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俺の周りがおかしい
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目が覚めると、俺は自室の寝台の上だった。子供の頃に使っていた部屋だ。
全てがまだ真新しい。
部屋に置いてある姿見の鏡を見て、7才の俺が写っている事に気が付く。
「これがやり直しってことなのか」
俺は今度は間違えない。
何とかイエニーに会わなくては。
そう思っていたのに、彼女に会う事は出来なかった。
父レーガン・マシューとシドニー・フラウは前と同じ親友同士ではなかった。お互いの家の交流を殆どしていなかった。
それに屋敷の使用人や両親の様子もおかしい。
何よりも前の時にはいなかった弟妹がいるのだ。
両親は嫡男の俺よりも弟妹を甘やかして、俺には厳しい躾けをしていた。
時折、どうしてこんな目に遭うのか分からない程だった。
使用人の多くは俺を監視するようになっている。
よく見ると、俺に厳しい目を向ける人間にはある特徴があった。
それは体の一部に花弁のような赤い痣がある。
そのことが何を意味するのか知ったのは、俺が父にイエニーの名前を出した時だ。
「お前の口から彼女の名をいう事は許さない」
父に告げられて日から俺に対する監視はますます厳しくなった。
10才になる頃には俺は別の伯爵令嬢との婚約が決められ、イエニーとの接点は全て無くされた。どうやら、あの痣のある人間は前の記憶を持っていて、皆が俺とイエニーを引き離そうとしていた。
二度とあの悲劇を繰り返さないために、幸い俺の婚約者になったアンネには記憶がなかった。イエニーと同じ年という事で、彼女を使ってイエニーに接触を試みた。
だが、それも彼女の父親に知られて、俺の父シドニーの知ると所となったのだ。
アンネの父親にも記憶があり、本当は俺の様なろくでなしの愚か者とは婚約させたくなかったらしいが、アンネが俺に好意を抱いたから渋々了承したらしい。
殆ど周りは敵ばかりの状況だった。
後は学園に入学する時かデビュタントの時にしかイエニーと接触する機会はないと俺は考えた。
それまで俺は両親や使用人らの前では大人しく従う事にした。
チャンスはやってくる。
デビュタントの日、俺は彼女に接触するために弟についていった。
弟のロイズはイエニーと同じ年に生まれた。弟がイエニーと仲良くなればもう一度イエニーに会えるかもしれないという浅はかな幻想を抱いていたのだ。
その望みは見事なまでに打ち砕かれた。
会場に両親と入場してきたイエニーはまるで妖精の様に愛らしかった。
周りの令息らは彼女を見ながら頬を染めていて、侯爵家の一人娘を親たちは値踏みするような目で見ていた。
何人かの貴族が自分の子供を売り込もうとフラウ侯爵に声をかけていた。
俺が声を掛けようとした時、周りには他の貴族らが俺の行く道を塞いだ。その全ての人の身体にはあの痣があった。
俺は見張られている。どこに行こうがこの国に俺の自由はないのだと言わんばかりに。
それでもイエニーに会って話をして、謝りたかった。俺の行いの所為で彼女が苦しんだことをきちんと謝罪したかったのだ。
そして、出来る事ならもう一度……。
そんな身勝手な想いを赦さないとばかりに皆が冷たい視線を向けていた。
遠くで笑っているイエニーの笑顔は今までのものとは比べようのないほど、幸せそうだった。
何より、彼女の母親は死んでいない。つまり、彼女に起きる不幸は無くなったのだ。後は俺がメリルに心を奪われなければ上手くいくと信じていた。
だが、イエニーの傍らにはあの男がいた。
グレゴリーが……。
どうして奴がここに居るんだ。俺と同じ年で、イエニーとは接点がなかったはずだろう。
