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第47話
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「不正をしようというの?」
「君が強力してくれれば、そうはならないだろう」
ニヤリとして、ルトルン伯爵が言った。
もしかして、こんな風に今までガストン様の尻拭いをしていたのかもね。
「グリンマトル家の爵位を君が学園に通っている一年程の間だけ、エルダ・ウルミーシュ子爵夫人に一時的に譲り渡す。その書類にサインをするだけだ」
サインをするだけって、するわけないじゃない!
って、エルダ夫人に? 二人をグリンマトル伯爵夫妻にするのではないの?
「さて、レリーフはどこ?」
「ちょと、やめて!」
気が付けば、エルダ夫人が机の引き出しを開けて見ている。
「普段は鍵かけているけど、ここに居る時はさすがに開けているわね。もう、どこよ」
「レリーフを手に入れる為に、この執務室にしたの!?」
「そうよ。賢いでしょう」
エルダ夫人が微笑むけど、賢いではなくあくどいでしょう!
「机になんてないわ」
「そう。部屋ね。見て来るわ」
「ちょっと……」
「おっと、君はそこに座って頂こうかな」
追いかけようとすると、ルトルン伯爵に腕を掴まれた。
レリーフは、肌身離さず持っている。
エルダ夫人が探している間、時間稼ぎになるけど……。
「きゃ! ど、どうして……」
ドアを開けたエルダ夫人が、驚きの声を上げた。
「ルトルン伯爵! レネットの腕を離して頂こう!」
「叔父様!」
ルトルン伯爵が、静かに手を離す。
近づいて来たプロンテヌ侯爵に、私は抱きついた。
「ウルミーシュ子爵夫人。話が終わるまでここに居て頂こう」
プロンテヌ侯爵に言われ、入り口からおずおずと遠ざかると、そこに居たのはマスティラン侯爵ではなく、その息子のフランシスク様だった。
あれ? マスティラン侯爵が来るのではなかったの。
って、なぜか執事長も部屋の中へ入り、ドアを閉めた。
「さて、ここに文官まで呼んで何をするおつもりだったのかな」
「盗み聞きしていたのか」
プロンテヌ侯爵が問えば、ルトルン伯爵は問いで返す。
「いや、彼にあなたが訪ねて来たと聞いて、予定を変更してマスティラン子息と一緒に来た。そちらの方とは面識があってね」
やっぱり予定では、マスティラン侯爵が来るはずだったのね。執事長が連絡してくれたんだ。助かった。
「ふう、もう隠す気もないか」
プロンテヌ侯爵の視線の先を見れば、アンナを庇う様に抱きしめるガストン様の姿がある。
「っち。このバカ息子が」
「うちの子、惚れやすくてね。レネットは別にガストンを好きでもないようですし、祝福してくださりませんか?」
驚く事にエルダ夫人が、二人に寄り添うようにソファーの後ろに立ち言った。
「まあ、身ごもったなら隠しようもないわな」
プロンテヌ侯爵がそう言えば、怯えた様にアンナはガストン様にしがみつく。
「耳が早い事で」
「で、今日はどういったご用事でしょうか」
ガストン様を浮気者と罵る事ができても、誓約書が無効になっているから、自分達をすぐさま追い出す事はできないと思っているのね。
「実は、レネット嬢から苦情が届いていてね」
予想外の事を予想外の相手から聞こえ、皆が驚いてフランシスク様に振り向いた。
「レネット。あなた彼に何を言ったの?」
「役所に苦情を言っただけよ。と言っても文書にして提出したのだけど」
「だからどんな事を?」
ルトルン伯爵が、私をイラつきながら問いただす。
「前にガストン様が二人目の薬師を勝手に雇った時に、抗議したのよ。書類が全て揃ってないのになぜ受理したのかって。そうしたら、薬師と二人で来てどうしてもその日から雇いたいと言うからですって。しかも、私が学園に通いながら大変だろうと忖度してやったんだと言われ、取り消せと言うのなら休業したらどうだって言われたのよ!」
「はあ? お前、書き直しになったって言ったじゃないか!」
ガストン様が、私を指さし憤慨して言う。
「そうよ。結局、折れて書き直す事になったのよ。ガストン様が書いた私の書類は、薬師の書類と内容が違ったからね。まあそれ以前に、本人か経営家が書いた書類しか受理してもらえないけどね」
「え……」
「ガストン! お前は、経営家を目指しているというのに、そんな事をしたのか!」
「いや、だって!」
ルトルン伯爵が座っていたガストン様の胸倉を掴み引っ張ったので、ガストン様はそのまま苦しそうに立ち上がった。
「まあ落ち着いて、ルトルン伯爵。彼の弁解を聞こうではないか」
プロンテヌ侯爵にそう言われ、乱暴に手を離す。
「げっほ。僕は、エルダ夫人の言う通りしただけだ! まだ本人しか出せないって習ってないから知らなかったんだ!」
ガストン様は、そう大きな声で言い訳をした。
そもそも、揃ってないから受け付けられないと、押し戻されているはずよ。
経営家を目指すなら、その時にごり押しする事自体ダメじゃない? まあ目指していなくてもダメだけどね。
「君が強力してくれれば、そうはならないだろう」
ニヤリとして、ルトルン伯爵が言った。
もしかして、こんな風に今までガストン様の尻拭いをしていたのかもね。
「グリンマトル家の爵位を君が学園に通っている一年程の間だけ、エルダ・ウルミーシュ子爵夫人に一時的に譲り渡す。その書類にサインをするだけだ」
サインをするだけって、するわけないじゃない!
