【完結】わたしの婚約者には愛する人がいる

春野オカリナ

文字の大きさ
36 / 52
アデライト編

希望の光

しおりを挟む
 再婚する意志を見せると父は

 「本当にいいのか?」

 「はい、構いません。アリスティアに父親が必要な事は解っています。但し、条件があります。伯爵家のアリスティアへの干渉はやめてもらって下さい。恐らく、伯爵が床に伏していて、義母が何か無理を言わない様に釘を刺してください。それと、オーウェンを公爵家の戸籍に入れないでください」

 「わかった。何かあったらすぐに放逐させる」

 「それではきっと何の解決にもならないでしょう」

 そう、またオーウェンは私達の前に現れる。彼が生きている限り、この国にいる限りそれは続くのだ。

 かといって、今の段階では何の理由もなく彼を処罰することはできない。

 ただ、待つしかない。彼の行いで自滅するのを。それでも駄目なら私が死ぬ時に道ずれにするまでだ。

 この婚姻は、最初からオーウェンを破滅させる為に結んだもの。

 私は調べさせていたオーウェンの恋人のマリエルとその子供の事を。

 オーウェンとは全く血の繋がりがない。それでもオーウェンはいつか引き取りたいと言ってくるに違いない。

 その時に面倒な事はごめんだ。出来るだけアリスティアに関わらせたくなかった。でもローフェルの娘だという事できっとまた、公爵家との繋がりを求めてくるはず。

 以前流れた醜聞の所為で、公爵家との縁談が流れてはと義母ヴェロニカは夫のガルズを言い含めて、マリエルに金を積んで別れさせている。

 オーウェンはそれを公爵家が圧を掛けたと勝手に友人らに吹聴して回っていた。あくまでも婚約者候補でしかなかったオーウェンに、そこまでする必要などないことを高位貴族らは理解していても、下級貴族の友人とやらは素直に信じたのだろう。

 マリエルは義母ヴェロニカと同じで、他人を妬む癖があり、奪うことに喜びを感じるような性質の持ち主。

 そんな彼女等は外見もよく似ている。

 見かけは儚げな、男の庇護心を擽るような姿でありながら、本性は毒の華。一度味わったら最後、死ぬまでその毒に犯され続けるような中毒性を持っている仇花。

 私と再婚したオーウェンも義母に言われたのか、はたまた改心したのか私やアリスティアに優しかった。しかし、兄ローフェルに対して罪悪感があるのかアリスティアと目を合わせることはしなかった。

