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円満なラスト
しおりを挟むフラウ侯爵家のサロンで、ブライアンとイエニーは再会している。
勿論、彼らだけではない。
イエニーはグレゴリーと結婚してフラウ侯爵夫人となっている。
ブライアンもアンネと結婚している。
今日、二つの侯爵家が顔を会せることになったのは、ブライアンの息子のマルスとイエニーの娘のマリナ―との結婚の事だ。
二人は学園に通っている間、交際を続けたが、マルスには過去の記憶がある。ロドニーとして実の母親を殺した記憶が……。
苦しんだ彼はマリナ―を何度も何度も諦めようとしたが出来なかったのだ。
そのことを両家が聞いたのは学園卒業の後だった。
この顔合わせはイエニーが言い出した事だ。
フラウ侯爵家には、マリナ―しかいない。
だが、ブライアンにはトーマスがいる。マルスを婿養子に出しても継ぐ跡取りはいるのだ。
「私はこの結婚に反対しないわ。二人が想いあっているのなら良いのではないかしら」
そう切り出したのは他でもないイエニーだった。
「君がそういうなら僕に反対する理由はない」
グレゴリーがそれに続いた。
アンネが安堵の表情を見せた。
ブライアンは静かに頭を下げた。
「息子をよろしく頼みます」
その真摯な姿勢にグレゴリーはため息を一つ落として、
「二人は、中庭でも散歩してくるがいい」
マリナ―とマルスは幸せそうにお互いを見合って、仲良く手を繋いで中庭に向かった。
グレゴリーが、
「マシュー侯爵夫人、屋敷の中を案内しますよ」
そう言って席を立った。
後に残ったのはブライアンとイエニーのだけとなった。
ブライアン頭の中には色々な事がぐるぐると回っていた。
「…すまない。イエニー俺は過去にお前に酷いことをした。決して赦されない事を…」
頭を下げて机に突っ伏しているブライアンにイエニーが、
「頭を上げて下さい。マシュー侯爵。それは過去の事。今の私達には関係がないことです。それにもう私は恨んでもいませんし、貴方を愛してもいません。あの想いはあの断頭台で処刑された時に断ち切ったのです」
「だが…」
「忘れる事は出来ないでしょうが、過去に囚われたら前には進めません。今とこれからを大切することが償いではないでしょうか。その為のやり直しだったのだと思うのです」
そう言ったイエニーの顔は穏やかで、かつての様な熱を含んだ瞳をブライアンに向けられていない事に気付いたのだ。
そうだ。彼女の言うとおりだ。過去をなかったことにはできないがこれからを生きる事が償いかもしれない。
外で仲良く寄り添って散歩している二人はまるで、若い頃のイエニーとブライアンの姿の様だった。
本来なら、自分たちがああなっていたのかもしれない。だが、道を違えたのはブライアンの方だ。
復讐を選んで、未練を断ち切ったのはイエニーなのだ。
今はそれぞれに見合った幸せを掴んでいる。
それでいいのではないか。
お互いの顔を見ながら、どちらともなく言葉を告げる。
──さようなら。
──さようなら、かつて愛した人。
ブライアンは先にサロンを出て、妻アンネの所に戻った。
一人、中庭を見つめているイエニーに、
「別れはできた?」
「ええ、これで全て終わったわ」
「ああ、これからは自分の本当の幸せを探そう。一緒にな」
「そうね。二人が結婚したら田舎の領地に行って、貴方とのんびり暮らしたいわね」
ふふっと笑って、イエニーは夫グレゴリーの顔を見たのだ。
さようなら、私の初恋
こうして3度目のウェディングドレスは赤く染まらなかった。
神が導いた未来は、明るく朗らかに照らされているに違いないからだ。
ー完ー
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