って、エルダ夫人に? 二人をグリンマトル伯爵夫妻にするのではないの?
「さて、レリーフはどこ?」
「ちょと、やめて!」
気が付けば、エルダ夫人が机の引き出しを開けて見ている。
「普段は鍵かけているけど、ここに居る時はさすがに開けているわね。もう、どこよ」
「レリーフを手に入れる為に、この執務室にしたの!?」
「そうよ。賢いでしょう」
エルダ夫人が微笑むけど、賢いではなくあくどいでしょう!
「机になんてないわ」
「そう。部屋ね。見て来るわ」
「ちょっと……」
「おっと、君はそこに座って頂こうかな」
追いかけようとすると、ルトルン伯爵に腕を掴まれた。
レリーフは、肌身離さず持っている。
エルダ夫人が探している間、時間稼ぎになるけど……。
「きゃ! ど、どうして……」
ドアを開けたエルダ夫人が、驚きの声を上げた。
「ルトルン伯爵! レネットの腕を離して頂こう!」
「叔父様!」
ルトルン伯爵が、静かに手を離す。
近づいて来たプロンテヌ侯爵に、私は抱きついた。
「ウルミーシュ子爵夫人。話が終わるまでここに居て頂こう」
プロンテヌ侯爵に言われ、入り口からおずおずと遠ざかると、そこに居たのはマスティラン侯爵ではなく、その息子のフランシスク様だった。
あれ? マスティラン侯爵が来るのではなかったの。
って、なぜか執事長も部屋の中へ入り、ドアを閉めた。
「さて、ここに文官まで呼んで何をするおつもりだったのかな」
「盗み聞きしていたのか」
プロンテヌ侯爵が問えば、ルトルン伯爵は問いで返す。
「いや、彼にあなたが訪ねて来たと聞いて、予定を変更してマスティラン子息と一緒に来た。そちらの方とは面識があってね」
やっぱり予定では、マスティラン侯爵が来るはずだったのね。執事長が連絡してくれたんだ。助かった。
「ふう、もう隠す気もないか」
プロンテヌ侯爵の視線の先を見れば、アンナを庇う様に抱きしめるガストン様の姿がある。
「っち。このバカ息子が」
「うちの子、惚れやすくてね。レネットは別にガストンを好きでもないようですし、祝福してくださりませんか?」
驚く事にエルダ夫人が、二人に寄り添うようにソファーの後ろに立ち言った。
「まあ、身ごもったなら隠しようもないわな」
プロンテヌ侯爵がそう言えば、怯えた様にアンナはガストン様にしがみつく。
「耳が早い事で」
「で、今日はどういったご用事でしょうか」
ガストン様を浮気者と罵る事ができても、誓約書が無効になっているから、自分達をすぐさま追い出す事はできないと思っているのね。
「実は、レネット嬢から苦情が届いていてね」
予想外の事を予想外の相手から聞こえ、皆が驚いてフランシスク様に振り向いた。
「レネット。あなた彼に何を言ったの?」
「役所に苦情を言っただけよ。と言っても文書にして提出したのだけど」
「だからどんな事を?」
ルトルン伯爵が、私をイラつきながら問いただす。
「前にガストン様が二人目の薬師を勝手に雇った時に、抗議したのよ。書類が全て揃ってないのになぜ受理したのかって。そうしたら、薬師と二人で来てどうしてもその日から雇いたいと言うからですって。しかも、私が学園に通いながら大変だろうと忖度してやったんだと言われ、取り消せと言うのなら休業したらどうだって言われたのよ!」
「はあ? お前、書き直しになったって言ったじゃないか!」
ガストン様が、私を指さし憤慨して言う。
「そうよ。結局、折れて書き直す事になったのよ。ガストン様が書いた私の書類は、薬師の書類と内容が違ったからね。まあそれ以前に、本人か経営家が書いた書類しか受理してもらえないけどね」
「え……」
「ガストン! お前は、経営家を目指しているというのに、そんな事をしたのか!」
「いや、だって!」
ルトルン伯爵が座っていたガストン様の胸倉を掴み引っ張ったので、ガストン様はそのまま苦しそうに立ち上がった。
「まあ落ち着いて、ルトルン伯爵。彼の弁解を聞こうではないか」
プロンテヌ侯爵にそう言われ、乱暴に手を離す。
「げっほ。僕は、エルダ夫人の言う通りしただけだ! まだ本人しか出せないって習ってないから知らなかったんだ!」
ガストン様は、そう大きな声で言い訳をした。
そもそも、揃ってないから受け付けられないと、押し戻されているはずよ。
経営家を目指すなら、その時にごり押しする事自体ダメじゃない? まあ目指していなくてもダメだけどね。
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