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第2章 黒い風と金のいと
意志を継ぎたがる者 2
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ユージーンは、夜毎にザカリーの部屋を訪ねている。
表立っては来られないし、長時間に渡り居座ることもできない。
よって、毎夜、1時間程度、話をしている。
すでに5日目。
だいぶ、打ち解けてきた気もしていた。
少なくとも「恐ろしい」兄だとの印象は拭えたのではなかろうか。
ザカリーは、生まれたての小鹿並みに、ぶるぶるすることはなくなっている。
「それにしても、同じ王宮で、いろいろと違うのですね」
「俺は、こういう違いはないほうが良いと思っているがな」
ザカリーは3つ年下の19歳。
年齢よりも幼く感じられた。
ユージーンが同じ年頃の際には、もっと大人びていた気がする。
以前なら「甘やかされて育った」と思っていたところだけれども。
(王位継承者としての教育を、なんら受けておらんのだな)
ユージーンもあたり前に、自分が即位すると思ってきた。
弟の王位継承権は剥奪されてはいないものの、ないのと同じ。
誰もザカリーを王位継承者として扱っていない。
そのため、必要な教育もされていないのだろう。
本来、王位継承者は、平等に扱われるべきなのだ。
第1位であろうと、2位であろうと、来るべき日に備える必要はある。
仮に、国王が子を成さないまま死ねば、繰り上げられることもあるのだし。
「ザカリー」
「はい、兄上」
ユージーンは、真面目な顔で聞く。
実際、大真面目だったからだ。
「お前、よもや子の成しかたを知らぬとは言うまいな?」
「え…………」
ザカリーの口が、はくはくっと動いて、止まった。
ユージーンは、額を片手で押さえる。
ザカリーには両親がいるが、王族教育は手に余ったのかもしれない。
ユージーンの父は、ザカリーの親であったことはない、と言っていた。
「そのようなことも知らんのか」
「あ……いえ……まったく知らないということはありませんが……」
「女を抱いたことはあるか?」
「…………」
ないらしい。
王族にとって子を成すというのは、とても重要なことだ。
だからこそ、サイラスも、14歳でユージーンに女性をあてがっている。
ザカリーに王族の血が流れていないとしても、王位継承の芽がないとしても、教育しなくていいことにはならない。
ザカリーは国王の子、王族の子として扱われているのだ。
なのに、ザカリー自身は、王族の血筋でないことを知っている。
いったいどんな気持ちでいたのか。
不憫だ。
たとえザカリーが気にしていなくても、ユージーンは気になる。
自分の弟に対する、この仕打ちに納得できなかった。
「よし。俺が、手慣れた者を手配してやろう」
「え……っ……?! い、いえ、あ、兄上、それは……」
「お前は、もう19なのだぞ。女を抱いたこともないなど、ありえんだろ」
ユージーンにとっては「ありえない」のだ。
そこいらあたりの貴族の子息でさえ、14歳を過ぎれば女性を口説く。
ザカリーは王宮に閉じこもっているため、それすらできずにいるのだろう。
夜会への出席は、ユージーンの公務のひとつでもあった。
ユージーンがいる場に、ザカリーは出て来ない。
主役は、常にユージーンでなければならなかったからだ。
やはり弟が不憫だ、と思う。
「よいか、ザカリー。血筋はともかく、お前は王族として、ここにいる。であれば、王族として振る舞わねばならんのだ」
「で、ですが……その……兄上……あの……」
ザカリーが、まるで乙女のように、もじもじしていた。
そう、乙女のように。
「お前……まさか……そっちの嗜好があるのか?」
「そっちの、とは……?」
「女より男を好むという……」
「ち、違いますッ!!」
「これ! 大きな声を出すな!」
一喝すると、ザカリーが、しゅんとなってしまう。
弟は、なにしろ気が弱い。
ユージーンは、サイラスから「謝罪と礼は必要最小限」と教わっていた。
謝罪は逆手に取られかねず、礼は相手を調子づかせるから、なのだそうだ。
だから、滅多なことでは謝らないし、礼も言わないようにしている。
