229 / 255
第二部 最終章 one more camp!
あしなの誓い
しおりを挟む
ゴえもんが話した内容はどれも信じがたい物ばかりで、俺の持つ価値観や存在意義を根底から覆してしまったような――ある種、喪失感にも似た感情から抜け出せず、ただ呆然としていた。
「俺が…………ゴえもんのクローン?
それに…初音やギンレイもプログラムだと?」
以前、関宿で初音が見たという女媧様の最後を思い出す。
つまり、与えられた役目が違うというだけで、異世界に存在する全ての物が幻だとでもいうのか?
「頑張ってきた毎日も、頼りにしてきたAwazonも虚構…。俺も――造り物…」
全身から力が抜け、立ち上がる気力もない。
離れた場所でひっそりと涙を流しても、悲しみや絶望でさえ決められたプログラムに従う意思のないモノのように感じてしまう。
「元の世界に戻っても…まともな生活は…。
もう、帰る場所も…なくなっちまったよ…」
俺は死ねない体のまま、永遠に異世界を彷徨い歩くのだろうか?
そんなのまるで――。
「今宵は一段と腑抜けておるのう」
「うわぁ! …な、なんだよ!」
背後から突然声を掛けられ、絵に描いたように挙動不審ってしまった。
初音にだけは落ち込んだ内心を悟られたくなくて強気な態度を取ったのも束の間、速攻で鋭い指摘が飛んでくる。
「おやおや~、どうしたのかのう?
あしな殿の様子がなぁ~~んか妙じゃ。
隠し事の匂いがプンプンするわ。何があった?
ほれ、初音お姉ちゃんに言うてみよ」
「アホか! それどころじゃあ…。
お前の方こそ、親父さんとの話は済んだのか?」
コイツとの長い付き合いで分かっている。
このまま会話を続けていれば、俺の隠し事などすぐにバレてしまうだろう。
だからこそ相手の質問に答えず、逆に質問で返したのだが――。
「おっとぉ、これは困ったのう。
質問を投げたのはワシの方なのに、質問で答えるとは困った男子《おのこ》よなぁ。『てすと』とか苦手か? 肩の力を抜くがよい、虚けめ」
「なぁ…! おま…………好き勝って言いやがって。――そんな顔で言われても説得力ねーよ」
軽口を叩く初音の表情はこれまで見た事もない程に暗く、気分が沈んでいるとか、思い悩むなどといった次元ではない。
憔悴
そう表現すべき感情が彼女の心を満たし、新緑の晴天を思わせる表情を曇らせた。
「おぉ、そうかのう…。
ふむ…………そうかも…しれんな」
父親との会話はどのような内容だったのかは、その表情を察するに余りある。
俺も初音と兼宗の会話は一部だけだが耳にしており、かなり気を使うべき部分だと感じていた。
恐らく、父親から過去の詳細を聞いた事で納得を得た反面、心に負った傷も深かったんだと思う。
「人とは……儘ならぬ生き物よなあ。
ははは、それは鬼とて同じことか…」
空虚な笑みが一陣の風に運ばれ、虚ろに開いた夜の海へと消えていく。
らしくない台詞を口にしながら、覚束ない足取りで見えているはずの波間へ向かって歩く様は、初音に対する漠然とした不安を確信へと押し上げるには十分だった。
「初音、無理をする必要なんてないんだ!
辛かったら……俺が隣に居てやる。
ずっと隣で支えてやるから……だから、ひとりで消えてしまうような真似はやめろ――ずっと…お前のそばに居させてくれ…」
空っぽな瞳をした初音を引き留め、後ろから抱き締める。
二度と大切な人を離さないように。
二度と――死なせないように…。
「だから…お主は虚けじゃと…。
ワシ……本当は…母上を探して家を…。
もう、いるはずがないのに……でも…!」
生涯を悔いる事なく終えられる者など存在しない。
それは人であれ、鬼属であれ、たとえ造られたモノであれ同じなんだ。
手を緩めれば失ってしまう。
そう確信したからこそ、俺は最後まで初音を守ろうと心に誓った。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「俺が…………ゴえもんのクローン?
