理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ

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最終章 黒い羽と青のそら

信頼を胸に 3

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 サリーは、呆れ顔で、その光景を見ていた。
 薪割り場から、少し離れた場所だ。
 なにか作る予定だったのかもしれないが、サリーが来た頃から建屋はない。
 なにもない平地のままになっている。
 
「腕がなまっているのか、グレイ!」
「そんなはずないだろう!」
 
 まったく、と思った。
 男性というか、騎士というものは、なぜ戦いを好むのか。
 
 日頃は、騎士を捨てているグレイも、剣を握ると、騎士に戻ってしまう。
 休みをとっているユージーンにつきあい、剣の鍛錬中。
 ずっと断り続けていたのだが、ついに諦めたのだ。
 
 ユージーンは、諦めるということを知らない。
 
 だから、グレイが諦めるよりほかなかった。
 サリーも、同じく諦めている。
 結局のところ、そのほうが、早く解決するのだし。
 
「新しい魔術を使ったら、どうだ!」
「いちいち指図をするな!」
 
 互いに、罵り合いながら、剣を交えている。
 そんな2人の姿を見て、サリーは溜め息をついた。
 
(なにが楽しいのか、わからないわね……だいたい、こんな時に……)
 
 レティシアは、今、小ホールにいる。
 家族だけでの話があるとのことだった。
 昼食後に、お茶を運んだあと、サリーは退室している。
 なにか深刻な話だろうか、と気になっていた。
 
(大公様のこと……お2人は、どう思われるかしら……)
 
 レティシアは、大公に「告った」らしい。
 が、手ひどく断られ、落ち込んでいたのだ。
 
 年が明けても、大公は姿を見せずにいる。
 レティシアが、正妃選びの儀から戻って以来、これほど現れないのは、初めてのことだった。
 
 レティシアは、明るく振るまってはいる。
 とはいえ、立ち直りきれていないのは、察していた。
 腫物のように扱うのは、どうかと思う。
 それでも、レティシアが、何も言ってこないので、サリーから水を向けることはできなかった。
 
「ザカリー! 治癒だ!」
「は、はい! 兄上!」
「おい! まだ続ける気か!」
「もう音をあげるとは、だらしのない奴め!」
「なんだと! そこの弟! 私にも治癒だ!」
「は、はい! かしこまりました!」
 
 グレイは、すっかりユージーンの調子に乗せられている。
 そんな2人の間で、ザカリーは右往左往。
 今日は、ジョーに会いに来たはずだ。
 にもかかわらず、ユージーンに引きずられ、ここに連れて来られた。
 
(弟って……彼、確か、次期国王でしょう?)
 
 ユージーンは、王太子をやめている。
 ザカリーが即位すると、聞いてもいた。
 つまり、ザカリーは、次の国王になる人物、のはず。
 
(本当に、気が弱いわね。そのくらいが、ジョーにはいいかもしれないけれど)
 
 ジョーは、あまり素直でなく、皮肉っぽいところがある。
 ユージーンのような相手だと、すぐに喧嘩になってしまうだろう。
 その点、ザカリーは、横柄な態度を取らないので、ジョーも、比較的、素直になれるようだった。
 
 見ている限り、ザカリーに「国王」としての威厳はない。
 むしろ、腰が低く、頼りなげだ。
 
(そういう国王陛下も悪くはないわ。支えたいという気持ちになるもの)
 
 いずれ、本当に、ジョーは「ジョゼット王妃」になる気がする。
 物腰のやわらかな国王と、気の強い王妃。
 その組み合わせは、民にとって親しみ易いものになりそうだ。
 ザカリーとジョーの将来は、さほど心配することはないだろう。
 
(それより……レティシア様とユージーンよね……)
 
 レティシアは、大公に拒絶されている。
 大きな傷を負った。
 心の傷を癒やすため、安易に、ユージーンの手を取ったりはしないだろうかと、心配になる。
 
 レティシアが、優しく強い人であるのは、知っていた。
 あの小さな体で、庇われたことのあるサリーには、よくわかっている。
 
 さりとて、レティシアは女性なのだ。
 好意を寄せている相手から拒まれるのは、とてもつらいに違いない。
 同じ想いを返してくれない相手よりも、好意を寄せてくれる相手を選びたくなることだってある。
 
(ユージーンを本当に愛して、ということなら、いいのだけれど)
 
 今は、そういう気持ちにはなれないはずだ。
 夜会に出る前、サリーは「ユージーンを意識してみては」と言っている。
 恋に発展するのは、まだ先の話で、まずはそこからだと、思っていたのだ。
 
 なにしろ、十年ぶりに、屋敷に姿を現してからこっち、レティシアは、ずっと、大公に夢中だった。
 夢中でなかったことがないくらいに。
 
(大公様のことを考えて、ふわふわっと心の旅に出かけられてしまうのだもの)
 
 最初は、戸惑った、レティシアの「お祖父さま病」にも、慣れている。
 表情や口調で、すぐにわかるのだ。
 
(……当の大公様が、レティシア様を拒むなんてね)
 
 内心、サリーは、マルクの言ったことに同感。
 大恩のある大公だったが、同じ女性として、腹を立てている。
 
 レティシアが勘違いをしたとしても、しかたがない。
 あれほど大事にされていたのだ。
 むしろ、勘違いさせるほど愛情をそそいだ大公に非がある。
 なのに、レティシアを「こっぴどく」跳ねつけた。
 
「面白いことをやっているね」
「大公様!」
 
 びっくりして、声をあげる。
 隣に、大公が立っていた。
 ひと月振りに近い。
 すぐに、サリーは、視線をそらせる。
 
「怒っているかい?」
「ええ」
「きみは、本当に得難い女性だね。出会った時から、正直だった」
「褒めていただいても、このことに関してだけは、懐柔されません」
 
 ふと、気になった。
 サリーは、大公に視線を戻す。
 
「レティシア様に、お会いになられるのですか?」
 
 今は、やめてほしい。
 言外に、そう伝えた。
 正しく伝わったのか、大公が首を横に振る。
 
「いや、そのつもりはないさ。ここに少し用があって来ただけでね」
 
 この場所には、なにか意味があるらしい。
 サリーは知らなかったけれど、あえて聞こうとはしなかった。
 
「大公ではないか」
 
 ピタッと、2人が動きを止める。
 2人とも剣を下げ、こちらを見ていた。
 
「やれやれ。面倒な者に、見つかってしまったようだ」
 
 ずかずかと、ユージーンが歩いてくる。
 サリーには、不思議に思えた。
 ユージーンは、レティシアのことが好きなのだ。
 さりとて、大公に怒ってはいないように見える。
 
「鍛錬につきあえ」
「言うのじゃないかと思ったよ」
「魔術を使ってもかまわんぞ」
 
 はっと、大公が、いやに皮肉っぽく笑った。
 かなりめずらしいことだと言える。
 大公は、あまり感情を表に出さないし、おおむね、いつも穏やかだからだ。
 
「魔術など必要ないさ。きみ程度、私の相手ではない」
「どうだかな。大公は、長く剣で戦っておらんのだろ? 見縊みくびっておると、痛い目に合うぞ」
 
 しゅんっといったふうに、大公の手に剣が握られる。
 さっきまでグレイと交えていたユージーンの剣に合わせたのか、レイピアだ。
 
「きみには、ダガーを用意しようか?」
「いらぬ世話だ」
 
 存外、ユージーンは怒っていたのだろうか。
 大公に挑むような目つきになっている。
 レイピアは、決闘用にも使われる剣だった。
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