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セレンティア編
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ひと月後にセレンティアとコーネリウスは盛大な婚姻式を挙げた。
その夜、何事もなく、二人は初夜を無事に済ますことができ、セレンティアにとってこの日が人生で一番幸せな思い出となった。
それからも穏やかに日々が過ぎて行く中で、コーネリウスは10才のお茶会での出来事などすっかり忘れていた。
暫くして、セレンティアが懐妊したことを受けて、祝いだと王妃に招かれたお茶会の席には、王妃の姪のサンドラが同席している。
しかもやたらとセレンティアと親しくしていた。
「セレンティア?ダグラス侯爵令嬢とは…」
「ええ、先日のわたくしのお茶会から親しくさせていただいておりますのよ。今日もお祝いを持ってきてくださったのよ」
「そう…そうか」
コーネリウスは釈然としない。自分の知らないところで、サンドラはセレンティアに接触していた。偶然などではなく意図的にセレンティアに近づいていることに不安な気持ちになっていた。
サンドラの行動に薄気味悪さを感じずにはいられないコーネリウスだが、その場は張り付けた仮面でやり過ごしていた。
まさかコーネリウスの飲んだお茶にある物が入れられていようとは、思いもしなかったのだ。
何気なくお茶を口に運び、一口飲むと、口の中に花の香りが広がっていつものお茶よりも好ましく思った。
「いつものお茶よりも円やかで花の香りがしますね」
「そうなの?いつものお茶と変わらないと思いますが」
隣で不思議そうに首を傾げているセレンティアに違和感を覚えた。
──まさか…このお茶に何か…。
その違和感は現実のものとなって、コーネリウスに襲い掛かった。
コーネリウスの身体が熱を帯びたように火照って、血がたぎる様な感覚を覚えた。
このままでは、自分の理性を失いそうになるのを我慢して、傍で控えている護衛騎士の手を借りて自室へと急いで戻った。
心配そうに付き添うセレンティアに、
「少し気分が悪くなっただけだから、しばらく休めばよくなる」
そう言い聞かせて、部屋から逃したのだ。
──媚薬だ…。しか即効性が強い物だ。
コーネリウスは身重のセレンティアを乱暴してはいけないと部屋から出したが、身体は一向に収まらない。更なる刺激を求めるように心と体に媚薬は浸透していった。
遂に幻覚さえも見えている。
先ほど部屋から出したはずのセレンティアがコーネリウスの目の前にいる。つい手を出してしまって、「セレンティア、愛している」と言葉を口にしていた。何度も何度もコーネリウスは夢現の状態で、愛する妻をその腕に抱いている夢を見た。
しかし、コーネリウスが正気に返った時、裸で隣にいたのはサンドラだった。
慌てて、コーネリウスは寝台から飛び降り、はだけている衣服を正しながら、扉の前に控えている騎士に起きたことを聞きだした。
媚薬に意識を取られたコーネリウスを、心配した王妃の命で見舞いに来たというサンドラを通したのだと告げられた。いくら王太子に「誰も入れるな」と命じられていても王妃の名を出されては、いくら騎士と言えど通さない訳にはいかない。症状が症状だけに侍女たちに被害が及んではと下がらせた事が、悪手となってしまった。
二人きりとなった部屋からはコーネリウスとサンドラの淫らな声が扉を守る騎士の耳にも聞こえていた。更に間の悪いことに丁度、様子を見にセレンティアが部屋を訪れたのだという。
慌ててコーネリウスは、セレンティアの部屋を訪れた時には、セレンティアはお腹を押さえて倒れ込んでいた。
幸い発見が早くて母子ともに一命を取り留めたが、安静にしなくてはならない状態となった。
起きた事を話さなければいけないが、セレンティアとお腹の子供に影響があってはと考えて後回しにしていた。その間に王妃から送り込まれた侍女たちが偽りをセレンティアに吹き込んでいく。
──王太子殿下は側妃としてダグラス侯爵令嬢を召す予定だ…と。
セレンティアは自分の顔を真っ直ぐに見なくなった夫コーネリウスに密かに疑念が生まれる。今までなら誤解を解く為に正直にはなしてくれていたのに、今は何も言ってはくれない。心に不安ばかりが押しよせて、セレンティアは情緒不安定になっていった。
その間にもお腹はどんどん膨らんで、産み月よりも二カ月早く男女の双子を産み落とした。
しかし、男の子は生まれはしたものの息をしていなかった。女の子だけはかろうじて助かったのだ。お産と子供の死産とで二重のショックを受けたセレンティアの心は崩壊寸前となった。
心配したマルグレン侯爵は、セレンティアの心の安寧の為にある秘薬を勧めたのだ。
『忘却の滴』
永遠の楽園から修道女を呼び寄せて、秘薬をセレンティアに飲ませた。そして、国王はその秘薬をコーネリウスにも飲むように命じた。
二人は、秘薬のおかげで一時期、サンドラに計られたことを忘れて、『コーデリカ』と名付けられた王女と束の間の幸せな生活を送っていた。
その2年後、コーデリカが2才の誕生日、再びセレンティアは懐妊する。