「兄上……兄上のお心遣いは嬉しいのですが……」
ザカリーが、ぎゅっと両手を握り締め、うつむいた。
そして、小さな声で言う。
「私には……好いた女性が……おります……」
「なんだ。それなら、話が早いではないか。その者を寝室に呼べばよかろう」
「できません」
「なぜだ?」
言いにくいことなのか、ザカリーは、なかなか答えようとしない。
ユージーンの頭の中に、理由が2つ思い浮かぶ。
「すでに婚姻しているか、平民か。どちらだ」
ハッとしたように、ザカリーが顔を上げた。
どちらかが、当たりだったようだ。
「婚姻はしていない……と思います。彼女のほうから、私に話しかけてくれましたので」
「そうか……む。ザカリー、お前、今、話しかけてくれた、と言ったか?」
ザカリーの顔色が、また悪くなる。
まだ自分を「恐ろしい」と思っているのかと、ちょっぴり傷ついたが、それはともかく。
「隠れて、王宮の外に出ているのだな?」
「……はい。私は……魔術の心得がありまして……」
「それで平民の女に会ったと」
こくりと、ザカリーがうなずいた。
弟は、深刻にとらえているようだが、ユージーンは気にしていない。
自分だって、夜な夜な「お忍び」で、ここに来ている。
もっと早く魔術を覚えていれば、と残念に思っているくらいだ。
「心配せずともよい。どこぞの貴族の養女にでも、ねじ込めばすむ」
「え……? 私を、お叱りにならないのですか……?」
「叱る理由がない。それより、お前に好いた女を抱かせるほうが大事だ」
「兄上……」
震える声に、ザカリーを見れば、ほろほろと涙をこぼしている。
そんな弟に、ユージーンは、ぎょっとした。
「な、なぜ泣く? 泣かせるようなことを言った覚えはないが……」
「あ、兄上……私は、自分が不甲斐なく……そこまで兄上が仰ってくださっておられるというのに……」
「不甲斐ない?」
こんなことならハンカチを持ってくるのだった、と思う。
ザカリーは、いつ泣くかわからない。
次からは用意しておくことにした。
「じ、実は……私は、彼女の名も知らないのです……」
「だが、先ほど、話しかけられたと言っていたではないか」
ザカリーが、つっかえつっかえ語ったところによると。
街で、その女性に話しかけられ、良い雰囲気になったらしい。
そこに、どこかの騎士が現れて、ザカリーの腹を殴った。
倒れたザカリーを庇おうとした彼女を、騎士は連れて行こうとした。
ザカリーは引き留めようとしたが、顎を蹴り上げられ、昏倒寸前。
「私は、剣も武術も身につけておりませんし、街中では魔術を使うこともできず……」
「やられっ放しになったのだな」
「はい……」
どこの騎士かは知らないが、弟を、殴ったり蹴ったりしたのだと思うと、腹が立つ。
その場にいれば助けてやれたのに、と口惜しくも感じた。
弟は気も弱いが、腕っぷしも弱いのだ。
「いや、今からでも遅くはない。なんとしても見つけ出し、俺が叩きのめしてやる。むろん、お忍びで行くので、心配はいらん」
相手が騎士なら負けることはない。
近衛騎士でも、かなり上の立場の者でなければ、ユージーンの相手は務まらないほどなのだから。
「あ、兄上……血の繋がらない私を……それほどに……」
ザカリーの目から、だあっと、涙があふれる。
絶対に、次はハンカチを持って来ようと、決めた。
「俺を殺して王位継承第1位の座を奪おうとしている、と思われぬよう、お前は、剣も武術も習わずにいたのだろ? 魔術が使えることを隠しているのも、同じ理由なのではないか?」
「……はい……少しでも疑わしきことは避けよと、父から言われております」
それはユージーンの父ではなく、ザカリーの父だ。
少し苦々しく思うが、しかたがない。
もしサイラスの目に留まっていたら、本当にザカリーは殺されていた。
サイラスならば、必ずやる。
サイラスを知っているユージーンには、確信があった。
そのせいで、ザカリーに身を守るすべを教えなかったことを責められない。
身を守らないことが、ザカリーにとっては身を守ることだったのだ。
「それで、なにか手掛かりはないのか?」
「ございます。意識は朦朧としていたのですが、騎士が喚いておりまして……そこから察するに、彼女は……」
ザカリーの言葉の続きに、ユージーンは驚く。
