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第十四章 パンドラの箱
第百六十二話
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取りあえず二人が目を覚ます前にここを離れる為に、ティモシー達は急いで森を抜ける。森を抜けると目の前に馬車が止まっていた。
「え? 父さん!?」
オズマンドが立って待っていた。
「初めまして、私……」
「挨拶は後だ。さあ、乗って!」
レオナールが挨拶をしようとすると、オズマンドはドアを開け中に入るように促す。急かされ皆乗ると、馬車は走り出した。
ザイダ、エイブ、ミュアンと座り、ミュアンの前にティモシー、隣にレオナール、ブラッドリーと座っていた。
「母さん、どこに行くの?」
「この国を出ます」
「え?」
エイブ以外は驚く。彼は聞かされていたようだ。
「ミュアンさん。協力はするから約束は守ってよ」
「わかってます。休憩時にやりましょう」
「まさかミュアンさんを協力者にするなんて……」
エイブとミュアンの会話を聞き、レオナールも本当に手を組んだのだと呟く。
「逆だよ。俺が、協力させられたの」
「え? どういう事? って、いつから?」
「う~ん。皇帝を助け出した後、接触したら捕獲された感じ?」
「あら? 利害の一致よね?」
ミュアンの言葉にどこがとエイブは溜息をついた。
「ところでレオナール王子は、これからどうする気なの? 自国には帰れませんよね?」
「特に何も考えておりません」
「そうですか。私としては、エイブとティモシーがいれば事足りるのですが……」
「ちょ。なんでそんな事言うんだよ!」
ミュアンの言葉にティモシーが食って掛かる。
「だって彼には覇気がないもの。どうでもいいって見えるわよ」
ティモシーは横に座るレオナールをチラッと見た。あんな事があったのだから仕方がないと思うもそれはここでは話せないと、ティモシーは口をつぐむ。二人っきりになってミュアンに相談しようと思った。
数時間後、休憩を取る事になり、ティモシー達は馬車から降りた。
「あの、私はブラッドリーと残ります」
「別に宜しいですよ」
不安げな瞳でレオナールを見るもミュアンに呼ばれティモシーも馬車を後にする。
「レオナール様も足腰伸ばしに外へ出た方が宜しいですよ」
自分の体の方が辛いはずなのにブラッドリーはレオナールのそう声を掛けた。
「大丈夫です」
「レオナール様、お願いがあります」
不安げな顔を向けブラッドリーは言った。
「何でしょうか?」
「生きて下さい……」
「い、生きているではありませんか。それに自殺をしようとはしておりませんよ」
ブラッドリーは軽く首を横に振る。
「他人に殺されようとすれば同じです……」
それを聞いたレオナールは、目を背けた。
「これ以上エクランド国にはご迷惑を掛けられないのです。私がこの国で死ねば陛下に多大なるご迷惑がかかります。ですが魔術師の組織に殺されたとなれば……」
ガシッとブラッドリーはレオナールの腕を掴む。
「生きて下さい。そして、ハルフォード国を捨てないで下さい」
「別に捨てるとかそう事では……」
「私が王宮専属薬師になったのは、あなたが王位を継いだ時にお傍にいる為です! 私は剣術や体術は出来ません。魔術師ではありますが結界が出来る程度。確かにコーデリア様に背中を押される形にはなりましたが、この技術を磨いてレオナール様が王になられた時に役立てられるようになろうと……。私はハルフォード国に戻るつもりでおりました!」
「ブラッドリー……」
そんな考えでいたとはレオナールは知らなかった。ギデオンに命令され薬師になり、コーデリアに言われるままに王宮専属薬師なったと思っていた。自分も薬師になり魔術がすたれたとしても薬師は必要だと思っていた。だからこそハミッシュに継いでもらい自分は医者になろうと思っていたのだ。
「ありがとう。ブラッドリー。知りませんでした。あなたが私の為、国の為にそこまで考えてくれているとは……。しかし、国に戻るのは難しいかと……」
ブラッドリーが薬師になり薬草作りに成功していなければ、なかったかも知れない命だ。それならば薬師として生きていくのもいいと思っていた。レオナール自身も悩んだ末に王宮専属になったのも王位を捨ててもいいと思っていたからだった。
「こんな事をしなくても王位は譲ったのに……」
「レオナール様……」
「すみません。私はハミッシュに王位を譲ってもいいと思っていました。彼の手助けをしつつハルフォードで医者として過ごしてもいいと。しかし、彼女はそれさえも許してくれそうにありませんね」
「レオナール様がコーデリア様を慕っているのはわかっておりますが、彼女は我々を国から追い出すだけでとどめる気はないように思います。取り戻しましょう!」
「しかし私達は魔術師ではなくなってしまった。魔力を練れないのです」
魔力を練れないのなら普通の人と変わらない。
「レオナール様なら大丈夫です! ミュアンさんにコーデリア様の事をお聞きしましょう。そして考えるのです。取り戻す方法を! ギデオン様もきっと目を覚まして下さいます! 私も一緒に考えますから……。お願いします。死に方ではなく生きていく方法を考えて下さい!」
「ブラッドリー……」
「もう一人で背負い込まなくてもいいのです。私が手助けします。あなたは一人じゃありません」
「ありがとう、ブラッドリー。コーデリアさんから国を取り戻す方法を考えます。力を貸して下さい」
ブラッドリーが頷くと、彼の肩にレオナールは顔を埋めた。ブラッドリーはレオナールの頭を優しく撫でる。
