元バスケ部員の少女が異世界に召喚?

王太白

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 そんなわけで、翌日の夜、有子とエッちゃんはゾフィーの付き添いとして、舞踏会に出かけた。送迎の馬車から降りて、会場である屋敷の大広間に入ると、魔法による照明に照らされた中に、料理と酒が乗せられたいくつものテーブルが並べられ、その奥では大勢の貴族の男女が演奏される音楽に合わせてステップを踏んで踊っていた。
 その中で、周囲の若い女性のグループにかたっぱしから声をかけ、声をかけられた女性が、いやいやながら作り笑いを浮かべて一緒に踊ろうとする男がいた。金髪で小太りのチビの男である。
「あれが第一皇子、ウダーイです。女に目がなく、可愛いと見たら見境なしに口説くので、女性には嫌われています。ただ、我が国は皇帝を中心とした専制君主制なので、皇族の権力が強く、ウダーイには逆らえないので、声をかけられた女性はいやいや付き合っている状態です。これでもわたくし自身、ウダーイに目をつけられないように、必死で逃げ回っているんですよ」
 そう言うゾフィーの二の腕には、汚いものでも見たかのように鳥肌がたっていた。
「おまけに、ウダーイは気にくわない者を屋敷の地下牢に監禁しては、連日のように拷問して楽しんでいる性格異常者です。そのため、ウダーイの腰巾着どもは、気にくわない者をウダーイに讒言しては、拷問してもらっているといううわさです。幸い、うちは貴族なので権力で侍女たちを守ることはできますが、後ろ盾のない庶民はたまりません」
 ほどなくして、ゾフィーはウダーイと違う方向に目を転じる。その先には、金髪で長身の眼鏡の男がいた。男は、しきりに周囲の女性と歓談していたが、女性のほうが無理して話を合わせているような、よそよそしい雰囲気が伝わってくる。
「あれが第二皇子、クチャーイです。ウダーイと違って、表面的には理知的な方ですが、単に自分の知識をひけらかしているだけの嫌いはあります。エイコ、クチャーイ殿下にバレないように、念を拾って、わたくしたちに伝えてください」
 エッちゃんは手近ないすに座ると、そのまま休むふりをして、魔法を発動させた。やがて、クチャーイの周囲の会話の内容が、有子の頭に流れ込んでくる。
(君のティアラの宝石は、紅玉だね。紅玉の由来とは……)
(いや、紅玉の由来よりも、来週の食事会のことについて話したいわ……)
(そうだね。食事会でも、紅玉の飾りを多用した店に行こう……)
(あなたは紅玉のことばかり褒めるけど、来週はあたくしの誕生会でもあるのよ……)
(ああ、そうだったね。誕生会では、トパーズを贈ろう。トパーズの由来とは……)
 そこで念は途切れた。エッちゃんのほうを向くと、ハァハァと荒い息をしている。
「念を使う魔法は、かなり気力を使うので、頻繁には使えないんですよ。それに、長時間使っていると、向こうの魔術師に感づかれますからね」
 ゾフィーがエッちゃんに冷たい飲み物を差し出しながら言う。
「それで、ユウコさんは、どう思われましたか?」
「……う~ん……紅玉の話題をふっておきながら、相手の女性が興味なさそうな感じだと、話題を食事会に切り替えたりして、相手に媚びを売ったりしている感じですね」
「やはり、そう感じましたか。あの会話の片鱗から少し推察できるように、クチャーイ殿下は自分の知識をひけらかしたがるかと思えば、女性がきつい態度で切り返せば、たちまち媚びる方です。悪く言えば、自我の弱い方です。帝位に即けるには難がありますが、それでもウダーイよりは真面目で責任感がありますから、即位後は貴族の合議制で政治をやれば、自我の弱さは問題にならないでしょう」
 それからも舞踏会は粛々と進んでいく。有子は酒を飲むふりをしながら、クチャーイを観察していた。エッちゃんが何度か念を拾ってきた限りだと、クチャーイはあれから何人もの女性に声をかけたが、その都度、宝石にまつわるうんちくの話などをしてしまい、女性から煙たがられていた。正直、ウダーイもクチャーイも、有子にとってはウザいだけでしかない。
「二人の皇子について、だいたいのところはわかりましたか? まあ、わたくしは殿方と踊る気も無いので、後は父の知り合いにあいさつだけして、帰らせていただきます。ご覧になればわかる通り、カイゼル帝国の貴族の子弟なんて、二人の皇子に媚びを売るだけの小心者ばかりですから。わたくしとしては、あの中から婿を選ぶなんて、まっぴらです」
 それからしばらくは、ゾフィーが知人にあいさつしながら酒をついで回り、有子はエッちゃんと一緒に、大広間の隅でチビチビと酒を飲んで、時間をつぶしていた。やがて、ゾフィーが「帰りますよ」と言ったので、三人とも馬車に乗り込んで帰路につく。
 その日は何事もなく終わったが、問題が起きたのは翌日である。
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