【完結】わたしの婚約者には愛する人がいる

春野オカリナ

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アリスティア編

婚約者

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 この国の社交界は14才でデビューするが、実際の成人は17才。学園を卒業してからなのだ。

 夜会も午前0時になると17才未満の男女は帰宅する。飲酒も喫煙も17才からと決まっている。

 学校は貴族のみが通う王立貴族学院と裕福な平民が通う王立学園がある。その他は騎士学校があり、それそれ独立している。

 敷地も別になっていて、交流もない。徹底された管理をしている。

 これには訳があって、昔は敷地の壁はなく、貴族・平民・騎士という隔たりも無かったが、平民の中には玉の輿を狙う子女や子息も多く、平民に限らず下級貴族や新興貴族にも見られた。その為、『婚約解消』が流行の芝居の様に横行し、国の機関にも支障が出るほどになった。だから学校の仕組みを改正した。

 貴族の学校内も下級貴族と高位貴族・王族と3層に分かれ、下級貴族とは出くわさない様に校舎が完全に別になっている。

 クラブ活動もあるが、高位貴族の殆どは帰宅組で、自宅に帰って各々の家の手伝いをしている。つまり跡取りは親や家令から自身の家の管理方法を学び、尚且つ夜会、お茶会、紳士クラブ等で社交を行なっている。

 跡取りでない者は、婿入り先や嫁入り先で、同じ様にその家の仕来りや管理の仕方を学ぶ必要があるので、大抵は婚約者と一緒に登下校している。

 私も最低限の社交は行っている。王家絡みの夜会にだけは出席していた。そこでもやはり王子殿下達やその婚約者から、着せ替え人形の様に、着替えされている。

 だから、未だに『午前0時のシンデレラ』の噂は絶えない。
 
 初めは赤い髪だという事で、私ではないかとの噂も流れたが、デビュタントで実物を見た貴族から別人だと証言した人がいて、正体不明の謎の美女という扱いになっているらしい。

 私には好都合だった。愛されるということを知らない私は『愛』が分からない。誰とも拘らなければ傷つくこともなければ傷付ける事もないだろうと、引き籠り生活をしていた。

 こんな私にも婚約者はいる。それも最低の相手が、初めての顔合わせはデビュタントが終わり、1ヶ月後に公爵家に両親に連れられてやってきた。

 婚約者の名前はケロイド・ウィード。侯爵家の次男。私を見て開口一番に

 「こんな地味ブスが婚約者なんて絶対に嫌だ!」

 傍で聞いていた侯爵が彼の頭に拳骨を落とした。蹲る彼を無視して

 「これからは私達のことを本当の親だと思って、頼ってちょうだい」
 
 父母のいない哀れな子供だと思われているのだろう。でも実際に頼られているのは公爵家の方。ウィード侯爵領は近年、災害で復興の真っ最中。

 祖父が隣領という事で、支援しているのだ。その代償に今回の婚約があるのだが、本人は知らされていないのだろうか。

 私は婚約を結んでから、彼と会ったのはほんの数回程、彼に特別な感情はない。

 なのに最近、彼は公爵家に足しげく通っている。

 それは、あの異母妹に会いに来ている。

 今日もいつもの時間に迎えに来た。

  「おはよう。今日もいい天気だね。エリーゼ」

 私の前で開口一番に異母妹のエリーゼに挨拶する。

 「お…おはようございます。ケロイド様。でもお義姉様が…」

 「ああ、お前もいたのか。アリスティア」

 見たくもないようだと言わんばかりの顔を、朝から見せられるこっちの身にもなって欲しい。

 「おはようございます。ケロイド様」

 「ああ、おはよう」

 挨拶もそこそこにエリーゼを自分の馬車に乗せて、さっさと学校に向かっていった。私は公爵家の自分の馬車で学校に向かった。護衛騎士と侍女を連れて。

 本来ならあの男の庶子である異母妹エリーゼは、貴族学院に入学する資格はないのだが、公爵家の権威を勝手に振りかざし、挙句の果てに多額の寄付をして無理矢理ねじ込んだ。

 幸い、私は目立たない地味な生活をしているので、周りには私は空気の様な存在なのだ。だから、エリーゼを本物の公爵令嬢だと勝手に勘違いする者も多く、彼女はその美貌と慈しみの精神で、周りの男どもを虜にしていった。

 婚約者がいようがいまいがお構いなしに、彼女に言わせれば全員『お友達』だそうだ。バカバカしい。

 学期末の試験結果を発表する時だけ騒がれるだけの存在の私には関係ないが…

 今日も授業が終わって、薬学教室で使う薬草の温室に来ている。私は最近、この温室の薬草の世話をしてから自宅に帰っている。

 それは家に帰るのが億劫だから、あの家に帰ると会いたくない人間に会ってしまう。関わりたくないのに、異母妹エリーゼは何かと私に纏わりつこうとする。正直、面倒な子だ。彼女の所為で平穏だった家が不穏に変わりつつある事を理解してほしい。

 「はあー、帰りたくないなぁ」

 ぼそりと呟く私の声を拾った薬学教授に

 「そんなに盛大に溜息を付くと幸せが逃げていくよ」

 「ひゃーっ」

 後ろから不意に声を掛けられて驚いた。

 「ごめん、ごめん。驚かせるつもりはなかったんだ」

 「いえ、こちらこそすみません。いつもお邪魔してまして」

 「いや、私としては助かっている。薬草の世話は誰もしたがらないからね。いつもご苦労さん」

 このやり取りもいつもの事。この教授は私が学院に、入学した時から何かと親切にしてくれている。

 今日もそんな一日の終わりを迎えていた。

 

 
 
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