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第四章 人狼編
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俺は冷めた紅茶で心を落ち着かせた後、「いつも助かっている」と返した。
「今すぐは無理かもしれないけど、俺も冒険者として活動していいかな?」
「この件が片付いたら、問題ないんじゃないか? 回復魔導士の任務関係で許可をとる必要はありそうだが……。そこは俺も協力する。夏休みが残っていれば、何か簡単な任務でも受けてみるか?」
「本当!? すぐに装備を整えないと!」
「大丈夫だ。今の装備で十分事足りる。伝説級の魔物に挑む予定がないならば、新たに装備を新調する必要はない。」
今のアースは、王族の側近であり、上級回復魔導士だ。それに、辺境伯家の次男でもある。これほどの地位を持つ魔導士の装備を、冒険者の装備が上回ることは限りなくゼロにちかい。
いや、この場合は「冒険者らしい格好」をしたいのかもしれない。長めのローブでもプレゼントしようか。
「そ、そうだよね……。」
「迷惑じゃなければ、俺が冒険者っぽい装備を準備しといてやる。」
「本当!? よろしく頼みます!」
「ああ、わかった。」
嬉しそうに笑うアースの笑顔を目に焼き付けながら、俺は再び冷めた紅茶を手に取った。
が、既に中身は空になっており、俺は追加の紅茶を入れようと席を立とうとした。
「あ、気づかなくてごめん! すぐに替えのお茶を持ってくるから!」
アースはそういうとキッチンに下がって、ティーポットを持ってきた。
「そういえば、冒険者ギルドってどんな感じなの?」
冒険者ギルドがどんな感じか……。
はじめて冒険者ギルドに入ったが、第一印象はそれほど悪くはない、だった。
もっとうるさく、男くさい場所だと思っていたが、意外にも綺麗でそれほどうるさい場所でもなかった。
「どんな感じといってもな……。いわゆる「冒険者」というイメージから受けるような粗野な場所ではなかったぞ。だが……受付嬢には引きつった笑みを向けられてしまった。」
「あはははっ! 「説明が長すぎる!」とか、そんなことを言ったの?」
「あ、ああ。そのようなことを少しオーバーに言ったら、迷惑そうな笑みを浮かべられた。」
「冒険者ギルドの職員の職務への忠実さはすごいんだね。でも、ギルド内で暴れるような暴力的な冒険者よりは迷惑じゃないと思うよ?」
「どうだろうな。あの受付嬢は、まあまあ荒事には向いてそうだけどな。そこら辺の冒険者なら、投げ飛ばせるんじゃないか?」
「……受付に「グランデヒヒ」でもいたの?」
「グランデヒヒって、お前な……。荒事にも対処できるように、鍛えていそうだ、という意味だ。」
「ああ、なるほど。」
何を想像したのか、ギルドの受付にはメスゴリラような物体が座っていると勘違いしていたアースは、なるほどとうなずいている。
まあそこまでは強くなさそうだが、何かしらの武芸を習っている者特有の匂いを感じたのは事実だ。
……と、ギルドといえば、ジールが気にしていた支給品の回復薬があったな。
俺は回復薬を取り出して、アースの前にことりと置いた。
「下級の回復薬だね。もしかして、俺がつくった分がなくなったから、どこかで買ったきたの?」
「今更、アースがつくったもの以外を使用する気はない。それに、回復薬が必要になるような場面に直近では遭遇していない。これは、支給品だと言われてギルドから渡されたものだ。」
「いくら下級とはいっても回復薬を支給品として渡すとは……冒険者思いのギルドだね。もしかして、村の補助金が入っているのかな?」
アースはそういいながら、回復薬を手に取り容器の底を見た。
……ジールとは違って、アースは特に違和感を感じていないようだ。あれは、ジールの勘違いだったのか?
「これは、王都で作られている回復薬だね。底に、工房の印が入っている……ん? まあ、しょうがないか。」
「? 何がしょうがないんだ?」
「俺からすると、ちょっと失敗している回復薬なんだよ。完成率でいうと、大体80%くらいの出來かな。」
「は? 回復薬って、失敗するのか?」
「失敗というか、100%の効力を発揮していないと言った方が正しいかな。何事も、100点を出し続けるのは難しいということだよ。支給品として配っているなら、妥当な品質じゃないかな。これなら、購入費も抑えられるだろうね。」
回復薬の効力に差があるなんて初めて知った。
まあ考えてみれば、人がつくっているものだから、すべてが同じ品質とは限らないか。
「なるほどな。だから、ジールが「違和感がある」と気にしていたのか。」
「それはたぶん、俺と師匠の回復薬しか見ていないからじゃないかな。俺たちは、品質にこだわっているからね。」
ああ、そうか。
俺達は、アースや祖父上から最上のものしか渡されていなかったから、その最上のものとは違う回復薬に、ジールは違和感を感じたのか。
「でもおかしいな、王都で作成されている回復薬は下級とはいえ品質がいいものしか市場に流さないはずだけど……。この村は、特別な伝手でもあるのかな? まあ、回復薬が無駄にならないという意味ではありかもしれないけどね。」
アースは不思議そうに首をかしげながら、自然なしぐさでふたを開けて匂いを嗅いだ。そして、ゆっくりと口へと運んだ。
「って、何しているんだ!! 毒かもしれないんだぞ!!」
俺は反射的に手のひらでアースの口をふさぎ、持っていた回復薬を叩き落した。
床に勢いよく落ちた回復薬は、「パリンッ」と音を立てて、周囲に散らばった。
すると、音を聞きつけた側近たちとアルフォンスが、勢いよく飛び込んできた。
「何事ですか、主!! ……取り込み中でしたか?」
焦った表情をすぐに意地の悪い笑みに変えたローウェルが、ニヤニヤと問いかけてきた。
他の側近やアルフォンスも、警戒を解いてどういう状況かと目線で問いかけてきた。
「ち、違う! アースが、ギルドで渡された回復薬を飲もうとしたから、払いのけただけだ! 変なことはしていない!」
「今すぐは無理かもしれないけど、俺も冒険者として活動していいかな?」
「この件が片付いたら、問題ないんじゃないか? 回復魔導士の任務関係で許可をとる必要はありそうだが……。そこは俺も協力する。夏休みが残っていれば、何か簡単な任務でも受けてみるか?」
「本当!? すぐに装備を整えないと!」
「大丈夫だ。今の装備で十分事足りる。伝説級の魔物に挑む予定がないならば、新たに装備を新調する必要はない。」
今のアースは、王族の側近であり、上級回復魔導士だ。それに、辺境伯家の次男でもある。これほどの地位を持つ魔導士の装備を、冒険者の装備が上回ることは限りなくゼロにちかい。
いや、この場合は「冒険者らしい格好」をしたいのかもしれない。長めのローブでもプレゼントしようか。
「そ、そうだよね……。」
「迷惑じゃなければ、俺が冒険者っぽい装備を準備しといてやる。」
「本当!? よろしく頼みます!」
「ああ、わかった。」
嬉しそうに笑うアースの笑顔を目に焼き付けながら、俺は再び冷めた紅茶を手に取った。
が、既に中身は空になっており、俺は追加の紅茶を入れようと席を立とうとした。
「あ、気づかなくてごめん! すぐに替えのお茶を持ってくるから!」
アースはそういうとキッチンに下がって、ティーポットを持ってきた。
「そういえば、冒険者ギルドってどんな感じなの?」
冒険者ギルドがどんな感じか……。
はじめて冒険者ギルドに入ったが、第一印象はそれほど悪くはない、だった。
もっとうるさく、男くさい場所だと思っていたが、意外にも綺麗でそれほどうるさい場所でもなかった。
「どんな感じといってもな……。いわゆる「冒険者」というイメージから受けるような粗野な場所ではなかったぞ。だが……受付嬢には引きつった笑みを向けられてしまった。」