「イエニーはグレゴリーと婚約している」
誰かが俺の耳元で囁いた。
そいつの手にはまたあの痣がある。
ははは…そうか、これが罰なんだ。イエニーの幸せを遠くから見ていろと、お前の出番はない。
これが神の意志なのかどうかは知らない。
だが、これが俺への罰なのは分かっていた。
その後、学園に行ってもイエニーを遠くから見る事しかできなかった。
傍にはいつも必ずグレゴリーが守る様についている。
そんな時だった。
廊下の角で出会い頭にぶつかった女生徒を見ると、メリルだった。
俺は顔を背けたが、メリルは俺に前と同じように誘いをかけてきた。
「ねえ、貴方ハンサムね。私と付き合わない」
「俺には婚約者がいる。君とは付き合えない」
俺が断ると、醜い本性を出して、
「こっちだって爵位しかないアンタなんてごめんよ!!」
そう喚いて去って行った。
メリルは他の高位貴族の令息に声をかけまくっていた。
気が付けば、品行方正な学園の秩序を乱したと言って、彼女は停学となっていた。
「なあ、あの阿婆擦れ。公爵家の嫡男をたらしこんで婚約破棄に追い込んだんだってな。その上、教師まで色仕掛けして試験問題を横流しさせようとしたんだろう。最悪だよな」
誰かがそう言っているのを聞いた。
今は他人事だが、前の俺は当事者だ。きっと前も似たような事があったのだろう。俺は目に目隠しをして、耳を塞いで知ろうとしなかったんだ。
メリルは俺が卒業する時には知らない間に、学園を辞めていた。
実家の男爵家が没落した為に平民になったからだ。
その後はどうなったかは知らない。
これで俺は婚約者のアンネを悲しませる要素はなくなった。
この頃には俺も監視されている生活に慣れた。
アンネが学園を卒業すると同時に俺は彼女と結婚した。
今度はアンネのウェディングドレスも式の事も覚えている。
彼女を大切にし、幸せにすることが俺に出来る唯一の償いだと思った。
時は流れ、俺たちの子供マルスが学園を卒業する時にイエニーと久しぶりの再会を果たすことになった。
全てがまだ真新しい。
部屋に置いてある姿見の鏡を見て、7才の俺が写っている事に気が付く。
「これがやり直しってことなのか」
俺は今度は間違えない。
何とかイエニーに会わなくては。
そう思っていたのに、彼女に会う事は出来なかった。
父レーガン・マシューとシドニー・フラウは前と同じ親友同士ではなかった。お互いの家の交流を殆どしていなかった。
それに屋敷の使用人や両親の様子もおかしい。
何よりも前の時にはいなかった弟妹がいるのだ。
両親は嫡男の俺よりも弟妹を甘やかして、俺には厳しい躾けをしていた。
時折、どうしてこんな目に遭うのか分からない程だった。
使用人の多くは俺を監視するようになっている。
よく見ると、俺に厳しい目を向ける人間にはある特徴があった。
それは体の一部に花弁のような赤い痣がある。
そのことが何を意味するのか知ったのは、俺が父にイエニーの名前を出した時だ。
「お前の口から彼女の名をいう事は許さない」
父に告げられて日から俺に対する監視はますます厳しくなった。
10才になる頃には俺は別の伯爵令嬢との婚約が決められ、イエニーとの接点は全て無くされた。どうやら、あの痣のある人間は前の記憶を持っていて、皆が俺とイエニーを引き離そうとしていた。
二度とあの悲劇を繰り返さないために、幸い俺の婚約者になったアンネには記憶がなかった。イエニーと同じ年という事で、彼女を使ってイエニーに接触を試みた。
だが、それも彼女の父親に知られて、俺の父シドニーの知ると所となったのだ。
アンネの父親にも記憶があり、本当は俺の様なろくでなしの愚か者とは婚約させたくなかったらしいが、アンネが俺に好意を抱いたから渋々了承したらしい。
殆ど周りは敵ばかりの状況だった。
後は学園に入学する時かデビュタントの時にしかイエニーと接触する機会はないと俺は考えた。
それまで俺は両親や使用人らの前では大人しく従う事にした。
チャンスはやってくる。
デビュタントの日、俺は彼女に接触するために弟についていった。
弟のロイズはイエニーと同じ年に生まれた。弟がイエニーと仲良くなればもう一度イエニーに会えるかもしれないという浅はかな幻想を抱いていたのだ。
その望みは見事なまでに打ち砕かれた。
会場に両親と入場してきたイエニーはまるで妖精の様に愛らしかった。
周りの令息らは彼女を見ながら頬を染めていて、侯爵家の一人娘を親たちは値踏みするような目で見ていた。
何人かの貴族が自分の子供を売り込もうとフラウ侯爵に声をかけていた。
俺が声を掛けようとした時、周りには他の貴族らが俺の行く道を塞いだ。その全ての人の身体にはあの痣があった。
俺は見張られている。どこに行こうがこの国に俺の自由はないのだと言わんばかりに。
それでもイエニーに会って話をして、謝りたかった。俺の行いの所為で彼女が苦しんだことをきちんと謝罪したかったのだ。
そして、出来る事ならもう一度……。
そんな身勝手な想いを赦さないとばかりに皆が冷たい視線を向けていた。
遠くで笑っているイエニーの笑顔は今までのものとは比べようのないほど、幸せそうだった。
何より、彼女の母親は死んでいない。つまり、彼女に起きる不幸は無くなったのだ。後は俺がメリルに心を奪われなければ上手くいくと信じていた。
だが、イエニーの傍らにはあの男がいた。
グレゴリーが……。
どうして奴がここに居るんだ。俺と同じ年で、イエニーとは接点がなかったはずだろう。
「イエニーはグレゴリーと婚約している」
誰かが俺の耳元で囁いた。
そいつの手にはまたあの痣がある。
ははは…そうか、これが罰なんだ。イエニーの幸せを遠くから見ていろと、お前の出番はない。
これが神の意志なのかどうかは知らない。
だが、これが俺への罰なのは分かっていた。
その後、学園に行ってもイエニーを遠くから見る事しかできなかった。
傍にはいつも必ずグレゴリーが守る様についている。
そんな時だった。
廊下の角で出会い頭にぶつかった女生徒を見ると、メリルだった。
俺は顔を背けたが、メリルは俺に前と同じように誘いをかけてきた。
「ねえ、貴方ハンサムね。私と付き合わない」
「俺には婚約者がいる。君とは付き合えない」
俺が断ると、醜い本性を出して、
「こっちだって爵位しかないアンタなんてごめんよ!!」
そう喚いて去って行った。
メリルは他の高位貴族の令息に声をかけまくっていた。
気が付けば、品行方正な学園の秩序を乱したと言って、彼女は停学となっていた。
「なあ、あの阿婆擦れ。公爵家の嫡男をたらしこんで婚約破棄に追い込んだんだってな。その上、教師まで色仕掛けして試験問題を横流しさせようとしたんだろう。最悪だよな」
誰かがそう言っているのを聞いた。
今は他人事だが、前の俺は当事者だ。きっと前も似たような事があったのだろう。俺は目に目隠しをして、耳を塞いで知ろうとしなかったんだ。
メリルは俺が卒業する時には知らない間に、学園を辞めていた。
実家の男爵家が没落した為に平民になったからだ。
その後はどうなったかは知らない。
これで俺は婚約者のアンネを悲しませる要素はなくなった。
この頃には俺も監視されている生活に慣れた。
アンネが学園を卒業すると同時に俺は彼女と結婚した。
今度はアンネのウェディングドレスも式の事も覚えている。
彼女を大切にし、幸せにすることが俺に出来る唯一の償いだと思った。
時は流れ、俺たちの子供マルスが学園を卒業する時にイエニーと久しぶりの再会を果たすことになった。
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