私の存在

戒月冷音

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第144話

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マルクス side


俺の腕のなかで、寝息を立てるミシェルは、安心しきった顔で眠っている。
ついさっきまで、姉が嫁いでしまうことに悩んでいた彼女が、俺の前世の母親と重なった。

母親は、自分の実家にはよく行くくせに、妹が嫁いでからは一切妹の話をしなくなるほど、意地のように自分を戒めていた。
夕方に会ったミシェルは、そんな母と同じことをしそうな感じがして心配になり、夕食後に部屋を訪ねた。

やっぱり、思い詰めてる・・・

そう思った俺は、妹が母親に言った言葉をミシェルに伝えた。
自分が縛らなくて良い。
姉と妹の絆は、消えない。
もちろん、兄と姉は変わらない。
変わるとしたら、もう一人兄と呼べる人が増えるぐらいだと。
そう伝えたら、なにかスッキリした顔をした。

だから良かったと思ってほっとした瞬間、ミシェルの姿が目にはいった。
淡いブルーの寝衣の上に、少し厚手の白いショールを、肩から背中にかけ、腕に巻いている。
そこから見える手首は細く、色白で長い指はとても綺麗だ。
そんなことを考えた俺は、一旦下を向き、気持ちを落ち着かせる。

駄目だ。落ち着け。耐えろ・・・

そんなことを考えながらミシェルの話に答えていると、突然ミシェルが立ち上がり、パタパタと歩いていくと何かを取って戻ってきた。

持ってきたのはメレンゲクッキーという、白い?クッキーだった。
クッキーって、俺の中の記憶だと、焼き菓子だから茶色っぽいのがプレーンだったと思う。
他の、チョコやら抹茶やらを混ぜるとその色になるが、基本は薄い茶色だった。
しかし、今目の前にあるのは、真っ白なまあるいクッキー?
たしか、メレンゲって、卵の白身を泡立てて作るんじゃなかったっけ?
ってことはこれ、卵の白身?

俺のなかで?が飛びまくっていたが、まずは食べろと言うミシェルを信じて一つ口にいれた。
シュワシュワっと、口のなかで弾けながら溶けていくクッキー。
なんか変な感じだが、その感じをまた試したくて次、まだ次と口の中にいれていく。
その食感が楽しいのと、ほんのり甘いのとで、なんだかほっこりしてしまった。

やっばりミシェルは、53年生きてきた俺より、いろんなことを知っている。
俺が日本でよく覚えているのは、全て仕事のこと。
そして、退職した後に、食べたものくらいだった。

俺は本当に、奇跡に出会えて幸せだ。
ミシェルと言う宝に出会えた奇跡に、感謝しかない。
俺は、完全に眠ったミシェルをベッドの中央に寝かせ直し、布団を掛けてベッドから降りようとした。
が、ミシェルの手が俺の服をつかんで離さなかったため、降りることが出来ず、結局ミシェルの横である意味拷問の夜に耐えることになった。
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