レオナールは昔を思い出していた。ブラッドリーがまだ王宮専属薬師になる前は、こうして優しく頭を撫でてもらっていた事を。一番近くにいたのは彼だった事を思い出す。懐かしい。レオナールは久しぶりに気が休まった気がした。そしてブラッドリーの肩は濡れていた――。
「え? 父さん!?」
オズマンドが立って待っていた。
「初めまして、私……」
「挨拶は後だ。さあ、乗って!」
レオナールが挨拶をしようとすると、オズマンドはドアを開け中に入るように促す。急かされ皆乗ると、馬車は走り出した。
ザイダ、エイブ、ミュアンと座り、ミュアンの前にティモシー、隣にレオナール、ブラッドリーと座っていた。
「母さん、どこに行くの?」
「この国を出ます」
「え?」
エイブ以外は驚く。彼は聞かされていたようだ。
「ミュアンさん。協力はするから約束は守ってよ」
「わかってます。休憩時にやりましょう」
「まさかミュアンさんを協力者にするなんて……」
エイブとミュアンの会話を聞き、レオナールも本当に手を組んだのだと呟く。
「逆だよ。俺が、協力させられたの」
「え? どういう事? って、いつから?」
「う~ん。皇帝を助け出した後、接触したら捕獲された感じ?」
「あら? 利害の一致よね?」
ミュアンの言葉にどこがとエイブは溜息をついた。
「ところでレオナール王子は、これからどうする気なの? 自国には帰れませんよね?」
「特に何も考えておりません」
「そうですか。私としては、エイブとティモシーがいれば事足りるのですが……」
「ちょ。なんでそんな事言うんだよ!」
ミュアンの言葉にティモシーが食って掛かる。
「だって彼には覇気がないもの。どうでもいいって見えるわよ」
ティモシーは横に座るレオナールをチラッと見た。あんな事があったのだから仕方がないと思うもそれはここでは話せないと、ティモシーは口をつぐむ。二人っきりになってミュアンに相談しようと思った。
数時間後、休憩を取る事になり、ティモシー達は馬車から降りた。
「あの、私はブラッドリーと残ります」
「別に宜しいですよ」
不安げな瞳でレオナールを見るもミュアンに呼ばれティモシーも馬車を後にする。
「レオナール様も足腰伸ばしに外へ出た方が宜しいですよ」
自分の体の方が辛いはずなのにブラッドリーはレオナールのそう声を掛けた。
「大丈夫です」
「レオナール様、お願いがあります」
不安げな顔を向けブラッドリーは言った。
「何でしょうか?」
「生きて下さい……」
「い、生きているではありませんか。それに自殺をしようとはしておりませんよ」
ブラッドリーは軽く首を横に振る。
「他人に殺されようとすれば同じです……」
それを聞いたレオナールは、目を背けた。
「これ以上エクランド国にはご迷惑を掛けられないのです。私がこの国で死ねば陛下に多大なるご迷惑がかかります。ですが魔術師の組織に殺されたとなれば……」
ガシッとブラッドリーはレオナールの腕を掴む。
「生きて下さい。そして、ハルフォード国を捨てないで下さい」
「別に捨てるとかそう事では……」
「私が王宮専属薬師になったのは、あなたが王位を継いだ時にお傍にいる為です! 私は剣術や体術は出来ません。魔術師ではありますが結界が出来る程度。確かにコーデリア様に背中を押される形にはなりましたが、この技術を磨いてレオナール様が王になられた時に役立てられるようになろうと……。私はハルフォード国に戻るつもりでおりました!」
「ブラッドリー……」
そんな考えでいたとはレオナールは知らなかった。ギデオンに命令され薬師になり、コーデリアに言われるままに王宮専属薬師なったと思っていた。自分も薬師になり魔術がすたれたとしても薬師は必要だと思っていた。だからこそハミッシュに継いでもらい自分は医者になろうと思っていたのだ。
「ありがとう。ブラッドリー。知りませんでした。あなたが私の為、国の為にそこまで考えてくれているとは……。しかし、国に戻るのは難しいかと……」
ブラッドリーが薬師になり薬草作りに成功していなければ、なかったかも知れない命だ。それならば薬師として生きていくのもいいと思っていた。レオナール自身も悩んだ末に王宮専属になったのも王位を捨ててもいいと思っていたからだった。
「こんな事をしなくても王位は譲ったのに……」
「レオナール様……」
「すみません。私はハミッシュに王位を譲ってもいいと思っていました。彼の手助けをしつつハルフォードで医者として過ごしてもいいと。しかし、彼女はそれさえも許してくれそうにありませんね」
「レオナール様がコーデリア様を慕っているのはわかっておりますが、彼女は我々を国から追い出すだけでとどめる気はないように思います。取り戻しましょう!」
「しかし私達は魔術師ではなくなってしまった。魔力を練れないのです」
魔力を練れないのなら普通の人と変わらない。
「レオナール様なら大丈夫です! ミュアンさんにコーデリア様の事をお聞きしましょう。そして考えるのです。取り戻す方法を! ギデオン様もきっと目を覚まして下さいます! 私も一緒に考えますから……。お願いします。死に方ではなく生きていく方法を考えて下さい!」
「ブラッドリー……」
「もう一人で背負い込まなくてもいいのです。私が手助けします。あなたは一人じゃありません」
「ありがとう、ブラッドリー。コーデリアさんから国を取り戻す方法を考えます。力を貸して下さい」
ブラッドリーが頷くと、彼の肩にレオナールは顔を埋めた。ブラッドリーはレオナールの頭を優しく撫でる。
レオナールは昔を思い出していた。ブラッドリーがまだ王宮専属薬師になる前は、こうして優しく頭を撫でてもらっていた事を。一番近くにいたのは彼だった事を思い出す。懐かしい。レオナールは久しぶりに気が休まった気がした。そしてブラッドリーの肩は濡れていた――。
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