【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
2 / 51

2話

しおりを挟む
 それは、一か月程前の事だった。

 水面に映る映像の事を話しても、誰も現実に起こる事だとは思っていなかった。
 それが見えるメルティ自身だけが、本当に起こる事だと信じていた。
 ちょっとした事だが、自分に関わりのある人物が見えそれが現実に起こっていたからだ。だがそれを上手く伝える事が出来ない。
 しかも、相手にとってどうでもいい事だったりもすれば、構ってほしくて言っていると捉えられていた。

 大切にしていたぬいぐるみを水たまりに落とした映像を見た時は、ぬいぐるみを部屋から持ち出さない様にしたのに、天日干しにされていて、いつの間にか雨が降り出して慌てて取り込んだメイドが水たまりに落としてしまった。
 その日は、一日大泣きしたのをメルティは覚えている。

 違う意味での悲しい映像として、姉であるクラリサが新しいドレスを買ってもらって喜んでいる映像だ。
 メルティは、ほとんどがクラリサからのお下がりで、新しいドレスを買ってもらった記憶がない。なので、この映像を見て羨ましく思った。
 そしてこの映像が現実になって、悲しくなったのだった。

 誰も信じてくれないし、見たくもない。
 そう思う様になっていたある日、衝撃の映像が見えた。
 いつものように、洗面器に映し出されたそれは、イヒニオ達を映し出していた。
 子供にしては、ショッキングな映像。地面に倒れた父親のイヒニオは血だらけで、周りには馬車の残骸。
 周りに倒れている人は、見た事がない人だった。

 何が起きたかわからないが、馬車が転倒したのだろうと言うのは、メルティでもわかった。
 着替えもせずに慌てて部屋を出て、ダイニングルームへと向かう。この時はまだ、家族団らんで朝食を食べてはいなかった。
 イヒニオは、一人先に食べ仕事に行っていたのでまだいるだろうかと、ノックもせずにドアを開けるもいない。

 「お父様は?」
 「食べ終わり、お出かけになる所です」

 片づけをしていた使用人に聞き、全部を聞き終わる前に玄関へと走り出した。

 「メルティお嬢様、どうなさいました」

 執事長のアールが走るメルティを見つけ声を掛けるも、必死な顔つきで走っていく。驚いたアールは走るメルティを追いかけた。
 メルティは、今まさに馬車に乗り込もうとするイヒニオを見つけ叫んだ。

 「待ってお父様!!」

 なんだと、イヒニオがメルティに振り向く。

 「どうしたのだ。そんなに慌てて走って来て」
 「ば、ば、馬車に……」
 「馬車がどうした」

 息切れを起こし整えて、ふと馬車を見たメルティは、この馬車ではないと気が付いた。
 映像で見た馬車は、もっと頑丈そうで黒っぽい馬車だ。室内のカーテンも黒。馬車の大きさも車輪から見てもっと大きなモノだったと思われた。

 「あの、黒い頑丈な馬車に乗らないで下さい」
 「うん? 黒い馬車? あぁ視察に出かける時に乗っているあの馬車か?」

 たぶんそうだと、うんうんとメルティは力強く頷く。

 「それに乗らないと出かけられないんだ」
 「今日、乗るの?」

 映像は、大抵その日の出来事だ。

 「予定はあるな」
 「ダメ! それ転倒して壊れる! お父様は死んでしまうの! 他の人も皆!」
 「何を言い出すと思ったら」
 「本当なの! 本当だからお願い……」

 信じてもらえず、泣き出すメルティ。

 「旦那様。メルティお嬢様は、たまに些細な事ですが言い当てます。馬車もこの馬車以外知らないはずです。公務の馬車を知っているはずがございません」

 アールが言えば、確かにとイヒニオが頷く。

 「わかった。ありがとう、メルティ。万が一の事もある。伝えて点検してもらったり、警備をつけてもらう事にしよう」

 イヒニオは、わんわん泣くメルティの頭を撫でそう言った。信じて貰えたとメルティは、頷く。

 「では行って来る」
 「ありがとう。アール」
 「いえいえ。無事にご帰宅されると思われますよ。さあ、その恰好では風邪をひきます。中へ入りましょう」
 「うん」

 アールが言う通り、メルティは体を冷やし午後から熱を出して寝込む。彼女は、だいぶ健康的になったが体が弱かった。まあ寝間着で外へ出れば、彼女でなくとも風邪をひくかもしれないが。

 その日の夜、イヒニオは元気に帰宅した。
 元気どころか上機嫌だ。
 点検は、毎朝行っていて済んでいたが、出かける前にもう一度点検してもらうったところ、細工をしてあるのが見つかった。
 直ちに調査が行われ、今日向かう先の者が調査に来られたら困るので、こっそり細工をしていたのだ。
 一日ほど時間がほしかった為の細工だったらしいが、大惨事になっていたかもしれなかった。

