理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ

文字の大きさ
297 / 304
最終章 黒い羽と青のそら

理想の人が旦那さま 1

しおりを挟む
 レティシアは、中庭を歩いている。
 昼食後の、いつもの散歩コースだ。
 
 あれから3日。
 
 ちらっと、隣に視線を投げた。
 祖父ではなくなった「彼」と、手を繋いでいる。
 
「レティの思っていることは、私も思っているよ」
 
 ジーク、という名の少年のことだ。
 彼から話を聞いている。
 
(私が、もっとちゃんと聞いとけば……)
 
 ジークは、死なずにすんだのかもしれない。
 そうなるとわかっていたら、違った選択をしたかもしれないのだ。
 
 『あとで間違えたってわかっても、死人は戻ってきやしないんだぞ』
 
 その通りだった。
 悔やんでも、もう遅い。
 彼は、消えてしまった。
 
「それでも、私は、笑っていたいのさ」
「……いいのかな」
 
 ジークの犠牲の上に、自分たちの「笑顔」は成り立っている。
 それを、良しとして、いいものだろうか。
 
「ジークは、ジークのやりたいことをした。その結果を、受け取らなければね」
 
 ジークのために、自分たちが笑えなくなったら、ジークは報われない。
 おそらく、そういうことなのだろう。
 ジークは、彼とレティシアの笑っているところが見たくて、命を賭したのだ。
 
「それに」
 
 彼が、足を止める。
 レティシアも、隣に並んだ。
 彼の視線が、レティシアに向けられる。
 
「なにをどう言っても、私は、きみを離せはしないよ?」
「う…………」
 
 にっこりされ、レティシアは慌てて、うつむいた。
 心臓が大きく波打っている。
 
(そ、それは……私も、そうなんだけど……)
 
 軽く頭を、ぽんぽんとされた。
 孫娘ではなくなっても、急に関係を変えるのは難しい。
 今まで以上に、意識はしてしまうのだけれど。
 
「少なくとも、ジークを忘れない人間が、3人はいる。だから、それでいいのじゃないかと、思う……いや、思わなければね」
 
 彼とレティシアと、ユージーン。
 
 この3人は、けしてジークを忘れないはずだ。
 ようやく、レティシアは、彼の言葉に納得をする。
 というより、納得しなければならないと、思った。
 
(誰かの犠牲を無駄にしないっていう話、私は、言い訳だって思うところがあったけど……そういう言い訳に甘えないと、前に進めないことってあるんだね)
 
 きっと。
 
 だから、笑って生きていく。
 絶対に、幸せになる。
 
 絶対というのは、そう思わなければ、絶対にはならないから。
 
 レティシアは、顔を上げ、彼に笑ってみせた。
 もちろん、罪悪感とか、後ろめたさは、完全には消せない。
 だとしても、やはり、前に進んでいく必要はある。
 彼と手を繋いでいたいとの想いは、捨てられなかった。
 
 レティシアの部屋には、黒い羽と、あの向日葵が置かれている。
 見るたび、自分たちの幸せと、ジークを思い出すに違いない。
 
「え……っ……お祖父さま……っ……?!」
 
 まだ、つい、そう呼んでしまう。
 いきなりは、どうしても無理だった。
 
「レティが、可愛い顔をして、笑ってくれたのでね」
 
 彼に、ひょいっと、抱き上げられている。
 かかえられたまま、ガゼボに入った。
 彼がイスに座り、レティシアは、膝抱っこ。
 
(う、う~……前より、なんか……は、恥ずかしい……)
 
 彼は、もう祖父ではないのだ。
 意識するほどに、恥ずかしくなる。
 顔が、ぽっぽっと熱かった。
 それを隠したくて、胸に顔を押しつける。
 
「レティ」
 
 呼ばれても、顔を上げられない。
 そのレティシアの顎が、クイッと引き上げられる。
 
(う、うひゃあ~……む、ムリ……これ、ホント、ムリだよ、お祖父さま……じゃないけど……)
 
 視線を合わせられず、目を泳がせた。
 もう顔どころか、首まで熱い。
 耳も痛いくらいだ。
 きっと、真っ赤になっている。
 
「私は、きみに聞きたいことがあるのだよ」
「う、うん……」
 
 なんでしょう?
 
