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第2章 黒い風と金のいと
白いまなざし朝ご飯 1
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祖父を見送ったあと、それぞれが部屋に戻ろうとしていた。
そのマルクの背中に声をかける。
すぐに、マルクが、レティシアの近くまで戻ってきた。
「なんでしょう、レティシア様」
にこにこ顔のマルクには、とても言いづらい。
嫌がることが、わかっていたからだ。
それでも、頼んでみる。
「前に、私が釣った魚、冷凍してるって言ってたよね?」
「ええ。そろそろ、ひと月になりますから、残りは、近々、お出しする予定にしてますよ」
あの大きな魚を、マルクは切り身にして冷凍していると聞いていた。
これまでも、何度か食卓に上がっている。
スープに使ったと、教えてもらったりもしていた。
(あの時は、金持ちのくせにって腹立ったけど……手伝ってくれたんだから、分けてあげるべきだったよね……)
祖父とのアウトドアデートに浮かれ過ぎていた。
それを邪魔された気分になり、嫌な態度を取っている。
そもそも王子様のことは、特別に好きでもなかったし。
さりとて、意地悪が過ぎるのは、人としてどうなのか。
(でもなぁ……下手に優しくすると、ツケ上がりそうな気もするんだよなぁ……これ以上、粘着されたくない、けど……うん……あれは、私が悪い……)
魚を独り占めした自分のほうが、欲張りでケチだったと反省した。
人として駄目な奴にはなりたくない。
レティシアは、笑顔のマルクに両手を合わせる。
「明日の朝、王子様が戻ってきたら、その魚、出してあげて」
「ですが……」
「わかってる! それはもう、すんごいわかってる!」
ウチのみんなは、王子様が嫌いだ。
それはレティシアに粘着しているからで、危険な目に合わせたからでもある。
転移して屋敷に来るくらいの粘着王子に食事を出す理由なんてない、と思うのは当然のことだった。
自分のために、彼らは怒ってくれている。
レティシアも、その気持ちは、とてもよくわかるのだけれど。
「でも、あの魚を釣るのを手伝ってくれたんだよ。だから、分け前なしっていうのは、ちょっと気が引けるっていうか……」
そもそも、あの日に「半分こ」していれば良かった。
そうすれば、マルクにも嫌な思いをさせずにすんだ。
やはり、人として駄目な子になりかかっている、と感じる。
過程はともかく、結果としては、なんでも思うようになり過ぎているからかもしれない。
こんなことでは、いつ祖父に「世界を亡ぼして」と言い出すか、わかったものではない、という気がした。
(後悔しても取り返しつかないんだから……ホント、反省しないと駄目だ……自分が怖い……)
この世界は、次元は違えど「リアル」に存在している。
そして、前の世界ほど平和ではない。
綺麗事ではすまなくて、誰かと誰かを天秤にかけることだってある。
どちらかを選択しなければならないのなら、大事な人を選ぶ。
それでも。
人は死ねば、生き返らないのだ。
それは前の世界と同じだった。
身近に差し迫ってくるかどうかの違いはあっても。
「嫌なのは、わかってるんだけど……ごめん! 私の我儘、聞いてほしい!」
ぺこんっと、マルクに頭を下げる。
すぐに慌てたような声が降ってきた。
「レ、レティシア様が謝られることはございませんよ! あいつのためじゃなくて、レティシア様のためと思って作ればいいんですから! ささ、頭をお上げください!」
マルクが思わず、といったようにレティシアの両肩をつかんでくる。
本来、使用人が主にふれるのは、着替えなどの時だけだ。
だが、もちろんレティシアは気にしない。
気にする「癖」がなかった。
セクハラならともかく、マルクのこれは気遣いから自然に出た動作だと、自動的に認識している。
「ありがと、マルク」
頭を上げ、マルクに笑ってみせた。
マルクは己の「失態」に気づいたのか慌てて手を離し、苦笑いをもらす。
それから、ふんっと顎をそらせた。
「どうせなら、王宮で食べたことないようなもの、あの野郎に食わせてやりますよ」
王子様に対しては、誰もが口が悪くなる。
笑ってうなずいてから、マルクにお休みを言った。
「レティシア様も、お休みになられてくださいませ」
サリーが声をかけてくる。
ほかのみんなは引き上げていたが、グレイとサリーは残っていた。
2人とも、ちょっぴり微妙な顔をしている。
「王子様がツケ上がると思ってるでしょ?」
レティシアも、そう思っていなくもないので、わかる。
この屋敷内に関して言えば、女性陣の「受け」は、非常に悪いのだ。
