私の存在

戒月冷音

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第70話

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「マルクス様、大丈夫ですか?」
私が肩を揺すると
「えっ!?あっ、ごめん。びっくりして…」
「すみません。本当ならありえないことなので…」
「いや。そう言うこともあるのか。
 俺は寿命で…だったが、君は確か、事故って言ってたよな」
「はい。感覚的にはそのまま」
「そのまま?」
「事故に遭って、体の感覚はなくなったんですけど、その後少しして、
 何かに包まれた後、外に出た感じなんです。
 だから最初、私は江利花のままだと思ってました」
「そうか…って、気が付いたら、夕方じゃないか」
「えっ!?夕方?」
気がつくと空が真っ赤になっていた。

夕日の色だ。
この国では、日が落ちる寸前、必ず空が赤くなる。
日本では、条件が揃って始めて赤くなるが、この国では必ずだ。
「一旦打ち切って中に入ろう。身体は大丈夫か?」
「た、多分…」
そう言ってゆっくり立ち上がると、頭が少しクラリとして、同じ様に立ち上がったマルクス様の方に、よろけてしまった。
「大丈夫か?運んでもいいが」
「いいえ、大丈夫です。泣き続けたので少しクラリとしただけです」
「そうか。それじゃあこれを、支えにしてくれ」
そう言って、肘を突き出してくださったので、私はそこに手を置き
「ありがとうございます」
と、お礼を言って歩き始めた。

マルクス様はメイドに
「遅くまで悪かった。片付けを頼む」
といって、離宮の中に入る。
「本当にすみません。原因は私ですよね」
「いや。俺も気付くのが遅かった。だからお愛顧だな」
「お愛顧…」

そんな事を話していると、ヘンドリック様がカサンドラ様と一緒に、奥から出てこられた。
「おっ、マルクス。今なのか?」
「すみません、兄上。気が付いたら、このような時間で…」
「お前、本当にミシェル嬢を守ってたからなぁ」
「兄上!?何を…」
「ミシェル嬢」
「は、はい…」
私はほぼ寝起きの状態だったから、顔をマルクス様の腕で隠して、返事をした。
「スミマセン。このような状態で…」
「良いよ。マルクスは君が眠った後、ずっと君を守ってたんだ」
「えっ!?」
「兄上っ!?」
「マルクスは、君を大切に思ってる。だから、できれば君も…」
「はい。私も、マルクス様が大切で、大好きな方です」
そうは言ったけど、顔は出せない…
「ハハッ…そうか。なら、安心だ」
「何が?」
マルクス様が、そう尋ねると
「マルガ様から伝言。
 ミシェル嬢の部屋は、マルクスの隣に準備したので、
 そこにつれてって…って」
「とっ、隣?」
私は、顔を真赤にするしか無かった。

夫婦の部屋は基本、隣り合わせ。
大抵、その2つの部屋には、互いの部屋に行くための扉がついているか、寝室が扉でつながっているかの、二択である。
「ま、まさか…」
「そのまさかだ」
ヘンドリック様は、マルクス様の部屋に入って確認したらしい。
私に用意された部屋には、マルクス様の部屋に続く扉がついていて、行き来できるそうだ。
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