 まともに答えられる気がしなかった。
 彼の声は、甘さに満ちていて、意識せずにはいられない。
 彼は、自分に「愛情」ではなく「愛」を向けている。
 そう感じて、心臓が潰れそうだ。
 
「そろそろ教えてくれてもいいのではないかな?」
「な、なにを……?」
「今朝も、ユージーンに嫌味を言われてねえ」
「へ……?」
 
 ユージーンに、何を言われたのだろう。
 気になって、ようやく視線を彼に向けた。
 
「きみの理想の男性が誰なのか、まだ知らないのか、とね」
「あ……」
 
 あの野郎。
 
 ちょっとユージーンを殴りたくなる。
 なぜ、そんなことを、わざわざ言うのか。
 
「私は、どうやら、とても嫉妬深いようだ」
「え……」
 
 さっきから「へ」とか「あ」とか「え」とか。
 そんなことしか、口から出て来ない。
 
「きみの心を、独り占めしたくてね」
 
 彼の黒い瞳には、レティシアが映っていた。
 優しく目を細められ、クラッとくる。
 
 いや、もう完全に独り占めしてますケド?
 独占禁止法に引っ掛かるくらいなんですケド?
 
 頭の隅っこで、そんなふうに思っていたが、言葉にはならない。
 はわはわ、し過ぎている。
 
「嫌いになったかい?」
 
 まばたきひとつ。
 即座に答える。
 
「ううん、大好き!」
 
 反射的に言ってしまってから、また恥ずかしくなった。
 言ったあと、恥ずかしくなる癖は、直りそうにない。
 そんなレティシアに、彼が、にっこりする。
 
「では、教えてもらおうか」
「うぐ……」
「きみの理想の男性とは誰だい?」
 
 答えるまで、逃がしてはくれない気だ。
 はっきり口にするのは、どうにも恥ずかし過ぎる。
 レティシアは、首にかかったネックレスを手に取った。
 それから、ロケットをパカッと開いて見せる。
 
「こ、この人……デス……」
 
 しばしの間のあと、彼が、小さく笑った。
 かあっと、いよいよ顔が熱くなる。
 
(……ホンっト、恥ずかしい! お祖父さま、私の気持ち、わかってるんだから、聞かなくてもさあ……ほかに、いないじゃん……)
 
「きみは、本当に可愛いね。私の愛しいレティ」
 
 額にキスが落ちてきた。
 前と同じだけれど、同じではない。
 
 レティシアは、彼の「本気モード」に、本気で倒れそうに、なった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

初恋の還る路

みん
恋愛
女神によって異世界から2人の男女が召喚された。それによって、魔導師ミューの置き忘れた時間が動き出した。 初めて投稿します。メンタルが木綿豆腐以下なので、暖かい気持ちで読んでもらえるとうれしいです。 毎日更新できるように頑張ります。

【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

恋愛
「神に祈るだけで曖昧にしか治らない。そんなものは治療とは言わない」  男尊女卑が強い国で、女であることを隠し、独自の魔法を使いトップクラスの治療師となり治療をしていたクリス。  ある日、新人のルドがやってきて教育係を押し付けられる。ルドは魔法騎士団のエースだが治療魔法が一切使えない。しかも、女性恐怖症。  それでも治療魔法が使えるようになりたいと懇願するルドに根負けしたクリスは特別な治療魔法を教える。  クリスを男だと思い込み、純粋に師匠として慕ってくるルド。  そんなルドに振り回されるクリス。  こんな二人が無自覚両片思いになり、両思いになるまでの話。 ※最初の頃はガチ医療系、徐々に恋愛成分多めになっていきます ※主人公は現代に近い医学知識を使いますが、転生者ではありません ※一部変更&数話追加してます(11/24現在) ※※小説家になろうで完結まで掲載 改稿して投稿していきます

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

処理中です...