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第四章 人狼編
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様々な考えが頭をよぎりながらも、俺はしっかりと調合作業を終了させた。
毒で苦しむ冒険者に薬を飲ませて少し様子を見ていると、症状は改善されて、今は静かに眠っている。
「薬の調合まで完ぺきとは、流石、王族の側近を務める回復魔導士様ですね!」
薬の材料集めに奔走してくれた騎士の1人が、達成感溢れる顔でねぎらいの言葉をかけてくれた。
「ありがとうございます。皆さんのサポートのおかげで、迅速な対応をすることができました。」
騎士団員や診療所のスタッフにもひととおりお礼を述べ終わると、騎士団のリーダーが顔を真面目な者へと変えて、毒の詳細について尋ねてきた。
俺は今回の毒が食物由来の毒、「ハルテック茸」の中毒症状であることを伝えた。
「ハルテック茸ですか……。恥ずかしながら、我々騎士団では把握していない植物です。アース様がいらっしゃって、本当に助かりました。」
「知らなくても仕方がないと思います。希少な植物ですからね。通常の任務や生活では、お目にかかることはないでしょう。」
「国を守る者として、座学にも力を入れなければいけませんね。……それにしても、毒の種類が変わったということは、アース様に治療させるのを防ぐためということなのでしょうか?」
騎士団リーダーが、俺も気になっていたことをアルフォンスさんのことを意識しながら尋ねてきた。
この件については、回復魔導士として把握しておくべきことだから、アルフォンスさんに鋭い視線を向けられることはないだろう。
「……そうだと思います。私が調合できない可能性も考えて、マイナーな植物の中毒症状を引き起こしたものと思います。」
「人狼が殺人手段を変えるなんて……今までない例だと思います。次の満月の際には、もっと治療が困難な毒を使われる可能性も考えなければなりません。」
「そうですね、私も毒物の復習をしておきます。……ですが、ここまでくると毒を盛る隙に物理的な外傷を加える可能性もあると思うのですが……その方が手っ取り早いと思いますし。」
「確かにその通りです。毒にこだわる意味がわかりません。」
「こだわりというよりは、毒に頼らないと殺人を犯せないという方が……。」
俺がそこまで言うと、アルフォンスさんから鋭い視線が飛んできた。
ついでとばかりに、その視線は騎士団にも向けられ、リーダーは顔を引きつらせて頭を下げた。
よくよく考えると、アルフォンスさんはダン騎士団長の息子だから、騎士団員にとっては上司の息子ということになる。そんな相手に鋭い視線を向けられたら、色々な意味で肝を冷やすことになるだろう。
「現状と今後の方向性を共有するために、他の騎士団員や村長と打合せをされた方がよろしいのではないでしょうか?」
「そ、そのとおりですね。では、進展がありましたらご報告に参ります。」
アルフォンスさんからの提案に騎士団員たちは何度か首を振った後、部屋を颯爽と後にした。
俺は巻き込んでしまった騎士団員たちに謝罪の念を送った後に、アルフォンスさんに気になっていることを確認することにした。
「アルフォンスさん、1つ確認なんですけど、亡くなったお2人の冒険者は「シェールスティングレー」の毒で亡くなったという認識で合っていますよね?」
「合っています。アース君が助けた3人の冒険者が2件目の被害者で、亡くなった2人の冒険者は1件目の被害者です。何か気になることでも?」
「1件目と2件目の被害がシェールスティングレーの毒によるものだということは、やはり当初は全ての犯行をシェールスティングレーの毒で行うつもりだったんだと確認したいと思いまして。今回の件は、私の回復を困難にさせるために急遽、毒物を変更したということで間違いないでしょう。次に備えて、毒物の勉強します。」
「資料が必要の際は私が用意しますのでお声がけください。……ただ、後手に回るだけでは埒があきません。次の満月まで多少の猶予がありますので、こちらからもアクションを起こしましょう。」
「私たちも積極的に捜査してもいいということでしょうか!?」
「違います。」
前のめりになった俺を制するように、アルフォンスさんは笑顔で否定した。
「アルベルト殿下もおっしゃっていたように、直接の捜査は他の者に任せるという方針は変わっていません。ですが、先ほど殿下からの返信が届きまして、ようやく捜査部隊が合流するそうです。他の人狼被害もありましたので、人手を割くのに少々時間がかかってしまったとのことです。」
「そうですか……。増援部隊が来るのはありがたいですが、何度も被害者を見ている私としては、自分の手で犯人を捕まえたいと思っているのです。」
「アース君の怒りの気持ちは理解できます。ただ、マイナーの毒にも冷静に対応できるアース君に何かあっては、こちら側の戦線は崩壊します。理解していることは重々承知ですが、ご自身は替えの利かない人材なのだと、今一度心に留めておいてください。」
「……わかりました。」
アルフォンスさんの言うとおりだ。子どもみたいに不満が言動に出てしまった、反省しないとな。
項垂れてしまった俺のことを、まるで弟を見るような目で見ながら、アルフォンスさんは口を開いた。
「増援部隊に期待しましょう。アース君の怒りを代わりにぶつけてくれる人選ですよ。」