粘着と言い出したレティシア自身が、不憫だと思うくらいには。
「お屋敷に転移してくるほどですから……粘着が度を越しています……」
サリーが嫌そうに顔をしかめた。
確かに、それはそうなのだ。
レティシアは王子様に「つきまとわれて」いる。
前の世界で、レティシアはアイドルでも人気タレントでもなかった。
それこそ、ただの「一般人」でしかない。
ここまで追いかけられることに、慣れてはいないのだ。
普通に考えれば、気持ち悪いし、コワイ。
「そうなんだけどさ。あの王子様、悪気がないんだよなぁ」
「そうでしょうか? 悪気なく人攫いができるとはと思えないのですが……」
グレイが、少し厳しく返してくる。
それも、その通りだと思うのだけれども。
「なんかさ……それさ……手違いだったんだって……」
レティシアの言葉に、2人が固まる。
「は……?」
「は……?」
2人して同じ言葉を口にした。
その気持ちも、非常によくわかる。
レティシアも「人攫いを手違いですませるな」と怒った。
「正気ですか?」
「本気でそんな……」
グレイとサリーは、少々、混乱気味。
レティシアは、溜め息混じりにうなずく。
「だよね~……そうなるよ、フツー。でも、王子様は正気だし、本気なんだよ。悪気ないんだよ」
悪気のないところが、困りどころなのだ。
嫌いですめば話は簡単なのだから。
「天然なんだよなぁ。あ、天然っていうのは、良い意味で自由、悪い意味で自分勝手、みたいな感じ」
グレイとサリーは、呆れて物も言えないといったふうに、唖然としている。
レティシアは王子様と何回か話していて、ずいぶん慣れた。
なので、唖然とするより先に、怒ってしまう。
「空気は読めないし、場違いな言動するし……でも、悪気はない」
気を遣っている「らしき」ことを言ったり、したりもする。
なのに、言いかたや態度は、横柄で尊大だった。
とても、ちぐはぐで、どうすればこんなことになるのかと、いつも思う。
大雑把で打たれ強くもあるから、ついレティシアも気遣いを忘れてしまうのだ。
(キャッチボールできない人っているけどさ。あそこまでの人は、なかなかいないっての。投げてくるボールが、まず見えない)
そして、投げ返しても、どこに行くんだ?という方向に走っていくのだ、あの王子様は。
「だから、まぁ……大目に見てあげて……って、見過ぎは良くないけどね!」
2人が、しかたなさそうに「はあ……」と返事をする。
ともあれ、5歳児よりも手はかかるが、5歳児並みに悪気もないのだ。
人攫いの誘拐犯で粘着王子だけれども。
「いいところもあるよ……たぶん……」
そのマルクの背中に声をかける。
すぐに、マルクが、レティシアの近くまで戻ってきた。
「なんでしょう、レティシア様」
にこにこ顔のマルクには、とても言いづらい。
嫌がることが、わかっていたからだ。
それでも、頼んでみる。
「前に、私が釣った魚、冷凍してるって言ってたよね?」
「ええ。そろそろ、ひと月になりますから、残りは、近々、お出しする予定にしてますよ」
あの大きな魚を、マルクは切り身にして冷凍していると聞いていた。
これまでも、何度か食卓に上がっている。
スープに使ったと、教えてもらったりもしていた。
(あの時は、金持ちのくせにって腹立ったけど……手伝ってくれたんだから、分けてあげるべきだったよね……)
祖父とのアウトドアデートに浮かれ過ぎていた。
それを邪魔された気分になり、嫌な態度を取っている。
そもそも王子様のことは、特別に好きでもなかったし。
さりとて、意地悪が過ぎるのは、人としてどうなのか。
(でもなぁ……下手に優しくすると、ツケ上がりそうな気もするんだよなぁ……これ以上、粘着されたくない、けど……うん……あれは、私が悪い……)
魚を独り占めした自分のほうが、欲張りでケチだったと反省した。
人として駄目な奴にはなりたくない。
レティシアは、笑顔のマルクに両手を合わせる。
「明日の朝、王子様が戻ってきたら、その魚、出してあげて」
「ですが……」
「わかってる! それはもう、すんごいわかってる!」
ウチのみんなは、王子様が嫌いだ。
それはレティシアに粘着しているからで、危険な目に合わせたからでもある。
転移して屋敷に来るくらいの粘着王子に食事を出す理由なんてない、と思うのは当然のことだった。
自分のために、彼らは怒ってくれている。
レティシアも、その気持ちは、とてもよくわかるのだけれど。
「でも、あの魚を釣るのを手伝ってくれたんだよ。だから、分け前なしっていうのは、ちょっと気が引けるっていうか……」
そもそも、あの日に「半分こ」していれば良かった。
そうすれば、マルクにも嫌な思いをさせずにすんだ。
やはり、人として駄目な子になりかかっている、と感じる。
