【完結】わたしの婚約者には愛する人がいる

春野オカリナ

文字の大きさ
2 / 52
アリスティア編

家族とは

しおりを挟む
 母が死んで3ヶ月しか経っていないにも関わらず、父は愛人だった女マリエルと娘エリーゼを伴って公爵家に帰って来た。

 「今日から義母になるマリエルと異母妹のエリーゼだ。アリスティア挨拶をしなさい」

 父はどうやら貴族の仕来たりすら忘れたらしい。私は公爵家の嫡子。相手は婿養子の愛人とその娘。どちらが上なのか誰が見ても明白なのに嫡子の私から頭を下げろと言っている。

 「そうですか。私は部屋に戻りますので…」

 気にも留めないで、部屋に戻ろうとすると、父が

 「挨拶もろくに出来ないのか。アデライトは素晴らしい・・・・・教育を施したのだな。後で執務室に来い」

 嫌味をいい、優しい笑みを愛人と子供に向けている。私には一度も向けられた事のない笑みを、何の力もないただの平民の母娘は当然の様に享受している姿に吐き気がした。

 皆、死ねばいいのに…

 母は最期までこの男しか見ていなかった。自分を顧みないこの男の一体何処に惹かれる要素があるのか、私は不思議でならなかった。

 「私、お姉様がいると聞いて、嬉しくてたまらなかったんです。仲良くしてください」

 異母妹といっても同い年のこの少女は私に向かってそう微笑んだ。母親譲りの金色の髪と青い瞳を持った美しい少女の名は「エリーゼ」そう呼ばれていた。

 私は彼女の気持ちが分からない。自分の父が長年、本妻と嫡子を放置して愛人と仲良く暮らしているのに、初めて会った本妻の娘に『仲良くしたい』と言える無神経さが憎らしい。

 私が応接室を出ると家令のセバスが声をかけて来た。彼は母が幼い時から仕えている。

 「お嬢様、いかがいたしますか?」

 「あのが帰って来たからといって何か帰る必要があるのかしら。これまで通りでいいわよ。皆にもそう伝えてね」

 父と呼ぶのも悍ましい。私は父を『あの男』と呼んでいた。屋敷の者は全て祖父の息がかかっている者しかいない。女公爵であったのは私の母、アデライトだった。あの男には何の権利もない婿養子。何を勘違いしているのか愛人を連れて帰るなんて、祖父はこの事を知っているはず。何故何も言わないのだろう。

 不振に思いながらも私は父のいる執務室にいった。その部屋は私が生まれてから一度も使われていない。

 実際の公爵家の舵取りをしているのは祖父で、母は祖父の代行を務めていた。今は私が母の代わりに公爵家の家を取り仕切っている。それは祖父が認めた権利。

 執務室に入ると父が私を詰りだした。

 「お前は本当にあの女。お前の母親に良く似ているな。どこまで私を縛れば気が済む。お前が生まれたせいで、私の人生は不幸だった。今後、私の家族・・・・にあんな態度を取ることは赦さない。目障りな姿も二度と見せるな!さっさと行け!!」

 怒鳴り散らしながら、的外れな言葉を投げかける。

 『私の家族』その中に私が含まれていない事は十分に分かっている。でも、私も貴方の娘なのに…。

 忘れていた心の中に仕舞い込んでいた箱の蓋が開きそうになっている。

 母の歪んだ執着からやっと、逃れられたと思ったら、今度は父が私に当たり散らす。私の心はどんどん冷えていく。

 私だって愛されたかったし、愛したかった。

 私は、行き場のない思いを抱えながら、心が軋む様な痛みを抱えて、自室に向かった。

 ダメよ。忘れなさい。私は誰も愛さないし、愛されようとは思わないのだから。

 母の事が反面教師となって、私は『愛』というものが怖かった。人を狂わせる『愛』を知りたくなかったのだ。

 


 

 
 
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

嘘つきな貴方を捨てさせていただきます

梨丸
恋愛
断頭台に上がった公爵令嬢フレイアが最期に聞いた言葉は最愛の婚約者の残忍な言葉だった。 「さっさと死んでくれ」 フレイアを断頭台へと導いたのは最愛の婚約者だった。 愛していると言ってくれたのは嘘だったのね。 嘘つきな貴方なんて、要らない。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 11/27HOTランキング5位ありがとうございます。 ※短編と長編の狭間のような長さになりそうなので、短編にするかもしれません。 1/2累計ポイント100万突破、ありがとうございます。 完結小説ランキング恋愛部門8位ありがとうございます。

【完結】祈りの果て、君を想う

とっくり
恋愛
華やかな美貌を持つ妹・ミレイア。 静かに咲く野花のような癒しを湛える姉・リリエル。 騎士の青年・ラズは、二人の姉妹の間で揺れる心に気づかぬまま、運命の選択を迫られていく。 そして、修道院に身を置いたリリエルの前に現れたのは、 ひょうひょうとした元軍人の旅人──実は王族の血を引く男・ユリアン。 愛するとは、選ばれることか。選ぶことか。 沈黙と祈りの果てに、誰の想いが届くのか。 運命ではなく、想いで人を愛するとき。 その愛は、誰のもとに届くのか── ※短編から長編に変更いたしました。

最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる

椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。 その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。 ──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。 全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。 だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。 「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」 その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。 裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]

風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが 王命により皇太子の元に嫁ぎ 無能と言われた夫を支えていた ある日突然 皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を 第2夫人迎えたのだった マルティナは初恋の人である 第2皇子であった彼を新皇帝にするべく 動き出したのだった マルティナは時間をかけながら じっくりと王家を牛耳り 自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け 理想の人生を作り上げていく

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...