「……!? ということは……。」
「はい、アース君の仲間が増援部隊として、明日到着します。」
毒で苦しむ冒険者に薬を飲ませて少し様子を見ていると、症状は改善されて、今は静かに眠っている。
「薬の調合まで完ぺきとは、流石、王族の側近を務める回復魔導士様ですね!」
薬の材料集めに奔走してくれた騎士の1人が、達成感溢れる顔でねぎらいの言葉をかけてくれた。
「ありがとうございます。皆さんのサポートのおかげで、迅速な対応をすることができました。」
騎士団員や診療所のスタッフにもひととおりお礼を述べ終わると、騎士団のリーダーが顔を真面目な者へと変えて、毒の詳細について尋ねてきた。
俺は今回の毒が食物由来の毒、「ハルテック茸」の中毒症状であることを伝えた。
「ハルテック茸ですか……。恥ずかしながら、我々騎士団では把握していない植物です。アース様がいらっしゃって、本当に助かりました。」
「知らなくても仕方がないと思います。希少な植物ですからね。通常の任務や生活では、お目にかかることはないでしょう。」
「国を守る者として、座学にも力を入れなければいけませんね。……それにしても、毒の種類が変わったということは、アース様に治療させるのを防ぐためということなのでしょうか?」
騎士団リーダーが、俺も気になっていたことをアルフォンスさんのことを意識しながら尋ねてきた。
この件については、回復魔導士として把握しておくべきことだから、アルフォンスさんに鋭い視線を向けられることはないだろう。
「……そうだと思います。私が調合できない可能性も考えて、マイナーな植物の中毒症状を引き起こしたものと思います。」
「人狼が殺人手段を変えるなんて……今までない例だと思います。次の満月の際には、もっと治療が困難な毒を使われる可能性も考えなければなりません。」
「そうですね、私も毒物の復習をしておきます。……ですが、ここまでくると毒を盛る隙に物理的な外傷を加える可能性もあると思うのですが……その方が手っ取り早いと思いますし。」
「確かにその通りです。毒にこだわる意味がわかりません。」
「こだわりというよりは、毒に頼らないと殺人を犯せないという方が……。」
俺がそこまで言うと、アルフォンスさんから鋭い視線が飛んできた。
ついでとばかりに、その視線は騎士団にも向けられ、リーダーは顔を引きつらせて頭を下げた。
よくよく考えると、アルフォンスさんはダン騎士団長の息子だから、騎士団員にとっては上司の息子ということになる。そんな相手に鋭い視線を向けられたら、色々な意味で肝を冷やすことになるだろう。
「現状と今後の方向性を共有するために、他の騎士団員や村長と打合せをされた方がよろしいのではないでしょうか?」
「そ、そのとおりですね。では、進展がありましたらご報告に参ります。」
アルフォンスさんからの提案に騎士団員たちは何度か首を振った後、部屋を颯爽と後にした。
俺は巻き込んでしまった騎士団員たちに謝罪の念を送った後に、アルフォンスさんに気になっていることを確認することにした。
「アルフォンスさん、1つ確認なんですけど、亡くなったお2人の冒険者は「シェールスティングレー」の毒で亡くなったという認識で合っていますよね?」
「合っています。アース君が助けた3人の冒険者が2件目の被害者で、亡くなった2人の冒険者は1件目の被害者です。何か気になることでも?」
「1件目と2件目の被害がシェールスティングレーの毒によるものだということは、やはり当初は全ての犯行をシェールスティングレーの毒で行うつもりだったんだと確認したいと思いまして。今回の件は、私の回復を困難にさせるために急遽、毒物を変更したということで間違いないでしょう。次に備えて、毒物の勉強します。」
「資料が必要の際は私が用意しますのでお声がけください。……ただ、後手に回るだけでは埒があきません。次の満月まで多少の猶予がありますので、こちらからもアクションを起こしましょう。」
「私たちも積極的に捜査してもいいということでしょうか!?」
「違います。」
前のめりになった俺を制するように、アルフォンスさんは笑顔で否定した。
「アルベルト殿下もおっしゃっていたように、直接の捜査は他の者に任せるという方針は変わっていません。ですが、先ほど殿下からの返信が届きまして、ようやく捜査部隊が合流するそうです。他の人狼被害もありましたので、人手を割くのに少々時間がかかってしまったとのことです。」
「そうですか……。増援部隊が来るのはありがたいですが、何度も被害者を見ている私としては、自分の手で犯人を捕まえたいと思っているのです。」
「アース君の怒りの気持ちは理解できます。ただ、マイナーの毒にも冷静に対応できるアース君に何かあっては、こちら側の戦線は崩壊します。理解していることは重々承知ですが、ご自身は替えの利かない人材なのだと、今一度心に留めておいてください。」
「……わかりました。」
アルフォンスさんの言うとおりだ。子どもみたいに不満が言動に出てしまった、反省しないとな。
項垂れてしまった俺のことを、まるで弟を見るような目で見ながら、アルフォンスさんは口を開いた。
「増援部隊に期待しましょう。アース君の怒りを代わりにぶつけてくれる人選ですよ。」
「……!? ということは……。」
「はい、アース君の仲間が増援部隊として、明日到着します。」
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