転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。

桜城恋詠

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【番外編1・前編】公爵邸の愛娘、王様と兄の実母に出会う

ジェナロの怒り

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「ジェナロ。本当にすまなかった……!」

 ハリスドロア公爵夫人と息子に対して口汚く己の主張を喚き散らす妹をどうにか王城行きの馬車に乗せて見送ったドルヘウス・エガリテールは、愛娘を抱きかかえたまま冷え冷えとした視線とともに自らを見下すハリスドロア公爵の前で勢いよく頭を下げた。
 その姿はこの国を担う王とは到着思えぬほどに情けない。

  (本当に、反省してるのかなぁ……?)

 父親の腕の中で半信半疑な様子を見せていると、どうやら彼も同じ気持ちであったらしい。
 すぐさま地を這うような怒気を孕んだ低い声が、頭上から聞こえてきた。

「謝って済むと、本気で思っているのか」
「君が望むことは、なんでも叶える! だからどうか、私の命だけは保証してくれ!」
「ふん。貴様は本当にクズだな。真っ先にすることが命乞いとは……」

 あの妹あればこの兄ありとは、よく言うものだ。
 父親が彼に向ける軽蔑の眼差しを、不安そうにロルティが観察していることに気づいたのだろう。
 ジェナロは愛娘に微笑みかけたあと、淡々と陛下に要求する。

「2度目はないと言ったはずだ。今度こそ、あの女を社会的に抹殺する」
「ど、どうか……! い、命だけは、助けてくれ……!」
「俺の話すらも満足に聞けないようでは、先が思いやられるな」

 彼は手慣れた手つきで腰元の剣を片手で鞘から引き抜くと、愛娘を抱き上げたまま切っ先を王の首筋に突きつけた。

「今すぐここで、死ぬか?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 君が血も涙もない男だというのはよく知っている。だが! 幼子の前で私の命を奪うほど、残忍な人間では……っ!」
「黙れ」

 2人は長い付き合いだ。
 ジェナロが本気で怒っているか、そうでないかくらいは一目瞭然なのだろう。
 陛下は必死に言い訳を繰り返し、彼を褒めたたえる。
 そんな言動すらも耳障りだと一蹴した父親は、ドルヘウスに命じる。

「命が惜しいのであれば、文句を言わずに手を動かせ。いいな?」

 国王はこくこくと頷き、ジェナロの言う通りにすると約束した。

  (これじゃ、どっちがおうしゃまなのかよくわかんなくなってるような……?)

 幼子が疑問を感じている間に父親は引き抜いた剣を鞘に収納し、これからの段取りを静かに語り出す。

「劇場を貸し切り、名だたる貴族たちを集めろ。そのあとの動きは、追って連絡する」
「い、一体、どんな名目で……」
「面白い劇が見られるとでも言っておけ」
「わ、わかった……」

 陛下の同意を得た彼は、これ以上国王と一緒にいたところで苛立ちが募るだけだと考えたようだ。
 言いたいことだけを口にすると、ドルヘウスに帰宅を促す。

「す、すぐに、君の言う通りにしよう!」
「失せろ」
「は、はい!」

 これではどちらが王族なのかなど、わかったものではない。
 国王は威勢のいい返事をしたあと、従者たちを連れてそそくさと去って行った。

「はぁ……」

 パタンと音を立てて扉が閉じた瞬間を見計らい、ジェナロは大きなため息をこぼす。
 先程まで陛下に向けていた冷徹な視線は、いつの間にか霧散している。

  (いつものおとうしゃまが、戻ってきた……!)

 ロルティは一連の流れを大人しく見守り終え、キラキラと瞳を輝かせながら告げた。

「おとうしゃま! とっても、かっこよかったよ……!」
「そうか。あまり、ああいう姿は見られたくないのだが……」
「そうなの?」
「ああ。君に嫌われては、元も子もないからな」
「わたしはずっとずっと、おとうしゃまが大好きだよ?」
「ああ。俺もだ」
「一緒だね!」

 2人はギュッと抱き合い、人仕事終えた喜びを噛み締め合う。

「あの男がうまく、舞台を整えてくれるといいんだが……」
「準備ができるまで、一緒に遊ぶ?」
「そうだな。それも、悪くはない」
「やったー!」

 何かと忙しい父親は、こうして一緒に過ごすことすらも困難だ。
 せっかくロルティと2人きりでいる時間を作っても、幼子の周りにはいつだって人がいる。
 親子は同じ公爵家で暮らしているのに、酷いと1か月近く顔を会わせなかった。
 そんな状態でも不仲にならないのは、ロルティが毎日たくさんの人々から愛を注がれ、大切に育てられたからなのだろう。

「えへへ。今日は大変なことばっかりだったけど、今はとっても幸せだよ!」
「ああ。俺もだ」
「おかあしゃまとおにいしゃまも、早く幸せいっぱいになれますように!」

 ロルティは大好きな父親のぬくもりに包まれながら、時間の許す限りおしゃべりに集中した。
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