それに…初音やギンレイもプログラムだと?」
以前、関宿で初音が見たという女媧様の最後を思い出す。
つまり、与えられた役目が違うというだけで、異世界に存在する全ての物が幻だとでもいうのか?
「頑張ってきた毎日も、頼りにしてきたAwazonも虚構…。俺も――造り物…」
全身から力が抜け、立ち上がる気力もない。
離れた場所でひっそりと涙を流しても、悲しみや絶望でさえ決められたプログラムに従う意思のないモノのように感じてしまう。
「元の世界に戻っても…まともな生活は…。
もう、帰る場所も…なくなっちまったよ…」
俺は死ねない体のまま、永遠に異世界を彷徨い歩くのだろうか?
そんなのまるで――。
「今宵は一段と腑抜けておるのう」
「うわぁ! …な、なんだよ!」
背後から突然声を掛けられ、絵に描いたように挙動不審ってしまった。
初音にだけは落ち込んだ内心を悟られたくなくて強気な態度を取ったのも束の間、速攻で鋭い指摘が飛んでくる。
「おやおや~、どうしたのかのう?
あしな殿の様子がなぁ~~んか妙じゃ。
隠し事の匂いがプンプンするわ。何があった?
ほれ、初音お姉ちゃんに言うてみよ」
「アホか! それどころじゃあ…。
お前の方こそ、親父さんとの話は済んだのか?」
コイツとの長い付き合いで分かっている。
このまま会話を続けていれば、俺の隠し事などすぐにバレてしまうだろう。
だからこそ相手の質問に答えず、逆に質問で返したのだが――。
「おっとぉ、これは困ったのう。
質問を投げたのはワシの方なのに、質問で答えるとは困った男子《おのこ》よなぁ。『てすと』とか苦手か? 肩の力を抜くがよい、虚けめ」
「なぁ…! おま…………好き勝って言いやがって。――そんな顔で言われても説得力ねーよ」
軽口を叩く初音の表情はこれまで見た事もない程に暗く、気分が沈んでいるとか、思い悩むなどといった次元ではない。
憔悴
そう表現すべき感情が彼女の心を満たし、新緑の晴天を思わせる表情を曇らせた。
「おぉ、そうかのう…。
ふむ…………そうかも…しれんな」
父親との会話はどのような内容だったのかは、その表情を察するに余りある。
俺も初音と兼宗の会話は一部だけだが耳にしており、かなり気を使うべき部分だと感じていた。
恐らく、父親から過去の詳細を聞いた事で納得を得た反面、心に負った傷も深かったんだと思う。
「人とは……儘ならぬ生き物よなあ。
ははは、それは鬼とて同じことか…」
空虚な笑みが一陣の風に運ばれ、虚ろに開いた夜の海へと消えていく。
らしくない台詞を口にしながら、覚束ない足取りで見えているはずの波間へ向かって歩く様は、初音に対する漠然とした不安を確信へと押し上げるには十分だった。
「初音、無理をする必要なんてないんだ!
辛かったら……俺が隣に居てやる。
ずっと隣で支えてやるから……だから、ひとりで消えてしまうような真似はやめろ――ずっと…お前のそばに居させてくれ…」
空っぽな瞳をした初音を引き留め、後ろから抱き締める。
二度と大切な人を離さないように。
二度と――死なせないように…。
「だから…お主は虚けじゃと…。
ワシ……本当は…母上を探して家を…。
もう、いるはずがないのに……でも…!」
生涯を悔いる事なく終えられる者など存在しない。
それは人であれ、鬼属であれ、たとえ造られたモノであれ同じなんだ。
手を緩めれば失ってしまう。
そう確信したからこそ、俺は最後まで初音を守ろうと心に誓った。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
11
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる