転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。

桜城恋詠

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1・見習い聖女、追放されました

前世の記憶を思い出して・2

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  (ど、どうしよう……)

 神官達に捕えられたロルティは、四肢の拘束を受けた状態で馬車に揺られ──鬱蒼と覆い茂る森へやってきた。

  (に、逃げなきゃ駄目なのに……!)

 ガタガタと真っ青な表情で怯えながらも虎視眈々と、逃げる機会を伺っていたが──。
 結局、行動に移すよりも早く目的地へ到着してしまった。

「カイブル。あとのことは、貴様に任せる」
「はっ」

 神官達はロルティを抱きかかえた聖騎士1人に馬車を降りるよう告げると、来た道を引き返していく。

  (今、カイブルって……)

 男性の名を耳にした幼子が信じられない気持ちでいっぱいになりながら、大きく瞳を見開いたのには理由がある。

『やめて!痛いことしないで!』
『うるさい!私のことは、父と呼びなさいと言っただろう!』
『お、おとうしゃん、助けて……!』

 ロルティは立派な聖女になるために必要だと称して自身を痛めつける養父のことが、大嫌いだった。
 神殿にいる奴らは全員、自身に害を成す敵だと思っていたが……。

『聖女見習い様。自らの身に危機が及んだ際には、必ずわたしをお頼りください』

 たったそんな幼子にも1人だけ、信頼のおける聖騎士がいた。

『私が必ず、あなたをこの牢獄から救い出して見せます』

 それが今幼子を抱きしめて、森の奥深くへ歩みを進める男性──カイブル・アカイムだ。

 ロルティとの年齢差は、10歳くらいだろうか。
 見習いの聖騎士から昇格したばかりの、性根が腐った大人ばかりの神殿で働いているとは思えぬほど──心優しい青年だ。

 彼は見習い聖女として虐げられる幼子の姿に心を痛め、命の危機に瀕した際には必ずここから出してやると約束してくれた。

  (今もまだ、その約束が有効なのかは……。わからない、けど……)

 ロルティは今すぐに死にたくないと泣き叫び、彼の胸元に縋りつきたい気持ちでいっぱいになりながら瞳を潤ませ、カイブルの顔色を窺った。

「見習い聖女様。もう少しの、辛抱です」
「カイブル……!」
「ここであのお方が来るまで、お待ちください」

 彼はやはり、神殿ではなく自分の味方だったようだ。
 そう確信を持った幼子は不安でいっぱいな気持ちを洗い流すように、瞳から大粒の涙を溢した。

「数分程度、お1人になる時間が出来てしまいますが……。心配は、いりません。あなた様の人生は、幸福を約束されているのですから」

 カイブルは悲しそうに目を伏せると、小さな四肢を土の上に立たせよう試みる。
 だが、ロルティはそれを嫌がった。幼子は彼の胸元を握りしめ、涙声で問いかける。

「カイブルは? 一緒にいてくれないの?」
「申し訳ございません。私には、別の役目があるものですから……」
「わたし、1人は嫌だよ……」

 いくら前世の記憶を思い出した、六歳児の幼子であったとしても――周りを見渡す限り木々が覆い茂り、右も左もわからぬ場所に取り残されるのは、不安で仕方がないのだろう。

  (カイブルと、ずっと一緒がいい……。どうして、その願いは叶わないんだろう……?)

 ロルティを安心させるためにその場にしゃがみ込んで目線を合わせた彼は、優しく諭すように言い聞かせた。

「見習い聖女様は、1人ではありません」
「でも……」
「これからあなた様は、たくさんの愛をその身へ注がれるでしょう」
「そんなの、いらないよ!」

 彼の胸元から手を離したロルティは何度も首を振って、地団駄を踏みながら駄々をこねると、ワンピースの裾を握りしめながら叫ぶ。

「カイブルが一緒じゃなきゃ、絶対にやだ……!」

 涙でグシャグシャになったこちらの姿に心を痛めた彼は、首元にぶら下げていたネックレスの留め金を外し、ロルティの首にかけてくれる。

「ふえ……?」
「再会した際に、お返しください」

 不思議そうにカイブルを見上げれば、彼は優しく微笑みながらロルティと約束してくれる。

「わかった! また会おうね! 絶対だよ!」
「はい。見習い聖女様。どうか、お元気で……」

 先程まで涙を流していたのが嘘のように笑顔を浮かべると、カイブルの去りゆく後ろ姿をブンブンと手を振って見送った。

  (今度会った時は、絶対に名前を呼んでもらうんだから……!)

 唯一信頼のおける彼にだけは、ロルティと名前で呼んでほしかったのに――彼は頑なに自分を聖女見習い様と呼び、幼子から距離を置いていた。

  (わたしはカイブルの言葉を、信じてる……)

 それを残念に思いながら、鬱蒼と茂る森の中で1人取り残されたロルティはスカートの裾を握りしめ、あのお方と呼ばれる謎の人物がやってくるのを待ち続けた。
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