すから、懐しい気持ちになるかな。」
出会った頃を思い出すか………。それなら、短くしているさ。他の女性たちへのささやかな抵抗としてな。
「初心を忘れないためにも、短くするよ。………俺のことが聞きたいんだよな? 今日もサロンでお茶をしていくか?」
「いいね、それ! キースたちがいると、面白い話も聞けるかもしれないからね。あ、お茶と言えば………。さっきお茶会に誘ってもいいかって言われたんだけど………。そういえば俺さ、お茶会に参加したことないんだよね。この年でそれはまずいかなと思ったんだけど………よければ色々と教えてくれる?」
もうお茶会に誘われたのか………。お茶会のことを教えてほしいということは、そのお茶会に参加したいということだろうか?
「教えるのはもちろん構はないが………。アースは、そのお茶会に参加したいのか?」
アースが参加したいというならもちろんとめはしない。というよりも、俺に止める権利はない。だから………「行かない」と言ってくれ………。
「うーん、緊張するだろうしあんまり興味はないかな。ただ、これからキルに付いてお茶会に参加したり、家の方でも参加したりするかもしれないから知っておいた方が良いかなと思ってさ。だから………あ! 王室仕様じゃなくて、一般的なお茶会の作法で大丈夫だからね!」
………よかった、行きたいと言わなくて………。お茶会について学びたいという理由も、まじめなアースらしい理由だった。それにしても、気にするところがそれかよ………。
「安心しろ。どちらにも対応できるように、どっちも教えてやるよ。兄上に呼ばれたときに対応できるようにな。」
「あー、確かにそれは一理あるよ………。」
アースはそういうと、項垂れてしまった。勝手に宮廷作法を教えたことを根に持っていたのだろうか? まあなんだかんだ言って、大体のことをこなしてしまうのがアースだ。王室仕様のお茶会の作法を知っていても、損はないだろう。
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