孔雀とナイフとヒエラルキー

石嶋ユウ

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終幕

冬の夜明け

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 思い立って列車に飛び乗り、私は三年前に果たせなかったことを一人で果たそうと当時とほぼ同じ道のりで南の方へと向かった。途中、大きな街で休憩を済ませてから最終的にあの場所に一番近い駅に着いたのは夕方を過ぎ、夜になった頃だった。近くに掲げられていた地図を見て目的地を探していると、すぐそばで話し込んでいた老人たちが私のことに気がついた。
「こんな時間にここで降りるなんて珍しい。何しに来たんだい?」
 老人の一人が私に訊ねてきた。私は迷いなく答えた。
「友人が見れなかった物を見にきました」
 すると老人たちは何かを察したような表情をして、それからお互いに見合ってから少し微笑んだ。
「そうかい。タクシーは無いから歩いて行くといい。ただ夜道は暗いから気をつけるんだね」
 そう言って、彼らは私にライトを差し出した。
「持って行くといい」
「ありがとうございます」
 ライトを受け取った私は頭を下げた。それから老人たちは口を揃えてこう言った。
「良い旅を」

 私は三年ぶりにあの道を今度は一人で歩いている。冬の夜にライトを持ってこんな所を歩いているのは私だけかもしれない。とても寒い。だけど、そんなことは気にならなかった。長いようで短い時間が経ったせいか私はあの旅のことを懐かしいとさえ感じている。咲との最初で最後の旅。彼女が崖から飛び降りてから私の時間は止まったままだ。だとしたらその時間を再び動かすには、あの日あの時のこの場所で見れなかった物を見ることが必要だと思った。だから今、こうして歩いている。孔雀座は見れるのだろうか。

 そう考えているうちについにあの場所へとたどり着いた。孔雀座を見ようと目指した場所。咲が海に身を投げた場所。ここはあの時と何も変わっていなかった。頭上にはあの時見ることができなかった星々が輝く夜空が広がっている。だが、肝心の孔雀座らしきものは見えなかった。私はそれから何時間もただ夜空を見上げていた。じきに夜が明けるだろう。それを待ってみようと思った。何かが変われるような予感がした。
 過ぎゆく夜空を眺めながら私はあの日々のことを思い返した。咲と友美がいた日々。それは決して全てが楽しかったとは言えない日々だった。二人はもう居ないし戻ってもこない。私はこれまでもこれからもあの日々のことを肯定することはできない。それでも、やはりあの日々に確かに有った孔雀とナイフとヒエラルキーこそが私にとっての青春である。私の青春はとても苦しいものだ。
 二人は私がこうして何年も過去に囚われていることを許してくれるのだろうか。いや、きっとあの二人なら笑って「進め」と背中を押してくれるような気がする。私はこの三年間何度も辛い気持ちが蘇って苦しかった。今、ようやく私は前に進めるような気がしている。あの日々にいた二人のために私はこれからを生きていきたい。いや、生きさせてほしい。それが、私にできることだと思うから。

 やがて夜明けが訪れた。私は登りくる朝日をまじまじと見つめる。これから何をしようか。今の私にはまだできそうなことが沢山あると思えた。ひとまずの目標は、いつか、咲に代わって孔雀座を見ること。生きる理由は見つかった。私の時間はようやく動き出した。
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