「あはははっ! 「説明が長すぎる!」とか、そんなことを言ったの?」
「あ、ああ。そのようなことを少しオーバーに言ったら、迷惑そうな笑みを浮かべられた。」
「冒険者ギルドの職員の職務への忠実さはすごいんだね。でも、ギルド内で暴れるような暴力的な冒険者よりは迷惑じゃないと思うよ?」
「どうだろうな。あの受付嬢は、まあまあ荒事には向いてそうだけどな。そこら辺の冒険者なら、投げ飛ばせるんじゃないか?」
「……受付に「グランデヒヒ」でもいたの?」
「グランデヒヒって、お前な……。荒事にも対処できるように、鍛えていそうだ、という意味だ。」
「ああ、なるほど。」
何を想像したのか、ギルドの受付にはメスゴリラような物体が座っていると勘違いしていたアースは、なるほどとうなずいている。
まあそこまでは強くなさそうだが、何かしらの武芸を習っている者特有の匂いを感じたのは事実だ。
……と、ギルドといえば、ジールが気にしていた支給品の回復薬があったな。
俺は回復薬を取り出して、アースの前にことりと置いた。
「下級の回復薬だね。もしかして、俺がつくった分がなくなったから、どこかで買ったきたの?」
「今更、アースがつくったもの以外を使用する気はない。それに、回復薬が必要になるような場面に直近では遭遇していない。これは、支給品だと言われてギルドから渡されたものだ。」
「いくら下級とはいっても回復薬を支給品として渡すとは……冒険者思いのギルドだね。もしかして、村の補助金が入っているのかな?」
アースはそういいながら、回復薬を手に取り容器の底を見た。
……ジールとは違って、アースは特に違和感を感じていないようだ。あれは、ジールの勘違いだったのか?
「これは、王都で作られている回復薬だね。底に、工房の印が入っている……ん? まあ、しょうがないか。」
「? 何がしょうがないんだ?」
「俺からすると、ちょっと失敗している回復薬なんだよ。完成率でいうと、大体80%くらいの出來かな。」
「は? 回復薬って、失敗するのか?」
「失敗というか、100%の効力を発揮していないと言った方が正しいかな。何事も、100点を出し続けるのは難しいということだよ。支給品として配っているなら、妥当な品質じゃないかな。これなら、購入費も抑えられるだろうね。」
回復薬の効力に差があるなんて初めて知った。
まあ考えてみれば、人がつくっているものだから、すべてが同じ品質とは限らないか。
「なるほどな。だから、ジールが「違和感がある」と気にしていたのか。」
「それはたぶん、俺と師匠の回復薬しか見ていないからじゃないかな。俺たちは、品質にこだわっているからね。」
ああ、そうか。
俺達は、アースや祖父上から最上のものしか渡されていなかったから、その最上のものとは違う回復薬に、ジールは違和感を感じたのか。
「でもおかしいな、王都で作成されている回復薬は下級とはいえ品質がいいものしか市場に流さないはずだけど……。この村は、特別な伝手でもあるのかな? まあ、回復薬が無駄にならないという意味ではありかもしれないけどね。」
アースは不思議そうに首をかしげながら、自然なしぐさでふたを開けて匂いを嗅いだ。そして、ゆっくりと口へと運んだ。
「って、何しているんだ!! 毒かもしれないんだぞ!!」
俺は反射的に手のひらでアースの口をふさぎ、持っていた回復薬を叩き落した。
床に勢いよく落ちた回復薬は、「パリンッ」と音を立てて、周囲に散らばった。
すると、音を聞きつけた側近たちとアルフォンスが、勢いよく飛び込んできた。
「何事ですか、主!! ……取り込み中でしたか?」
焦った表情をすぐに意地の悪い笑みに変えたローウェルが、ニヤニヤと問いかけてきた。
他の側近やアルフォンスも、警戒を解いてどういう状況かと目線で問いかけてきた。
「ち、違う! アースが、ギルドで渡された回復薬を飲もうとしたから、払いのけただけだ! 変なことはしていない!」
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