だが、それはセレンティアの精神を再び崩壊させる要因となったのだ。
その夜、何事もなく、二人は初夜を無事に済ますことができ、セレンティアにとってこの日が人生で一番幸せな思い出となった。
それからも穏やかに日々が過ぎて行く中で、コーネリウスは10才のお茶会での出来事などすっかり忘れていた。
暫くして、セレンティアが懐妊したことを受けて、祝いだと王妃に招かれたお茶会の席には、王妃の姪のサンドラが同席している。
しかもやたらとセレンティアと親しくしていた。
「セレンティア?ダグラス侯爵令嬢とは…」
「ええ、先日のわたくしのお茶会から親しくさせていただいておりますのよ。今日もお祝いを持ってきてくださったのよ」
「そう…そうか」
コーネリウスは釈然としない。自分の知らないところで、サンドラはセレンティアに接触していた。偶然などではなく意図的にセレンティアに近づいていることに不安な気持ちになっていた。
サンドラの行動に薄気味悪さを感じずにはいられないコーネリウスだが、その場は張り付けた仮面でやり過ごしていた。
まさかコーネリウスの飲んだお茶にある物が入れられていようとは、思いもしなかったのだ。
何気なくお茶を口に運び、一口飲むと、口の中に花の香りが広がっていつものお茶よりも好ましく思った。
「いつものお茶よりも円やかで花の香りがしますね」
「そうなの?いつものお茶と変わらないと思いますが」
隣で不思議そうに首を傾げているセレンティアに違和感を覚えた。
──まさか…このお茶に何か…。
その違和感は現実のものとなって、コーネリウスに襲い掛かった。
コーネリウスの身体が熱を帯びたように火照って、血がたぎる様な感覚を覚えた。
このままでは、自分の理性を失いそうになるのを我慢して、傍で控えている護衛騎士の手を借りて自室へと急いで戻った。
心配そうに付き添うセレンティアに、
「少し気分が悪くなっただけだから、しばらく休めばよくなる」
そう言い聞かせて、部屋から逃したのだ。
──媚薬だ…。しか即効性が強い物だ。
コーネリウスは身重のセレンティアを乱暴してはいけないと部屋から出したが、身体は一向に収まらない。更なる刺激を求めるように心と体に媚薬は浸透していった。
遂に幻覚さえも見えている。
先ほど部屋から出したはずのセレンティアがコーネリウスの目の前にいる。つい手を出してしまって、「セレンティア、愛している」と言葉を口にしていた。何度も何度もコーネリウスは夢現の状態で、愛する妻をその腕に抱いている夢を見た。
しかし、コーネリウスが正気に返った時、裸で隣にいたのはサンドラだった。
慌てて、コーネリウスは寝台から飛び降り、はだけている衣服を正しながら、扉の前に控えている騎士に起きたことを聞きだした。
媚薬に意識を取られたコーネリウスを、心配した王妃の命で見舞いに来たというサンドラを通したのだと告げられた。いくら王太子に「誰も入れるな」と命じられていても王妃の名を出されては、いくら騎士と言えど通さない訳にはいかない。症状が症状だけに侍女たちに被害が及んではと下がらせた事が、悪手となってしまった。
二人きりとなった部屋からはコーネリウスとサンドラの淫らな声が扉を守る騎士の耳にも聞こえていた。更に間の悪いことに丁度、様子を見にセレンティアが部屋を訪れたのだという。
慌ててコーネリウスは、セレンティアの部屋を訪れた時には、セレンティアはお腹を押さえて倒れ込んでいた。
幸い発見が早くて母子ともに一命を取り留めたが、安静にしなくてはならない状態となった。
起きた事を話さなければいけないが、セレンティアとお腹の子供に影響があってはと考えて後回しにしていた。その間に王妃から送り込まれた侍女たちが偽りをセレンティアに吹き込んでいく。
──王太子殿下は側妃としてダグラス侯爵令嬢を召す予定だ…と。
セレンティアは自分の顔を真っ直ぐに見なくなった夫コーネリウスに密かに疑念が生まれる。今までなら誤解を解く為に正直にはなしてくれていたのに、今は何も言ってはくれない。心に不安ばかりが押しよせて、セレンティアは情緒不安定になっていった。
その間にもお腹はどんどん膨らんで、産み月よりも二カ月早く男女の双子を産み落とした。
しかし、男の子は生まれはしたものの息をしていなかった。女の子だけはかろうじて助かったのだ。お産と子供の死産とで二重のショックを受けたセレンティアの心は崩壊寸前となった。
心配したマルグレン侯爵は、セレンティアの心の安寧の為にある秘薬を勧めたのだ。
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永遠の楽園から修道女を呼び寄せて、秘薬をセレンティアに飲ませた。そして、国王はその秘薬をコーネリウスにも飲むように命じた。
二人は、秘薬のおかげで一時期、サンドラに計られたことを忘れて、『コーデリカ』と名付けられた王女と束の間の幸せな生活を送っていた。
その2年後、コーデリカが2才の誕生日、再びセレンティアは懐妊する。
だが、それはセレンティアの精神を再び崩壊させる要因となったのだ。
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