それは、とても聞き慣れた名だった。
「ローエルハイド公爵家の、メイドをしているのではないかと思われます」
表立っては来られないし、長時間に渡り居座ることもできない。
よって、毎夜、1時間程度、話をしている。
すでに5日目。
だいぶ、打ち解けてきた気もしていた。
少なくとも「恐ろしい」兄だとの印象は拭えたのではなかろうか。
ザカリーは、生まれたての小鹿並みに、ぶるぶるすることはなくなっている。
「それにしても、同じ王宮で、いろいろと違うのですね」
「俺は、こういう違いはないほうが良いと思っているがな」
ザカリーは3つ年下の19歳。
年齢よりも幼く感じられた。
ユージーンが同じ年頃の際には、もっと大人びていた気がする。
以前なら「甘やかされて育った」と思っていたところだけれども。
(王位継承者としての教育を、なんら受けておらんのだな)
ユージーンもあたり前に、自分が即位すると思ってきた。
弟の王位継承権は剥奪されてはいないものの、ないのと同じ。
誰もザカリーを王位継承者として扱っていない。
そのため、必要な教育もされていないのだろう。
本来、王位継承者は、平等に扱われるべきなのだ。
第1位であろうと、2位であろうと、来るべき日に備える必要はある。
仮に、国王が子を成さないまま死ねば、繰り上げられることもあるのだし。
「ザカリー」
「はい、兄上」
ユージーンは、真面目な顔で聞く。
実際、大真面目だったからだ。
「お前、よもや子の成しかたを知らぬとは言うまいな?」
「え…………」
ザカリーの口が、はくはくっと動いて、止まった。
ユージーンは、額を片手で押さえる。
ザカリーには両親がいるが、王族教育は手に余ったのかもしれない。
ユージーンの父は、ザカリーの親であったことはない、と言っていた。
「そのようなことも知らんのか」
「あ……いえ……まったく知らないということはありませんが……」
「女を抱いたことはあるか?」
「…………」
ないらしい。
王族にとって子を成すというのは、とても重要なことだ。
だからこそ、サイラスも、14歳でユージーンに女性をあてがっている。
ザカリーに王族の血が流れていないとしても、王位継承の芽がないとしても、教育しなくていいことにはならない。
ザカリーは国王の子、王族の子として扱われているのだ。
なのに、ザカリー自身は、王族の血筋でないことを知っている。
いったいどんな気持ちでいたのか。
不憫だ。
たとえザカリーが気にしていなくても、ユージーンは気になる。
自分の弟に対する、この仕打ちに納得できなかった。
「よし。俺が、手慣れた者を手配してやろう」
「え……っ……?! い、いえ、あ、兄上、それは……」
「お前は、もう19なのだぞ。女を抱いたこともないなど、ありえんだろ」
ユージーンにとっては「ありえない」のだ。
そこいらあたりの貴族の子息でさえ、14歳を過ぎれば女性を口説く。
ザカリーは王宮に閉じこもっているため、それすらできずにいるのだろう。
夜会への出席は、ユージーンの公務のひとつでもあった。
ユージーンがいる場に、ザカリーは出て来ない。
主役は、常にユージーンでなければならなかったからだ。
やはり弟が不憫だ、と思う。
「よいか、ザカリー。血筋はともかく、お前は王族として、ここにいる。であれば、王族として振る舞わねばならんのだ」
「で、ですが……その……兄上……あの……」
ザカリーが、まるで乙女のように、もじもじしていた。
そう、乙女のように。
「お前……まさか……そっちの嗜好があるのか?」
「そっちの、とは……?」
「女より男を好むという……」
「ち、違いますッ!!」
「これ! 大きな声を出すな!」
一喝すると、ザカリーが、しゅんとなってしまう。
弟は、なにしろ気が弱い。
ユージーンは、サイラスから「謝罪と礼は必要最小限」と教わっていた。
謝罪は逆手に取られかねず、礼は相手を調子づかせるから、なのだそうだ。
だから、滅多なことでは謝らないし、礼も言わないようにしている。
「兄上……兄上のお心遣いは嬉しいのですが……」
ザカリーが、ぎゅっと両手を握り締め、うつむいた。
そして、小さな声で言う。
「私には……好いた女性が……おります……」
「なんだ。それなら、話が早いではないか。その者を寝室に呼べばよかろう」
