【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)

文字の大きさ
162 / 192
第十四章 パンドラの箱

第百六十二話

しおりを挟む
 取りあえず二人が目を覚ます前にここを離れる為に、ティモシー達は急いで森を抜ける。森を抜けると目の前に馬車が止まっていた。

 「え? 父さん!?」

 オズマンドが立って待っていた。

 「初めまして、私……」
 「挨拶は後だ。さあ、乗って!」

 レオナールが挨拶をしようとすると、オズマンドはドアを開け中に入るように促す。急かされ皆乗ると、馬車は走り出した。
 ザイダ、エイブ、ミュアンと座り、ミュアンの前にティモシー、隣にレオナール、ブラッドリーと座っていた。

 「母さん、どこに行くの?」
 「この国を出ます」
 「え?」

 エイブ以外は驚く。彼は聞かされていたようだ。

 「ミュアンさん。協力はするから約束は守ってよ」
 「わかってます。休憩時にやりましょう」
 「まさかミュアンさんを協力者にするなんて……」

 エイブとミュアンの会話を聞き、レオナールも本当に手を組んだのだと呟く。

 「逆だよ。俺が、協力させられたの」
 「え? どういう事? って、いつから?」
 「う~ん。皇帝を助け出した後、接触したら捕獲された感じ?」
 「あら? 利害の一致よね?」

 ミュアンの言葉にどこがとエイブは溜息をついた。

 「ところでレオナール王子は、これからどうする気なの? 自国には帰れませんよね?」
 「特に何も考えておりません」
 「そうですか。私としては、エイブとティモシーがいれば事足りるのですが……」
 「ちょ。なんでそんな事言うんだよ!」

 ミュアンの言葉にティモシーが食って掛かる。

 「だって彼には覇気がないもの。どうでもいいって見えるわよ」

 ティモシーは横に座るレオナールをチラッと見た。あんな事があったのだから仕方がないと思うもそれはここでは話せないと、ティモシーは口をつぐむ。二人っきりになってミュアンに相談しようと思った。



 数時間後、休憩を取る事になり、ティモシー達は馬車から降りた。

 「あの、私はブラッドリーと残ります」
 「別に宜しいですよ」

 不安げな瞳でレオナールを見るもミュアンに呼ばれティモシーも馬車を後にする。

 「レオナール様も足腰伸ばしに外へ出た方が宜しいですよ」

 自分の体の方が辛いはずなのにブラッドリーはレオナールのそう声を掛けた。

 「大丈夫です」
 「レオナール様、お願いがあります」

 不安げな顔を向けブラッドリーは言った。

 「何でしょうか?」
 「生きて下さい……」
 「い、生きているではありませんか。それに自殺をしようとはしておりませんよ」

 ブラッドリーは軽く首を横に振る。

 「他人に殺されようとすれば同じです……」

 それを聞いたレオナールは、目を背けた。

 「これ以上エクランド国にはご迷惑を掛けられないのです。私がこの国で死ねば陛下に多大なるご迷惑がかかります。ですが魔術師の組織に殺されたとなれば……」

 ガシッとブラッドリーはレオナールの腕を掴む。

 「生きて下さい。そして、ハルフォード国を捨てないで下さい」
 「別に捨てるとかそう事では……」
 「私が王宮専属薬師になったのは、あなたが王位を継いだ時にお傍にいる為です! 私は剣術や体術は出来ません。魔術師ではありますが結界が出来る程度。確かにコーデリア様に背中を押される形にはなりましたが、この技術を磨いてレオナール様が王になられた時に役立てられるようになろうと……。私はハルフォード国に戻るつもりでおりました!」
 「ブラッドリー……」

 そんな考えでいたとはレオナールは知らなかった。ギデオンに命令され薬師になり、コーデリアに言われるままに王宮専属薬師なったと思っていた。自分も薬師になり魔術がすたれたとしても薬師は必要だと思っていた。だからこそハミッシュに継いでもらい自分は医者になろうと思っていたのだ。

 「ありがとう。ブラッドリー。知りませんでした。あなたが私の為、国の為にそこまで考えてくれているとは……。しかし、国に戻るのは難しいかと……」

 ブラッドリーが薬師になり薬草作りに成功していなければ、なかったかも知れない命だ。それならば薬師として生きていくのもいいと思っていた。レオナール自身も悩んだ末に王宮専属になったのも王位を捨ててもいいと思っていたからだった。

 「こんな事をしなくても王位は譲ったのに……」
 「レオナール様……」
 「すみません。私はハミッシュに王位を譲ってもいいと思っていました。彼の手助けをしつつハルフォードで医者として過ごしてもいいと。しかし、彼女はそれさえも許してくれそうにありませんね」
 「レオナール様がコーデリア様を慕っているのはわかっておりますが、彼女は我々を国から追い出すだけでとどめる気はないように思います。取り戻しましょう!」
 「しかし私達は魔術師ではなくなってしまった。魔力を練れないのです」

 魔力を練れないのなら普通の人と変わらない。

 「レオナール様なら大丈夫です! ミュアンさんにコーデリア様の事をお聞きしましょう。そして考えるのです。取り戻す方法を! ギデオン様もきっと目を覚まして下さいます! 私も一緒に考えますから……。お願いします。死に方ではなく生きていく方法を考えて下さい!」
 「ブラッドリー……」
 「もう一人で背負い込まなくてもいいのです。私が手助けします。あなたは一人じゃありません」
 「ありがとう、ブラッドリー。コーデリアさんから国を取り戻す方法を考えます。力を貸して下さい」

 ブラッドリーが頷くと、彼の肩にレオナールは顔を埋めた。ブラッドリーはレオナールの頭を優しく撫でる。
 レオナールは昔を思い出していた。ブラッドリーがまだ王宮専属薬師になる前は、こうして優しく頭を撫でてもらっていた事を。一番近くにいたのは彼だった事を思い出す。懐かしい。レオナールは久しぶりに気が休まった気がした。そしてブラッドリーの肩は濡れていた――。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

上流階級はダンジョンマスター!?そんな世界で僕は下克上なんて求めません!!

まったりー
ファンタジー
転生した主人公は、平民でありながらダンジョンを作る力を持って生まれ、その力を持った者の定めとなる貴族入りが確定します。 ですが主人公は、普通の暮らしを目指し目立たない様振る舞いますが、ダンジョンを作る事しか出来ない能力な為、奮闘してしまいます。

異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました

まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。 ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。 変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。 その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。 恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。

1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる

まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。 そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

処理中です...