 屋敷の者達にオーウェンとアリスティアを二人にしない事を命じていた。護衛はわたしに付ける倍の人数をつけ、公爵家の影をつけて、オーウェンの動向を探っていた。

 かつての私の様な思いをアリスティアにさせない様に。

 それにこの頃にはアリスティアには王家から縁談が来ていた。

 王弟レイラン殿下との婚約話が。

 父もレイラン殿下との縁組には、乗り気だった。だが、彼には事情があって隣国に留学していた。直ぐにどうこうできる状態ではないし、伯爵家の事もあった。

 公になれば、王家と縁が出来ると義母がまたいらぬ画策をするに違いない。

 頭の痛くなる問題は山積みだが、アリスティアはローフェルに似て健康な体を持っている事だけが私の唯一の救いとなった。

 良かった。私に似なくて。

 そして、オーウェンは私が予想した通り、マリエルとその娘を引き取りたいと言ってきた。

 私は監視しやすい別邸に住むように勧めた。彼は至極上機嫌でアリスティアにいらぬ言葉を吐いたのだ。

 それがきっかけで、アリスティアの病気が悪化することになる。

 別邸に行きたいというアリスティアを連れて行ったのが間違いだった。
 
 礼儀も身の程も弁えないマリエルはアリスティアに不貞の現場に見られた腹いせに、赤い髪の鬘を付けてアリスティアを怯えさせた。

 オーウェンは帰宅して、執事たちから事情を聴いて、公爵家にやってきた。

 自分がいない間にマリエルを侮辱しに別邸を訪れたのかと喚き散らすオーウェンに辟易していた私が、冷たい言葉を投げかけると、今度はすがってくる。

 その時、オーウェンの性質を確信したのだ。


 そして、私はアリスティアに呪いをしていた。

 アリスティアの中に父、ローフェルの思い出はあるが名前が記憶から削除されていく。ただオーウェンの名前は覚えられると知って

 「アリスティア、貴方の本当の父はローフェルオーウェン。忘れないで、貴方のその瞳は父から受け継いだもの。忘れてしまってはお父様が悲しむわよ」

 何度も何度も刷り込んだ。幸せな記憶と共に。言い聞かせた。ローフェルをオーウェンに置き換えて。

 次第にアリスティアの中にはローフェルの記憶しかなく、オーウェンをあの男と呼ぶようになっていく。

 そして、アリスティアの誕生日パーティーが終わった頃、オーウェンは羞恥心の欠片も示さずこういった。

 「君の希望は叶えた」「これからも君の言うとおりにする」「君の為に全てを犠牲にしてきたのに」

 そうアリスティアの前で言ったのだ。何もかも私が悪いように。

 そして、マリエルから吹き込まれた偽りを信じて、私を詰り出す。話は平行線を辿った事で逆上したオーウェンはまたアリスティアを傷つけた。

 庇った私の頬を彼が叩いたのだ。それを伯爵家・父公爵の前で……。

 私は俯きながら、内心これでこの男と別れられると思ったのに、義母ヴェロニカがまたもや邪魔をした。

 アリスティアを侍女と乳母に任せ、私達は応接室で話し合いをしたのだが、義母はオーウェンに詫びを入れさせ、アリスティアの成人まではいさせて欲しいと懇願した。得意の男を落とす仕草で、父も私も聞く気が無かったが、伯爵は今後二度と公爵家には近づかないし、事業からも撤退する意思を見せたことで、父は了承してしまった。

 義母は驚愕し、それは嫌だと主張したが、道理が通らなかった。公爵家の事業を手伝っていたからこそ、潤沢な資産が出来ていた。
 
 その金で贅を尽くしていた義母は、今後そんな生活を望めないと分かっている。しかし、オーウェンの罪を本人に償わせないのなら、当然の処置だった。父は伯爵家をローフェルと結婚した時から、切り捨てたかった。今、その絶好のタイミングを逃すはずもなかった。

 そしてオーウェンも二度と公爵家の門を叩くことを許さないと伝えた。でも、オーウェンが大人しくするとは思えない。だから私は手紙を別邸に送った。その内容はアリスティアの成長を記したもので、最後に「愛している」と嘘の言葉を綴った。それだけで、オーウェンは私達に近づかない。公爵家に来ない事は予測できた。

 案の定、別邸のトーマスから最初の手紙を見ただけで、後は封も見ずに送りかえす様に指示されたと聞かされた。

 この事を聞いて確信した。自分が愛されていると信じている間は、アリスティアに近づかないだろうと。

 その手紙を盗み見たマリエルは私に、無駄な嫌がらせの様な怪文書を送りつけてきた。

 彼女の文を私はいつかの為に保管した。そして一年が経つ頃に離縁状と共に、別邸の私の部屋の鍵を入れたのだ。

 それは一縷の望みだったのかもしれない。オーウェンが改心して、叔父としてアリスティアを支えてくれるのではという思いからだったが、彼はそれすらも封を開けずに返してきた。

 アリスティアの記憶は、ますます酷くなる一方で、私はあらゆる医師に見せたが効果は表れなかった。

 そして、何事も無く月日が過ぎて行った頃、隣国にいたレイラン殿下から吉報がもたらせられた。

 ーーーー王家の瞳を持った男性が隣国にいるーーーー

 父はその知らせを聞いて、急いで隣国のとある神殿に向かった。

 アリスティアが10才の誕生日を迎える直前の秋だった。

 

 
 

しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

嘘つきな貴方を捨てさせていただきます

梨丸
恋愛
断頭台に上がった公爵令嬢フレイアが最期に聞いた言葉は最愛の婚約者の残忍な言葉だった。 「さっさと死んでくれ」 フレイアを断頭台へと導いたのは最愛の婚約者だった。 愛していると言ってくれたのは嘘だったのね。 嘘つきな貴方なんて、要らない。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 11/27HOTランキング5位ありがとうございます。 ※短編と長編の狭間のような長さになりそうなので、短編にするかもしれません。 1/2累計ポイント100万突破、ありがとうございます。 完結小説ランキング恋愛部門8位ありがとうございます。

【完結】祈りの果て、君を想う

とっくり
恋愛
華やかな美貌を持つ妹・ミレイア。 静かに咲く野花のような癒しを湛える姉・リリエル。 騎士の青年・ラズは、二人の姉妹の間で揺れる心に気づかぬまま、運命の選択を迫られていく。 そして、修道院に身を置いたリリエルの前に現れたのは、 ひょうひょうとした元軍人の旅人──実は王族の血を引く男・ユリアン。 愛するとは、選ばれることか。選ぶことか。 沈黙と祈りの果てに、誰の想いが届くのか。 運命ではなく、想いで人を愛するとき。 その愛は、誰のもとに届くのか── ※短編から長編に変更いたしました。

最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる

椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。 その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。 ──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。 全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。 だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。 「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」 その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。 裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]

風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが 王命により皇太子の元に嫁ぎ 無能と言われた夫を支えていた ある日突然 皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を 第2夫人迎えたのだった マルティナは初恋の人である 第2皇子であった彼を新皇帝にするべく 動き出したのだった マルティナは時間をかけながら じっくりと王家を牛耳り 自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け 理想の人生を作り上げていく

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...