私の存在

戒月冷音

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第143話

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「あの、これ・・・よかったら」
そう言って差し出したのは、メレンゲクッキー。
私が大好きで、お砂糖を極力減らして作っていた物を、部屋に持ってきていた。

「これは、なに?」
マルクス様は見たことがなかったみたいで、不思議そうな顔をしていた。
「これは、メレンゲクッキーと言って、ランの白身を泡立てて
 焼いたものです」
「クッキー?真っ白だけど?」
「食べてみてください。面白いですから」
「面白い?」
マルクス様は首をかしげながら、一つ・・・口の中に入れる。

「ん゛?なんだこれ?」
そう言いながら、もう一つ・・・もう一つと口の中に消えていく。
「ミシェル。これ、クッキーじゃないよね。
 シュワシュワ消えてくのは、クッキーじゃない」
「でも、メレンゲクッキーなの。混ぜて焼いただけなの」
「混ぜて焼くのは、クッキー・・・じゃあ、クッキーか。
 でも、不思議な食感だ」
「でしょ。ランの黄身を使って、白身だけ余ったから作ってみたの」
「それで、ここに持ってきてたんだ」
「糖を少なく作っているから、寝る前でも大丈夫かなぁ?と・・・エヘヘ」

寝る前に食べるのは、前世で嫌と言うほど注意された。
でもこっちでは、寝る前に少し食べてから寝る方が多い。
ただし、今まではこういう小さな物が少なかったので、大きな物を小さくカットして、いるだけを持ってきたりしていた。

「こういう小さいもので、種類が沢山になったらいいなぁ」
「ですが、この世界には長期保存と言う事が出来ないので、沢山作っても
 消費しなければ、捨てることになってしまいます」
「そうか。
 今食べたい物、食べる物を、必要量作るのが、料理長達料理人だ。
 捨てるためには作らない」
「前世では、食料が余るのは当たり前・・・みたいな考えになってました」
「そうだね。当たり前じゃないんだ。
 毎日しっかり食べれない人がいるこの国で、前世の希望ばかり通してたら、
 第2王子じゃなくなる」
「それは駄目です。
 が・・・今思ったのですが、クッキーのような物を配ったりするのはどうかな?
 全員は無理でも、子供だけとか」

「そうだな。兄上に相談してみよう。でも今は・・・」
そう言うとマルクス様は、メレンゲクッキーを机に戻した後、私の肩に手を置くと、ポスンと一緒にベッドに転がった。
「早く寝ないと、明日起きれないよ」
「あっ、そうでした。えっと・・・」
「俺は、ミシェルが眠ったら部屋に帰るよ」
そう言って、私を腕の中に閉じ込める、マルクス様。
多分これ以上は、何を言っても駄目。
私が眠るまで、ずっと傍にいる気満々だ。
「さぁ、目を閉じて、ゆっくり深呼吸して・・・」
言われた通りに目をつむり深呼吸をすると、周りが静かになり、私の頭がマルクス様の胸にくっついているため、彼の鼓動の音が聞こえる。
トクン・・・トクン・・・と何度か聞いていると、私はいつのまにか眠っていた。
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