私の存在

戒月冷音

文字の大きさ
147 / 168

第154話

しおりを挟む
準備が終わったと同時に、お姉様が到着したと、城の近衛から連絡が入った。
私は、走りたいのを我慢し、でも心持ち急ぎぎみに、早足で玄関に向かった。

「お姉様っ」
「ミシェル、久しぶりね」
「すみません」
「いいのよ。こうして会えただけで、嬉しいのだから」
「私も嬉しいです。お姉様。またお綺麗に、なられました?」
「何を言ってるの?ミシェル。私は変わっていないわ」
「でも、なんだか・・・」
お肌の艶も瞳の輝きも、前よりビカビカしてる。

「ハリエットはデビットに愛されてるから、綺麗になってるんだよ」
私がお姉様をまじまじ見ていると、その後ろから、お兄様がそう言いながら入ってきた。
「お兄様、久しぶりなはずなのに、何故そんなことを
 知っていらっしゃるの?」
「それはデビットが、2日に一回は必ず俺のところに来てるからだよ」
「デビットが?何をしに?」
「あいつが何を話すのかなんて、想像できるだろ。
 ハリーの事をどれだけ思っているか。
 ハリーがどれだけ素晴らしいか。ハリーが・・・」
「もういいわお兄様。デビットったら、何をしているのかしら」
そう言いながらも、お姉様の顔は真っ赤。暑くて扇でパタパタしている。

「お兄様。コーエン侯爵令息は、そのような方なのですか?」
「あぁ。ミシェルは会ったことがなかったのか?」
「たぶん、ございません」
「えっ、そうだったの?」
「あっ、そうか。ミシェルは家から出なかった時期があるから、
 その時だったろ?俺達がデビットに会ったの」
「そうでしたわ。すぐにでも会わせなくては」
どうしましょう・・・と、悩み始めてしまったお姉様に、
「いつでもいいです。お兄様のところによく行かれるのなら、
 私に会うかもしれません。
 その時には、マルクス様に教えていただきますわ」
「あっそうだよ。マルクスに、頼めばいいじゃん」
「お兄様、第2王子殿下ですよ」
「えっ、いっつも呼び捨てだよ。俺」
「そんなに仲良かったのですね」
「ミシェル・・・
 いったいどういう風に、マルクスから聞いてるんだ?」
困ったような、悩んだような複雑な顔をしたお兄様を見た瞬間、私とお姉様はプッと吹き出して笑った。


本当に久しぶりに、兄妹三人揃って話したのに、スッと昔に戻ったように自然と話せた。
前世では、1日でも他人のようだった。
兄は無言。姉は、兄妹の中では私を構わない。
そして私は、その場に居ることはない。
親や連絡係の人に呼び出されたとしても、何処かに行ってと言われ、へやをでて廊下で待つのが普通だった。
だから、うれしかった。
私の婚約が決まってすぐ、マルクス様のいる離宮に入り、16の誕生日までにある程度まで終える。
それを目標にしていた私は、数ヵ月帰っていない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愚かな恋

はるきりょう
恋愛
そして、呪文のように繰り返すのだ。「里美。好きなんだ」と。 私の顔を見て、私のではない名前を呼ぶ。

この別れは、きっと。

はるきりょう
恋愛
瑛士の背中を見ていられることが、どれほど幸せだったのか、きっと瑛士は知らないままだ。 ※小説家になろうサイト様にも掲載しています。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。内容も少し変更しておりますので、あわせてお楽しみください。

愛する人のためにできること。

恋愛
彼があの娘を愛するというのなら、私は彼の幸せのために手を尽くしましょう。 それが、私の、生きる意味。

【完結】あいしていると伝えたくて

ここ
恋愛
シファラは、生まれてからずっと、真っ暗な壁の中にいた。ジメジメした空間には明かり取りの窓すらない。こんなことは起きなかった。公爵の娘であるシファラが、身分の低い娼婦から生まれたのではなければ。 シファラの人生はその部屋で終わるはずだった。だが、想定外のことが起きて。 *恋愛要素は薄めです。これからって感じで終わります。

マジメにやってよ!王子様

猫枕
恋愛
伯爵令嬢ローズ・ターナー(12)はエリック第一王子(12)主宰のお茶会に参加する。 エリックのイタズラで危うく命を落としそうになったローズ。 生死をさまよったローズが意識を取り戻すと、エリックが責任を取る形で両家の間に婚約が成立していた。 その後のエリックとの日々は馬鹿らしくも楽しい毎日ではあったが、お年頃になったローズは周りのご令嬢達のようにステキな恋がしたい。 ふざけてばかりのエリックに不満をもつローズだったが。 「私は王子のサンドバッグ」 のエリックとローズの別世界バージョン。 登場人物の立ち位置は少しずつ違っています。

秋色のおくりもの

藤谷 郁
恋愛
私が恋した透さんは、ご近所のお兄さん。ある日、彼に見合い話が持ち上がって―― ※エブリスタさまにも投稿します

王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22
恋愛
村で薬師として過ごしていたセラは、 ハープの音に宿る才を王弟レオに見初められる。 その出会いは、静かな日々を終わらせ、 彼女を王宮の闇と陰謀に引き寄せていく。

処理中です...