 どうして怪しいと思ったかと問われたイヒニオは、が夢で見たと言うのでと答えれば、礼をしたいから明日一緒に連れて来てほしいと、直接陛下から言われたのだ。

 「そういう訳で明日、を代わりに連れ行くからお前は心配せずに、寝ていなさい」
 「え? お姉様を? どうして」

 私が教えたのにと、驚く。

 「仕方がないだろう。お前は体が弱いのだから」
 「大丈夫。ちゃんと賜って来た言葉は、伝えてあげるから」
 「そうよ。明日来なさいと言われたのだから仕方がないのよ」

 そう言いくるめられ、メルティは頷くしかなかった。
 陛下の目の前で、ごほんごほんとするわけにもいかない。
 部屋を出て行く三人を恨めしい瞳で見つめ、メルティは眠りに就くのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 歩く岩と言われた少女

音爽(ネソウ)
恋愛
国を護るために尽力してきた少女。 国土全体が清浄化されたことを期に彼女の扱いに変化が……

今日も姉の物を奪ってやりますわ!(完)

えだ
恋愛
 姉のドレスや髪飾り。お気に入りの侍女に、ひいては婚約者まで。どんな物でも奪って差し上げますわ。何故って?ーーー姉は昔から要領が悪くて鈍臭くて、何でも信じてしまうお馬鹿さんなんですの。このドレスだってセンスのカケラもないしダサくてガキくさいったらありゃしません!なんですかこのショッキングピンクは!!私が去年買っていたこのドレスの方がまだマシなので差し上げますわ!お下がりですけどね!妹からお下がりをもらうなんてお恥ずかしくないのかしら?!  髪飾りだってそうですのよ。姉の透明感のある甘栗色の髪に、ビカビカのルビーなんて似合いませんわ!センスが悪すぎですのよ!!  そのうえ少し前から姉に仕えている侍女はか弱いふりをして姉から同情されて何かと物を贈られていますの。そういうのに気付けないんですのよ、私の姉は。それから婚約者。あれはだめね。一癖どころか二癖も三癖もありますわ。腹が黒いったらありゃしません。姉はそういうのを見抜く能力が1ミリもございませんから、泣かされるに決まってますわ。女癖も悪いという噂もお聞きしますし、疎くて汚れのない姉には不向きなんですの。別にあの男じゃなくもっと条件の良い殿方は沢山いらっしゃいますし!  え?私??姉が好きなのかって??ーー何を言ってるんですの?私は、馬鹿で騙されやすくて要領の悪い姉が知らず知らずのうちに泣きを見ることがアホくさくて見てられないだけですのよ!!  妹に奪われた系が多かったのでツンデレ妹奮闘記が書きたくなりました(^^) カクヨムでも掲載はじめました☆ 11/30本編完結しました。番外編を書いていくつもりなので、もしよろしければ読んでください(*´꒳`*)

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました

青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。 しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。 「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」 そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。 実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。 落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。 一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。 ※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております

【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜

ゆうき
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。 エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。 地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。 しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。 突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。 社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。 そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。 喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。 それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……? ⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

【完結】マザコンな婚約者はいりません

たなまき
恋愛
伯爵令嬢シェリーは、婚約者である侯爵子息デューイと、その母親である侯爵夫人に長年虐げられてきた。 貴族学校に通うシェリーは、昼時の食堂でデューイに婚約破棄を告げられる。 その内容は、シェリーは自分の婚約者にふさわしくない、あらたな婚約者に子爵令嬢ヴィオラをむかえるというものだった。 デューイはヴィオラこそが次期侯爵夫人にふさわしいと言うが、その発言にシェリーは疑問を覚える。 デューイは侯爵家の跡継ぎではない。シェリーの家へ婿入りするための婚約だったはずだ。 だが、話を聞かないデューイにその発言の真意を確認することはできなかった。 婚約破棄によって、シェリーは人生に希望を抱きはじめる。 周囲の人々との関係にも変化があらわれる。 他サイトでも掲載しています。

酷いことをしたのはあなたの方です

風見ゆうみ
恋愛
※「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」の続編です。 あれから約1年後、私、エアリス・ノラベルはエドワード・カイジス公爵の婚約者となり、結婚も控え、幸せな生活を送っていた。 ある日、親友のビアラから、ロンバートが出所したこと、オルザベート達が軟禁していた家から引っ越す事になったという話を聞く。 聞いた時には深く考えていなかった私だったけれど、オルザベートが私を諦めていないことを思い知らされる事になる。 ※細かい設定が気になられる方は前作をお読みいただいた方が良いかと思われます。 ※恋愛ものですので甘い展開もありますが、サスペンス色も多いのでご注意下さい。ざまぁも必要以上に過激ではありません。 ※史実とは関係ない、独特の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法が存在する世界です。

処理中です...