過程はともかく、結果としては、なんでも思うようになり過ぎているからかもしれない。
こんなことでは、いつ祖父に「世界を亡ぼして」と言い出すか、わかったものではない、という気がした。
(後悔しても取り返しつかないんだから……ホント、反省しないと駄目だ……自分が怖い……)
この世界は、次元は違えど「リアル」に存在している。
そして、前の世界ほど平和ではない。
綺麗事ではすまなくて、誰かと誰かを天秤にかけることだってある。
どちらかを選択しなければならないのなら、大事な人を選ぶ。
それでも。
人は死ねば、生き返らないのだ。
それは前の世界と同じだった。
身近に差し迫ってくるかどうかの違いはあっても。
「嫌なのは、わかってるんだけど……ごめん! 私の我儘、聞いてほしい!」
ぺこんっと、マルクに頭を下げる。
すぐに慌てたような声が降ってきた。
「レ、レティシア様が謝られることはございませんよ! あいつのためじゃなくて、レティシア様のためと思って作ればいいんですから! ささ、頭をお上げください!」
マルクが思わず、といったようにレティシアの両肩をつかんでくる。
本来、使用人が主にふれるのは、着替えなどの時だけだ。
だが、もちろんレティシアは気にしない。
気にする「癖」がなかった。
セクハラならともかく、マルクのこれは気遣いから自然に出た動作だと、自動的に認識している。
「ありがと、マルク」
頭を上げ、マルクに笑ってみせた。
マルクは己の「失態」に気づいたのか慌てて手を離し、苦笑いをもらす。
それから、ふんっと顎をそらせた。
「どうせなら、王宮で食べたことないようなもの、あの野郎に食わせてやりますよ」
王子様に対しては、誰もが口が悪くなる。
笑ってうなずいてから、マルクにお休みを言った。
「レティシア様も、お休みになられてくださいませ」
サリーが声をかけてくる。
ほかのみんなは引き上げていたが、グレイとサリーは残っていた。
2人とも、ちょっぴり微妙な顔をしている。
「王子様がツケ上がると思ってるでしょ?」
レティシアも、そう思っていなくもないので、わかる。
この屋敷内に関して言えば、女性陣の「受け」は、非常に悪いのだ。
粘着と言い出したレティシア自身が、不憫だと思うくらいには。
「お屋敷に転移してくるほどですから……粘着が度を越しています……」
サリーが嫌そうに顔をしかめた。
確かに、それはそうなのだ。
レティシアは王子様に「つきまとわれて」いる。
前の世界で、レティシアはアイドルでも人気タレントでもなかった。
それこそ、ただの「一般人」でしかない。
ここまで追いかけられることに、慣れてはいないのだ。
普通に考えれば、気持ち悪いし、コワイ。
「そうなんだけどさ。あの王子様、悪気がないんだよなぁ」
「そうでしょうか? 悪気なく人攫いができるとはと思えないのですが……」
グレイが、少し厳しく返してくる。
それも、その通りだと思うのだけれども。
「なんかさ……それさ……手違いだったんだって……」
レティシアの言葉に、2人が固まる。
「は……?」
「は……?」
2人して同じ言葉を口にした。
その気持ちも、非常によくわかる。
レティシアも「人攫いを手違いですませるな」と怒った。
「正気ですか?」
「本気でそんな……」
グレイとサリーは、少々、混乱気味。
レティシアは、溜め息混じりにうなずく。
「だよね~……そうなるよ、フツー。でも、王子様は正気だし、本気なんだよ。悪気ないんだよ」
悪気のないところが、困りどころなのだ。
嫌いですめば話は簡単なのだから。
「天然なんだよなぁ。あ、天然っていうのは、良い意味で自由、悪い意味で自分勝手、みたいな感じ」
グレイとサリーは、呆れて物も言えないといったふうに、唖然としている。
レティシアは王子様と何回か話していて、ずいぶん慣れた。
なので、唖然とするより先に、怒ってしまう。
「空気は読めないし、場違いな言動するし……でも、悪気はない」
気を遣っている「らしき」ことを言ったり、したりもする。
なのに、言いかたや態度は、横柄で尊大だった。
とても、ちぐはぐで、どうすればこんなことになるのかと、いつも思う。
大雑把で打たれ強くもあるから、ついレティシアも気遣いを忘れてしまうのだ。
(キャッチボールできない人っているけどさ。あそこまでの人は、なかなかいないっての。投げてくるボールが、まず見えない)
そして、投げ返しても、どこに行くんだ?という方向に走っていくのだ、あの王子様は。
「だから、まぁ……大目に見てあげて……って、見過ぎは良くないけどね!」
2人が、しかたなさそうに「はあ……」と返事をする。
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