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第1章 暗い闇と蒼い薔薇
話相手はウサちゃん 2
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ウサギというのは、なんと愛くるしい生き物なのか。
犬や猫も可愛くはある。
けれど、ウサギには不思議な魅力があった。
白くて、ふさふさしていて、やわらかくて。
なんとも言えない愛らしさを感じる。
ウサギと、こうしてふれあうのは、いつ以来だろう。
小学生の頃は飼育小屋でウサギを飼っていた。
よく野菜を持っていったことを思い出す。
「う~ん、このやわらか感! たまんないなー!」
すりすりすり。
したぱたしたぱた。
ウサギが腕の中で暴れているのには気づかない。
ふわっふわのふっさふさが、心地良過ぎた。
しかも、ほんのりと暖かいのが、これまたなんとも言えない。
大人になってからウサギとふれあう機会などなかった。
最後にウサギにふれたのは、15歳の時だ。
両親と一緒に行ったサファリパークにあった「ふれあい広場」でのこと。
ヤギやアヒル、モルモットなどと一緒にウサギもいた。
レティシアは、すっかりウサギに夢中になっている。
見つけた獣道に興味が引かれ、つい入ってしまったのだが、そのせいでグレイやサリーとは、はぐれていた。
早く合流しなければ心配させると思っていたのに、すっかり忘れている。
「あ! いたっ…ッ!」
暴れていたウサギの足が、レティシアの手をひっかいていた。
痛みはそれほどでもなかったのだけれど、驚いてウサギから手を放す。
パッとウサギがレティシアの腕から逃げ出した。
引っかかれたことなど、どうでもいい。
ウサギがどこかに行ってしまうと、レティシアはその小さな背に向かって声をかける。
言語が通じるはずもないのに、思わず反射的に声が出た。
「待って! ウサちゃん!」
相手は野生の動物だ。
待つはずなんかない。
と、思ったレティシアの視線の先でウサギがピタっと足を止める。
それをチャンスと受け止めた。
しゃがみこんで、手を前に出す。
「おいで~、怖くないよ~、食べたりしないからね~」
ウサギが、ちらっとこっちを見た。
さらにチャンスとばかりに、じわっと少しだけにじり寄る。
「驚かせちゃったね~、ごめんね~、もうぎゅうぎゅうしないから、おいで~」
繰り返し呼びかけていると、ウサギが体をこちらに向けた。
レティシアの目が、きらんと輝く。
そんなはずはないのだけれど、なにやらトボトボといった様子でこちらに近づいてきた。
心なし、元から丸い体が、より丸くなっている気がする。
ここで動いてびっくりさせたら逃げてしまうに違いない。
レティシアはじっとウサギが近づくのを待った。
やがてウサギが足元で丸くなる。
逃げる雰囲気のないことに安心して抱き上げた。
さっきよりゆっくりと丁寧に。
そして、近くにあった大きな石の上に座ってから、膝の上にウサギをのせる。
「可愛いね~」
頭から背中を撫でてみた。
やわらかくてフサフサで、手触りがいい。
大きくて長い耳も撫でる。
少し毛は短いが、つるんとした感触も心地良かった。
無条件で癒される。
ストレス社会でペットが望まれるのは、癒しを求めてのことだろう。
現代日本で暮らしていたマンションはペット禁止だったため、ペットは飼っていなかった。
1人暮らしだったこともあり、世話ができるか不安だったのもある。
今はストレスフリーだが、愛らしさと感触には和まされた。
「やっぱりウサギ最強だわ。ラブリー度ハンパないわ」
じぃっとウサギを見つめる。
いろんな動物がいて、好みは人それぞれ。
だが、レティシアにとってウサギは格別だった。
丸い体つきも長い耳も、まん丸な目も、とにかく可愛い。
以前、勤めていた職場でリサーチした「人気の動物ぬいぐるみ」を思い出す。
1位はクマだった。
が、それより8位のウサギのぬいぐるみのほうがダントツで可愛いのに、と思ったものだ。
ひた。
そんなことを考えているレティシアの手に、何か冷たいものがふれる。
見れば、ウサギの手、いや足なのかもしれないが、手がのせられていた。
まるで、さっきひっかいたのを気にしてでもいるかのようだ。
もちろん、たまたまなのだろうが、なんだか微笑ましい気分になる。
「平気、平気。痛くないよ? 帰ったら、ちょちょいっと治してくれる人もいるから、大丈夫!」
言葉が通じるとは思っていない。
ただ見上げてくる様子が、あまりに可愛らしかったので、話しかけずにいられなかっただけだ。
よしよしとばかりに、頭を撫でる。
ウサギの鼻が、小さくピスピスしていた。
「心臓、撃ち抜かれるね、これは」
さするようにして体も撫でる。
そして、ん?と思った。
じぃいっと、じぃいいいっとウサギを見つめる。
というより、見つめ合う。
ウサギも、じっとレティシアを見ていた。
なにかを思い出せそうで思い出せない。
「お腹減ってんの? 鼻が濡れてると元気っていうのは、ウサギじゃなかったよね? こんなことなら野菜でも持ってくればよかったよ」
たしか、野菜といっても食べさせていいものといけないものとがあったはず。
やり過ぎも良くない。
レティシアは、周囲を少し見回した。
木々や草が生い茂っている。
「うーん……野生ってことは草が主食? なんの草か、全然わかんないケド。食べられるものはあるんだよね? 野生動物に野菜あげても大丈夫なもんなのかなぁ」
野生動物に餌をやらないでください。
よく聞く話だ。
人の手から餌を得られると覚えてしまうと、自然界では生きにくくなる。
人もそうだが、動物だって楽なほうに流れるものなのだろう。
そうは思うのだけれども。
「ちょっとくらいなら、いいんじゃない? たしかウチに、ニンジンあったよね。マルクに言って、切れ端もらっとこうかなぁ」
とたん、ウサギの耳がピーンと伸びた。
鼻も、勢いよく、ぴすぴすさせている。
言葉が通じているとは、やはり思わないが、何かは通じている気がした。
もしかするとニンジンが「美味しい物」だと察して喜んでいるのかもしれない。
ぴすぴすさせている鼻に、ちょいと人差し指をあてる。
「ごめんね。今日は持ってないんだ。今度、持ってくるね」
相手は野生動物。
今度があるかどうかはわからない。
けれど、森に入る時に持っていれば、どこかでまた会う可能性はある。
今度はそっと胸に抱いてから、頬をすりすり。
「他の動物に食べられないように、気をつけるんだよ」
ビクッとウサギの体が震えた。
本当に言葉がわかっているみたいで、笑ってしまう。
たしっ。
急にウサギが足もとい手を、レティシアの頬にあててきた。
やはり少し、ひんやりしている。
手の先は毛羽だっていて、くすぐったい。
その手を握り、頬をすりすりして、感触を楽しむ。
ウサギが嫌がるように手をグイグイ引っ張っていることにも気づかない。
「レティシア様ーッ!」
グレイの声だった。
すぐにサリーの声も聞こえる。
しまった、と思った。
ウサギに夢中で、迷子になっていたのを忘れていたのだ。
ぴょんっと、ウサギがレティシアの腕から飛び出す。
「あ! ウサちゃん!」
連れて帰りたいところだったが、野生動物には自然が1番だと諦めた。
代わりに後ろ姿へと声をかける。
「またねー! またここで会おうねー!」
直後、グレイとサリーが姿を現した。
レティシアは、神妙な顔で、平身低頭めちゃくちゃ2人に謝った。
犬や猫も可愛くはある。
けれど、ウサギには不思議な魅力があった。
白くて、ふさふさしていて、やわらかくて。
なんとも言えない愛らしさを感じる。
ウサギと、こうしてふれあうのは、いつ以来だろう。
小学生の頃は飼育小屋でウサギを飼っていた。
よく野菜を持っていったことを思い出す。
「う~ん、このやわらか感! たまんないなー!」
すりすりすり。
したぱたしたぱた。
ウサギが腕の中で暴れているのには気づかない。
ふわっふわのふっさふさが、心地良過ぎた。
しかも、ほんのりと暖かいのが、これまたなんとも言えない。
大人になってからウサギとふれあう機会などなかった。
最後にウサギにふれたのは、15歳の時だ。
両親と一緒に行ったサファリパークにあった「ふれあい広場」でのこと。
ヤギやアヒル、モルモットなどと一緒にウサギもいた。
レティシアは、すっかりウサギに夢中になっている。
見つけた獣道に興味が引かれ、つい入ってしまったのだが、そのせいでグレイやサリーとは、はぐれていた。
早く合流しなければ心配させると思っていたのに、すっかり忘れている。
「あ! いたっ…ッ!」
暴れていたウサギの足が、レティシアの手をひっかいていた。
痛みはそれほどでもなかったのだけれど、驚いてウサギから手を放す。
パッとウサギがレティシアの腕から逃げ出した。
引っかかれたことなど、どうでもいい。
ウサギがどこかに行ってしまうと、レティシアはその小さな背に向かって声をかける。
言語が通じるはずもないのに、思わず反射的に声が出た。
「待って! ウサちゃん!」
相手は野生の動物だ。
待つはずなんかない。
と、思ったレティシアの視線の先でウサギがピタっと足を止める。
それをチャンスと受け止めた。
しゃがみこんで、手を前に出す。
「おいで~、怖くないよ~、食べたりしないからね~」
ウサギが、ちらっとこっちを見た。
さらにチャンスとばかりに、じわっと少しだけにじり寄る。
「驚かせちゃったね~、ごめんね~、もうぎゅうぎゅうしないから、おいで~」
繰り返し呼びかけていると、ウサギが体をこちらに向けた。
レティシアの目が、きらんと輝く。
そんなはずはないのだけれど、なにやらトボトボといった様子でこちらに近づいてきた。
心なし、元から丸い体が、より丸くなっている気がする。
ここで動いてびっくりさせたら逃げてしまうに違いない。
レティシアはじっとウサギが近づくのを待った。
やがてウサギが足元で丸くなる。
逃げる雰囲気のないことに安心して抱き上げた。
さっきよりゆっくりと丁寧に。
そして、近くにあった大きな石の上に座ってから、膝の上にウサギをのせる。
「可愛いね~」
頭から背中を撫でてみた。
やわらかくてフサフサで、手触りがいい。
大きくて長い耳も撫でる。
少し毛は短いが、つるんとした感触も心地良かった。
無条件で癒される。
ストレス社会でペットが望まれるのは、癒しを求めてのことだろう。
現代日本で暮らしていたマンションはペット禁止だったため、ペットは飼っていなかった。
1人暮らしだったこともあり、世話ができるか不安だったのもある。
今はストレスフリーだが、愛らしさと感触には和まされた。
「やっぱりウサギ最強だわ。ラブリー度ハンパないわ」
じぃっとウサギを見つめる。
いろんな動物がいて、好みは人それぞれ。
だが、レティシアにとってウサギは格別だった。
丸い体つきも長い耳も、まん丸な目も、とにかく可愛い。
以前、勤めていた職場でリサーチした「人気の動物ぬいぐるみ」を思い出す。
1位はクマだった。
が、それより8位のウサギのぬいぐるみのほうがダントツで可愛いのに、と思ったものだ。
ひた。
そんなことを考えているレティシアの手に、何か冷たいものがふれる。
見れば、ウサギの手、いや足なのかもしれないが、手がのせられていた。
まるで、さっきひっかいたのを気にしてでもいるかのようだ。
もちろん、たまたまなのだろうが、なんだか微笑ましい気分になる。
「平気、平気。痛くないよ? 帰ったら、ちょちょいっと治してくれる人もいるから、大丈夫!」
言葉が通じるとは思っていない。
ただ見上げてくる様子が、あまりに可愛らしかったので、話しかけずにいられなかっただけだ。
よしよしとばかりに、頭を撫でる。
ウサギの鼻が、小さくピスピスしていた。
「心臓、撃ち抜かれるね、これは」
さするようにして体も撫でる。
そして、ん?と思った。
じぃいっと、じぃいいいっとウサギを見つめる。
というより、見つめ合う。
ウサギも、じっとレティシアを見ていた。
なにかを思い出せそうで思い出せない。
「お腹減ってんの? 鼻が濡れてると元気っていうのは、ウサギじゃなかったよね? こんなことなら野菜でも持ってくればよかったよ」
たしか、野菜といっても食べさせていいものといけないものとがあったはず。
やり過ぎも良くない。
レティシアは、周囲を少し見回した。
木々や草が生い茂っている。
「うーん……野生ってことは草が主食? なんの草か、全然わかんないケド。食べられるものはあるんだよね? 野生動物に野菜あげても大丈夫なもんなのかなぁ」
野生動物に餌をやらないでください。
よく聞く話だ。
人の手から餌を得られると覚えてしまうと、自然界では生きにくくなる。
人もそうだが、動物だって楽なほうに流れるものなのだろう。
そうは思うのだけれども。
「ちょっとくらいなら、いいんじゃない? たしかウチに、ニンジンあったよね。マルクに言って、切れ端もらっとこうかなぁ」
とたん、ウサギの耳がピーンと伸びた。
鼻も、勢いよく、ぴすぴすさせている。
言葉が通じているとは、やはり思わないが、何かは通じている気がした。
もしかするとニンジンが「美味しい物」だと察して喜んでいるのかもしれない。
ぴすぴすさせている鼻に、ちょいと人差し指をあてる。
「ごめんね。今日は持ってないんだ。今度、持ってくるね」
相手は野生動物。
今度があるかどうかはわからない。
けれど、森に入る時に持っていれば、どこかでまた会う可能性はある。
今度はそっと胸に抱いてから、頬をすりすり。
「他の動物に食べられないように、気をつけるんだよ」
ビクッとウサギの体が震えた。
本当に言葉がわかっているみたいで、笑ってしまう。
たしっ。
急にウサギが足もとい手を、レティシアの頬にあててきた。
やはり少し、ひんやりしている。
手の先は毛羽だっていて、くすぐったい。
その手を握り、頬をすりすりして、感触を楽しむ。
ウサギが嫌がるように手をグイグイ引っ張っていることにも気づかない。
「レティシア様ーッ!」
グレイの声だった。
すぐにサリーの声も聞こえる。
しまった、と思った。
ウサギに夢中で、迷子になっていたのを忘れていたのだ。
ぴょんっと、ウサギがレティシアの腕から飛び出す。
「あ! ウサちゃん!」
連れて帰りたいところだったが、野生動物には自然が1番だと諦めた。
代わりに後ろ姿へと声をかける。
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