「できません」
「なぜだ?」
言いにくいことなのか、ザカリーは、なかなか答えようとしない。
ユージーンの頭の中に、理由が2つ思い浮かぶ。
「すでに婚姻しているか、平民か。どちらだ」
ハッとしたように、ザカリーが顔を上げた。
どちらかが、当たりだったようだ。
「婚姻はしていない……と思います。彼女のほうから、私に話しかけてくれましたので」
「そうか……む。ザカリー、お前、今、話しかけてくれた、と言ったか?」
ザカリーの顔色が、また悪くなる。
まだ自分を「恐ろしい」と思っているのかと、ちょっぴり傷ついたが、それはともかく。
「隠れて、王宮の外に出ているのだな?」
「……はい。私は……魔術の心得がありまして……」
「それで平民の女に会ったと」
こくりと、ザカリーがうなずいた。
弟は、深刻にとらえているようだが、ユージーンは気にしていない。
自分だって、夜な夜な「お忍び」で、ここに来ている。
もっと早く魔術を覚えていれば、と残念に思っているくらいだ。
「心配せずともよい。どこぞの貴族の養女にでも、ねじ込めばすむ」
「え……? 私を、お叱りにならないのですか……?」
「叱る理由がない。それより、お前に好いた女を抱かせるほうが大事だ」
「兄上……」
震える声に、ザカリーを見れば、ほろほろと涙をこぼしている。
そんな弟に、ユージーンは、ぎょっとした。
「な、なぜ泣く? 泣かせるようなことを言った覚えはないが……」
「あ、兄上……私は、自分が不甲斐なく……そこまで兄上が仰ってくださっておられるというのに……」
「不甲斐ない?」
こんなことならハンカチを持ってくるのだった、と思う。
ザカリーは、いつ泣くかわからない。
次からは用意しておくことにした。
「じ、実は……私は、彼女の名も知らないのです……」
「だが、先ほど、話しかけられたと言っていたではないか」
ザカリーが、つっかえつっかえ語ったところによると。
街で、その女性に話しかけられ、良い雰囲気になったらしい。
そこに、どこかの騎士が現れて、ザカリーの腹を殴った。
倒れたザカリーを庇おうとした彼女を、騎士は連れて行こうとした。
ザカリーは引き留めようとしたが、顎を蹴り上げられ、昏倒寸前。
「私は、剣も武術も身につけておりませんし、街中では魔術を使うこともできず……」
「やられっ放しになったのだな」
「はい……」
どこの騎士かは知らないが、弟を、殴ったり蹴ったりしたのだと思うと、腹が立つ。
その場にいれば助けてやれたのに、と口惜しくも感じた。
弟は気も弱いが、腕っぷしも弱いのだ。
「いや、今からでも遅くはない。なんとしても見つけ出し、俺が叩きのめしてやる。むろん、お忍びで行くので、心配はいらん」
相手が騎士なら負けることはない。
近衛騎士でも、かなり上の立場の者でなければ、ユージーンの相手は務まらないほどなのだから。
「あ、兄上……血の繋がらない私を……それほどに……」
ザカリーの目から、だあっと、涙があふれる。
絶対に、次はハンカチを持って来ようと、決めた。
「俺を殺して王位継承第1位の座を奪おうとしている、と思われぬよう、お前は、剣も武術も習わずにいたのだろ? 魔術が使えることを隠しているのも、同じ理由なのではないか?」
「……はい……少しでも疑わしきことは避けよと、父から言われております」
それはユージーンの父ではなく、ザカリーの父だ。
少し苦々しく思うが、しかたがない。
もしサイラスの目に留まっていたら、本当にザカリーは殺されていた。
サイラスならば、必ずやる。
サイラスを知っているユージーンには、確信があった。
そのせいで、ザカリーに身を守るすべを教えなかったことを責められない。
身を守らないことが、ザカリーにとっては身を守ることだったのだ。
「それで、なにか手掛かりはないのか?」
「ございます。意識は朦朧としていたのですが、騎士が喚いておりまして……そこから察するに、彼女は……」
ザカリーの言葉の続きに、ユージーンは驚く。
それは、とても聞き慣れた名だった。
「ローエルハイド公爵家の、メイドをしているのではないかと思われます」
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